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苦悩に歪むファレグの顔

 湖島家(ことうけ)は、光極天家の傍流であり、四天王を輩出する一族であった。

 その名家の長女として、玲は生を受けた。


 幼い頃より、修行に次ぐ修行であった。しかし、玲が、それを厭う事は、終ぞなかった。この世界を守る、それは彼女にとって、誇り高い使命であったからだ。


 十四になる頃には、その傑出した能力で、最年少にして四天王に選出された。

 人々の為に……。彼女は、なんの疑問も抱かずに、己の勤めに邁進していた。




 ☆☆☆☆☆☆☆




「なぜだ。なぜ たつんだ、む……ぷり。」


 どうして「むらちゃん」と言いかけて「ぷり」と言い直すの? プリ様は、泣きそうになって、グッと堪えた。


「たとえ あいてが れい でも……。」


 俯いていたプリ様は、鼻をすすり、顔を上げた。


「わたちは たたかうの。だって……。」

「だって?」

「わたちは じんのういん(神王院) だから。この くにを まもゆ たて だから……。」


 この国を守る盾となれ。それは、玲も、幼き時より、言われ続けた言葉であった。


「きみは……、きみは、じぶんが まもろうと している ものたち(者達)の ほんしつを しらないんだ!」


 珍しくファレグが、感情的に叫んだ。その後、自分を落ち着かせるみたいに、胸に手を当てて、深呼吸した。


「まあ、たちあがった ところで、もう、きみに うつて(打つ手)は ないだろ?」


 それは、ファレグの言う通りであった。ダブルウルスラグナにすら手こずったプリ様が、十の分身の力を合わせ持つファレグに、勝てるとは思えなかった。


「それでも……。」

「それでも?」

「それでも わたちは たたかうの。まもゆの。」


 真っ直ぐに自分を見据えて、言い切るプリ様に、ファレグは、少し、たじろいだ。


「ならば……。」


 ファレグは攻撃を決意した。気を失わせ、異世界の固定化まで、眠っていてもらうつもりだった。


 プリ様が睨んでいると、眼前のファレグの姿が消えた。分子レベルの視界をもってしても、彼女を視認出来なかった。


 バキンッ、と鋭い音がした。ファレグが消えると同時に、無意識のうちにミョルニルを持ち替えたのだが、そこに、彼女の攻撃が当たったのだ。


「なんと!?」


 ファレグは、光速に近い速さで移動していたが、何回攻撃しても、その度に、ミョルニルに阻まれていた。


『みえて いるのか?』と思ったが、そうではないみたいだ。研ぎ澄まされた超感覚で、そう謂わば勘で、プリ様は攻撃をブロックしていたのだ。


 しかし、反撃にまでは出られなかった。しかも、精神集中から来る緊張感は、並みのものではなく、そんなに何時迄も、防御出来そうにはなかった。


『かんがえゆの。わたちの ほんらいの のうりょく……。けんじゃのいし(賢者の石)と おなじことが できゆ……。しんくうちゅう でも……。』


 それは……。それは……。


 突然、鳩尾に、鈍い痛みを感じた。ファレグの拳が当たったのだ。プリ様の小さい肢体は、五メートルほど、吹っ飛ばされた。


「プ、プリ様ー!」


 地面に倒れるプリ様に、駆け寄る昴。その、傷付いたお身体を、ギュッと、抱き締めた。


「も、もう、止めて下さい。貴女、プリ様の親友なんでしょ? なんで……、なんで、こんな酷い事出来るんですかぁ。」


 泣きながら、プリ様を、かき抱く昴の言葉に、ファレグは、虚をつかれた表情になった。


「しんゆうって、いったの……?」

「そうです。プリ様は、空蝉山から帰って以来、ずっと、貴女を待っていたんです。ずっと、ずっと。いつ、遊びに来てくれるかなって、ずっーと。」


 ああっ、すばゆの こえが きこえゆな……。


 プリ様は、朦朧とした意識の中で、昴と玲の会話を聞いていた。


 ふしぎなの。つかれが きえちゃうの。いたみが ひいて いくの。すばゆに だかれて いゆと……。


 プリ様の右手が、虚空を掴む様に伸ばされた。それを見たファレグと昴は、会話を中断し、息を呑んで、プリ様の様子を見守った。

