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二人の姉

「ぷりぷりきゅーてぃ ぜぶらさんだー!」

「ぷりぷりきゅーてぃ れもねーどさんだー!!」

「ぷりぷりきゅーてぃ おーる てんねんしょく さんだー!!!」


 メギンギョルズの羽で飛び回りながら、惜しげも無く、必殺技を連発するプリ様。しかし、身体から生えて来る岩の腕は吹き飛ばせても、本体には、何らのダメージも与えられずにいた。


「ぷ、ぷりちゃん?! そんな、こてさきの わざ じゃなくて、もっと、あなたの ほんらいの ちからを……。」


 後方で滞空するオクの言葉は、ミョルニルで打っ叩く、に切り換えて、雄叫びを上げて突進するプリ様には、届いてなかった。


「それって『シシク』の力を使えって事よね?」


 ピッケちゃんを背中に付けて、空中戦に参加した紅葉が、鋭い質問を投げかけた。


「…………。いしゅたる(イシュタル)に いろいろ きいたみたいね。そうよ、そのとおり。だって、わたしの もくてきは さんぼんの かたなを うちあげる こと だもの。」


 開き直りやがったー。リリスと紅葉は、そう、感じた。


「さあ、ぷりちゃん。たましいの おかあさま である わたしに、しんの ちからを みせなさい。」

「おまえは ぷりの おかあたま じゃないのー!」


 不快な台詞は耳に入ったのか、プリ様は、わざわざ、オクの所まで来て、頭を小突いてから、またウルリクムミ攻撃に戻った。


『つかいたくったって……。』


 プリ様は、ミョルニルを振り回しながら、思っていた。


『つかえないんだい なの。』


 その時、リリスが、プリ様の後ろで、ソッと、背中合わせになった。


「後ろは任せて、プリちゃん。」

「…………。」


 だが、プリ様は、ポンと、一人飛び出して行った。


「りりすは もみじの せなか、まもったげて。」


 リリスも、紅葉も、和臣も、背中を預けられる、信頼に足る仲間だ。しかし、今のプリ様は、誰にも、その場所を任せるつもりはなかった。


 ()()()()()()()()()()()()


「プリちゃん……。」


 リリスにも、プリ様の気持ちは痛い程分かったが、心の中に寂しい風が吹くのは、止められなかった。


『ふふふ。うまい ぐあいに りりすちゃんの しんちゅう(心中)せきばくかん(寂寞感)が うまれて いるわ。その こころの すきを つけば……。』


 ニヤリと笑ったオクの目の前で、石の拳が三つ、氷結して砕け散った。


「油断してんじゃないわよ。アンタ、魔王なんでしょ。」

「は、はい〜。」


 紅葉に怒鳴られて、オクは戦いに集中した。




「大きくなっている。着実に大きくなっているわ。」


 ウルリクムミを見上げて、胡蝶蘭が呟いた。


 飛べない胡蝶蘭、和臣は、何とか足元を崩せないかと、頑張っていたが、頑強なウルリクムミの身体は、どんな攻撃も受け付けないでいた。


「こいつ、ただ立っているだけなのに……。」


 和臣は舌を巻いていた。ウルリクムミは、基本、攻撃らしきものは、何もして来なかった。無数の岩の腕も、煩い藪蚊を追っ払う程度の働きで、後退すれば、追って来る事もなかった。


