表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/303

激闘! 新橋駅

 プリ様の拳から進行方向の地面が陥没した。蜘蛛女の糸からプリ様が逃れた時と同じ現象だが、規模が違う。ほぼ駅の敷地内全てが沈み、弱い魔物のゴブリンやオークはこの攻撃だけで潰され、全滅した。


「さすがに、かんぶはたおせないの……。」


 各駅のボスは衝撃波を食らっても、ダメージは受けてないみたいだった。


「げきいん!」


 プリ様はチラリと振り返って昴を見ると、ゲキリンを呼び出した。


「はひゃああ。ゲ、ゲ、ゲキリン!」


 昴が頓狂な声を上げている。


「てをはなしちゃダメなの。こわくても、にぎっていゆの。」


 武器すら怖がる昴は、今にもゲキリンから手を離しそうであったが、プリ様の命令には絶対服従なので、しっかりと握り直した。


「げきいん、すばゆをまもって……。」


 まるで友達に頼むように話し掛けた。ゲキリンもそれに答えるみたいに少し切っ先を下げた。それを見たプリ様は後顧の憂い無しとばかりに正面に向き直った。


「もみじ、げきいんといっしょにすばゆをまもゆ。」

「えっ、あっ、はい。了解、私も昴を守る。」


 返事を聞くと、躊躇いもせず、群がる敵の中に駆け込んで行った。


あんちぐらびてぃ・(反重力)だっしゅ(ダッシュ)


 解説しよう。アンチグラビティ・ダッシュとは、足の裏に部分的に弱い反重力を発生させ、少しだけ身体を浮かせて摩擦係数を0にし、しかも踵を浮かせる角度によって反発力の方向を調節しながら、自在に戦場を駆け巡る、プリ様の能力の一つだ。

 それってスーパーコンピュータ並みの演算能力が必要なんじゃないの、とか言う人には、もう解説なんかしないので、これからは自分で考えて下さい。


「スッポン砲発射!」


 背中に大砲を背負ったスッポン男が砲撃して来た。プリ様は回避などせず、右の拳で砲弾を叩き割った。「嘘だろ?」と、スッポン男が思う間もなく、その拳が今度は自分の顔面にヒットした。

 スッポンの頭が千切れ飛んだ瞬間、天井近くを飛んでいた、翼の先端にナイフが付いている蝙蝠女が急降下して来た。ナイフがプリ様の頭頂部をかすめ、髪が二、三本散った。


 昴と紅葉の方にも、二人ばかり向かって行った。腕が鎌になっている虎男と、剣になっている猪男だ。昴は怯えながらも、言い付けを守って、両手でしっかりゲキリンを握っている。紅葉は何とか昴だけは守ろうと、前に出て、彼女を庇っていた。


「感動だねぇ。自分を盾にしてもお友達を守るってか? 」


 猪男がニタニタ笑いながら近づいて来た。


「でも無駄だよ。俺の剣は一振りで、お前等二人の首を刎ねちまうからなぁ。」


 中々に憎たらしい奴だ。こいつだけは刺し違えても殺す、と紅葉が決意していたら、ゴロリと猪男の首が落ちた。


「ふぎゃああぁぁ。首が、首がゴロリンちょ。」


 昴が錯乱している。紅葉も、敵の虎男も、何が起こったのか理解出来なかった。しかし、錯乱しながらも昴がギュッと握り締めているゲキリンの刃先に薄っすらと血が流れていて、どうやらゲキリンの仕業らしいのはわかった。


「わざとらしく怯えた振りなんかしやがって。お前出来るな?」


 虎男が昴に言った。そんなわけねえだろ、と紅葉は心中で突っ込みを入れていた。


「ち、ち、違いますぅ。わ、私にも何が何だか……。」

「問答無用。」


 虎男が昴に襲いかかろうという挙動を見せた瞬間、身体が真っ二つになって転がった。


「うひゃああぁぁぁ。」


 昴は腰が抜けて立てなくなっているが、それでも健気にゲキリンだけは離さないでいた。

 猪男と虎男の最期を見て、迂闊に昴と紅葉にちょっかいを出す者はいなくなった。というよりも、出せなかった。二人は放っておけば何もしないが、プリ様は縦横無尽に駆け回って、ガンガン攻めて来る。この襲撃者に対処しなければ、自分達が死体にされてしまうのだ。


 プリ様は今、三人目の獲物、火吹き蛸男をジャンピングニードロップで葬ったところだった。残りはナイフ蝙蝠女と鎖鎌黄金虫男、そして大将のミノタウロスだ。

 ミノタウロスはドッカリと座ったまま動かない。だが、蝙蝠女と黄金虫男は焦りまくっていた。気が付けば半分以上の戦力が失われている。更に、京橋から向こうにいるボス達がやって来ない。挟撃するつもりが、返り討ちにあったのは、最早明白であった。


