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かったいの〜。

「くくく、空間が裂けてるー?! 何、あれ。何、あれ? 異次元人襲来なのー?」

「お、落ち着いて、モミンちゃん。前世でもあったでしょ? 魔王軍が、召喚魔法を使った時に……。」


 藤裏葉にそう言われて、紅葉と和臣は、思い出していた。前世、ミーテヨの高原での会戦の際、魔王軍は、魔王から授けられた水晶を使用し、異世界の魔獣を召喚した事があったのだ。


「あれは手強かった。」

「そうそう、最初、小さな男の子が出て来て……。」

「あれれ? と思っていたら、みるみる、巨大になって……。」

「あたまの つのが みさいゆ だったの。」

「ああっ、プリ様ぁ。良く覚えてましたね。賢過ぎですぅ。プリ様、プリ様ぁぁぁ。」

「あ、貴方達。思い出話に浸っている場合ではないわよ。」


 談笑していたプリ様パーティは、胡蝶蘭の言葉で、現実に引き戻された。


『あれ?』


 皆んなが戦闘態勢に移行する中、戦わない昴は、一人、頭にクエスチョンマークを浮かべていた。


『今、裏葉ちゃんが、自然に、前世話に加わっていたような気がするんですぅ……?』


 頭を抱える昴を他所に、空間の裂け目から、玄武岩で出来ているみたいな、足の形をした、黒っぽい岩が降りて来た。


「いわなの……。」

「ただの岩ではないぞ、プリ。あれは、ウルリクムミの足なのだ。」


 ゲキリンの解説に、全員は戦慄を覚えた。やっと、降りて来た膝の辺りまでで、すでに百メートル以上はあるのだ。


「ぜ、全身だと、どのくらいになるの……。」


 胡蝶蘭が、呆然とした面持ちで、呟いた。


「おかあたま、だいじょぶなの。ぷり、まけないの。」


 プリ様は、すでに、ミョルニル、ヤールングレイプル、メギンギョルズを装備し、やる気満々で、玄武岩の塊を見上げていた。


「だ、ダメよ、プリちゃん。お母様と、此処で大人しくしていて。きっと、照彦さんが、お父様が助けに来て下さるから……。」

「て、照彦さんって……、た……、強いの?」


 胡蝶蘭の言葉に、つい突っ込んでしまう紅葉。危うく「戦えるの?」と、言うのだけは回避した。


 良く考えたら、一度も会った覚えがない上に、聞こえて来る風評も、あまり、芳しくない。何というか、存在感が希薄なのだ。


「おとうたま、おかあたま より よわいの。」


 紅葉につられて、プリ様も、スルリと、本音を吐露してしまった。


「照彦さんは……。」


 胡蝶蘭が言いかけた時、凄まじい咆哮が轟渡った。岩の怪物、ウルリクムミが、その雲つく巨体を露わにしたのだ。




「おっー。あれは うるりくむみ ね。」


 亜空間ゲートから降りて来た怪物を見て、暢気な声で、オクが言った。しかし、リリスとフルは、その威容に竦み上がる想いをしていた。


「あんなの……どうやって倒せば良いの?」


 ポツンと漏らしたリリスの呟きを聞き、オクは指差した。


「ぷりちゃんは まったく ちゅうちょなく、こうげきに でているようよ。」


 オクの言う通り、プリ様は、メギンギョルズの羽で飛び上がり、果敢にウルリクムミをぶっ叩いていた。


「まあ、だけど、さすがの みょるにる(ミョルニル) でも、うるりくむみ(ウルリクムミ)の からだに きずを つけるのは むり(無理)かなあ。」


 そう言いながら、チラリとリリスを見た。


「や、約束でしょ。ウルリクムミを倒して……。」


 リリスの言葉に、オクは含み笑いを返した。


「な、何?」

「わたしだって、うるりくむみ(ウルリクムミ)が あいてなら、いのちがけ だものね〜。ごほうびが ほしいなぁ。」


 オクは、上目遣いに、リリスを見た。


「な、何が欲しいの。」

「りりすちゃん との でーとけん(デート権)。んっー、じゅっかいぶん(十回分)?」

「…………。十回は多いわ。三回にして。」

「なら、いま ここで、ななかいぶん(七回分)の かわりに きすを して。」


 オクの発言に、リリスは顔を真っ赤にして、睨んで来た。だが、オクは、涼しい顔で、見詰め返すだけだった。


「ひざまずいて、りりすちゃん。かみ()で ある、わたしに ふけい(不敬)に ならないよう、みあげながら うやうやしく(恭しく) きすを するのよ。」


