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ゴエティアの儀式

 プリ様や、リリス達の訪問の翌日、一日の授業を終えた舞姫は、やる事も無く、帰宅の途に着いていた。父親が、引き取った操を、親戚に紹介する為、実家に帰っており、明日まで一人で留守番なのだ。


『今日も、リリスさん達に来て貰えば良かったな……。』


 そんな事を考えながら、住宅街を歩いていたら、自分の隣に業務用の大きなバンが止まった。


「お嬢ちゃん、ちょっと道を聞きたいんだけど……。」


 運転席から降りて来た若い男に、何気なく近寄ったら、突然、ハンカチを口に押し当てられた。


『何これ……。なんか、眠くなって……。』


 ガクリと膝を落とす舞姫。人事不省になった彼女を、男はバンの荷台に放り込んだ。




 もうすぐ、学校を終えた和臣達が遊びに来る時刻、昴は、プリ様との二人切りの時間を惜しむように、抱き付いたり、頬ずりをしたり、を繰り返していた。

 そこに、二人の部屋(プリ様と昴の愛の巣)の扉をノックする音が……。


「地上の阿多護神社に、お嬢様のお友達だと名乗る子が……。」


 メイド頭のペネローペさんが、珍しく、歯切れの悪い話し方をした。


「だれ? かずおみ? もみじ?」

「いえ……。その……。」

「晶ちゃんですか?」

「いや……。あの……。」


 プリ様と昴の質問に、言葉を濁すペネローペさん。


「だれなの?」

「オフィエル……さんと、言ってますが……。」


 オフィエル!?


