ビルスキルニル フェオ
「がっお〜ん!」
何だか良く分からないが、ポ・カマムは御機嫌に雄叫びを上げた。使命を果たした充足感を、感じているみたいだった。
「よし、じゃあ おまえ、わたしに つかまるじゃん。」
オフィエルが、ポ・カマムに近寄ろうとした、その時……。
「まつの! おふぃえゆ。ちかづいちゃ だめなの!」
プリ様が鋭い声を上げた。
「どうしたんだよ、プリ。」
不審に思った和臣が、プリ様に尋ねた。
「まだ いゆの。いしゅたゆしんが こぐまたんの なかに。」
何?! と、全員、後ろに跳び退き、ポ・カマムから、距離をとった。
「ふっ、ふっ、ふっ。さすがはシシク。良い勘だ。」
突然、流暢に喋り出したポ・カマムに、凍りつく皆んなの背中。
「清浄なる月の光!」
間髪入れずに、紅葉がテナロッドを向けて、浄化技を放った。が……。
「悪霊や、妖怪の類と一緒にするな。元々清浄な妾に、そんな技が通じるものか。」
イシュタルは、余裕の笑みを浮かべていた。
「ア、アンタが清浄かどうかは兎も角、これはピンチね。」
「そ、そうだな。清浄かどうかは兎も角、ポ・カマムを人質に取られている様な状況だからな。」
紅葉と和臣の言葉に、イシュタルは、あからさまにムッとした。
「妾は清浄じゃ。そして、神ぞ。人質なぞ取らん。」
彼女がそう発言すると、皆の目には、ポ・カマムが、二重になって見え始めた。
「この娘の身体を、この辺りに散らばっている原子を使って、コピーしているのだ。」
神様、万能過ぎだろ……。とんでもないチートを使うイシュタルを、全員、呆気に取られて見ていた。
やがて、ポ・カマムは二人になり、本物は気絶して、地に伏した。
「くっ、くっ、くっ。即席だが、この身体でも二時間持つ。二時間もあれば、この星を消滅させるには充分だ……。」
イシュタルが話し終えるやいなや、天沼矛を取り出すと、リリスは、斬りかかって行った。
「覚悟!」
しかし、振り下ろした天沼矛は、虚しく空を切った。
「残念だったの。」
リリスの背後に回ったイシュタルは、彼女の背中を蹴った。グチャッという、背骨の砕ける嫌な音がし、そのまま倒れ込むリリス。
「今……、軽く蹴っただけなのに、リリス様の背骨が……。」
藤裏葉の呟きに、皆、唾を飲み込んだ。リリス程の手練れを、簡単に戦闘不能にするとは……。
「くそ。これなら、どうだ?!」
最大火力、地獄の火炎を放つ和臣。しかし、神は、見もせずに、片手で炎を止め、消滅させた。
「あいつ、和臣の必殺技を……。」
「うわっははは。お前等を全滅させ、地球も破壊する。造作も無い事よ。」
明らかに、オリジナルのポ・カマムの肉体より強化されていた。神の力を引き出す為に、ピーキーに調整された身体なのだ。だからこその、二時間限定なのだろう。
「や、止めなさい。」
「強気なのが、そそるのう。お前だけは、慰み者として、生かしておいてやろうか?」
「くっ……。」
嫌悪に顔を背けるリリス。それを見た、プリ様の怒りが沸騰した。
「りりすを いじめゆなー、なの。」
ミョルニル、メギンギョルズ、ヤールングレイプルを装備したパーフェクトプリ様の一撃!