 自分の頼みに応じて、オクが死地へ赴こうとしているのは、確かである。憎んでも余りある相手だったが、今回だけは従う事にした。


「くっくっくっ。ふるえて いるわね、りりすちゃん。その くやしそうな かお、ぞくぞくする。」

「…………。変態……。」


 リリスは両手でオクの頰を包み、傲慢な目で見下ろして来るオクの唇に、自分の唇を重ねた。それは、まるで、従者が主人を悦ばせる為の、奉仕を思わせる仕草だった。


 その入り込めない二人だけの世界に、フルは激しい嫉妬の視線を投げかけていた。




「かったいの〜。」


 何回めかのアタックから、皆んなの居る地表に戻ったプリ様が、両手をプルプルさせながら言った。


「プリ、あんただけに、負担はかけない。今度は、私達全員で攻撃よ。」


 紅葉の提案に、首を縦に振る和臣と藤裏葉。


「み、みんな……。」


 プリ様も感涙で、瞳ウルウルだ。此処に、美しいパーティの結束が……。


「あっーははは。よわい あなたたちが どれだけ がんばっても むだよ。」


 感動のシーンに水を差す高笑い。


「だ、だれ?」

「わたしよ、ぷりちゃん。それに げきりん、とらのお。」


 オク!


 その出現に、プリ様パーティのみならず、三本の水晶の柱の中に居た、イシュタルも驚いた。


「ふっ、魔王。ノコノコやられにやって来たか。」


 イシュタルの台詞に呼応する様に、ウルリクムミが、岩と岩の間を大風が抜ける時みたいな、荒涼とした叫びを上げた。


「うわわわ。」


 振り下ろされるウルリクムミの拳を避けるオク。拳の当たった地面は、木々が根元から吹き飛び、凄まじい土煙が舞った。


「あっははは。どうした魔王。さすがのお前も、この岩の化物には、打つ手なしか?」


 イシュタルが、甲高い声で、笑った。それが癇に障ったのか、ウルリクムミは、今度は、イシュタルを踏み潰そうと、足を下ろした。


「か、かみさま?」


 水晶の柱が、踏み躙られて、粉々に砕け散った。が、間一髪、リリスがイシュタル(ポ・カマムの身体)を、救い出していた。


「おっー、娘。主は、やっぱり、妾の事が……。」

「違います。」

「照れるな。今からでも遅うない。妾と目眩く一時を……。」


 地球が割れようという非常時に、よくそんな気分になれるな。

 リリスは、呆れながら、イシュタルをお姫様抱っこしたまま、皆んなの所に戻った。


「りりすぅ〜。」

「リリスちゃん、どういう事なの?」


 リリスに纏わり付くプリ様と、質問する胡蝶蘭。


「オクと協定を結んだんです。その……、今回は共通の敵だから……。」


 言い澱み、目を逸らすリリス。


「魔王と手を組むなど、感心せんな……。」


 ウルリクムミと戦うオクを見ながら、イシュタルが言った。


『アンタが、あんなもの(ウルリクムミ)召喚するからだろうが……。』


 その場に居た全員が、燃える様な目で、イシュタルを睨んだ。


 一方、オクは、珍しく真面目に戦っていた。そのオクを、フルとトキが、後方で見守っていた。


「どうした? オク様の加勢をせんのか?」

「…………。」

「まっ、お前の出る幕などないな。自覚したか? 己の弱さを。」


 常に雛菊(オク)の傍に在り、彼女の右腕と目されていた月読(フル)。しかし、今は、戦闘に割り込む事すら出来ずにいた。


 その時、天沼矛を構えて、オクの支援に討って出るリリスが、視界に入った。


『おくさまの かたうでに ふさわしい のは、あの びちゅうあん(美柱庵)の こむすめ だというの?』


 絶対に認められない事実の前に、フルは悋気の炎を燃やしていた。


 そのオクとリリスは、苦戦を強いられていた。


「ばーちかるかったー!」


 オクの得意技も、硬い身体の前には、簡単に弾き飛ばされてしまっている。


「……。なんだか……大きくなっていない?」


 二人と戦うウルリクムミを見上げる、胡蝶蘭が言った。


「あれは、そういう化物だ。降り立った星を養分に、ドンドン大きくなっていき、最終的に、星を割ってしまうのだ。」

「冷静に解説しているんじゃないわよ。」


 したり顔で話すイシュタルの頭を、紅葉が、ポカリと、拳で打った。


『ああ……。とうとう、やってしまったか……。』


 皆は、心中で、思っていた。







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