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私は荒魂。彼女は和魂。

 濃厚なキスの後、脱力したリリスは、へたり込んで、自分を見下ろすオクの顔を、潤んだ瞳で見詰めていた。


「どう? これが『きす』よ。さっきの じぶんの おさるさん(お猿さん) みたいな、へたくそな きすを はじなさい。」


 言い返してやろうと思ったのに、言葉が出なかった。立ち上がろうとしても、足はガクガクで、動けなかった。


 身体の中心から、熱いモノが込み上げてきて、触れられてもいないのに、疼いているのを感じた。


『キスで、これなら、セックスなんてしたら、どうなっちゃうの?』


 雛菊の日記に書かれていた、女の子達が、彼女との情事に溺れていく描写を思い出して、リリスは恐怖した。


 雛菊を疎んじていた人間でさえ、肉欲に負け、彼女に隷従していく気持ちを、正直、理解出来ないと思っていたのだ。理性を、しっかり保てば、意志の力で、悪魔の誘惑など撥ね付けられると……。


 しかし、今実際、自分は、憎んでも余りあるオクのキスを、心の奥底で望んでいるのだ。彼女の与えてくれる快楽に、身を任せたい衝動が、抑えきれなくなっていた。


「さあ、おさるさん。きすの しかたは わかった? おしえて あげたとおりに、もう いっかい して ごらんなさい。うまく できたら、しりたい じょうほうを ひとつ あげる。」


 そうだ、情報。情報を得なければならない。本当は嫌なのだ。キスなんかしたくないのだ。でも仕方なく……。

 心中で言い訳しつつ、リリスはオクの頰に、両手を当てた。


 唇と唇が、軽く触れた。少し躊躇った後、意を決した様に、ムニッと、リリスの唇が押し付けられ、互いの口唇が、圧力で凹んだ。


 オズオズと口外に出て来たリリスの舌が、オクの前歯に当たった。しかし、オクは、歯を開かない。すんなり受け入れてもらえると思っていたリリスは、焦れて、何度も歯を舌先で押した。


