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新橋駅は二つある

「こんな物が新橋駅の宝箱の中に入っていたんです。」


 宝箱を見付けた昴が、一枚の羊皮紙を差し出した。


「新橋駅より出でて新橋駅に至る。坂の上にボスは居る。」


 全員が首を傾げた。


「……よい……でて……に……ゆ。……の……に……は……ゆ。むずかしいの……。」

「ああ、そっか。今回は漢字使ってて、ルビもふってないもんね。」


 紅葉はプリ様に文を読んで上げた。


「しかし、何だ、こりゃ?」

「暗号みたいですね。」

「教えてくれるつもりがあるなら、さっさと教えなさいよ。」


 三人が必死で考えている横で、プリ様は「わかったの!」と声を上げた。


「ねえ、すばゆ。わかったの。」

「はいはい。プリ様、ちょっと待ってて下さい。」

「かずおみ、わかったの。」

「よしよし。少し黙ろうな。」

「もみじ、もみじ〜。ぷいね、わかったの。」

「大人しくしててプリ。今、考え中なんだから。」


 盛んに袖を引っ張ったりして、皆の注意を引いているが、誰も相手をしてくれない。次第にプリ様もむくれて来た。


「ぷいねぇー、わ・か・っ・た・のー!」


 うわっ、びっくりした。と、三人は飛び上がった。


「どうしたんですか、プリ様?」

「ぷい、わかったって いっていゆのにー。」


 完全に癇癪を起こしている。


「何がわかったのよ。」

「ぼすはね、もうひとつに いゆの。」

「もう一つって何だよ?」

「しんばしえきは ふたちゅ あゆの。」


 そのプリ様の言葉を聞いて「ああ、そういえば。」と昴が手を打った。


「前にプリ様と一緒にテレビを見た時にやってました。新橋駅は戦前に短期間しか使用されなかった、もう一つの駅があって、今でも残っているって。」

「そうそう。ホームを会議室とかにして使っているんだよな。俺もニュースで見た覚えがある。」

「そうだ、私もクラスの鉄オタに聞かされたわ。新橋駅を虎ノ門方面に出て、すぐの所に分岐点があるって。」

「わかってしまえば簡単ですね。」

「俺等、頭良いなー。」

「天才よねー。」


 プリ様は大変ご不満でした。いつの間にか、最初に気付いた自分の功績がなかった事になっている。


「すばゆ〜。」

「あら、昴に甘えたいんですか、プリ様ったら。」


 違う、と言う間もなく、昴はプリ様をギュッと抱き締め「良い子、良い子。」と頭を撫でた。昴(=エロイーズ)の身体は柔らかくて、温かくて、言いたい事は色々あったけれど、これはこれで良いか、とプリ様は大人しく抱かれていた。


