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復活のオフィエル

 長い眠りから目覚めたオフィエルは、暫く、ボオッーと、周りを見回していた。

 整理された工具類。机の上に広げられた設計図の数々。此処は、間違いなく、AT THE BACK OF THE NORTH WIND内の自分の部屋だった。


『そうじゃ〜ん。おくに ねむらされたって くちふうじ(口封じ)?』


 しかし、どうやら、生きているみたいだ。


『おくの やつ、()が かわったって かんじ?」


 どのくらい眠っていたのだろうと、オフィエルは、テレビをつけた。これは、異空間でも、通常空間の電波を拾える、オフィエル考案の、優れ物のテレビであった。


「お早うございます。八月三十一日、朝のニュースです。」


 夏が終わっているじゃ〜ん!!


 テレビのニュースキャスターの第一声に、オフィエルは、衝撃を受けた。花火、スイカ、海水浴。色々、楽しみにしていた夏なのだ。


「もんく いってやるじゃ〜ん。って、おく かくごって かんじ?」


 憤懣遣る方無いオフィエルは、すぐさま、オクの城へとテレポートした。AT THE BACK OF THE NORTH WIND内では、七大天使は、瞬間移動が可能なのだ。


 謁見の間へと続く、広い廊下をズカズカと歩いていると、後ろから「おふぃえるちゃーん。」と、自分を呼ぶ声がした。

 振り向くと、ハギトが、ニコヤカに手を振って、駆け寄って来た。


『はぎと じゃ〜ん。あいつ、こんなに ふれんどりー だったっけ? って ぎもん。』


 そんな事を思っている間にも、ハギトは、ドンドン、近付いていた。


「おふぃえるちゃん。また、ほっとけーき やいてよ。あれ、おいしかったあ。」


 ホットケーキ? こいつ、何言っているか分からないって、不可思議。と、オフィエルは首を捻った。


「いみ わかんない じゃ〜ん。」

「あ、あれ? おふぃえるちゃん、また、へんな ことばづかいに……。」

「はあ? わたしは さいしょから こうじゃ〜ん。こういう しゃべりかた じゃ〜ん。」

「えっ?! だって、さいきんは おしとやかな……。」

「なに いってんのって りかいふのう。そんなに ほっとけーき くいたけりゃ、ふらいほいーる(フライホイール) にまいがさね(二枚重ね) にして、りべっとどめ(リベット止め)して だして やるじゃ〜ん。」


