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白い八重歯

「お腹減ったぁ。」


 敵の首魁が居る城へと向かっているというのに、紅葉が太平楽な声を上げた。


「あらあら、紅葉ちゃんったら。でも、確かに、持ち込める食糧が、昴ちゃんの『エロイーズ特製牛乳クッキー』だけというのも問題ね。」


 結界ミサイルのお陰で、作戦遂行時間も長くなっている。


「食糧だけじゃなくて、医薬品とか……、その……。」

「何よ、和臣。他に何が要るっていうの? はっきり、言いなさい。」

「服とかだ。」


 先頭を歩くリリスの、破れたパンツの隙間から覗く、お尻から目を背けつつ、顔を真っ赤にして、和臣は怒鳴った。


「そうねえ……。前世みたいに、ミランダちゃんが居てくれたらねえ……。」


 リリスの呟きに、和臣が、また、顔を赤くした。


「おっ、何? 生まれ変わっても、未だに好きなの? ミランダ。」

「うるせえよ。良い女は、良い女だろ。」


 否定しないんだ。と、リリスは、面白そうに、頰を緩めた。


 前世、補給線を確立出来ず、魔王国を攻めあぐんでいた人類は、画期的な能力を持つ女性の登場で、攻略の糸口を掴んだのだ。

 それが、ミランダ・グリーチネ・ヴィオーラであった。


「ああっ。ミランダのお店でのドンチャン騒ぎ。楽しかったな。」


 紅葉の言葉に、和臣も頷いた。


「まあ、無い物ねだりしても、しょうがないわ。無事に戻れたら、今後の対策として……。」


 言いながら振り返ったリリスは、後方から飛んで来る黒い小さな塊に気付いて、絶句した。


「ピッケ……ちゃん?」


 ピッケちゃんは猛スピードで接近すると、和臣の背中に貼り付いて、そのまま彼を、空高く連れて行ってしまった。

 強制ピッケちゃんクロスであった。


「あらあら……、何なのかしら……?」

「ちょっと、追うわよ。私もアンタに乗っけて。」


 紅葉一人くらいなら、連れて飛んでも大丈夫か。と判断したリリスは、翼を出した。


「さあ、飛んで。」

「紅葉ちゃん、オッパイを掴むのは止めて。」


 紅葉は背後からリリスにしがみ付き、両手でしっかりと乳房を握っていた。


「だって、掴まるのに、ちょうど良いんだもん。ほら、つまらない事、気にしないで。行って。ゴー。」


 揉んだら承知しないから。と言いながら、リリスはピッケちゃんを追って、空に舞い上がった。




 ウルスラグナを砕かれたファレグは、その場にガクッと膝を着いた。


「れい!」


 プリ様が差し伸ばした手を、ファレグは振り払った。


「なれあいは なしだ、ぷり。」


 そう言って立ち上がったファレグの身体は、眩い光を放っていた。


 もはや、これまで。親友と言ってくれる、むらちゃんの仲間を殺した罪を背負って、滅する覚悟であった。粉々になってしまったウルスラグナにも、まだ、羊のウルスラグナの自爆を行う力くらいは、残っている筈である。


