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自ら千尋の谷に飛び込む獅子の子

 朝御飯を食べ終わって、プリ様と昴は、リビングで、まったりタイムだった。ソファーに座る昴の膝の上で、プリ様は大人しく、髪を弄られたり、匂いを嗅がれたり、頬ずりをされたりしていた。


「そろそろ、かずおみたちが あそびに くゆの。」

「来ませんよ。だって、皆んなは、今日から学校ですもん。」

「そっか、そっか。」


 夏休み中は、いつも、皆んなが居て、賑やかだったな……。

 プリ様は、一つの季節が過ぎ去ってしまった寂しさを、小さなお胸に覚えていた。


「だから、午後までは、ずっーと、二人切りですよ。ああっ、プリ様、プリ様ぁぁぁ。」


 感極まった昴は、プリ様をギュッと抱き締め、プリ様ラッシュを……。しようと思ったら、リビングのドアが、勢い良く開いた。


「お邪魔します。藤裏葉です。」


 敬礼しながら、藤裏葉が入って来た。胸元と、臍と、太腿を露出していないと、落ち着かない性格なのか、今日も、チューブトップにマイクロミニといった服装である。


「うわーい。おねえしゃん。」


 プルプルの胸に目の眩んだプリ様は、彼女に向かって、手を伸ばした。


「あっ、符璃叢様。オッパイですか。」

「そうなの!」


 この遣り取りが、すっかり、定番となりつつあるのに、昴は危機感を覚えていた。

 ヒョイと、プリ様を抱き上げて、顔にムギュッと乳房を押し当てる藤裏葉に向かって、取り返そうと手を伸ばした。


「ダメです。ダメですぅ。プリ様は、昴の胸で我慢して下さーい。」


 訴えかけている昴の言葉も、桃源郷にいるプリ様には、届いてなかった。


「あら、裏葉ちゃん。」


 そこに、最近、極力、家に居るようにしている、胡蝶蘭が入って来た。


「裏葉……。」

「あっ、ごめんね。名前長いから言いにくくて。嫌だった?」

「いえ、全然構わないのですが、どうせ短く呼ぶのであれば『ビッチ』とか『売女』とか、もっと蔑んだ愛称で呼んでいただいた方が……。」

「はい、裏葉ちゃん。渾名、裏葉ちゃんで良いわよね。」


 藤裏葉の願いは、却下された。


「びっち?」

「はい、符璃叢様!」

「プリちゃん、止めなさい。」


 胡蝶蘭は、藤裏葉からプリ様を取り上げ、強制的に話を終わらせた。


「奥様〜。プリ様を、プリ様を〜。」


 そして、手を伸ばして、必死にプリ様を求める昴に返した。


「ああっ。プリ様、昴はプリ様欠乏症で死ぬところでした。」

「おおげさなの。」

「もお、大袈裟じゃありません。」


 拗ねた声を出しながらも、全身で愛撫を繰り返した。


「ところで、今日は何の用なの?」

「いえ、特に無いのですが、天莉凜翠様付きになって、暇なものですから、パーティのリーダーとの親睦を深めようと……。」


 胡蝶蘭の質問に、サラッと答える藤裏葉。


『プリちゃんとなら、もう、大分、深まっている気がするわ。』


 と胡蝶蘭は思っていた。




「まずいわ。」


 始業式も終わり、紅葉、和臣兄妹と、学食でお茶をしていたリリスは、スマホを見ながら呟いた。


「何がまずいのよ。」


 紅葉に聞かれて、渋い顔を上げた。


「藤裏葉さんが、プリちゃん()に、遊びに行っているらしいの。」

「ふーん。別に良いじゃない。露出狂で色情狂だけど、礼儀はわきまえた子だったし……。」


 それは、十分、問題だろう。と、紅葉の言葉を聞きながら、和臣は思っていた。


「あれは、余所行きの性格で、一旦、身内と見做すと、遠慮がなくなるのよ。弟なんて『バカ坊ちゃん』呼ばわりされているし……。」


 主家の跡取り息子をか……。

 和臣と紅葉は、思わず唸った。


「ねえねえ、リリス。弟が居るの?」

「居るわよ。妹もいるわ。」


 一方、渚ちゃんは、リリスの家族構成に興味を持っていた。愛する人の情報なら、何でも知りたい乙女心なのだ。


「お前、あんまり人様の家庭の事を根掘り葉掘り聞くんじゃない。失礼だぞ。」

「えー。家族の話くらい良いでしょ?」


 食い下がる渚ちゃんに、鉄拳制裁をしようとしたら、リリスが、やんわりと、止めた。


「良いのよ、和臣ちゃん。もう、大丈夫だから。」


 柔らかく微笑むリリスに、和臣と紅葉は、そこはかとなく安堵を覚えていた。


