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渚ちゃんを守れ

 ピイィィィーッ、虚しくプリ様の口笛が洞窟内に響いた。稲妻ネズミ達は一匹もやって来ない。何か異変が起こったのは確かだった。

 暫く待っても応答がないので、新橋駅で車座になっている皆の所に戻って、昴の隣に座った。


「これの記述が嘘だったのかしら。」


 紅葉は宝箱の中に入っていた羊皮紙を見ながら言った。


「そえはないの。ぎんざえきの くもおんなも いってたの。ぼすは しんばしに いゆって。」


 紅葉は暫くプリ様のお顔を眺めていたが、やがて口を開いた。


「あのさ、プリ。細かい事なんだけど、今のあんたの台詞『銀座駅の蜘蛛女も、ボスは新橋に居るって言ってた。』って一文にまとめられるんじゃないの?」


 何で今さらそれを疑問に思うんだ。プリはずっとこんな喋り方だっただろ。和臣は頭を抱えた。


「プリ様くらいの小ちゃい子は、三語言葉といって、だいたい単語三つくらいで文章を組み立てるんです。プリ様は時々それ以上の単語も使ってますし、難しい概念的なものの捉え方も理解できますし、ああ、もう賢くて、かわゆらしくて、プリ様、プリ様ぁぁ。」


 説明しながら我慢出来なくなったのか、昴は隣のプリ様に抱き付いて、頬をスリスリしている。

 この女、もう病気だよ。と、紅葉と和臣は思った。


「そうか、私は一人っ子だから、小さい子の話し方なんて知らなかったわ。」


 納得したか、じゃあ話を続けるぞ。

 和臣は自分の考えを述べようとした。


「そういえば和臣には妹が一人いたわね。」


 だから、今それ関係ないだろ。


「いるよ。で、今の状況なんだけど……。」

「何? その素っ気ない態度……。」


 紅葉が気色ばんだ。怒らせると面倒くさいな、と和臣はご機嫌をとる事にした。


「ああ、ごめん。うちの妹、渚ね。今年から中学生だよ。」

「そうそう、渚ちゃん。あの子、あんたに似ず可愛いよね。あの歳にしては発育も良い方だし。」


 ん? 何だ、今の発言は? こいつ、人の妹の何処を見てやがるんだ。


「お前、まさかとは思うけど、渚を邪な目で見てないよな……?」

「な、何言ってんの? 友達の妹の肉体を、その内思う存分味わってやろうと、飢えた肉食獣の目で、舐めるように見ているなんてしてないし。私、そんな鬼畜じゃないわ。」


 その割りには目を合わそうとしないのは何故なんだぜ?明らかに動揺しているだろ。


「鬼畜か……。」


 昴が呟いた。


「前世でアイラさん以外の皆が酔い潰れて寝ちゃった時の話なんですけど……。」

「さって、現状を把握しようか? 和臣、さっき何か言いかけていたわね?」

「待て、誤魔化すな。昴、その話詳しく聞かせてくれ。」

「かずおみ、わすえちゃった? あいやは しんでんで そだったでしょ? あそこは おんなのこしか いなかったの。あのしんでんは おんなのこどうしの やんいん(乱倫)のはなが さいていたの。」


