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機関銃でやるロシアンルーレット

 九月も中旬に差し掛かった、ある日の朝、モーニングティーを嗜む、オクとフル。


「で、あの びちゅうあんの こむすめ とは、いつ でーと(デート)に いかれるんです?」


 唐突に切り出された話題に、お茶を吹くオク。


「ななな、なんの こと かしら?」

「してたじゃ ありませんか、この あいだ。でーとの やくそく。」


 そうだった。バッチリ聞かれていたんだった。とぼけても無駄だと、オクは悟った。


「そそそ、そのうち ね。よい ひよりに……。」

「そう……。」


 言った切り、黙って、お茶を啜るフル、何も追求して来ないのが、逆に不気味だった。


「お、おふぃえる(オフィエル)ちゃんと はぎと(ハギト)ちゃんは なにを しているの かしら。」


 気まずさに耐え切れず、別の話題をふるオク。


おふぃえる(オフィエル)ちゃんは また あたごやま(神王院家) でしょ。はぎと(ハギト)ちゃんは……。」


 そういえば、朝から見ないわね? と、フルは首を傾げた。




 そのハギトは、オフィエルをつけていた。


おふぃえる(オフィエル)ちゃん、ときどき ぬけだして いるけど……。』


 きっと、美味しいものを、食べに行っているに、違いないわ。

 ハギトは確信していた。


 ところが予想に反して、オフィエルは、とある神社の住居部分に入って行ってしまった。陰から見ていたハギトは、中に入れず、途方に暮れていた。


「あれ、貴女、どこの子?」


 そこに、自分と同じくらいの、女の子の手を引いた女性が、声を掛けて来た。子供同士、目が合って、ハギトは気が付いた。


『このこ、あらとろん(アラトロン)ちゃんだ……。』


 目に涙をいっぱい浮かべ、ハギトは晶に抱き付いた。


あらとろん(アラトロン)ちゃん、あいたかったよお。」

「みぎゃあああ。ちょっと、いきなり だきつかないで。ていうか、わたしは あらとろん じゃないし。」

「晶、お友達なの?」


 (尚子)に言われて、晶はピンと来た。

 最近、プリちゃん家に、遊びに来るようになったオフィエルは、自分を「アラトロン」呼ばわりするのだ。


「あなた、あれね。おふぃえるの かんけいしゃ(関係者)ね。」

「お、おふぃえる(オフィエル)ちゃん。そう、おふぃえる(オフィエル)ちゃんと きたの。」


 笠間親子に連れられて、神王院家の玄関を潜るハギト。奥からは、オフィエルのご機嫌な笑い声が、聞こえて来ていた。そのリビングまで三人は案内された。


「おおっ、あらとろんも きたじゃん。」

「わたしは あらとろん じゃありません。」


 言い返しながら、晶はハギトを差し出した。


「あなたの つれ でしょ。」

「うお、はぎと? どうして ここに いるって、ふかしぎ。」


 オフィエルのツレ?! それは、幼女神聖同盟構成員なんじゃ……。会話を聞いていた昴は、瞬時に、思い至った。


 しかし、今は午前中で、リリス達は学校だ。唯一、此処にいるパーティメンバーは藤裏葉だけ。その彼女も、低血圧で、プリ様を構う気力も無く、ソファーでグデっとしていた。


『ヤバイですぅー。私がプリ様をお守りしないと……。』


 と、オロオロしている間に、プリ様は、ハギトに駆け寄っていた。


おふぃえゆ(オフィエル)の ともだち なの?」


 矢鱈とフレンドリーに話しかけて来るプリ様に怯え、晶の後ろに隠れるハギト。


『このこ、なんか みおぼえある……。』


 ハギトは、必死に、脳内情報を検索していた。


「…………。たべゆ?」


 警戒心剥き出しのハギトに、プリ様は、手に持っていた「腹切り最中」を差し出した。大好物のお菓子を上げるのは、プリ様にとって、最大限のウェルカムの証なのだ。


 ハギトは、ソッと、手を出して、受け取った「腹切り最中」を一口齧る……。


「おおお、おいしい。なに、これ? おいしいよぉ。」

「よかったの。」

「おおっ、はぎと。よかったじゃーん。」


 美味しいお菓子は偉大だ。最初の緊張感が解け、プリ様、晶、ハギト、オフィエルの、四人の幼女に、和やかな雰囲気が生まれた。


「あっ、あれ。りんりん(リンリン)くるくるすてっき(クルクルステッキ)。」


