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このままではいけない

「なんですか? この きしめんの できそこない みたいなのは……。」


 出されたランチを前にして、ハギトは、胡散臭そうに、その物体をフォークで突いた。


「ば、ばか、おまえ、しつれい じゃん。これは ぱすた なりよ。」


 オフィエルが気を遣っている……。プリ様と昴は、非常に珍しいものを見る目で、ハギトを諌めるオフィエルを見ていた。


「ぱすた……。おふぃえるちゃん、ばかに しないで。わたしだって、ぱすた くらい しってます。こんな ひらべったく ありません。」

「こういうパスタも有るんですよ。今日のは、魚介類のパスタです。」


 昴が解説した。お嬢様のお友達の為にと、料理長の長田さんが、腕によりをかけて作った一皿だ。


「…………。ところで、あなたは なにもの ですか。」

「わ、私ですか? 私は、プリ様の奥さんです。」


 言ってから、キャーッと、顔を赤らめる昴。


「お、おくさん?!」

「ちがうの、はぎと。しんじちゃ だめなの。」

「酷い、酷い。プリ様ぁ。」


 必死に縋り付き、頰をスリスリする昴を無視して、プリ様はパスタを食べ始めた。


 呆気に取られながらも、ハギトも、フォークを持って食べ始めた……が。


「むむっ、おもった いじょうに……。」

「食べづらいですか? ハギトちゃん。」

「すばゆ。おはしの ほうが いいかも しれないの。はぎとは。」


 仇敵かもしれないプリ様から、情けをかけられて、ハギトはムッとした。見回せば、オフィエルも、プリ様も、器用にパスタを巻き付けていた。


「はぎと、おまえ なれて ないって かんじ? わたしも おはしの ほうが、よいと おもうのよ。」

「けっこうです。わ、わたし だって……。」


 頑張ってはみるが、一向に上手く出来ない。彼女の瞳には、みるみるうちに、涙が溜まっていった。


「ふ、ふえええ。」

「まあまあ。泣かないで下さい、ハギトちゃん。私が、お手伝いしますから。」

「ふ、ふえ?」

「はい、あーん。」


 面倒見の良い昴は、クルクルとパスタを巻いて、ハギトの口まで、運んでやった。


「おいしい。」

「美味しいですか? じゃあ、もう一口。」

「おいしい。おいしいよお。」


 さっきまでの不機嫌は消えて、ハギトは、昴の食べさせてくれる物を、ニコニコと咀嚼した。


「やっぱり、ごはんや おかしは みんなと たべると、おいしいね。」


 あの子は病院食ばかりだったから……。ハギト()の母、恵美子の言葉を、プリ様は思い出していた。


 たまに、体調の良い時に飲めるオレンジジュースを、とても嬉しそうに飲んでいた、とも聞いた。


「はぎと、たんと たべゆの。じゅーすも のむの。」

「もぐもぐもぐ……、いわれなくたって……。」


 ツンツンした態度を取りながらも、プリ様に対する矛先が鈍っていくハギトだった。




 旧型スクール水着姿の自分に大興奮しているオクを、リリスは、冷ややかな目で見ていた。


「いいわ。いいわぁぁぁ。やっぱり、すくみず(スク水)は きゅうがた……、しかも、にがた(II型)に かぎるわぁ。」


 変態め……。と思っていたが、不意に、ある事を思い出した。


「貴女、そういえば、舞姫ちゃんに、何か変な活動をさせているでしょ。」

「その こたえが、すくみず(スク水)を きた だいしょう(代償)で いいの?」


 そう言われた途端、リリスは、反射的に、オクの両頬を引っ張っていた。


「それぐらい、無償で答えなさいよ。どうせ、無辜の小学生に、貴女のドジの、尻拭いをさせているんでしょ。」

「いたい。いたい。やめて、りりすちゃん。ひっぱらないでー。」


 泣いて頼んで、やっと解放されたオクは、両頬を摩りながら、軽くリリスを睨んだ。


「もお、らんぼうね。わかった、わかりました。とくべつに ただで、おしえてあげる。」


 オクは「太田区」からのウェーブが「大田区」の住民に及ぼす影響について、リリスに説明した。


「怪人退治を、舞姫ちゃんに、させているの? 大丈夫なの? 危なくない?」