 襲撃か? とも思ったが、そんな小細工を弄するタイプとも思えない。とにかく、会ってみようと、プリ様と昴は、地上へと向かった。


「おう、ぷりと おにんぎょう じゃ〜ん。おひさ って かんじ?」


 社務所の応接間に行くと、出されたジュースを、ご機嫌に啜るオフィエルが居た。


「おっ、おまえ、なにしに きたじゃん?」


 つられて、オフィエル口調になるプリ様。そのプリ様を『変な言葉遣いのプリ様、愛し過ぎて、どうにかなりそうですぅ。』という目で、昴が見ていた。


「まあまあ。とにかく、すわる じゃん。」


 オフィエルは、まるで自宅のように寛ぎ、プリ様達に座るのを促した。


「オフィエルちゃん、一応確認しておきますけどぉ……。幼女神聖同盟と、私達プリ様パーティは、敵対してますよね?」


 昴が恐る恐る聞くと、オフィエルはキョトンとした顔になった。


「それが、わたしと、なんの かんけいが あるって ぎもん。」

「いや、だって。貴女も、いずれ、東京異世界化作戦を遂行するんですよね?」

「そうじゃん。わたしの てごわさに おどろけ って かんじ。」

「そ、それなら、敵でしょ?」

「まだ、とうきょういせかいか(東京異世界化)は はじめて ないじゃん。いまの ところは おともだち って おもうのよ。」


 お友達、とオフィエルが口にした時、プリ様の身体が、ピクリと動いた。


「ひとつ だけ きくの、おふぃえゆ。おまえ どう なゆの? りっかのいちよう(六花の一葉)が きえたら……。」

「どう……?」


 オフィエルは、その質問の意味が、今一つ理解できず、可愛らしく、小首を傾げた。


「あらとろんと いっしょに きまっている じゃ〜ん。ふつうの ようじょに もどるって かんじ。」


 それを聞いて、プリ様は、安堵の溜息を吐いた。


「まあ、でも? まける わけ ないって かんじ。この わたくしがー。」

「そっか、そっか。」


 ふざけた口調で、大言壮語するオフィエルに、苦笑混じりに相槌を打つプリ様。

 あれ? 何、この、くだけた雰囲気は。と、昴は、自分が、状況に乗り遅れているのを感じた。


「じゃあ、なにして あそぶ? おふぃえる。」

「つーか、この にかげつかん(二ヶ月間)の ぷりぷりきゅーてぃ みせろって ようきゅう。」

「わかったの。」


 眠らされて、見損なっていた「魔女っ子プリプリキューティ」を、此処なら録画しているのではないかと予測していた、オフィエルの作戦勝ちであった。




「リリス、今日もプリちゃん家に寄るんでしょ?」


 六時間目が終わるや否や、渚ちゃんは、リリスに駆け寄って、ピッタリと離れなくなった。絶対に置いていかれないぞ、という気概が感じられる様子だ。


「お前は、今日は遠慮しろ。」


 いつの間にか、中等部の教室に来ていた和臣が、後ろから耳を引っ張った。


「嫌だ。土、日と会えなかったんだもん。今日は、夕方まで、リリスといる。」

「あらあら、駄々っ子ちゃんね。」


 たった二日会えなかっただけだろ。和臣は、妹の我儘に、イラっとしていた。


「いいじゃない。連れてって上げても。」

「そうね。此処の所、事件もないし。裏葉さんも、今日は、お仕事で居ないし……。」


 紅葉の意見に賛同するリリス。お前ら、甘やかし過ぎだぞ。と、和臣は、自分に向けてドヤ顔をする、渚ちゃんを睨んだ。


 しかし、事件が無い、というリリスの発言は、阿多護神社到着とともに覆された。七大天使の一人、オフィエルが、リビングで、オヤツを食べながら「魔女っ子プリプリキューティ」を見ていたのだ。


「あっー。オフィエルちゃん。」

「おう、なぎさ じゃん。」


 オフィエルは、リモコンで、一旦画面を停止させてから立ち上がり、渚ちゃんとハイタッチをすると、再びテレビの前に陣取り、プリプリキューティの続きを見始めた。


『言葉遣いの割には、やる事は小まめね……。』


 リリスは変な感心をしていた。


「あいつは確か、オフィエル! 渚、あいつと知り合いなのか?」

「私とオフィエルちゃんは、もう、マブダチだよ。」


 胸を張る妹を、何自慢してんだコイツ、と和臣は冷めた目で見ていた。その和臣の顔を、振り返ったオフィエルが、不思議そうな目で眺めた。


「おまえ、なんで わたしの こと しっている? って ぎもん。」

「何でって、お前、散々、花火大会の時、暴れ回っただろ。」

「えっ? 花火大会?!」


 オフィエルに言い返した和臣の言葉に、渚ちゃんが反応した。


『やばい。渚には、爆発事故で、通しているんだった。』


「ねえ、お兄ちゃん。花火大会の時って……。」

「ああっ、渚さん。この、お菓子、絶品ですよ。長田さん、特製のクレオルです。」


 質問しかけた渚ちゃんの目の前に、昴が、素早く、お菓子の盛られたお皿を差し出した。


「なあに、これ? くれおる……?」

「この時期ならではのスイーツなんです。お芋を使っているんですよ。」

「お芋!」


 お芋と言われると、食べずには済まされない、女子の悲しい習性を利用され、渚ちゃんの頭から、花火大会の事が消えた。


 皆んなは、やれやれと、胸を撫で下ろしたが、巨大なクエスチョンマークを頭に浮かべたオフィエルが、新たな火種を燻らせていた。




 一方、此処は、大田区内の、とあるビルの地下駐車場。直径五メートルはある、地面に描かれた魔法陣の真ん中に、祭壇が設えられ、先程、舞姫を攫った男が、何やら呪文を唱えていた。


 舞姫は、魔法陣の外に置かれたマットに、横たえられていたが、繰り返される呪文に眠りを破られ、薄く目を開けた。


『何これ? どうなっているの?』


 すぐにでも、逃げ出したかったが、腕は後ろ手に鎖で縛られ、足も鎖の縛めを受けていた。恐怖でしかない状況である。しかし、舞姫は、気丈にも、寝たフリをし続けた。


「くそ。何で、召喚出来ねえんだ?」


 暫く呪文をブツブツ呟いていた男は、やがて、苛立って叫んだ。


「供物が不味そうだからか?」


 男は近付いて、舞姫を見下ろしながら、言った。

 失礼な。とは思ったが、それどころではない。舞姫は、必死に、目を瞑っていた。


「流血させてみるか。その方が、美味しそうに見えるかも。」


 なんか、とんでもない事言っているー。


 舞姫は、耐え切れずに、目を開けた。そこで、見たものは……。


 頭からトナカイみたいに角を生やし、足が山羊になっている、異形の者だった。


「きゃあああああ。」

「おやおや、目を覚ましちまったか。眠っていた方が、楽に死ねたのに。」


 男は、舞姫の半袖ブラウスの襟首を掴んだ。


「ななな、何? 貴方は何をしているの?」

「ゴエティアの儀式さ。お前は、その生贄だよ。」


 舞姫は、恐怖に、目を見開いた。






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