「本当にプリは甘ったれよね。」

「確かにな。昴だけじゃなくて、プリも昴に依存しているよな。共依存ってやつか。」


 何言い出すんだ、お前等。今迄ずっと何を見て来たんだ。こっちから昴にくっ付いたりなんか、してないだろう。今だって抗議をしようとしたら、こいつが勝手に……。


「ぷい、あまえてないの。」

「いや、昴の腕の中で言っても説得力ないわよ。」


 むむ、ならばと腕から逃れようともがいたら、益々昴がしがみついて来た。


「良いんですよ。プリ様はまだお小さいんだから。たんと昴に甘えて下さい。」


 エロイーズになっている昴の胸に顔が埋まった。あまりの気持ち良さに、もう甘ったれでも良いかぁ、と表情が恍惚としていって、段々駄目になっていくプリ様であった。


「二人だけの世界を作っているところ、大変申し訳ないけど、出発するわよ。」


 紅葉に言われて、ハッと我にかえるプリ様。昴の顔を見ると「んー。んー。」とか言いながら笑いかけて来た。


「満足しました? プリ様。昴成分は補充出来ましたか?」


 そんな戯言を言いつつ、人差し指で鼻やホッペタを突いて来るのが鬱陶しい。


「ぷい、そんな あかちゃんじゃないの。」

「赤ちゃんです。プリ様はいつまでも昴の可愛い赤ちゃんですよ〜。」


 からかって、いつまでも突っついて来るので、短い手を振り回して応戦した。そんな事をしているうちに、いつの間にか楽しくなって……。


「だから、いつまでも遊んでんじゃないわよ。」


 促されて、再度ハッとなった。


『すばゆを もとにもどして あげなくちゃ。』


 それがプリ様の決意であった。

 どうしてこんな事態になったのか。世界に何が起こっているのか。前世の事。稲妻ネズミ達が全滅させられた事。

 プリ様の小さなお胸にはしまいきれない程の記憶や感情が渦巻いていた。

 それでも今は立ち止まれない。優しい昴に、普段の姿と平穏な日常を取り戻して上げなければならないのだ。


「かずおみ、おんぶ。」

「何だよ、こいつ。ちゃっかりしてんな。」


 和臣は笑いながら、しゃがんで、背中を差し出した。


「いけぇ! ぼすを やっつけゆの。」


 プリ様パーティ出陣であった。




 新橋駅を出て、すぐの所に、その分岐点はあった。しかし、全員が予想していたのとは、かなり違った地形になっていた。


「崖よね、これ。」

「がけなの。」

「急な斜面になっていると聞いてはいたが、電車が登れるぐらいの筈だぞ。」


 目の前にあるのは、どう見ても90度以上あるオーバーハングの崖だった。その先に行く洞窟の入口は七メートルくらい上にある。


「プリ、反重力で何とかならないの?」

「てんじょうが ないと うちゅうまで おちていくの。」


 なるほど、天井に落ちる事で止まっていたのか。と、上を見上げたら、鋭く尖った鍾乳石がいくつも垂れ下がっていた。


「串刺しね……。」

「でも、じゃんぷなら いけゆとおもう。」


 飛び上がる瞬間、一瞬だけ重力を軽減させるのだ。それならば、宇宙に飛び出したりはしない。放物線運動しか出来ないが、頑張れば何とかなりそうだ。


「ほっぷ、すてっぷ、じゃーんぷ!」


 プリ様が飛んだ。おお、届く、届く。もうちょっと……。

 後少しで入口という時、その中に誰かが居るのを見付けた。


 パーン!!


 鼻先で手を叩かれた。猫だましだ。体制を崩したプリ様は、真っ逆さまに下に落ちた。


「危ない。」


 和臣が滑り込んで、抱き止めた。


「ちょっと、あんた。危ないじゃない。」


 紅葉が見上げて文句を言うと、崖の上にいた人物は下を覗いた。


「おーっほほほほほ。あぶないでしゅって。わたしたちは たたかって いるのではなくて?」


 その時、天井に埋め込まれていたのであろう光のオーブが、一斉に輝き出した。その光の中に、プリ様くらいの女の子の姿が浮かび上がった。紫のドレスを着て、まるで舞台挨拶でもするかの如く、両手でスカートを少し持ち上げ、頭を下げている。


 四人は、呆気にとられて見ていたが、女の子もその姿勢のまま動こうとしない。暫く、膠着状態が続いていたが、同じ姿勢を維持しているのが辛いのか、身体がプルプルと震えて来た。


「どうして、きかないのよ。おまえはだれだ、とか、なにものだ、とか。」


 彼女は下に向かって叫んだ。

 ああ、聞いて欲しかったのか。と和臣は理解し、声を掛けようとしたら、紅葉に遮られた。


「あいつ、プリと同い年くらいに見えるけど、けっこう単語並べて喋ってるじゃん。三語言葉じゃないじゃん。」


 紅葉は昴と和臣を非難する目で見た。


「そりゃ、言葉の早い子だっているだろ。」


 何で今その話を蒸し返さなければならないんだよ。和臣は多少イライラしながら答えた。


「それってつまり、プリは馬鹿だって事じゃないの?」


 なんて無神経なんだ。そんなデリケートな話題をツラっと言葉にしやがって……。

 和臣が昴の顔を見てみると、明らかにムッとした表情になっていた。


「ばかじゃないの。ぷい、ばかじゃないよ。」


 未だ、和臣の腕にお姫様だっこされていたプリ様が、手足をバタバタさせて、抗議の声を上げた。


「ああ、ごめん。ごめん。馬鹿は言い方が悪かったね。頭の発育が遅いっていうの……。」


 その発言に我慢出来なくなったのか、昴は和臣に駆け寄ると、プリ様を奪って抱き締めた。


「プリ様! 昴だけはプリ様の味方ですぅ。」

「すばゆ〜。」


 二人はヒシと抱き合って互いの涙を拭いていた。和臣はあまりに彼女達が気の毒で、ジトッと紅葉を睨んでいた。


「あ、あれ。何か、私、凄い悪者……。」

「無神経。」

「無神経ですぅ。」

「むしのけなの!」


 またもや三連チャンで非難されて、紅葉は落ち込んだ。


「わたしを むし しゅるなー。」


 上の方から女の子が叫んだ。

 あっ、そういえば忘れてたな、と四人は崖を見上げた。


銀座線新橋駅が二つあるというのは割と有名な話らしいです。

東京には幻となった駅はけっこうあるみたいです。

そういえば、昔、国鉄新橋駅の近くにも、幻の汐留駅の遺構があったような気がします。

……、年がバレそうなので、ここまでにしておきます。

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