「ふん。この程度か、シシク。こんな力では、何も守れはせぬぞ。」
イシュタルは左手の人差し指だけで、ミョルニルの攻撃を止めていた。
「なんだとー、なの。」
「三つも神器をぶら下げておきながら、全く力を引き出せてない。お前には過ぎた神器だ。戦神に返納して来い。」
人差し指が、ピンと、弾かれた。それだけで、プリ様の小さなお身体は吹き飛ばされ、派手に地面に転がった。
「プリ様ー。」
慌てて駆け寄り、プリ様を抱き締める昴。
『すばゆ……ありがと なの。たいりょくが かいふく して いくの……。』
朦朧とした意識の中、考えるプリ様。
『もっと、もっと、つよく ならなきゃ……。ぷりが つよく なかったから……。』
玲は消滅した。胡蝶蘭は倒れ、今また、リリスが酷い目に合わされている。
『どうすれば……。どうすれば、もっと……。』
考えるプリ様の頭に「私達は、元々、三人で一人……。」という、トラノオの言葉が蘇った。
『さんにんで ひとり。みっつで ひとつ……。』
何かが脳内で、まとまりつつあった。プリ様は、必死に、精神を統一させていった。
一方、イシュタルは、和臣と紅葉、それにオフィエルも加わった攻撃を、易々と退けていた。反撃を食らった彼等は、力尽き、息も絶え絶えだ。
「わっははは。どんなに頑張っても、妾には勝てぬわ。」
『くっそ〜。』
『なんて憎らしいの。』
『あ、あいつ、つよすぎ すとろんぐ。』
三人は砂を噛んで悔しがり、藤裏葉と照彦は、手出しする事も出来ず、悪戯に焦燥感を募らせていた。
「まつの、かみさま!」
誰もが絶望に目を伏せた時、プリ様のお声が、敢然と響いた。
「はあああ? シシク、お前は、もう負けたであろう? 何をやっても無駄じゃ。」
あしらう様に、手を振るイシュタルへ、プリ様は凛としてミョルニルを向けた。
「なめていゆと、いたいめ みゆの!」
プリ様を無視していたイシュタルは、その発せられる闘気の変化に、オヤッと、目を見張った。
「ぷりぷりきゅーてぃ じゃんけんさんだー たいふーん!」
説明しよう。プリプリキューティ・ジャンケンサンダー・タイフーンとは、シリーズ七作目「笑って、笑顔で、プリプリキューティ」のメンバー、プリプリジャンケンが、後半で見せた大技である。
天空より巨大な雷を召喚し、敵幹部をも圧倒する威力を見せた、プリプリキューティ史上でも、一、二を争う、強力な技なのである。
「なんじゃ、そりゃー。」
リリスの上に乗っていたイシュタルは、叫びながら、吹き飛ばされた。
「おのれ、シシク。どうやって、この様な強大な力を……。」
「れいを いうの、かみさま。ぷりは ぜんぜん だせて なかったの。しんきの ちから。」
プリ様の装備する三つの神器が、黄金に輝き出した。
「ぷりは こえゆの。ぜんせの じぶんも。かみさまも。」
それは幻だったのか。皆は、プリ様の背後に、巨大な神殿を見た。
「みっつの しんき、がったい なの。ぱーそなゆ ふぉーとれす、びゆすきゆにゆ!」
三つの神器は、一つの光の玉となり、プリ様を包み込んだ。そして、光の中から、全身に眩い鎧を纏った、プリ様が現れた。
「びゆすきゆにゆ ふぇお!」
「小賢しい。ウルリクムミ!」
イシュタルの呼び声に応じて、プリ様の倒した石のウルリクムミと、オクの倒した銀のウルリクムミの破片が集合し、一体のウルリクムミとなった。
「合成ウルリクムミ。さっきの奴より数倍強いぞ。お主に勝て……。」
得意になって解説するイシュタルの言葉は、半ばで途切れた。プリ様が右の掌を翳して作った、完成形のグラビティウォールに、一瞬で、合成ウルリクムミが吸い込まれたからだ。
「うっそぉぉぉ。」
「つぎは かみさま なの。」
プリ様が、天に、拳を突き上げた。プリプリキューティ・ジャンケンサンダー・タイフーンである。
「さっきは、不意を突かれたが、そうそう、そんな技が効くものか。」
放たれた雷を、イシュタルは、腕を十字に組んで受け止め、耐えた。しかし、その雷の間を縫って、薄い真っ黒な円盤が数枚、彼女に迫って来ていた。ギョッとするイシュタル。
「ぐらびてぃ かったー!」
プリ様が叫ぶと同時に、イシュタルの仮初めの身体は、バラバラになって、四散したのであった。