 プリ様は、ミョルニルを杖代わりにし、よろけながらも、昴の膝から立ち上がった。


「どうして……、まだ、たちあがれるんだ?」

「…………。なんどでも いうの、れい。」


 プリ様は静かな声で、だが、ハッキリと言った。


「この せかいを まもゆの。しんでも、まもゆの。」


 ファレグも、そんな風に思っていた時があった。だけど、守ると決めた人間の本性は、反吐が出る程醜かった。


 特に、彼女が青春を過ごした、バブルへと突入して行く日本は酷かった。拝金、軽薄、傲慢。とても、守るに値するとは思えなかった。


 きっと、いつか、この子も裏切られる。人の醜さに絶望する時が来る。純粋であれば、ある程、傷も深くなる……。


 苦悩に歪むファレグの顔。それを見たプリ様は、泣きそうな表情になり、それでも無理に口角を上げて、ニッコリと笑った。


「いいの、れい。くゆしま(苦しま) なくて いいの。」

「えっ……。」

「れいは れいの しんじゆ(信じる)こと すればいいの。」

「…………。」

「わたちも わたちの しんじゆ(信じる)こと すゆの。」


 プリ様は、ヨロヨロと、ファレグに近付き、その頰に触れた。


「しんじること ぶつかっちゃたの。なぐりあいで きめれば いいの。」


 全力で来い。自分も全力でやる。プリ様は、そう、言っていた。


「それでも……。どんな けっかに なっても……。」


 プリ様は、涙をボタボタ落としながらも、微笑みを絶やさずに言った。


「わたちと れいは しんゆうどうし だから……。」


『むらちゃん……。きみって やつは……。』


 ファレグは、溢れそうな涙を抑える為、天を仰いだ。


「ぼくを とめてみろ。」

「こい なの。」


 二人は、拳と拳を合わせて、互いに後ろに跳びのき、距離をとった。


 フッと、ファレグの姿が消えた。戦闘再開だ。


『これで おわりだ。』


 ファレグは、亜光速で近付きつつ、黄金の剣を構えた。刃の無い部分で抜き胴をし、今度こそ、プリ様を黙らせるつもりだった。


『わたちの ちから……。それは……。』


 創造する力。


「ちぇすとー!」


 ブンっと、振り切った剣は空振りし、ファレグは驚嘆に目を見開いた。


『きえた?!』


 光速などではない。かき消す様に、プリ様のお身体が消えたのだ。


「そんざいは かくりつ なの。」


 不意に、背後から、プリ様のお声がして、ファレグは、慌てて振り返った。


「わたちは すべてを つくりだすの。ぶっしつも、かくりつも、じょうほうも。」


 何だ? むらちゃんは、何を言っている?


「らくだの うるすらぐな!」


 とりあえず、砂嵐を起こして、その場を逃れようとしたが……。


 ()()()()()()()()()()


「うるすらぐなの こうげき せいこうりつを ぜろに したの。かくりつてきに。」


 意味がわからない。確率とは、誰かが操れるものではなく、統計的なものなのではないか? それが操れるとしたら、そんな存在は……。


 その言葉を口に出すには、あまりにも、ファレグは常識人過ぎた。


「れい!」


 一瞬、考え込んだファレグの隙を突き、プリ様がミョルニルを振り下ろした。


『やばい。にげなくては……。』


 遠くに。出来るだけ遠くに。


 そう思って、全速でプリ様から遠去かったのに……。


 立ち止まった場所のすぐ前に、プリ様が一瞬で移動して来た。


「な、なぜだ?」

「かくりつを かえたの。わたちが そんざいする ばしょの。」


 出鱈目だ。出鱈目な能力だ。


「かぜの うるすらぐな!」


 今度は上手くいった。大風が起こり、プリ様は、大空に舞い上げられた。しかし、それは、風に乗る為に、敢えて、プリ様が消さなかっただけであった。


「おわりなの、れい!」


 ファレグの脳天目掛けて、ミョルニルが振り下ろされた。ミョルニルは、彼女の身体をすり抜け、体内のウルスラグナだけを破壊した。

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