「やめゆの、れい!」


 ファレグの只ならぬ様子を感じ取った、プリ様が叫んだ。


『むらちゃん、ぼくは きみの にくい てき として しぬ。これで いいんだ。』


 ファレグはプリ様から遠去かった。


「ちかよるな、ぷり!」


 そう言って、自爆のキーワード「羊のウルスラグナ」を、正に唱えようとした、その時……。


「ぴっけぇぇぇ!!」


 和臣を連れたピッケちゃんが、空から舞い降りて来た。


「ぴっけちゃん……?」


 ピッケちゃんの鳴き声を聞いたファレグは、毒気を抜かれた様に、見上げていた。


「うわわっ。離すな、ピッケちゃん。」


 制止も虚しく、ピッケちゃんは、ファレグの目の前に、和臣を落とした。


「ぴっけ、ぴっけ、ぴっけ!! うにゃにゃーん。」

「もしかして、この ひとが いきているって、おしえて くれたかったのかい? ぴっけちゃん。」


 ファレグの呟きを聞いて、プリ様も理解した。和臣を殺してしまったと思い込んでいたから、頑なになっていたんだ、と。


「だいじょぶなの、れい。れいは だれも こよして(殺して) ないの。」

「あはっ、あははは。そうか、そうなんだ……。」


 ファレグの姿が元に戻り、体内から、ウルスラグナの欠片が、排出された。


「よかったぁ……。よかったよ、むらちゃん……。」


 彼女は、プリ様に歩み寄り、その小さなお身体に抱き付いた。


「てっきり、ひとを ころしたと おもって、だから、むらちゃんとも、もう、てきどうし(敵同士)で あるしかない と おもって……。」

「れい……。」


 玲が、また「むらちゃん」と呼んでくれる。それが嬉しくて、プリ様も、ギュッと彼女を抱き締めた。


「プ、プ、プリ様……。」

「はいはい。昴ちゃん、邪魔しちゃダメよ。」


 プリ様を奪い返そうと、腰を浮かした昴を、いつの間にか、やって来ていた、リリスが引き止めた。


「あんた、さすがに、あれを邪魔したら、プリに嫌われるわよ。」


 紅葉にも窘められ「うっ〜。」と唇を噛んで、我慢する昴。地面の草を掴み、物凄い意思の力で耐えていた。


『そうか……。なら、みのがして くれって、たのめるかも。むらちゃん だって、ぼくが しょうめつ すると わかったら、りっかのいちよう(六花の一葉)を よこせとは いわない だろう……。』


「あのさ、むらちゃん……。」

「さあ、れい。りっかのいちよう(六花の一葉)を わたすの。ばかが ひとり まよい こんでいゆの。」


 さすがに、見殺しには出来ないの。と言って笑うプリ様のお顔を、ファレグは、穴の開くほど見詰めていた。


「きみたち いがいに、だれか まよい こんでいるの?」

「そうなの。しんじゃうの。いせかいか(異世界化)を かいじょ しないと。」


 ああっ、なんだ。最初から詰んでいたんだ。

 ファレグは、暫し、虚空を眺めた。


「心配しなくても大丈夫よ。アラトロンもベトールも、数日寝たら、元気になったわ。」


 安心させるように、リリスも語りかけた。


「もう、プリとも、すっかり、友達だもんね。」

「そうそう。お前も、元気になったら、一緒に遊びに行こう。」


 紅葉と和臣も、ファレグに微笑んで話した。


「そうなんだ。あらとろんや べとーる とも、また、あえるんだ。むらちゃんと、よにんで あそんだりして……。」

「きっと、たのしいの。」

「そうだね。さいこうだ。」


 ファレグは微笑んだまま、ちょっとの間、考えていた。


「わかった。りっかのいちよう(六花の一葉)は わたすよ。そのかわり、じょうけんが ある。」

「なに?」

「さいごに むらちゃんと、ぴっけちゃんと、あそびたいな。うつせみやま(空蝉山)の とき みたいに。」

「わかったの!」


 プリ様とピッケちゃんは、目を輝かせた。


『まあ、まだ、時間的余裕はあるし、良いか……。』


 と思いながら、リリスは、何か引っかかっていた。


 最後に……?


「ようし、ぴっけちゃんの しっぽを つかまえた ほうが かちだ。」


 リリスの思考を打ち消す様に、ファレグが声を出した。

 いきなり、鬼にされたピッケちゃんは「うにゃにゃにゃーん。」と逃げ惑い、ファレグとプリ様は歓声を上げて、それを追い回した。


 その二人と一匹の楽しそうな様子を見て……。


「はいはい。あんたも、邪魔しちゃダメよ、リリス。」

「だって、プリちゃんが、私抜きで、あんなに楽しそうに……。」


 何か引っかかっていたのに、プリ様に置いていかれた寂しさで、頭が白紙になってしまうリリス。


「リリス様、耐えましょう。」

「ううっ。昴ちゃーん。」


 泣く事ないだろ。と、抱き合い、涙を流し合う、昴とリリスを見て、和臣は思っていた。


 一方、プリ様達は、楽しげにハシャギ回っていた。


「ぴっけちゃーん。とぶのは なしだよ。」

「うにゃにゃ?!」

「ぴっけちゃん、とんでいいの。そしたら、わたちの ほうが ゆうりなの。」


 ピッケちゃんを飛ばそうとするプリ様。しかし、公正を重んずるピッケちゃんは、羽をしまって、駆け出した。


 二人と一匹は、小一時間くらい走り回って、そのうち、地面に寝転がった。


「はあ、はあ。もう、いいや。もう、ぴっけちゃんの かち。」

「そ、そうなの。それで いいの。」


 二人は、息を弾ませながら、大声で笑い合った。チラリと見える玲の白い八重歯が、プリ様には、とても眩しく見えた。



次回更新は、少し間が空きます。すみません。

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