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地面に生えた草ごと潰されて窪んだ地面

 なんだか知らないけど、無性に腹が立って来た。そう、プリ様は思っていた。


 ダブルウルスラグナは、鬱陶しくも、しつこく攻撃を仕掛けて来る。

 ゲキリンとトラノオは、小難しい講釈を垂れ流す。

 昴は「きゃあああ。プ、プリ様、危ないですぅ。プリ様、プリ様、プーリーさーまー。」と、うるさい。


 くっそー、攻めて来るなら、正々堂々と、姿を見せて斬りかかって来い。

 バキンッ、と黄金の剣を受けながら、苛々していた。


 一方、余裕綽々で戦っていたダブルウルスラグナも、ここに来て、少し焦りが出ていた。

『この幼女は、なんで、こうまで、私の攻撃を受けきれるのだ。』と。


 普通ならば、目にも止まらぬ速さで来る敵を、こんなに防げる筈はない。一回や、二回なら、いざ知らず、もう十何回斬りかかっていると思っているのだ。


 などと考えていたら、ミョルニルが腹部にヒットしそうになり、彼女は慌てて後退した。


「おや、少し様子が違って来たよ。」

「そうだな。プリの奴、ダブルウルスラグナの動きが、見え始めているみたいだ……。」


 ゲキリンとトラノオは、気が付いた。自分達の助言は、全然生かされていないが、別のやり方で、プリ様がダブルウルスラグナ攻略の糸口を掴んだ事に。


『よおーく みゆの。うつせみやまの たきびのえだ(焚き火の枝) みたいに……。』


 プリ様は、空蝉山で、朝露に濡れた枝を乾かすため、物質を分子レベルで把握し、水分子だけを取り除いた。


だぶゆうゆすらぐな(ダブルウルスラグナ)も ぶったい なの。その うごきを かんじとゆの。』


 空間と時間の中にある、全ての物質は運動をしている。今、プリ様は、全部の物質を、分子単位、素粒子単位で感知していた。その視界で見ると、異常に素早い動きをしているダブルウルスラグナは、かえって目立つのだ。


『なるほどな……。』と、ゲキリンとトラノオは感心していた。プリ様が何をしているのか、理解したからだ。


『まあ、その能力も、本来の能力の副産物だけれどね……。』


 二人はシニカルに眺めつつも、反撃に転じたプリ様を見守っていた。


「みえゆの! だぶゆうゆすらぐな!!」


 プリ様は屈み込み、ダブルウルスラグナの足を払った。硬いミョルニルを叩きつけられて、さしもの彼女も、もんどり打って転がった。


「くーらーえー、なの。」


 倒れたダブルウルスラグナに、すかさずミョルニルを叩き込むプリ様。だが、かざされた黄金の剣に、その攻撃は阻まれた。


 ダブルウルスラグナは、ミョルニルを剣で受けながら、立ち上がった。鍔迫り合いをしながら、睨み合うプリ様とダブルウルスラグナ。


「お前には、ホトホト、感心した。幼女よ。だが、結局は、お前の負けだ。」

「なんだと〜、なの。」


 融合解除! ダブルウルスラグナが叫んだ。その瞬間、プリ様と鍔迫り合いをしているのは、人型のウルスラグナだけになった。飛び出した猪のウルスラグナが、横合いから、プリ様の腹に牙を突き立てようと、迫って来る。


「おまえら ばかなのー。」


 敵の位置が正確に把握出来るのなら、グラビティウォールが使用可能だ。プリ様は、自分の側面にグラビティウォールを展開し、猪のウルスラグナは、それに、まともに、突っ込むかたちになった。


「うぎぃやあああ。」


 超重力の壁に激突した猪のウルスラグナは、断末魔の声を上げて、潰れていった。


 ほとんど同時に、プリ様は、ミョルニルを跳ね上げて、人型のウルスラグナを弾き飛ばした。そして、彼女が態勢を整える暇も与えず、思いっ切り、ミョルニルを頭へと振り下ろした。


 頭を粉砕された人型のウルスラグナは、声を上げる間も無く、消滅した。そこには、ミョルニルに、地面に生えた草ごと潰されて窪んだ地面だけがあった。


「きゃあああ。プリ様〜!!」


 勝ったプリ様に、歓喜の声を出して、昴が抱きついて来た。その手からは、もう、ゲキリンとトラノオは消えていた。


「あああん。プリ様ぁ。信じてました。昴は、プリ様の勝利を、信じておりました〜。」


 (エロイーズ)の豊満なオッパイを、顔に押し付けられて、プリ様は恍惚とした表情を浮かべていた。


『ああっ。でも、さすがに つかれたの……。』


 そう思っていたが、昴に抱かれているうちに、疲労は徐々に影を潜めていった。


『ふしぎなの。まえにも あったの。つかれが とれゆの。すばゆに ひっついて いゆと……。』


 そう言えば、以前、トラノオが何か言いかけていた。


『鞘を失った我々は、昴の体内に間借りしているんだ。彼女は本来なら、お前の……。』


 あれ、どういう意味……?