 そうだった。うっかり忘れていた。前世の紅葉、アイラが育ったのは、処女神アルテミスの神殿。男子禁制で同性愛の花咲く乱倫の園だった。

 和臣は紅葉を睨んだ。


「お前、要するに現世でもそうなのか?」

「ち、違……くはないけれど、あんたと私は親友でしょ。その妹に手を出すなんて、見くびってもらっちゃ困るわ。」


 何か、サラッとカミングアウトしているし。


「宴会の後、皆が酔い潰れて雑魚寝になった時、私は身体に重みを感じて目を覚ましたんです。そこには私に跨ったアイラさんが……。」

「あっー、さっきプリってば、三語以上で話してたよ。ほら、昴、プリ賢いね。ほら、ほら、抱き締めて上げたら?」


 自分の過去を隠蔽する為にプリを生贄に差し出す、それがすでに鬼畜の所業だろ。

 和臣は昴に続きを促した。


「『へっへっへっ、あんたって堪らない身体しているわね。泣いても、喚いても無駄よ。皆、寝ちゃっているし。』そう言ってアイラさんは私の首筋に舌を這わし……。」

「ちょっと、あんた。プリの教育上良くないでしょ。」


 教育上良くない行いをしていたのは、お前だろ。


「『どう? 大好きなトールの寝ている隣で、こんな辱しめを受ける気分は? ああ、その恥辱に歪む顔、ゾクゾクしちゃう。』とか言いながら、私の太腿に手を伸ばて……。」

「でも、だいたい そこで とめてたの。ものおとで めをさました くえおが。」

「寸止めでも、けっこうきついものがありました。」

「知らなかった……。俺の寝ている傍で、そんな酷い陵辱行為が為されていたなんて……。」

「あ、あんた、酒弱かったもんね。さあ、さあ、楽しい昔話はもう終わりよ。これからの私達の行動指針を決めなくちゃね。」


 紅葉は手を叩いて、さかんに議事進行を促したが、皆は無視していた。


「いもうとさんも あぶないの。あいやは へいきで てをだしてたの。えよいーずに。えよいーずは とーゆが すき。しっていたのに。」

「むしろ、嫌がって抵抗するのをねじ伏せて、羞恥に悶えるのを見るのが好き、って感じでしたよ。」

「かなり危険な性癖だよな。うわっ、やべ。何で俺、あいつに妹を紹介してしまったんだろう。」

「ねえ、ちょっと皆。おーい。」


 呼び掛ける紅葉の声も耳に入らない様子で、三人は話続けた。


「ああ、だから暫くすると、トールがあのデカイ身体で包み込むように、エロイーズを抱いて眠るようになったのか。」

「あぶなくて しょうがなかったの。」

「それでも最後の雑魚寝の時に、私はこのエッチな服を着せられてしまったんです。」

「油断も隙もねえな。」

「ごめんなの、すばゆ。」

「プ、プリ様は悪くないですよ。そんな気を使って下さるなんて。もう、かわゆい。プリ様かわゆい、かわゆい。」

「あのー、もう謝るから会議しませんか?」


 話し掛ける紅葉を、三人が一斉に睨んだ。


「とりあえず、お前、渚の半径十メートル以内に立ち入り禁止な。」

「すばゆにもでちゅ。」

「プリ様だって危ないわ。」


 さしもの紅葉も三人からの攻撃にたじろいだ。


「な、何よ、皆して私を変態呼ばわりして……。」


 だって変態だろ? と皆は思った。


「私も覚えているわ。アイラは本当にエロイーズ(の身体)が大好きだったのよ。彼女はトールのもの、いけないとわかっていても、彼女(の身体)に対する思いが抑えきれなかったのよ。」


 何か胡散臭いよな、とプリ様と和臣は思っていたが、昴は「そうだったんですか……。」と、しんみりとした声を出した。


「好きな人に触れたいって気持ち、わかります。私だってプリ様と相思相愛じゃなければ、こんなにベタベタとスキンシップ出来ないし……。」


 いや、ちょっと待って。お前とプリは相思相愛なのか?

 紅葉と和臣は心の中で突っ込んだ。


「もしかして現世でのイヤラシイ行為の数々も……。」

「そ、そうよ。愛していたエロイーズ(の身体)を見て、つい我慢出来なくなって……。」

「そうでしたか。単に肉欲に駆られて、変態行為に及んでいたわけではないんですね。」


 何だか良い感じで話がまとまって来た。しめしめ、と紅葉はほくそ笑んでいた。

 実は紅葉は初めて会った時から渚ちゃんに目を付けていた。今迄は小学生だから、多少遠慮していたが、中学生になったらもう良いだろう、こっちの世界(目眩く官能の世界)に引き摺り込んでやる、と画策していたのだ。だからこそ、こんなところで、和臣に警戒心を抱かせてはならなかった。危なかったが、上手く誤魔化せたみたいだ。


「まあ、それはそれとして、渚の半径十メートル以内には近付くなよ。」

「すばゆに さわゆのも だめでちゅ。」

「プリ様ったら。昴は自分のものだって、おっしゃりたいんですね。」

「………………。」


 野望を阻まれて落ち込む紅葉の足に何かが触れた。見てみると、一番大きな稲妻ネズミが、傷だらけで転がっていた。


「ちょっと、どうしたのよ、あんた。」

「ねずみしゃん!」


 稲妻ネズミは苦しそうに息をしながら、それでも懸命にプリ様の元に這って行った。


「チューチュッチュ、チュチチューチュチュー……。」

「畜生、皆やられちまった……。」

「チュチュチュ……、チュチュチュッ。チューチュッチュ……。」

「姐御気を付けて……、奴は強い。奴の居場所は……。」

「ねずみしゃん! ねずみしゃん!」


 大ネズミはそこで息絶えた。


「ねずみしゃん……。」


 プリ様の目から大粒の涙が零れた。


「プリ様……。」

「ぜったいに、ぜったいに かたきとゆかや……。」


 肩を震わせて泣き続けるプリ様を、昴は黙って見ているしか出来なかった。


エロイーズは仲間だったので、寸止めで済んでいましたが、捕まえられた魔族の女性はこんなものではありませんでした。

トールさんのパーティは、他四人は品行方正でしたが、ただ一人、アイラさんが鬼畜だった為に、あまり評判はよろしくありませんでした。

捕虜になれば必ずエッチな事をされる、鬼畜パーティとして恐れられていました。

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