表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
201/303

第三の刀、獅子吼

 神王院家を辞した紅葉が帰宅すると、珍しく母の楓が在宅していた。リビングのテーブルで、仕事関係の書類に目を通している最中だった。


「ママ、ちょうど良かった。話があるのよ。」


 話し掛けると、楓はメガネの縁越しに、チラリと娘を見た。


「何とかって神社の人が、貴女について話し合いたいとか、電話して来たけど、その話?」


 胡蝶蘭が、一回親御さんと、キチンと話がしたいと言うので、母親の連絡先を教えていた。


「うん……。それも有るけど、明日、学校を休んで、ちょっと、遠出をしたいの。」


 楓は「ふっー。」と、溜息を吐いた。


「好きにしなさい。ちゃんと成績を維持出来るのなら、何も干渉はしないわ。」

「…………。何処に、何をしに行くとか、興味ない?」


 楓は書類に目を落とし、面倒臭そうに、手を振った。


「貴女を信じているから。ねえ、悪いけど、忙しいのよ。今日は、これから、また出掛けなければいけないの。この話は、これで、終わりで良い?」

「うん……。」


 紅葉は自室へと歩きかけて、ふと振り向いた。


「ママ、危険な事をしに行くんだとしたら? 一度行ったら、もう、私と会えなくなるかも……。」

「紅葉、子供みたいな気の引き方しないで。忙しいって、言ってるでしょ。」

「う……ん。ごめん……。」


 まだ、子供だもん。と、紅葉は小さく呟いて、自室に引き上げた。




 一方、家に帰った和臣を待っていたのは、妹の渚ちゃんの膨れっ面であった。


「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

「はいはい。何ですだよ。」

「ううっ〜。」


 あしらうような物言いに、不機嫌さマックスになった渚ちゃんが、軽く蹴って来た。


「ようし、良い度胸だ。宣戦布告だな。」


 捕まえようとする和臣の手を、スルリと抜けて、渚ちゃんは、キッチンの母親の所へ逃げた。


「お母さーん。お兄ちゃんが、いぢめるぅ。」

「てめ、卑怯だぞ。こっちへ来い。」


 母親の陰に隠れる妹に、呼び掛ける和臣。夕飯を作っている最中の母親は、呆れて声を上げた。


「和臣、高校生にもなって、妹を虐めるんじゃありません。」

「いやいや、そいつが先に蹴って来たんだし。」

「お兄ちゃんのバーカ。」


 こいつ、母さんに守られているからと思って、調子に乗りやがって……。

 和臣は、渚ちゃんを軽く睨むと、自分の部屋に行った。


 着替えて、夕飯前に今日の復習をしておくか、と机に向かっていると、ドアが開いて、渚ちゃんが入って来た。


「ノックくらいしろ。」

「…………。リリスに会って来たの?」

「変な言い方をするな。紅葉やプリも一緒だ。」

「明日は学校に来るって?」

「あっ、ああ〜。明日……か。」


 言い淀む兄に、渚ちゃんは気色ばんだ。


「なあに? 明日、何かあるの?」

「明日は……、俺も休む。皆んなで、行かなければならない所があって……。」

「何、それ。ズルい。私も行く。」

「遊びじゃないんだ。」

「遊びじゃん。ゲーム仲間で、遊びに行くんでしょ?」


 返事に詰まった和臣は「とにかく、ダメだ。」と言い渡すと、後は取り合わなかった。