 突然、オクが口を開いた。勢い込んで、ズルッと舌を入れてしまうリリス。その舌に、オクの小さな舌が絡み付いて来た。


「んっ……。う……うん……。」


 リリスは苦しげな吐息を漏らした。頭は、もう真っ白で、自分からも舌を絡ませていた。




 照彦との、ヒーリング特訓を終え、そろそろ、お腹空いたな、とプリ様が思っていると、地上の阿多護神社に、オフィエルが訪ねて来ているとの、知らせを受けた。


「じゃあ、オフィエルちゃんと、地上で、お昼にしましょうか?」


 昴の提案で、プリ様は上へと向かった。


「ぷり〜、きたじゃん。」


 プリ様を見て、顔を綻ばせるオフィエル。この子、プリ様大好きなんだな。と、微笑ましく思うと同時に、ライバルとしての警戒心も働かせる昴であった。


「お〜、おふぃえゆ。」


 二人は、ハイタッチし、笑い合った。


「オフィエルちゃん、お昼まだですよね? 一緒に、どうですか?」

「えんりょなく いただこうと おもうのよ。きがきく、おにんぎょう。」


 昴の誘いに、三人が食堂に行こうとした、その時。疾風を思わせる勢いで、プリ様とオフィエルの間に、割って入った者が居た。


「まちなさい。おふぃえるちゃん、ぷりちゃん。」


 誰あろう、ハギトである。


『うげっ、やべーじゃん。はぎとの やつ、また、わたしを つけてきたって かんじ?』


 昨日は、尾行に失敗したが、今日は、ちゃんと、阿多護神社に辿り着けた、ハギトであった。


『といつめて やるわ。きゅうだん(糾弾)して やる。ふぁれぐちゃんの かたき。にっくき ぷりめ〜。』


 燃える目でプリ様を睨むハギト。それとは対照的に、プリ様は、慈愛に満ちた目で、ハギトをご覧になっていた。


 生まれた時から、入退院を繰り返していた響。彼女の母親が語ってくれた、その人生は、人一倍健康なプリ様には、想像も出来ない苦痛に満ちたものに思えたのだ。


「ぷりちゃん、いや、ぷり。あなたに ききたい ことが……。」

「はぎと〜。よく きたの。」


 ガッシと、ハギトを抱き締めるプリ様。昴は、嫉妬の炎に、身を焦がしていた。


「な、ななな、なん? なんの つもり?」

「かんげい すゆの。すばゆ、はぎとの ぶんの おひるごはんも おねがいなの。」

「はい、プリ様。」


 昴が歩き始めると「あっ、まつの。」と、プリ様は、呼び止められた。


「おれんじじゅーすを つけたげゆの。はぎと、だいすきなの。」

「プ、プリ様。お優しいだけでなく、そんな、お気遣いも出来るなんて……。」


 プリ様〜! と抱き付く昴。頬ずりスリスリ。鼻の頭をペロペロ。どこでスイッチが入るか、分からない女である。


「すばゆ、やめゆの。」

「ええっ〜?! もうちょっと、もうちょっとだけ、お許し下さい。あと、ひと舐め。」

「す・ば・ゆ。」


 プリ様に叱られて、昴は、スゴスゴと、料理長の長田さんへ、オーダーをしに行った。


 その間、ハギトが、どうしていたかというと……。昴の激しいプリ様への愛情表現に怯えて、オフィエルの後ろに隠れていた。


「さっ、おふぃえゆ、はぎと、いくの。」

「ああっ……、う〜ん……。」


 返事をしながら、オフィエルは考えていた。


『こいつ、なにしに きたじゃん。っていうか、ぷりに もんく いいにきたに きまっている、くれーむ。こまったじゃん。』


 まだ、怯えて声を出せないハギトを見ながら、オフィエルは頭を抱えていた。




 穏やかな陽光の差し込む、宿屋の和室で、リリスは、我に返って、オクを引き離した。


「あれ? もういいの? りりすちゃん。」


 余裕の表情で笑うオクを、リリスは睨み付けた。


「そんな こわいかお しても むだよ。」


 跪いて、畳の床に手をついているリリスに、オクは、にじり寄った。


「りりすちゃん、むちゅうで わたしの くちびるを すってた。」


 スカートからハミ出たリリスの膝に、オクは左手を掛けて、右手でリリスの髪を掻き上げた。それだけで、全身に痺れる様な快感が走り、リリスは、ビクンと、身体を強張らせた。


「きもち よかったんでしょ?」

「…………。」

「ふふふ、もう いっかい する?」

「や、止めて……。」


 指で唇をなぞって来るオクを避けて、リリスは、弱々しく、身体を引いた。


『ここで あせっては もとのもくあみ だわ。』


 焦る必要はない。まだ、時間は、たっぷりあるのだ。オクは、一旦、追撃を控えた。


「まあ、いいわ。いまの きすは ごうかくよ。なにが しりたいの?」

「こ、胡蝶蘭叔母様と、貴女の関係よ。」

「ああ、そうだったわね。」


 オクは、フッと一息吐き、事も無げに言った。


「『かみ』とは、さんみいったい(三位一体)で あるもの。あらだま(荒魂)にぎたま(和魂)、そして、その ふたつの ちからの ほうこうせい(方向性)さだめるもの(定める者)せいれい(精霊)。」

「えっ……。つまり、貴女と叔母様は、一人の神の……。」

「わたしは あらだま(荒魂)。かのじょは にぎたま(和魂)。」

「精霊は……。」

「せいれいは いない。きの とおくなる ほどの むかし、かみがみに よって、ころされたの。」

「!」


 いつもは、ふざけた態度のオクも、この時だけは、一瞬、感情を剥き出しに、顔を歪めた。


「何故、叔母様は、神の和魂である記憶がないの?」

「しつもん、ふたつめ。」


 すました顔で言われて、リリスは、ハッと、気が付いた。キスを要求されているのだ。だけれども、オクとのキスの危険性は、先程、身に染みて思い知らされた。迂闊にすれば、命取りだ。


「どうしたの? じょうほうが いるの では ないの?」


 オクは、リリスの逡巡を、楽しむかの如く、眺めていた。


「なら、こんかいは きすは いいわ。」

「えっ……?!」

「わたしの ようい してきた、ふく()を きて くれるなら。」


 どうせ、露出過多の、恥ずかしい服装なんだろう。それでも、キスよりはマシか……。リリスは悟り、オクの提供する衣類を受け取った。


「何……これ……。」

れあ(レア) だわ。すごく、れあ(レア)よ。りりすちゃんの、きゅうがた(旧型)すくーるみずぎ(スクール水着)にがた(II型) すがた なんて……。」


 こいつのフェチは、変態の域ね……。旧型スクール水着II型を着せられ、羞恥に身悶えしながら、リリスは思っていた。



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