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藤裏葉、着任

 話は少し戻り、新宿御苑の異世界が消滅した、すぐ後、オクとフルは、即座にAT THE BACK OF THE NORTH WINDに引き返していた。


「きっと、はぎとちゃん ないている でしょうね。はやく かえって あげないと……。」

「それも そうだけど、もっと、せっぱつまった りゆうが あるのよ。」


 フルの言葉に、オクは言い返した。


「せっぱつまった りゆう?」

「AT THE BACK OF THE NORTH WINDは、ふぁれぐ ちゃんが つくりだした『おおたく(太田区)』に あるの。かのじょが いなくなった いま、あの くうかんは ひじょうに ふあんていな じょうたいに なっているわ。」


 最悪、消えてしまう事態もあり得る。急には来ないだろうが、対策は急がねばならない。


『それこそ、くうかんに のいず(ノイズ)が はいったりして、はぎとちゃんが ないている かも しれないわ。』


 そう思い、可及的速やかに戻って来たのだが……。

 AT THE BACK OF THE NORTH WINDは、特に、なんの変化もなく、城の大広間では、泣き疲れたハギトが、お眠をしていた。


「どういう こと かしら?」

「ほんたいの ことうれい(湖島玲)にくたい(肉体)に もどって いきのびた のでは なくて?」


 オクの呟きに、フルが答えた。


 それも考えられない事ではないが……。オクは首を捻った。

 三十年以上も植物状態になっていた肉体が、突然の魂の帰還に耐えられたとは、どうしても思えない。


『あした、れいしょういがく(霊障医学)けんきゅうせんたー(研究センター)に、しのびこんで みるか……。』


 とりあえず、今日は疲れた。と、オクは寝室へと向かった。




 そして、現在。未だにAT THE BACK OF THE NORTH WINDは、何らの変化の兆候も無い。


「むむむ。これは、これで、まずいわ。」

「なにが まずいのです?」


 オクが謁見の間のテーブルに座り、お茶を飲みながら、独り言を言っていると、見覚えの無い幼女が一人入って来た。


「あのぉ……どちらさま?」


 この城には、七大天使しか立ち入れない。つまり、この幼女は、かなり怪しい人物なのだが、その、あまりの美しさに、オクは、そんな疑念を抱く事すら忘れていた。


 真っ白な肌。艶やかな黒髪。彼女の好みに、ドンピシャリなのだ。


「ふふふ。おもったとおり。みほれて いますわね。この わたしに。」

「その しゃべりかた……。ふるちゃん?!」


 幼女は、返事の代わりに、右手の甲を向けて、六花の一葉を見せた。


「ふ、ふるちゃーん!」


 獣の本性剥き出しに、フルを押し倒すオク。「ああっ、およしに なって、こんな ところで。」と言いつつ、抵抗しないフル。オクはフルの……(以降は不適切な情景になるであろうと予想されるので、描写は控えさせていただきます。皆さんの想像力で、色々、補って下さい。)


 一刻後。幼女二人は、床に寝っ転がり、肩で息をしていた。


「くすぐり すぎですわ。おくさま。」

「ふ、ふるちゃん だって、わきばら せめたじゃない。わたし、ここ、よわいのに。」


 …………。所詮は幼女であった。


「で? なにが まずいのです?」

「うん……。」


 遅かれ、早かれ「太田区」の崩壊が始まるだろうと踏んでいたオクは、通常空間にある本物の「大田区」の、ほぼ隣という次元的位置に「太田区」を近付けてしまった。

 湖島玲の想いだけで出来た脆い空間を、実在の強固な空間に支えてもらう形で、存続させるつもりだったのだ。


「べつに いいじゃ ありませんの。なにが ふつごう なのです?」

「このままだと『おおたく(太田区)』から『おおたく(大田区)』への かんしょうりょく(干渉力)が、つよく なりすぎるのよ。」


 大望なるまでは、目立つのは、なるべく、避けたかった。


『これは まいき(舞姫)ちゃんの ふたんが おおきく なるわね……。』


 多少のバグ取りをさせるくらいの感覚で、舞姫に与えたコンパクトの力は設定されていた。しかし、このままでは、舞姫の手には負えない敵が出現する可能性もある。


『……まあいいか。おもいびとのかけら(想い人のかけら)を とおして、まいきちゃんの ようすは わかるし、てきとうに ごさんけに じょうほうを りーく して、たすけ させれば……。』