 渚ちゃんは、暫く、恨めしげに睨んでいたが、デコピンをされると、泣きながら出て行った。


 それで終わりかと思っていたら、夕飯の時に、蒸し返して来た。しかも、ちゃっかり母親を味方に付けてである。


「和臣、渚のお友達と一緒なんでしょ? 連れて行って上げなさいな。」

「遊びじゃないんだよ、母さん。」


 困り果てた和臣は、チラリと宗一郎を見た。


「渚の友達、美柱庵天莉凜翠さんは、国家保安の仕事をしている。和臣も、その手伝いをしているのだ。」


 サラッと言われて、渚ちゃんや母親のみならず、和臣自身も驚いた。


「と、父さん。」

「和臣、死ぬかもしれない任務に就くんだ。俺は、むしろ、何故お前が、そんなに淡々としているのか分からない。」


 その言葉に、和臣は虚を突かれた。前世を思い出してから「死」というものを、どこか軽く考えるように、なっていた気がした。


 しかし、死は厳然たる死だ。例え、死してすぐに転生しようが、今の家族や知人、その絆は永遠に失われるのだ。そう思うと、今更ながら、死ぬ事に恐怖を覚えた。


「心配させたくない気持ちも理解出来る。だがな、俺達は家族なんだ。渚や母さんにも、ある程度の覚悟はさせておいてやれ。」


 自分だって、公安調査庁勤めを隠していたくせに。と、和臣は、父親をジトッと見た。


「和臣、どういう事なの?」

「お兄ちゃん……。」


 大きく深呼吸をしてから、和臣は話始めた。物心着いた時から持っていた特殊能力の事、紅葉との出会い、銀座線の事件……。さすがに、前世の事は言えなかったが、それ以外の全てを、訥々と、家族に語り続けた。




 神王院地下屋敷でも、夕飯を終えた後、リビングの大きなテーブルを囲って、話し合いの席が保たれていた。


「リリスちゃん、裏葉ちゃん、今日も泊まっていくの?」

「すみません、叔母様。どうしても、ゲキリン、トラノオと話しがしたくて。」

「尋問かい? 勘弁してよ。」


 軽口を叩くトラノオを、リリスが少し睨んだ。二人は朝と同じように、昴の両脇に居て、プリ様は膝の上だ。


「手伝ってやるのだ。文句はあるまい。」


 ゲキリンが威張って言った。


「そういえば、げきりんたち いってたの。かみさまに うらみが あゆって。」


 空蝉山での、ナガちゃんとの会話を思い出し、プリ様がポツンと話した。


「やっぱりね。何か意図があるのだと思った。」

「疑り深いな、リリスは。」

「プリ〜。余計な事、言わないでよ。」


 ゲキリンは腕を組み、トラノオは、懲りずにまた、軽口を叩いた。


「そもそも、貴女達は魔王の側よね?」

「魔王ねえ……。」


 リリスの質問に、トラノオが、物言いたげに口籠った。


「おくは まおう なの?」

「むっ……。そうだな。それくらいは、答えても、良いだろう。お前達の前世の敵、魔王と、オクは同一人物だ。」


 薄々は分かっていたが、ハッキリ言われると、それはそれで、衝撃を受けた。


「ぜんせ からなの。かみさまたちと てきたい してたの。なぜ?」

「それは……。プリ、それは、お前を守る為でもあるのだ。」


 ゲキリンの返事は、プリ様達の頭に、はてなマークを、乱立させた。


「胡乱な事言って、韜晦しないで。」

「そうなの。そもそも、とーるしん(トール神)の かごを うけてたの。」


 危害を加えようとする相手に、祝福と加護など、もたらすだろうか?


