にあってゆの、りりす
朝目を覚ました時、ハギトは決心していた。今日も、阿多護神社を訪れ、プリ様に、ファレグを殺したのか、問い質してやろうと。
「こここ、こわいけど、ふぁれぐちゃんの かたきなら、ゆるせないもん。」
勇気を振り絞って、さあ行くぞ、と思ったが……。
『みちが わかんない……。』
昨日は、オフィエルの後に、ついて行くのが精一杯で、道順なんて覚えてなかった。そこに折良く、フラフラと出掛けて行くオフィエルが目に入った。
「ちゃんす! また、おふぃえるちゃんを つければ……。」
プリ様の所に、連れて行ってくれる筈である。ハギトは細心の注意を払い、見付からないように、ソッーと、オフィエルを追った。
『さあ、つれていきなさい、おふぃえるちゃん。わたしを おんてき ぷりちゃんの もとへ。』
などと考えていたのに……。途中でオフィエルは、待ち合わせていた黒塗りのリムジンに乗って行ってしまった。
「うっそぉぉぉ。」
置いてけぼりを食らったハギトは、スゴスゴとAT THE BACK OF THE NORTH WINDに、戻ったのであった。
神王院家地下屋敷リビングでは、皆んなでリリスを慰めていた。
「りりす、だいじょぶ なの。」
絶対に状況を理解していないであろうプリ様の、何の根拠も無い「だいじょぶ」発言に、力無く微笑むリリス。
「女同士じゃん。何か有ったって、ノーカンじゃない?」
これまた無責任な紅葉の発言に、今度はイラッとするリリス。
「アイツに、肌を触られると考えるだけで、寒気がして来るのよ。」
「慣れてないからじゃない?」
「どういう事? 紅葉ちゃん。」
「私が、今夜、泊まりがけで指南しようか? 女同士の……。」
セックスと言いかけた紅葉の口を、和臣が慌てて塞いだ。
「バカか、お前。プリや昴も居るんだぞ。」
プリ様と昴は、良く分からずに、可愛らしく首を傾げた。
「そんなに、その、オクちゃんという子は、凄い責めを?」
「リリスは、もう、何度も陵辱されているの。そのせいで、最近、オッパイも大きくなったのよ。」
藤裏葉に答える紅葉を、また良い加減な事を、と思いながら、和臣は眺めていた。
「リ、リリス様、私が身代わりで、デートに行きましょうか? 年端もいかない幼女に、慰み者にされるのを想像したら、私、もう……。」
もう、何よ? リリスは、冷ややかな目で、藤裏葉を見ていた。そのリリスを、紅葉は、めげずに説得していた。
「安心して。お姉さんが、優しく、手解きしてア・ゲ・ル。」
「やけに熱心ね。」
「い、いや。私は貴女の為を思って……。」
「紅葉ちゃん。もしかして、渚やポ・カマムだけじゃなくて、私の身体も、狙っているんじゃないでしょうね?」
「コイツはロリコンだからな。有り得るぞ。」
「違いますー。私はプリの親父さんと同じ、アリスコンプレックスですー。」
アリスコンプレックスなら、益々、私もストライクゾーンじゃない。
胸を張る紅葉に、ジト目で視線を送るリリス。
『良く考えたら、アリスコンプレックスって、ロリコンより重症で、タチが悪いよな。』
と、和臣は思っていた。
「照彦さんが、どうしたの?」
そこに、大きな箱を持った胡蝶蘭が、リビングに入って来た。
「おかあたま〜。」
母の足に、ヒシと、しがみ付くプリ様。
「まあ、プリちゃんったら、甘えん坊ね。」
胡蝶蘭は、片手でプリ様の頭を撫でてやりながら、もう片方の手で、リリスに持っていた箱を手渡した。
「地上の阿多護神社に、リリスちゃん宛ての、荷物が届いていたわ。」
「私宛てに……?」
訝しげな顔をしながら、リリスは包み紙を外した。すると、そこには、例の青い封筒が……。
「オオオ、オクからよ。オクからよー。」
汚れた雑巾を扱うみたいに、リリスは封筒を摘み上げた。
「お、叔母様……。読んでもらっても良いですか?」
もう、自分で封を切る余力は無い様子だ。胡蝶蘭は、手紙を開いた。