 オフィエル的には、ギャグを交えながら、いたって普通に会話をしているつもりなのだが、彼女の畳み掛けるような喋り方は、ハギトにとっては、恐怖の対象でしかなかった。


「ふふふ、ふええーん。おふぃえるちゃんが もとに もどっちゃったよお。」


 ハギトは後退り、少し距離が空くと、一気に駆け出した。


「おい、まつ じゃ〜ん。せつめい して いけ、って おもうのよ?」

「やだよー。こわいよー。」


 泣きながら逃げて行くハギトの後ろ姿を眺めながら、オフィエルの頭の上は、疑問符だらけになっていた。


 とにかく、オクに会うじゃ〜ん。と、オフィエルは謁見の間の扉を、勢い良く開けた。


「おく いるじゃ〜ん?」

「おおお、おふぃえるちゃん?!」


 テーブルで、フルと、朝のティータイムを取っていたオクは、突然の訪問者に、度肝を抜かれた。


 そうだったわ。フルちゃんが、新しい身体に移動したという事は、オフィエルちゃんが目覚めるという事だったわ。

 オクは、思い至って、動揺した。


「ははは、はーい、おふぃえるちゃん。げんき?」

「げんきの わけ ないじゃ〜ん。ひとを にかげつ(二カ月)も ねむらせ やがってって、げきど。」


 激怒かあ……。激怒しているのかあ……。その二カ月の間に、愛人にしたりしていた。なんてバレたら、殺されるかも……。

 ティーカップを握る、オクの手が、細かく震えた。


ちゃ()ー のんでんじゃ ないじゃ〜ん。せつめい する じゃ〜ん。はぎとも いみふ(意味不)な こと いってたじゃ〜ん。どういう こと じゃ〜ん。」


 じゃんじゃん、じゃんじゃん、言わないで。オクは、バクバク鳴る心臓を、必死に抑えようとしていた。


「ごめんなさいね、おふぃえるちゃん。じつは、わたしが あなたの からだを かりていたの。」

「……? だれ じゃん? おまえ。」


 オフィエルは、テーブルについて、お茶を飲む、見知らぬ幼女を、繁々と見詰めた。


ふる(フル)よ。あなたの ちしきを かりて、あたらしい からだを つくったの。」


 その言葉に、オフィエルは、目を輝かせた。


「そ、それ、つくりものの からだ……。」

「そうよ。わたしの まほうの ちしきと、あなたの ぎじゅつを ゆうごう させたの。」

「みせる じゃん。くわしく みせる じゃん。かいぼう させる じゃん。」

「か、かいぼうは だめだけど……。いいわ。はだかは みせたげる。」


 そう言って、フルは、オフィエルを、自分の部屋へと誘った。フルの身体の構造に夢中になったオフィエルは、もう、オクの事など一顧だにせず、謁見の間を出ていった。


「たたた、たすかった……。」


 後で、フルちゃんに、お礼しとかなくちゃ。オクは、お茶を啜りながら、思っていた。




「お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!!」


 此処、阿多護神社社務所では、興奮した渚ちゃんが、和臣の肩を叩きながら、お兄ちゃん連呼をしていた。


「誰? あれ。何なの? リリス付きの部下って。ねえ、お兄ちゃんってば。」


 沈黙を守る和臣を、見てみると……。静かに鼻血を流していた。


「あっ、貴方。確か、曽我和臣さん。」


 藤裏葉に名指しされて、慌てて鼻血を拭いた。


「さては、私を見て欲情しましたね。」

「いいい、いや、違う。あまりに刺激的な格好だったから……。」


 焦って、手を振る和臣。すると、藤裏葉は、スルリと和臣に近付いて、彼の顔に、胸を押し当てた。


「いいんです。もっと、欲情して下さい。もっと、妄想で私を辱めて。」


 それを見たプリ様は、羨ましさに、昴の膝から飛び降りた。


「うわーい、おねえ(お姉)しゃん。」

「あら、符璃叢様。私の胸がご所望ですか?」

「そうなの!」


 藤裏葉は、人事不省になった和臣を、ポイッと捨てて、駆け寄って来たプリ様を抱き上げた。


「うわーい。ふかふか なのぉ。」


 オッパイに顔を埋めて、至福の表情を見せるプリ様。


「こらこら。止めなさい、プリちゃん。お姉さんが可哀想でしょ。」


 窘める胡蝶蘭に、藤裏葉は、ニッコリと微笑んだ。


「良いんです、神王院の奥様。私も堪能しているのです。幼女に胸を嬲られる惨めな自分の境遇を……。」


 ……なんか、別世界の生き物が来た。

 胡蝶蘭は、自分の理解の範疇を超える、藤裏葉の発言の数々に、身体を硬直させていた。


「ちょっと、リリス。何なのよ、この色情狂は。」


 いとも容易く、和臣を陥落された紅葉が、怒って立ち上がった。


「し、色情狂……。」

「何よ。なんか不満なの?」

「ああっ。良いです。もっと、罵って下さい。もっと、口汚く罵倒して。」


 感極まった藤裏葉が、ムギュッとプリ様を抱き締め、オッパイに埋もれたプリ様は、恍惚とした顔になった。


「ダメです。ダメですぅ。プリ様を返して下さい。」


 それを昴が取り戻そうと、自分より背の高い藤裏葉に向かって、ピョンピョン飛び跳ね……。社務所は、混乱の坩堝と化していた。




「ええっと。新宿御苑で会ったから、皆んな知っていると思うけど、改めて紹介するわね、美柱庵一の結界師、藤裏葉さん。今日付けで、プリちゃんパーティの仲間になりました。」


 異世界に侵入するには、藤裏葉に穴を開けてもらうしかない。ならば、パーティの一員になった方が、何かと都合が良いだろうという実明の配慮で、リリス直属の部下となったのだ。


『ゲームの話よね……。プリちゃんパーティって、新規メンバー入れるんだ……。』


 そう思った渚ちゃんは、勢い良く、手を挙げた。


「はいはい。私もプリちゃんパーティに入りま〜す。」


 皆は、そんな渚ちゃんをチラッと見た後……、無視した。


「あや? 何で、無視するの? こんな美少女が、仲間になって上げるって、言っているんだよ。おーい。」


 一生懸命、話し掛けるが、それでも、やっぱり無視される、不憫な渚ちゃんであった。





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