表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
211/303

もう、だれひとり ぎせいに しないのー。

 亜空間ゲートが開けば、破滅をもたらす者が降りて来る。オクから、そう聞かされたリリスは、此処が正念場だと、気を引き締めた。


「今現在、貴女と私達は、利害が一致しているわ。一時、休戦しない?」

「また、たたかれたいの? りりすちゃん。こうしょう なんて ひゃくまんねん はやいわよ。」

「でも、実際……。」

「わたしから じょうほうを しゃだん していた くせに、つごうの いいとき だけ たよる。ばかに されている としか おもえないわ。」


 そう言われ、リリスは虚を突かれた。考え込んだ彼女を見て、オクは、密かに、ほくそ笑んだ。


『ふふふ。ざいあくかん かんじている みたいね。こうやって つきはなしてから、()を さしのべて あげれば、おくさま すてきー! すきすき。と、なるはず……。』


 人類が滅びるかもしれない局面すら利用して、リリスを堕とそうとするオク。彼女は、期待に胸膨らませながら、ソッと、リリスを盗み見た。


「そうね……。確かに、ムシの良い話よね……。」


 良し、今だ。オクが、満を持して、リリスの話を受け入れようとした、正にその時、リリスの手の中に、黄金に輝く鉾が現れた。


「私が間違っていたわ。追い詰められていたとはいえ、魔王と手を組もうなんて……。」

「あ、あれ? りりすちゃん?」

「オク。貴女を倒す。貴女が消えて失くなれば、イシュタルの、極端な行動を、止められるかもしれないもの。」

「い、いや、りりすちゃん。ちょっと、まって……。」


 ジリジリと迫って来る、鉾先から逃れつつ、リリスの得物をよく見たオクは、その神器が、何であるかに気が付いた。


「あ、天沼矛……!」

「そうよ。千年様から頂いた、私の武器。」


 千年様は、美環(みわ)山という所に住む、白い蛇神で、リリスの父である龍神の眷属である。


『そうか。りゅうじん(龍神)の やつ、なんでこんな、りゅう() でも、ひと() でもない、ちゅうとはんぱな はんしんはんじん(半神半人)のこ(の子)を うみだした のかと おもっていたけど……。』


 リリスの本来持つ、龍神の能力(ちから)。それを百パーセント引き出せるよう、ちゃんと仕込みはしていたのだ。それも、かなり周到に……。


『やっばー。げきやば じゃない? りりすちゃんと あめのぬぼこ なんて、あいしょう よすぎるでしょ〜。』


 固まってしまったオクを見て、勝機ありと判断したリリスは、更に鉾先を近付けて来た。


「あらあら、どうしたの? オクちゃん。もしかして、天沼矛(この神器)が怖いのかしら?」


 どうする? どうしよう? オクは頭脳をフル回転させた。


 見た感じ、リリスは、天沼矛の本当の使い道に、気が付いてないようである。しかし、迂闊に戦闘などをすれば、どんな拍子で覚醒するやもしれない。それだけは、絶対に、避けねばならないのだ。


「わ、わかったわ、りりすちゃん。あめのぬぼこ なんて、ぜんぜん こわくない けど、あなたの ひっしさに こころ うごかされました。」


 オクは神威を強めながら、努めて威厳を持って話した。


「こんかいは かみ として、じゃしん いしゅたる(イシュタル)の とうばつに ちからを かしましょう。」


 オクが言い終えた時、今気付いたという様子で、トキが話し始めた。


「娘よ。その鉾の使い方だが……。」

「ととと、ときさん。なにを おっしゃる つもり なのかしら。」

「いえ、何。貴女と面白い戦いが出来るよう、少しアドバイスを……。」

「ときさん。わたしの はなし、きいて(聞いて)ませんでした? りりすちゃん とは たたかいません。いしゅたるを とうばつ します。」


 焦燥のあまり、丁寧語になってしまうオク。しかし、リリスは、そんなオクの様子など、気にも留めてなかった。もっと、気になる事があったからだ。


「トキ……さん? もしかして、昴ちゃんの面倒を見ていた?」

「おおっ、そうだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 昴が作り上げた、偽の記憶。その登場人物の「トキ」が実在している?

