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スーパーの三個セットプリンみたいなプリ様

「お父様、そんなに心配なさらないで。私達だって、リリスちゃんに負けないくらい、強いんですよ?」


 いや、お前誰だよ。車に乗り込みながら、宗一郎に話し掛ける紅葉を見て、和臣は心中で突っ込んでいた。


 何時もは、リリスと呼び捨てにしているだろ。どんだけ猫被っているんだよ。そもそも、俺の親父を、お父様と呼ぶのを止めろ。


 和臣の内心の声など、知る由も無く、宗一郎は、紅葉の言葉に頷いていた。


「いや、ちょっとショックだっただけで、心配などしておらんよ。」


 まあ、首都防衛の一端を担うチームのリーダーが、三歳児というのは、官庁の人間にしてみれば、ショックではあるだろう。


「リーダーと言っても、俺達がノリで決めたものだしな。」


 一応、自分でもフォローを入れておく和臣。その彼の顔を、チラッと見て、宗一郎は、エンジンキーを回した。


「御三家というのは、古い血筋の割に、柔軟な思考の出来る者達の集団でな……。」


 阿多護神社の駐車場を出るべく、ハンドル操作をしながら、彼は語り始めた。


「更に、徹底した現実主義者(リアリスト)だ。符璃叢ちゃんが、リーダーに相応しくないとなれば、お前達の意思など関係無く、必ず変更する。」

「つまり……。」(和臣&紅葉)

「そうだ。あの子がリーダーで構わないと、御三家は判断しているのだ。その基準は、恐らく、並外れた戦闘能力に由来しているのだろう。」


 そう言えば、プリは「破壊のプリンセス」と呼ばれていると、前にコチョちゃんが自慢していたな。

 紅葉と和臣は、思い出していた。


「しかし、逆を言えば、俺は彼等の、そんなところが好かんのだ。いくら天才的な能力の持ち主といっても、幼児を戦闘に参加させるなどと……。」


 だからこそ、宗一郎は、和臣と紅葉の身を案じて、阿多護神社にまで行ったのだ。良いように利用しているのではないか、その真意を問い質したかったのだろう。しかし、リーダーが三歳のプリ様だったので、頓挫してしまったのである。


「仲間意識を持つのは良いが、何かあったら、紅葉ちゃんを守るのは、お前の仕事だ。」


 念押しされて「分かっているよ。」と、小声で呟く和臣。その時、隣に座っていた紅葉の手が、ソッと彼の手を握った。


「それでしたら、和臣を褒めて上げて下さい、お父様。新宿御苑で、彼は、命懸けで、私を守ってくれたんです。」


 夜の道路を行き交う対向車のヘッドライトが、車中を照らした。手を握ったまま、俯き加減に微笑む紅葉を、和臣は、初めて見る少女の様に、見詰めていた。




「プリ様ー。プリ様、プリ様、プリ様ー。うーん、プリ様。可愛い、可愛い、プリ様。プーリーさーまー!!」

「いったい なんなの? すばゆ。」


 思いっ切り抱き付いて、全身を擦り寄せて来る昴に、プリ様が、冷めた口調で訊ねた。


「だぁ〜て。今まで、お客様が居て、全然、プリ様と、愛情行為の遣り取りが、出来なかったんですもん。」


 地下の神王院屋敷に戻り、リビングで寛いでいると、昴が発作を起こしたのだ。


「すばゆ、ずっと だっこ してたの。ぷりを。」

「うう〜ん。抱っこだけじゃ、嫌なんですぅ。もっと、こう、頰と頰をスリスリしたり、プリ様のカワユイ耳朶を、ハムハムしたりしたいんですぅ。」


 と言いながら、耳朶をハムハムする昴。更に頬ずりをして、ギュッ〜と抱き締めて……。


「もう、プリ様〜。プリ様も昴を求めて下さい。」

「どうすれば いいの?」

「プ、プリ様も、昴の耳朶をハムハムしたり……。」

「いやなの。そんなの あかちゃん みたいなの。」


 素っ気なく言われて、泣きそうな顔になった。


「プリ様〜。」

「…………。」


 あっー、もう、仕方ないなあ。という感じで、昴の耳朶をハムっとしてみるプリ様。


『やわらかいの……。』


 意外な感触の良さに、何となく夢中になって、プリ様は、ハムハムし続けた。


「幸せですぅ。プリ様、昴は幸せ者なんですぅ。」

「はむはむ。はむはむ。」

「プリ様も幸せですか?」

「はむはむ。はむはむ。」

「何とか言って下さーい。プリ様ぁ。」


 うるせえなあ、黙ってハムハムさせろや。と思いながら、プリ様はハムハムしていた。

 そこに、風呂上りのリリスと、仕事を終えてやって来た藤裏葉が入って来た。


「あらあら……。何か、楽しそうな事を……。」

「あっー、ずっるーい、スバルン。私も、私も。」

「ダメです。ダメですぅ。これは、昴とプリ様だけの愛情表現なんですぅ。」


 例によって始まるプリ様争奪戦。その日も、大騒ぎの内に、暮れていった。




 そして、翌日。時間の巻き戻しが終わった昴が、我に返って、ひょっと横を見ると、プリ様が三人になっていた。


 プリ様が三人に……?