「嗚呼、リリスちゃん。初めてのデート、貴女は、どんな装いで現れるのかしら? などと想像していたら、途轍もない不安に襲われました。学校の制服なんかで来られたら、興醒めもいいとこです。」
その件で、リリスはドキッとした。正に、制服で行こうと思っていたからだ。
「なので、私が、リリスちゃんの着て来るお洋服を、用意しました。『必ず』着て下さい♡」
聞き終えたリリスは「いっやぁぁぁ。」と、絶叫した。
「き、きっと、スケスケとか、穴だらけとか、ほとんど裸の服装に違いないわ。アイツ、私に露出連れ回し羞恥プレイをさせようと……。」
ほとんど裸で街中を引き摺り回され、衆目を集め、視姦される……。
「かかか、代わります、リリス様。代わらせて下さい。想像しただけで、私、もう……。」
頭を抱え込んで、テーブルに突っ伏すリリスは、藤裏葉の戯言など、聞いてはいなかった。
「あら、リリスちゃん。大丈夫よ。イギリスの有名なハウスの品物よ。ここなら、私も知っているわ。」
箱を開けていた胡蝶蘭が話し掛けて来た。
取り出した服は、制服はダメと言いながら、伝統あるパブリックスクールの制服を思わせるジャケットに、白いブラウス、部分的にタータンチェックの入ったスカートという、流行を追いつつも正統派な感じの一揃えであった。
「オックスフォードにもアンテナショップがあるの。ロンドンに行った時は、私も、必ず覗いているのよ。」
ちょっと着てみたら? と言う胡蝶蘭に促され、リリスは、その場で着替えた。何故か、ナチュラルに、存在を無視されている和臣は、悲しむべきなのか、役得と思うべきなのか、判断に迷った。
「にあってゆの、りりす。かっこいいの。」
「そ、そう?」
プリ様に言われて、満更でもないリリス。
「リリス様ぁ、アクセサリーも入ってますよ。」
昴が、箱の中から、リボンやネックレスを取り出した。それがまた、一々、リリスにジャストフィットしていた。
「オクちゃんは、リリスちゃんを良く見ているのね……。」
呟く胡蝶蘭を眺めながら『そういえば、叔母様とオクの関係も、謎だったんだ……。』と、思い返していた。
「うん、可愛くなったわよ、リリスちゃん。」
「そうだな。渚が見たら、感極まって、七転八倒しそうだ。」
胡蝶蘭や、和臣に褒められて、アイツも少しはマシな事するのね、とリリスはオクを見直しかけた……。
が、昴が「リ、リリス様、下着も入ってました……。」と言って持ち上げた品物を見て、評価は、また、百八十度ひっくり返った。
「何……、その布面積がほとんど無い下着は……。」
しかも布部分はシースルー。
「いやあああああ。」
本日、何回目かの、リリスの悲鳴が、地下屋敷に響いた。
「プリちゃん、プリちゃん……。」
その後のリリスは、プリ様にベッタリであった。入浴中の今も、プリ様のお身体を洗いながら、時々涙ぐみ、お背中に抱き付くという、情緒不安定ぶり。
「りりすぅ……。」
どうしてやる事も出来ず、プリ様も、一生懸命、リリスの頭を撫でていた。
ちなみに、プリ様ハーレム他二名は、湯船に浸かって、物凄い意思の力で、リリスからプリ様を奪いに行くのを我慢していた。
さすがに気の毒なので、今日だけはプリ様抱き付き優先権を、黙認しているのだ。
「ス、スバルン。ダメだよ。今、腰が浮きかけていたよ。」
「う、裏葉ちゃんこそ、無意識に手が、プリ様を抱っこする動きになってましたよ。」
二人は互いに励まし合い、かつ、牽制し合いながら、プリ様をギュッとしたくなる衝動を、堪えていたのであった。
その間にも、プリ様とリリスはイチャイチャしていた。
「プリちゃん、お姉ちゃんが穢されてしまっても、仲良くしてくれる?」
「だいじょぶ なの。りりすは りりす なの。なにが あったって。」
「プ、プリちゃーん!」
お優しく、慈愛に溢れたお言葉に、感極まって、プリ様を、しっかりと抱擁するリリス。
なんだかリリス様、女衒の人に連れて行かれて、色街に売り飛ばされるみたいな様相だなあ、と思いつつ、藤裏葉は、二人の様子を眺めていた。
昴は、我慢のし過ぎと、長湯のせいで、卒倒しそうになっていた。