 腑に落ちず、リリスは、首を捻った。




 昴の超訳により、静まり返る一同。一人、プリ様だけが「そうなの。そう、いいたかったの。」と、腕を組んで、頷いていた。


「成る程の〜。お前達が、何にこだわっているのかは、良く、分かった。」


 分かってくれたか?!


「では、こうしようぞ。この地球と、全く同じ星を用意し、そこで、全く同じ人間関係を維持したまま、転生させてやろう。その世界には、ただ、()()()()()()()()()()


 んっ? それなら良いのか……? 皆が納得しかけた時、トラノオが叫んだ。


「プリ、皆んな、騙されるな。魔王(オク)とて、この世界を構成する要素の一つ。排除されて、全く同じ世界になど、なる筈もない。」


 彼女は、イシュタルに飛びかかった。


「お前達に創造されたとはいえ、この星の生き物達は、必死に生きて、命の営みを続けて来たんだ。神々の都合による、世界の改編など、許されるものかー!」


 トラノオの手刀が、イシュタル(=ポ・カマム)の首を、切り飛ばそうとした時、プリ様のミョルニルが、それを防いだ。


「だめなの、とらのお。こぐまたんを こよしちゃ だめなのお。」

「何処まで愚かなんだ、プリ。ポ・カマムどころか、全世界が滅びるんだぞ。」

こよさ(殺さ)なくても すむの。せかいも、こぐまたんも、すくうの。できゆの。」

「そんな……。そんな方法が……。」


 愚直なまでの、妹の純粋さが、それ故に不憫で、トラノオは涙した。


「なかなくて いいの、とらのお。だいじょぶなの。」


 何が大丈夫なんだよ。と、トラノオが思っていると、プリ様は、クルリと、イシュタルの方を向いた。


「かみさま、すきに すればいいの。うゆりくむみ(ウルリクムミ) よべば いいの。そしたら、こぐまたんを かえしてくれゆ?」

「まあ……。ウルリクムミを呼び出せば、もう、用は無いからな……。じゃが、良いのか? シシク。この星を滅ぼしても。」

「だいじょぶなの。ほよびないの。」


 プリ様は胸を張り、堂々と言い切った。


「ぷりが やっつけゆから。うゆりくむみ なんて。」


 全然、大丈夫じゃないし、やっぱり、何も考えてない。呆然とするトラノオに代わって、ゲキリンが飛んで来て、プリ様の頭を叩いた。


「い、いたいのぉ。」

「おーまーえー。長髄彦の言葉を、聞いてなかったのか? 奴は、ウルリクムミは、イシュタルでさえ敵わなかった、バケモノだぞ。」


 涙目で頭を摩るプリ様に、ゲキリンが捲し立てた。


「おい、お前等。一つ断っておくが、妾は負けたのではないぞ。魅了してやろうとしたのに、あの石ころ野郎は、見向きもしなかっただけじゃ。」


 イシュタルが何か言っていたが、プリ様とゲキリン、トラノオは、無視して議論を続けた。


「とにかく、もう、ポ・カマムは諦めろ。お前は、この世界を守る者であろう?」

「せかいを まもゆの。こぐまたんも まもゆの。も、もう……。」


 言葉を詰まらせ、泣きそうな顔になるプリ様。


「もう、だれひとり ぎせいに しないのー。」


 プリ様が吼えた。


『プリ様……。玲ちゃんの事を……。』


 頑ななプリ様の言葉の意味を理解し、皆は、何も言えなくなった。


「シシクよ、見事だ。感動したのじゃ。何かを守る為に、誰かを犠牲にする。妾が間違っていた……。」

「かみさま……。じゃあ、もう、げーと ひらかない?」

「うむ。そうじゃの……。」


 皆が、ホッと、顔を見合わせた。イシュタルは、その隙に、水晶の柱まで、辿り着いた。


「感動はしたが、それはそれ。魔王(オク)は、是が非でも、倒さねばならんからのぉ。」


 三本の水晶の柱の中に入ったイシュタルは、拳を握り締めた両手を、胸の前でクロスした。


「悪く思うなよ。」


 イシュタルが念を込めると、水晶の柱から、凄まじい雷が、天を目指して、駆け昇った。


 空に亀裂が走った。亜空間ゲートが開かれたのだ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