「うーそー、ですぅ!!!」


 その声で、一緒に眠っていたリリスが、目を覚ました。藤裏葉も一緒に寝ていたが、低血圧なので、ボゥッ〜と虚ろな目をしていた。


「どうしたの? 昴ちゃん。」

「リ、リ、リ、リリス様ぁ。みみみ、見て下さい。プリ様が三人にぃぃぃ。」


 指差す方を見てみると、黒髪のプリ様を真ん中にして、左に青い髪のプリ様が、右に黄色い髪のプリ様が、寝ていた。


「どどど、どういう事なんでしょう? 何が、どうなって、ティーチ ミー ホワイ?」


 昴が錯乱していると、脳が半分寝たままの状態の、藤裏葉が介入して来た。


「プリちゃまが……、三人……。ちょうど、私達で三等分できますね……。」

「プププ、プリ様を、スーパーの三個セットプリンみたいに、言わないで下さい。」

「とりあえず、私は、黄色いプリちゃまを抱いて、もう一寝入り……。」


 藤裏葉が手を伸ばすと、目を覚ました黄色いプリ様は、彼女の手を逃れ、昴にヒシと抱き付いた。


「ありゃ? ありゃりゃ?!」


 素っ頓狂な声を出しながら、それなら青い方をと手を伸ばしたら、青いプリ様も目を覚まして、やっぱり昴に抱き付いた。


 青と黄色のプリ様は、お布団の上にペタンと座っている昴の、両脇に其々抱き付いて、リリスと藤裏葉を睨んでいた。


「うう〜ん。すばゆ〜、おはよう なの……。」


 そこに、黒髪のプリ様が、起き上がって来た。寝ぼけ眼で、昴を見詰め……。


「ととと、とっぴんぱらりんのぷー なのー!!!!!」


 驚きのあまり、言葉にならない叫びを、屋敷中に聞こえる様な、大声で発した。


「プリちゃん! どうしたの?」


 娘の叫びを聞き付け、朝の支度をしていた胡蝶蘭が、飛んで来た。


「おおお、おかあたま。ぷ、ぷりが、ぷりが ふたり いゆの。」


 さすがのプリ様も腰を抜かし、へたり込んだ状態で、青と黄色の自分を指差していた。


「うきゃあああ。プリちゃまが三人になっているぅぅぅ。」

「今更何なの? 裏葉さん。」

「い、いえ。私、起き抜けは頭が働いてなくて。今、異常事態だと認識しました。」


 リリスと藤裏葉が話している間に、プリ様は腰を抜かしたまま、這って胡蝶蘭に近付いた。そのプリ様を、胡蝶蘭が抱き上げた。


「こっちがプリちゃんで……。ええっと、じゃあ、貴女達は?」

「我はゲキリン!」


 胡蝶蘭の質問に、青いプリ様が答えた。


「トラノオだよ。お腹減ったなあ……。」


 一拍おいて、黄色いプリ様も答えた。


 プリちゃんに、そんな友達居たっけ? 錯乱する、胡蝶蘭、リリス、藤裏葉は、二人を見ながら、そんな事を考えていた。


「ととと、とらのお、げきりん。なんで、おまえたちが ぷりに なっていゆの?」


 プリ様の突っ込みに「そうだ。昴ちゃんの中にある、二振りの刀の名前だ。」と、胡蝶蘭とリリスは気が付いた。


「んんっ?! プリちゃまは、二人を知っているんですか?」

「う、裏葉ちゃん。この二人はね……。」

「分かった。コチョ様の隠し子ですね。」


 説明しようとする、胡蝶蘭を指差す藤裏葉。その彼女の胸を、リリスが手の甲で(はた)いた。


「な、なんでやねーん。」

「リリス様、キャラが崩壊してますよ。」


 リリス様が「なんでやねん。」……。凄くレアだ。スマホで動画撮っとけば良かった。


 周りがパニック状態なので、妙に冷静になってしまった昴は、そんな暢気な事を考えていた。

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