「とにかく、私は、これから、プリちゃん家に行くわ。貴方達も来る?」


 この「貴方達」には、渚ちゃんは含まれていなかったのだが、一番張り切って、手を挙げていた。




 そして、学校帰りに、神王院家に寄った、リリス達の見たものは……。酒席か? と聞きたくなるくらい、出来上がった藤裏葉の姿であった。


「あっ、お帰りなさい、リリス様。」


 呼び方が、リリス様に、なっている……。


「おおっ。和君とモミンちゃんも一緒なんだ。」


 和君はともかくモミンちゃんって、誰だよ。


「お茶なら、私が淹れますよ。コチョ様も、スバルンも座ってて。」


 腰を浮かせた胡蝶蘭と昴を、実にフレンドリーに呼び止めるし。


「はーい、プリちゃま。オッパイでちゅよ。」


 しかも、プリ様への授乳も忘れない細やかな気配り。


「ばぶぅ。おっぱい でちゅ。」


 抱き上げられたプリ様も、何故か、赤ちゃん返りしているし……。


「リリス様〜。」


 リビングに入って来たリリス達に、昴が泣き付いた。


「プリ様が〜。プリ様が〜。」

「落ち着いて、昴ちゃん。一体、何があったの?」


 グスグスと泣く昴を、リリスが宥めた。


「裏葉ちゃんが『もおっ、プリちゃまったらカワユイ。赤ちゃんみたい。本物の赤ちゃんだったら、お乳吸わせて上げるのに。』と言った途端『ばぶぅ。』とか言い出して。」


 そんな説明をしている間にも、藤裏葉は、チューブトップを半分ずらし、プリ様の頭を、胸の谷間に沈めていた。


 その様子を、鼻血を垂らしながら見ていた和臣は、紅葉と渚ちゃんに、両方から、お尻を抓られた。


「ちょっと、あんた。何考えているのよ。男子のいる前で、オッパイ半分放り出して。」


 紅葉の猛然たる抗議を受けて、和臣の方を見た。


「和君も頭埋める?」


 そう言われて、フラフラと歩き始めた和臣の脛に、紅葉のローキックが決まった。


「もう、モミンちゃんったら。何を、そんなに、プンプンしているの?」

「モミンちゃん呼ぶな。プリ、アンタもアンタよ。何、その体たらくは。あれだけ、赤ちゃん扱いを嫌がっていたクセに。」


 脱赤ちゃん、自立した幼女。それが、プリ様のスローガンだった筈だ。

 紅葉の、その指摘に、プリ様は不敵に、ニヤッと笑った。


「みそこなうな なの、もみんちゃん。」

「モミンちゃん呼ぶな。」

「ぷりは、せんじんのたに(千尋の谷) にも とびこむの! おっぱいの ためなら!!」


 ●何か、格好良い。(渚ちゃん)

 ●でも、意味分かんない。(モミンちゃん)

 ●用法間違えているよな。(和臣)

 ●というか、プリちゃん、いつの間に、そんな難しい言葉を覚えたのかしら。(リリス)


「はーい、プリちゃま。オッパイは、もう、良いですか?」

「まだなの。もっとなの。ばぶぅ。」


 あっ、このパターンは。


 和臣と紅葉は、リリスの方を見た。いつもなら、焼きもちを妬いたリリスが、自分もオッパイを出して、藤裏葉に対抗しようとする流れだ。


 だが、リリスは、確かに制服の胸元に手を当ててはいたが、ギリギリで踏み止まっていた。パーティメンバーではない、渚ちゃんの存在が、暴走にストップをかけているみたいだ。

 和臣は、自分の人生で始めて妹が役に立った、と思っていた。


「返して下さい。プリ様を返して下さい。」


 やがて、昴が、ピョンピョンし始めた。


「もう、何だって、また、大騒ぎになっちゃうの。」


 胡蝶蘭に促され、椅子に座りながら、モミンちゃん……紅葉が呟いた。


「でも、何か、昔を思い出すわね。酒場では、いつも、こんな馬鹿騒ぎをしていたわ。」


 目を細めて言うリリスの横顔を見ながら『ゲームの話よね?』と、渚ちゃんは思っていた。


「そうなんだよな……。裏葉さん見ていると、どこか、懐かしい気分になるような……。」


 和臣の発言に、紅葉とリリスが、ハッとした。


「もお。また、それなの? あんた、エッチな女の子見ると、いつも、それよね。」

「和臣ちゃん、その手の口説き方は、ちょっと通じないと思うわ。」


 女二人に混ぜっ返されて、何か思い付きそうだった和臣の思考は萎んでいった。




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