 そこまで考えた時、突然、オクは脇腹をくすぐられて吹き出した。


「もぉぉぉ。なに まじめな かお しているんですか? いけずな ひと ねえ。」

「ひっ、ひひっ。やめて、ふるちゃん。わきばらは やめてー。」

「いやですわ。かまって くれないなら、いじめて さしあげます。」


 そのまま、二人は、また、くすぐりっ子を始めた。爆笑しながらオクは、


『んっ?! ふるちゃんが からだを あたらしく したって ことは……。』


 と、何か大事な事を忘れているような気がしていた。




 一方、此処は、港区の阿多護神社。プリ様の御自宅である。

 その社務所では、翌日の始業式を前に、学生達の阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。


 思わぬ入院で予定が狂った和臣、元々なんにもやってなかった紅葉と渚ちゃんが、胡蝶蘭に教えられながら、宿題の追い込みにかかっていた。


 その四人とは別のテーブルに、プリ様、昴とリリスは固まって、お話をしていた。


「お兄ちゃん、私も、あっちのテーブルに行きたい。リリスとお話ししたい。」


 訴えかけて来る妹に、和臣はニコリと微笑んだ。そして、おもむろに、彼女の両のコメカミを、拳でグリグリと押さえつけた。


「いたい。いだぁぁぁい。お兄ちゃん、痛いよぉ。」

「ああ、うるせえ。この修羅場で、くだらねえ事言ってんじゃねえよ。俺は殺気立っているんだ。」


 手荒く妹を躾ける(調教する)和臣を、胡蝶蘭が、まあまあ、と宥めた。


 そんな殺伐としたテーブルを他所に、プリ様達のテーブルは、楽しく会話がなされていた。


「りりすは おべんきょ いいの?」

「良いのよ。私は、渡された日に、全て終わらせたから。」


 ちょっと自慢気に言うリリスを、昴の膝の上に座っているプリ様は、感心した目で見ていた。


「すごいの。えらいの。りりす。」

「私、凄い? 偉い?」

「うん。えらいの。」

「じゃあ……。じゃあ、ご褒美……。」


 撫でて貰おうと、頭を差し出すリリス。プリ様も、喜んで、手を伸ばし……。


「ダメです。ダメですぅ。プリ様は、昴以外の子の頭を、撫でたりしちゃダメなんですぅ。」


 昴が、ガッチリと、背後から抱き付いて、それを阻止した。


「あらあら。私は、正当な報酬を、受け取ろうとしただけよ?」

「もう、すばゆは〜。」


 二人から責められて、昴の腕が、少し、緩んだ。その隙に、プリ様は、リリスの頭を、撫で撫でしてしまった。


「プ、プリ様〜。昴の頭も、撫でて下さいぃぃぃ。」

「すばゆは しゅくだい してないの。」


 冷静に言い返され、言葉を失う昴。そのまま項垂れて……、プリ様のオツムに、頬ずりを始めた。


「天莉凜翠様。遅くなって、申し訳ありません。」


 そこに、社務所の引き戸をガラリと開けて、肌丸出しの若い女性が入って来た。


「貴女、その格好で、此処まで来たの?」

「変ですか? 残暑が厳しくて、本当は、裸で歩きたいくらいなんですけど……。」


 裸で歩いたら、通報されるでしょ。と、リリスは心中で突っ込んだ。


「おっぱい……すごいの……。」


 オッパイ好きのプリ様の目を釘付けにする豊満な胸。クビレの下に広がるお尻。そんな見事な肢体には、ほとんどビキニというデニムの上下しか着けていなかった。


 社務所にいた全員の視線が、彼女に集中した。


「自分、本日より、天莉凜翠様付きの部下になりました。美柱庵十本槍の一人、赤紫(あかむらさき)藤裏葉です。よろしく、御指導御鞭撻の程、お願いいたします。」


 格好に似つかわしくない、ちゃんとした挨拶だ。と、皆は思った。




 ところで、大田区のとある道場では、舞姫が開かないコンパクトを、弄り回していた。


「もお、力尽くで開けてしまおうかな……。」


 グッと力を入れる舞姫。


「いてて。痛っ。止めて下さい。舞姫さん。」

「しゃしゃしゃ、喋ったぁぁぁ?!」


 ヤバイ、と思ったのか、その後はコンパクトは沈黙を守り通した。









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