 ハギトは、リビングの隅にあった、魔女っ子プリプリキューティの玩具を見付けた。


「あそぶ?」

「いいの?」

「えんりょなく つかえって、きょか。」

「なんで、あなたが、きょか するのよ。」


 皆んなは、各々、お気に入りの玩具を手に取って、遊び始めた。リビングは四人のプリプリキューティによって、混乱の坩堝と化したのだ。


「ななな、何事ですか?」


 グデっとしていた藤裏葉は、騒ぎに起き上がった。それを見たプリ様が叫んだ。


「おっぱいかいじん、うらばを やっつけゆの。」

「おおう!」


 四人のプリプリキューティは、一致団結。手にした獲物(おもちゃ)から、藤裏葉へ、ピコピコと放たれる(なりきり)浄化光線。


「うひゃあああ。やられたー。」


 藤裏葉は、ソファーに、仰向けに倒れた。ノリが良いなー、と尚子は思っていた。


「それー。おっぱい なの。」

「うわーい。おっぱい。」


 四人は、一斉に、藤裏葉のオッパイに、むしゃぶり付いた。


『何ですか、此処は? 天国ですか?』


 可愛い幼女達に、オッパイを蹂躙される、至福の時。藤裏葉は、生まれて来た喜びを、噛み締めていた。


 一頻り遊んで、お昼御飯を食べると、ハギトもかなり打ち解けていた。


「ずるいよ、おふぃえる(オフィエル)ちゃん。ひとりだけ あそびに いくなんて。わたしも さそってよ。」

「そ、それは……。」


 ハギトは、ファレグに、誰よりも懐いていた。まがいなりにも、そのファレグを倒したプリ様に会わせるのは、オフィエルでなくとも躊躇うだろう。


『そもそも、こいつ(ハギト)、ぷりの こと しらないって かんじ?』


 オフィエルは疑問に思っていたが、もちろん、ハギトは、プリ様を知っている筈だった。洗脳中のオフィエル、まだ滝昇静ちゃんの身体を使っていたフルと一緒に、クラウドフォートレスでの戦いの記録映像から、プリ様への対抗策を練った会議までしていたのだ。


 しかし、真面目に会議をしていたのは、オフィエルとフルの二人だけで、ハギトは、一人が寂しいから、ただ何となく、その場に在席していただけであった。だから、チラッと映像を見ただけのプリ様を、中々思い出せないのも、無理はない。


 そこに、呼び鈴が鳴った。学校帰りのリリス達が、遊びに来たのだ。


「りりすぅ。かずおみぃ。なぎさちゃん。もみじぃ。」


 リビングに入って来た四人に、トテトテと、駆け寄るプリ様。手を伸ばして、それを抱き留めようとしたリリスは、ふと、ソファーに座っているハギトに目が行って、驚きに硬直した。


「あああ、貴女はハギト!」

「りりす、はぎと しってゆの?」

「知っているも、何も、この子、七大天使……。」


 ハギトもリリスに気が付いて、懐っこい笑顔を浮かべた。


「あっ、おく(オク)さまの かちく。」

「誰が家畜よ!」

「ふえええ。か、かちく また おこったよぉ。どれい なのに……。」

「だから、奴隷でも、家畜でも、ないのよ!」

「ふっ、ふえ、ふえええん。」


 怒鳴られたハギトは、今にも泣きそうに、顔を歪めた。


「バカ。何やってんのよ、リリス。泣かしちゃダメでしょ。」


 慌ててハギトに駆け寄った紅葉は、咄嗟に、高い高いをした。


「きゃははは。おねえさん、もっと、もっと。」

「はいはい。そうら、高い、高い。」


 泣きそうだったハギトは、すぐに、楽しげに笑い始めた。それを見て、安堵したように溜息を吐く和臣。


「なんで、そんなに、ハギトちゃんに気を使うんです?」

「あいつが泣くと、大変な事になるんだよ。」


 首を傾げる昴を、和臣は、げっそりとした顔で見た。


「貴女、とんでもない子を、連れて来てくれたわね。」

「わ、わたし じゃない じゃーん。かってに ついてきたって かんじ?」


 答えるオフィエルを見るリリスも、青ざめた表情をしていた。


『まるで、機関銃でやるロシアンルーレットの順番を待っているような、居心地の悪さを感じる……。』


 リリス、和臣、紅葉の三人は、今すぐにでも、逃げ出したい焦燥感に駆られていた。


 渚ちゃんは、今日のオヤツは何かな、と思っていた。




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