「かるい ばぐとり(バグ取り)の つもり だったんだけどねー。さいきん、かいじん(怪人)しんか(進化)して きてて……。」


 言いつつオクは、バッグから、銀色のブレスレットを取り出した。


ぱわーあっぷ(パワーアップ)あいてむ(アイテム)よ。まいきちゃんが ぴんちに なったら、わたして あげて。」

「貴女……、舞姫ちゃんを使って、楽しんでいるでしょ。」

「えっ。そそそ、そんな わけ ないわ。まいきちゃんを まきこんで しまって、はんせい しているし、しんぱいも しているのよ。ほんとよ?」


 嘘臭いわ……。と、冷汗を流しながら釈明するオクを、怪しむ目で見ていた。


「そ、それより、こちょうらん(胡蝶蘭)ちゃんの きおくの はなしね。」


 あっ、話す気あったんだ。意外な律儀さを見せるオクに、リリスは感心した。


「あしを のばして すわって、りりすちゃん。」

「どうして?」

「ひざまくら。してくれたら はなすわ。」


 無邪気に言われて、つい、リリスも膝を貸した。


「さあ、話して。胡蝶蘭叔母様の事。」

「…………。」

「約束でしょ。」

「…………。」

「?」

「zzz……。」

「眠るなー。」


 何、この異常な寝付きの良さ。リリスは、自分の寝付きの良さを棚に上げて、自分の太腿の上で惰眠をむさぼるオクに、呆れていた。




 むむっ、このままではいけない。ハギトは焦っていた。ファレグの件を追求するつもりで来たのに、妙に友好的なプリ様の態度で、嚙み付けないでいた。


『はぎとの やつ、ふぁれぐの さいごに ついて、はなしに きたのじゃ ないじゃん?』


 一方、オフィエルは、懐の中に安全ピンの外れた手榴弾を、抱え込んでいる心境だった。


 暫く遊んでから、今は、リビングでオヤツを食べているのだが、ご機嫌でプリンを食べるプリ様とは対照的に、二人は緊迫した空気を醸し出していた。


「プリ様〜、お口汚れてますよ〜。」

「やめゆの、すばゆ。じぶんで すゆの。」


 場の空気を読まずに、プリ様をかまう女、昴。


「ふ、ふたりは すごく なかが いいんだ?」

「そ、そんなー。熱愛夫婦だなんて、照れちゃいますぅ。ねっ、プリ様ぁ。」

「はぎとは ひとことも いってないの。そんなこと。」


 他人の発言を、都合良く脳内で改竄する女、昴。


「わたし にもね、すごく なかの いい ともだち いたんだ。」

「あきほちゃん……?」


 語り始めたハギトに、プリ様は、ポロっと、この間聞いた、ハギト()のお友達の名前を、口にしてしまった。


「?! なんで、ぷりちゃんが、あきほちゃんを しっているの?」


 驚くハギトの顔を見て、自分の失敗に、プリ様は気付いた。


「しらべたんだ、わたしの みのうえ(身の上)。さいてい。やっぱり、あなたは さいていよ。」

「はぎと、きくの。ぷりは……。」

「うるさい、うるさい。そうやって、ふぁれぐちゃんも ひきょうな()で やっつけたんでしょ。」


 ファレグ……。玲の事か? 何故、ハギトが玲の事を……。

 プリ様のお顔が、真っ青になった。


「やめるじゃん、はぎと。って、きんだん(禁断)。」

「やめない。わたしは、ふぁれぐちゃんの かたきを とるんだ。こいつが……。」


 ハギトが、次に発するであろう言葉を予見し、プリ様の表情は、暗澹たるものになった。


「こいつが ふぁれぐちゃんを ころしたんだー!!」


 天を見上げて、プリ様は、見えない涙を零した。薄々、思っていた。どんなに言葉を変えようと、真実は一つ。


 自分は玲を「殺した」のだ。


「ばっ……か、はぎと……。いいすぎじゃん。」

「いいすぎ じゃないもん。こいつが ころした。こいつが……。」


 ハギトは、目に涙をいっぱい浮かべ、それでもプリ様を見据えながら叫んだ。


「こいつが わたしから ふぁれぐちゃんを うばったんだー!」


 昴が、震える腕で、プリ様を、ギュッと、背中から抱き締めていた。


 リビングは、重たい静寂に、支配されていた。



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