プリちゃまはマイスィートラブラブボンバーなの
「キ・イムンカムー。」「き・いむんかむー。」「ぴっけ、ぴっけ、うにゃにゃにゃーん。」「キ・イムンカムさーん。」「キ・イムンカムちゃ〜ん。」
皆の呼び声は、コダマとなって、虚しく消えていった。
「プリ〜、本当に、この辺にいるの?」
「まえは、ここで あったの。」
早くも飽きて来ている紅葉の問いに、プリ様は、困った様に首を傾げながら、答えていた。
「何、プリちゃまを困らせているの、モミンちゃん。」
藤裏葉が慌てて飛んで来て、プリ様を抱き上げた。
「良いんですよ、プリちゃま。あんなセッカチさんは気にしないで、のんびり捜しましょうね。」
「のんびりしてたら、日が暮れてしまうでしょ。」
「は〜い、プリちゃま。オッパイでムギュッとして上げます。」
「人の話を聞け。というか、やたらとプリを甘やかすなー。」
言い返す紅葉を尻目に、藤裏葉はプリ様を抱き締めて、プリ様も「ばぶぅ、あかちゃん なの〜。」と、甘えまくっていた。
「あ〜ん。もう、かわゆ〜い。プリちゃま、プリちゃま〜。」
「おっぱい ふかふか なの〜。」
「何やっているんですかぁ。」
ビュンッと、一瞬にして昴が、じゃれ合う二人に接近した。ゲキリンとトラノオは、引っ付いたまんまだ。
「ス、スバルン。今、凄いスピードだったよ。」
「タラリアの能力全開ですぅ。そんな事より、プリ様を返して下さいぃ。」
「だぁ〜て、プリちゃまは、私のオッパイが大好きなんだもん。ねえ、プリちゃま。」
「ばぶぅ。」
とんだ修羅場であった。
「ほらほら、裏葉ちゃん。お姉さんでしょ、昴ちゃんにプリちゃんを返して上げて。」
事態の収束を図るため、胡蝶蘭が介入した。しかし、藤裏葉は、プリ様を抱いたまま、背を向けた。
「ちょっと、裏葉ちゃん?」
「いやいや。ビッチと呼んで下さった、あの時から、プリちゃまはマイスィートラブラブボンバーなの。」
「びっち?」
「! ああっ、プリちゃまー。」
感激して、プリ様を、益々、きつく抱き締める藤裏葉。
一方、胡蝶蘭は焦っていた。もし、こんな処に、斥候に出ていたリリスが帰って来たら……。
「あっ〜! 何しているの? 私の居ない間に。」
十メートルくらい離れた岩場から、リリスの声が上がり、胡蝶蘭は頭を抱えた。
リリスは、そのまま跳躍し、一っ飛びで、藤裏葉のそばに降り立つと、速攻でプリ様を奪い取った。
『もしかして、この子、この超人的な身体能力を隠して、日常生活を送るのに、ストレスが溜まっているのかしら。』
と、胡蝶蘭が余計な心配をするくらいの、見事な早業であった。
「あっ〜。リリス様、プリちゃまを返して。」
「プリ様、プリ様ぁぁぁ。」
抗議する藤裏葉と、取り返そうと手を伸ばす昴から、今度はリリスが背を向けた。
「あらあら。プリちゃんは、お姉ちゃんと一緒が良いって。ねえ、プリちゃん。」
「ば、ばぶぅ。」
「そんな事ないもん。プリちゃまは、私のオッパイが良いんだもん。」
「あーら、オッパイなら私だって……。」
リリスは、着ていたティシャツを捲り上げた。零れ出す、下着に包まれた乳房。
「ほ〜ら、プリちゃ〜ん。お乳ですよ。」
「ば、ばぶぅー!」
「わ、私だって……。」
オッパイを放り出そうとした藤裏葉は、全身スーツで、それが出来ない事に気が付いた。
「も、もしや。リリス様が、全身スーツを勧めたのは、この為……。」
ニヤリと嗤うリリス。策士であった。
「ほらほら、貴女達。この辺で……。」
「ま、負けるもんかー。」
止めようとした、胡蝶蘭の言葉も耳に入らずに、矢庭に、スーツを脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと。何始めてくれちゃってんの?! 裏葉。」
下着姿になった、藤裏葉を見た紅葉は、狼狽した。
『やば、エロ過ぎ。抱き付きたい。むしゃぶりつきたい。あっ〜、もう、辛抱堪らん。』
そんな紅葉の欲望には気付かず、藤裏葉は、プリ様に手を伸ばしていた。
「ほーら、プリちゃま。プルンプルンですよ〜。」
『本当にプルンプルンだ。』