 色んな疑問が頭に浮かんだが、オッパイの柔らかな感触に包まれているうちに、まあ良いか、と思考停止するプリ様であった。




「さて、行くか。」


 ヨロヨロしながら立ち上がった和臣を見て、リリスは、ちょっと、慌てた。


「あらあら、ダメよ。寝てないと。」

「何言ってんのよ。プリが一人で戦っている時に、のほほんと、寝ていられるわけないでしょ。」


 和臣の代わりに、紅葉が答え、彼女も、フラフラと、立ち上がった。

 二人は互いに肩を組み合い、支えながら歩き始めた。


「リリス、お前は飛べるんだから、先に行け。俺達も、後から、必ず行く。」

「でも、また、敵が来たら……。」

「大丈夫よ。私が居るじゃない。和臣は、必ず守るわ。」


 紅葉の返事に、和臣が、ムッと、顔を顰めた。


「待て。守るのは俺だ。俺がお前を守るんだ。」

「はっ? 何言ってんの? 強い方が、弱い方を守る。それが、世の中の鉄則でしょ。」


 二人は目を合わせ、火花を散らした。


「おい。この際だ。どっちが強いか、決着つけるか?」

「面白いわね。負けた方は、勝った方と、結婚するのよ。」

「ようし……、じゃない。どっちに転んでも結婚じゃねえか。」


 バレたか。と、顔を背ける紅葉を見て、あれも不器用な求愛なのかしら、とリリスは思っていた。


「ほらほら、喧嘩しないで。私は、貴方達と一緒に行くわ。」

「どうしてだ? 城に攻め込む戦力は、多い程良いだろ。」

「そうよ。プリが強いと言ったって、一人じゃ……。」


 言い募って来る二人を、リリスは、やんわりと両手で制した。


「それがプリちゃんの頼みだからよ。私は、プリちゃんに、貴方達を託されたの。それを、疎かには出来ないわ。」


 キッパリと言われて、和臣と紅葉も、矛を収めた。


『幼女に託されて、中学生に守ってもらうのか……。』


 納得はしたが、密かにプライドを傷付けられる、紅葉と和臣であった。




 大鳳、猪、そして人型のウルスラグナとのコンタクトが切れ、ベッドに横たわっていたファレグは、静かに上半身を起こした。


『ぜんめつ しただと……? うるすらぐな たちが……。』


 驚嘆すべき事態であった。


 彼女は、ソッと、ベッドから降りた。そして、テーブルの上に置いておいた、神器ウルスラグナの本体を取った。


『ぶんしんを なくしても、この しんき(神器)は、まだ、ぶき として しようかのう(使用可能)だ。』


 僕が、直接、残りのプリパーティのメンバーと、戦おう。そこまで思った時、ファレグは、息苦しさを覚えて、胸に手を当てた。


『あの おとこは、けっきょく、しんだのか?』


 偵察に出した、大鳳のウルスラグナが、戻って来なかったので、事の真偽は分からずじまいであったが……。


『やはり、いきては いまい。えーすは あの おとこ としても、りーだーが べつに いたのだろう。』


 それは、じゅうぶん、考えられるケースだった。戦闘能力の高い者が、必ずしも、指揮者として、優れているわけではない。


 優秀な指揮官に率いられたパーティだから、エースを失っても、崩れずに、ウルスラグナ達に反撃出来たのだ。そう考えるのが、自然であった。


『だれが りーだー なんだろう? こちらに むかっている ふたりの うちの どちらか……。』


 痴女みたいな格好をした美少女と、幼女……。幼女?


 大鳳のウルスラグナの報告を思い出したファレグの全身を、激しい衝撃が貫いた。


『いせかいに せめて くる めんばーに、くわえられる ほどの ちからを もった ようじょ……。そして、ごさんけの ちすじ……。』


 どうして、気付かなかったのだ。ファレグは、頭を掻きむしった。


 運命(さだめ)の時が、近付いていた。








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