 それなのに、ただ立っているだけで、刻一刻と、地球の最期が近付いているのだ。


凍える月の(フリージング・ルナ)地表(・サーフェイス)。」


 テナロッドを振って、紅葉が大技を放った。ウルリクムミの巨大な全身が、一瞬にして、凍りついた。


「今よ、和臣。」

「よし! 地獄の(フレーム・オブ) 火炎(・インフェルノ)。」


 低温状態にあったものを、急激に熱すると、ヒビ割れてしまうものだ。その効果を狙った、紅葉と和臣の合わせ技だったのだが……。


 怪物(ウルリクムミ)は、何らの痛痒も感じぬが如く、その巨体を伸ばし続けた。


「何の効果も無しか。前世では、割と必殺の一撃だったのだが……。」


 呟く和臣の隣で、胡蝶蘭は、憑かれたみたいに、空を見上げていた。


「どうしたんだ? コチョちゃん。」

「どうして、蓋が閉じないのかしら……。」


 亜空間ゲートは、ウルリクムミを降ろした後も、閉じずに何処かと繋がっていた。


「確かに……。不気味だな。」


 そう言われて、和臣も気になった。


 割れた空は、深淵を見せ付けたまま、その異様を晒していた。




 胡蝶蘭、和臣と、少し離れた位置で、藤裏葉は結界を張り、昴とポ・カマム、ゲキリン、トラノオを守っていた。


「が、がうっ? が、が、が、がっおーん!」

「こ、子熊さん、大人しくして下さーい。」


 目覚めたポ・カマムは、軽くパニック状態で、昴は彼女に抱き付いて、頭を撫でてやりながら、必死に宥めていた。

 その隣で、ゲキリンとトラノオは、冷静にプリ様の戦闘状況を観察していた。


「『創造する力』本当に使えないみたいだね……。」

「使わなければ勝てない。もう少し放っておけば、使うだろう。」


 藤裏葉は、結界を張りながら、背中越しに二人の会話を聞いていたが、その、あまりの突き放した言い方に、思わず口を挟んだ。


「プリちゃまは、貴女達の妹なんでしょ? 助けて上げようとは思わないの?」

「……この世界(ステージ)は、シシクの能力を鍛える為に整えられている。此処では、基本的に、我等は傍観者だ。」

「プリちゃまが使いたくない能力を、無理に使わせるつもりなの?」


 言われるまでもなく、ゲキリンも、トラノオも、煩悶していた。しかし、三つの刀最後の力「創造する力」は、彼等にとっても、必要不可欠なのだ。


「ゲキリン……、これはいわば、非常事態だ。今回だけ、手を貸すか?」

「ううむ。だが……。」


 ゲキリンが腕を組んで考え込んだ、その時……。


『何を考える必要がある? ゲキリン。』


 ゲキリンの頭の中に、あの男の声が、明確に響いたのだ。


「トール神!」


 我知らず、叫んでしまうゲキリン。


「トール神だって? 何処に?」

『トラノオ、私は、いつも、お前達の側にいる。』


 本当にトール神の声だ。トラノオは、一瞬、身を縮めた。


『ゲキリン。復讐だとか、宇宙の秩序だとか、そんな物を鑑みる前に、自分が、どうしたいのかを考えよ。』


 相変わらずの上から目線か。そんな説教受けなくたって……。


「トラノオ、行くぞ!」

「おう! 姉貴。」


 二人は、スルリと、藤裏葉の結界から抜け出し、(シシク)の元へと駆け出した。




「にゃっ、にゃっ、にゃっ、にゃにゃにゃぁぁぁ!!」


 ピッケちゃんの真似をしながら、プリ様は、闇雲にミョルニルを振り回していたが、無数の岩の腕に阻まれて、ウルリクムミの本体には辿り着けないでいた。手詰まりだ。


 手詰まりなのはプリ様だけでなく、リリスや紅葉も攻めあぐねていた。イタズラに時間ばかりが過ぎ、焦りが増していった。


 オクは、必死で戦っているように見せて、その実、手を抜いていた。


()() ()()()()()() なら、ぷりちゃん(シシク)が かくせい すれば かてる。』


 そう思いながら、オクは空の裂け目を睨んだ。


『いしゅたる。あんたの やりくち なんて、おみとおしよ。わたしの でばんは、ぷりちゃんが うるりくむみ(ウルリクムミ)を たおした あと……。』


 さあ、シシクよ。秘めたる能力(ちから)で、敵を殲滅するのです。

 などと思っていたら、プリ様が、岩の腕に跳ね飛ばされた。


「あああ、ぷ、ぷりちゃん?!」


 慌てるオク。紅葉、リリスも同様だ。

 プリ様は、体勢を立て直そうとしたが、嵩にかかった岩の腕は、オールレンジで殴り掛かって来た。


『たすけるか? いや、のうりょくち(能力値)が あがって きて いるわ。もしかしたら……。』


 オクが躊躇っていた、その時、下からプリ様目掛けて、猛スピードで上がって来る人影が二つ……。


「プリー! 義によって助太刀する。」

「お姉ちゃん達が、助けに来たよ〜。」


 ゲキリンとトラノオは、群がる岩の腕を、簡単に薙ぎ払ってしまった。


「おまえたち……。たすけないんじゃ なかったの?」

「今回は非常事態だ。今回だけだぞ。」

「地球が割れたら、シャレにならないもんね。」


 来週の「魔女っ子プリプリキューティ」見られなくなるしね。

 と、トラノオは付け加えた。


「ようし。じゃあ、うるりくむみ ぶっとばすの。さんにんで!」


 おおう! 二人の姉は、プリ様の掛け声に、気勢を上げた。

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