 再度、蝙蝠女が急降下攻撃をして来た。それを煩そうにプリ様がかわした時、黄金虫男の鎖が右手に巻き付いた。


「どうだ!? 動けまい。」


 黄金虫は得意気に笑い、蝙蝠はとどめとばかりに頭の上からナイフを振り下ろした。

 だが、プリ様の身体が浮いた。頭上の女目がけて落ちて行く。あんちぐらびてぃ・ぱーんち、だ。ナイフを紙一重でかわしつつ、自由な左手で顔面にパンチをヒットさせた。蝙蝠女はミノタウロスの手前、三メートル位の所に落ちた。


 プリ様はそのまま天井に降りた。黄金虫男の真上に行き、彼の足元に超重力を発生させた。男は持っている魔力を総動員して、潰されないように頑張った。しかし、初手の「大地の怒り」とは違って、彼の周り直径一メートルにも満たない狭い範囲に100Gもの重力が働いていて、しかも徐々に増えているのだ。そうそう耐えられる筈がない。彼の身体は押し潰され、肉の塊だけが其処に残った。


「ミノちゃん……。ミノちゃん助けて……。」


 蝙蝠女は寝転がったまま、ミノタウロスに手を伸ばして助けを請うた。それに応じたかのように、ミノタウロスは立ち上がった。

 プリ様もまた地面に降り立った。右手に巻き付いた鎖を投げ捨てる。蝙蝠女を真ん中にして、ミノタウロスと反対の位置だ。両者の目が合った。見ているだけで息が詰まる程の激しい睨み合いだ。プリ様は闘気を剥き出しに、ミノタウロスもそれを全身で受け止めている。


「その力、重力制御グラビティ・コントロールか……。」


 プリ様が頷いた。


「えっー、重力制御グラビティ・コントロール? 筋肉じゃないの?」


 紅葉が後ろで間抜けな叫びを上げた。

 どうして敵の方が俺の能力を正確に把握しているのだ、プリ様は頭を抱えた。


「他は全部それで説明がつく。だが、あのスッポンの砲弾を叩き割ったのだけはわからん。」


 どうやらプリ様の戦いを注意深く観察していたらしい。


「バッカねえ。それこそプリの真の力。精神的実在筋肉よ。」


 もう、お前黙れ。良いから黙れ。聞いているこっちの方が恥ずかしい。

 プリ様の肩が羞恥にプルプル震えた。


「まあ、それも初手で倒せば問題無い。」


 叫ぶと同時に、ミノタウロスの角から電撃が発せられた。稲妻ネズミのそれとは比べ物にならないくらいの大きな落雷がプリ様に向かって落ちた。しかも一撃ではなく、持続的に浴びせられ続けている。その衝撃でプリ様の頭上の鍾乳石も崩れ落ち、彼女の小さな身体はその中に埋まった。


「プ、プ、プリ様ー!。どうしよう、プリ様、プリ様ー!!」

「あっーはははは。良い様だわ、ガキめ。さあ、ミノちゃん。今度はあの生意気そうな小娘共をサクッとやっちゃって。」


 蝙蝠女がヨロヨロと立ち上がり、プリ様の埋まった辺りを指差して笑った。ミノタウロスも彼女に言われて、ギロツと昴と紅葉を睨んだ。


「ひえええ、睨んでる。睨まれてます、私達。ああ、でも、そんな事よりプリ様が、プリ様がぁぁぁ。」


 パニック状態の昴を横目に 見ながら、紅葉は前世で切り札にしていた大技「凍える月の地表」を使うしかないと覚悟していた。自分がミノタウロスに抱き付いた状態で技を発動させれば、魔法力の暴走で昴を巻き込む事なく決着がつくだろう。蝙蝠女は……ゲキリンが始末してくれるだろう。


 紅葉は覚悟を決めた。

 たった数時間の再会だったけれど、昔のパーティ仲間と過ごした時間はかけがえのないものだった。人生最後に神様がくれたプレゼントかもしれないな、そう思うと死の恐怖も薄れていった。


「ニール君を頼むわよ。」


 紅葉はケージを置くと、ミノタウロスを見た。


 絵島紅葉、見事に散ってみせようぞ!



何となく次回は紅葉さんが活躍しそうな終わりかたですが、しません。

新橋駅編はプリ様無双回です。

いよいよ、プリ様の、胸を抉られるような辛い過去の話が露わになります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