さっきから影の薄い和臣は、影の薄いのを幸いに、藤裏葉の半裸を堪能していた。
「ば、ばぶぅー。」
オッパイ好きの本能に抗えず、プリ様も、つい、藤裏葉に手を差し出してしまった。
「だ、だめよ、プリちゃん。」
リリスは、必死でプリ様のお顔を、自分の胸の谷間に埋め。
藤裏葉は、もう少しだ、と下着姿のままジリジリ迫り。
昴は、プリ様返してー、とピョンピョン飛び跳ねていた。
その時……。
「ああっー、もう、ダメ。裏葉ー。」
不意の紅葉の参戦により、均衡が崩れた。
「ななな、何? モミンちゃん。」
「何も、クソもあるかー。こんな、美味しそうなもの見せられて……。」
「あっ、ちょっと、いや……ん。」
藤裏葉に抱き付いた紅葉を『はあ……。本当に紅葉ちゃんって、百合だったんだ……。』と、呆気に取られて見ていた胡蝶蘭だったが「助けなくて良いのか?」というゲキリンの一言で、我に返った。
「止めなさーい。紅葉ちゃ……。」
「グゥゥワァオオオンンン!!!」
胡蝶蘭が、声を出すのと同時に、凄まじい咆哮が轟渡った。
「あっ、あかひじつめ……、き・いむんかむ なの。」
プリ様のお言葉に、皆は空を見上げた。三メートル以上はあろうかという巨大な熊が、先程のリリスより、更に遠くからジャンプして来たのだ。
キ・イムンカムの巨体が降り立つと、地面は揺れ、濛々と土煙が舞った。彼は、藤裏葉にくっ付いていた紅葉を、片手で軽く引っぺがすと、紙屑を捨てるのと同じ気安さで、ポイッと放り投げた。
幸い、鼻の下を伸ばして、つっ立っていた和臣に衝突し、紅葉は無傷だったが、和臣は全身打撲だった。
そのまま、キ・イムンカムは、藤裏葉をお姫様抱っこし、彼女の顔や胸をペロペロ舐めた。
「あんなに捜しても、見つからなかったのに……。」
「くっ、まるで天照大御神みたいな奴ね。」
呟く胡蝶蘭に、紅葉が答えた。多分、天岩戸の事を言っているのだろうが、色々違う。と、表向き神道関係者となっている面々は思った。
天照大御神は女性だし、賑やかな外の様子が気になって出て来たんだ。キ・イムンカムは、どう見ても発情しているし……。
「ヤバいんじゃないの?」
トラノオの発言に、全員がハッとなった。お子ちゃまの、プリ様と昴は、意味が分からず、可愛らしく首を傾げた。
「マズイ。助けないと。」
立ち上がった和臣が、火球を飛ばすも、キ・イムンカムが睨んだだけで、消滅してしまった。
「月面にぃぃぃ、大氷柱ぁぁぁ!」
テナロッドを振り回し、出現した大氷柱を、ぶつける紅葉。普通なら、敵が氷に押し潰される技だ。しかし、キ・イムンカムが、片手で軽く叩いただけで、粉々に砕け散った。
『こいつ、無駄に強い!』
事ここに至って、皆は、厄介な、キ・イムンカムの実力に気が付いた。
「ど、どうするの、コチョちゃん。」
「むう……。裏葉ちゃんが抱かれている状態だと、全力攻撃出来ないし。」
「と言って、手をこまねいていると、裏葉さんの貞操が……。」
初めてが熊って、さすがにちょっとなあ……。
想像してしまった和臣は、鼻血を垂らしていた。
「やめゆの! き・いむんかむ!!」
そこに、リリスの腕から飛び降りたプリ様が、チョコチョコと歩み寄った。
「きゃあああ。だめよ、プリちゃん。発情した熊に近付いちゃ。」
キ・イムンカムが、神獣だというのを、失念してしまっている胡蝶蘭である。
睨み合うプリ様とキ・イムンカム。
「うらばの おっぱいは ぷりの なの。」
あっ、なんか話がややこしくなった。皆は、そう感じた。昴とリリスは、嫉妬の炎に、身を焦がしていた。
キ・イムンカムは、鼻息荒く、藤裏葉を抱き締めていて、完全に正気を失っている。目の前の幼女が、プリ様だというのも、気付いていないみたいだ。
やむを得ん。とプリ様が身構えた時、救世主ピッケちゃんが飛んで来た。
「ぴっけ! ぴっけ、ぴっけ〜!! うにゃうにゃ〜。」
「グルルルゥゥゥ……。ピッケ?!」
「ぴっけ、ぴっけぇ〜。にゃにゃ〜ん。」
「おおっ、小さき神獣……。お前は……以前会った人の子か? 久しいな。」
ピッケちゃんの説得に、やっと、正気を取り戻したキ・イムンカムであった。