 リリスとプリ様に畳み掛けられて、ゲキリンとトラノオは、目を合わせた。


「プリ、前世で、お前の身体を作ったのは、トール神なんだ。お前は、生まれた時の肉体を取り上げられ、魂をトール神の作った肉体に入れ替えられたんだよ。」

「そして、その肉体の入れ替えは、まだ赤ん坊の時に行われた。()()()()()()()()()()()()()()()姿()()()()()()()()。」


 そう言われて、リリスは思い出した。

 魔王城に攻め込み、魔王の部屋に踏み込んだ時、彼女は、自分=クレオ・ラ・フィーロと、紅葉=アイラ・アン・アンビーを指差して、トールではないのかと確認した。


 魔王は、トールが、女性でなければならない、と思っていたのだ。


「ど、どういう事?」

「前世での鍛錬は、最初から、完全に失敗だったという事さ。だから、魔王は、前の世界を消滅させて、リセットしようとした……。」


 トラノオが話し終わると、その場を、暫し、沈黙が支配した。


「……今度は上手くいっている。もっとも、玲の消滅がトラウマになって、せっかく覚醒した能力が、封じられたのは、魔王(オク)にとっても、予想外だっただろう。」


 ゲキリンの言葉の裏にある意味に気付いた胡蝶蘭は、縋るような目で、彼女を見た。


「それって、つまり、プリちゃんは……。」

「そうだ。プリが完璧に覚醒すれば、真っ赤な髪をした第三の刀、獅子吼となるのだ。」


 ししく! なんだか いいかんじ!!

 プリ様は、事の重大さを、あまり理解せず、シシクという語感の格好良さに、酔いしれていた。





今回は旧スクII型エンジェルは、お休みします。

私事ですが、個人的に、物凄くショックだった出来事を、お話させて下さい。


何時もの様に、私の部屋に遊びに来た、お友達のアイちゃんが言うのです。湖島玲の「玲」の字を、「零」にしたらどうかと。


「嫌だよ。そしたら、全部書き直さなくちゃならなくなるじゃん。面倒くさいし、読んでくれている人も、訳分かんなくなるし……。」


言い返したら「そう……。」と、気の無い返事が返って来て、その後はベッドに寝転がったまま、私のタブレットを弄ってました。


何となく、気まずくなった私は、アイちゃんの持って来た袋の中に、雑誌が入っているのに気が付きました。


「何これ? ファショッン誌? 読んでも良い?」


と言いつつ袋から出すと、それはあの某結婚式場案内雑誌……。


「えっ? アイちゃん、結婚するの?」

「……。うん……。それ、婚姻届が付録についてて……。」


ベッドで上半身を起こしたアイちゃんは、頬を染めながら、肯定しました。


アイちゃんと結婚しようなんて物好きもいるのか……。と、妙な感心をしてしまった私は「相手はどんな人?」と、一応聞いてみたのです。


「探偵……。」

「探偵? 興信所に勤めているの?」

「そんなのじゃなくて……、名探偵みたいな?」

「ふーん……。」

「でも、悪の組織にも勤めていて……。」

「えっ!? 悪の組織? ちょっと、ヤバイ人じゃないの? 止めときなよ。」

「大丈夫。本当は公安警察官なんだ……。」


なんだか、かなり複雑な人みたいです。


「ここで、婚姻届書いても良い?」

「良いけど……。相手の人と書いた方が良くない?」

「良いの。ハンコ持っているし……。」


ハンコを持っている? そこで少し、違和感を感じる私。そんな私に目もくれず、幸せそうに婚姻届を書き始めるアイちゃん。


「…………? 彼氏、随分変わった苗字だね。」

「うん……。ハンコ手に入れるの苦労しちゃった。」

「えっ! そのハンコ、アイちゃんが買ったの?」

「うん……。」


彼女にハンコ買わせるって、大丈夫か、その男。


「ね、ねえ、アイちゃん。彼氏の写真とかある?」


痩せても枯れても、男一匹生きて来ました。この歳になれば、人相で、その人間の、大体の性質は分かります。


「恥ずかしいなぁ。」

「まあ、そう言わず。」

「うん、じゃあ、これ……。」


どうやら、スマホの待ち受けにしているらしいのです。どれどれと、画面を覗き込みました。


「………………。絵じゃん……。」

「絵じゃないよ。いつも話だってしてるし……。」


それ、危ない奴じゃん。


アニメのキャラと結婚する為に、ハンコまで買うのか……。(しかも、結構珍しい苗字。)


「私、これで、もう、彼の妻だね。」

「そ、そうスッね。」

「結婚祝いに、冷蔵庫のプリン、食べても良い?」

「そ、そうスッね。はい、どうぞ。」


怖過ぎです。逆らえません。

恐怖に慄く私を置き去りに、プリンを食べながら、幸せそうに、婚姻届を眺めるアイちゃんなのでした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