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どちらからともなく、手を握り合う和臣と紅葉

 ベッドに座り、ファレグは震える手を、懸命に押さえ付けていた。


『かくごは していた じゃないか……。なにかを なすのに、だれも ぎせいに しない なんて、ありえない。』


 暴走したウルスラグナ達が、プリ(和臣)に負わせた傷は、恐らく致命傷だろう。無意識下で感じていた感触で、それはファレグにも分かっていた。


『なさけ ない。どうよう して、へい()を ひいて しまった。』


 羊のウルスラグナが自爆し、プリが行動不能になった時点で、降伏を勧めるつもりだったのだ。


「すべての うるすらぐな たちよ。ぷりぱーてぃを かこめ。こうふく かんこくを するのだ。」


 再び、ファレグは、ウルスラグナ達に出陣を促した。


 プリパーティの戦闘員は四人の筈。二人脱落し、しかも、首魁のプリが落ちたとあっては、もう、戦闘不能だろう。

 ファレグは、そう、考えていた。




 全精力を使い果たした紅葉は、崩れる様に、和臣の上に折り重なった。


「もみじー。だいじょぶ?」


 心配そうに、紅葉の頰を撫でるプリ様。リリスは、二人を地面に寝かせてやった。


「ううっ……ん……。」


 隣り合って寝かせると、どちらからともなく、手を握り合う和臣と紅葉。

 プリ様、昴、リリスの三人は、そんな二人を、微笑ましくも、切なく思って、眺めていた。


「二人共、息はしている。脈もあるわ。紅葉ちゃんの根性は大したものね。」


 呆れた声で、リリスは呟いた。


「良かったですね、プリ様。」

「うん、よかったの……。」


 背中から、昴に抱かれていたプリ様は、安堵に肩を落とした。


「こんどの ななだいてんし……。ゆゆさない(許さない)の。」


 安心したと同時に、滾る怒りを、プリ様は剥き出しにした。

 リリスも、今回の敵は凶悪だ、と思っていた。傷の具合からして、動けなくなった和臣と紅葉を、徹底的に痛め付けたとしか、考えられないからだった。


 プリ様が、燃える視線をお城の方に向けると、先程の、駱駝のウルスラグナが、近付いて来るのが見えた。


 彼女だけではなく、美少女のウルスラグナ、猪のウルスラグナ、山羊のウルスラグナ、人型のウルスラグナも居て、いつの間にか、直径二十メートルくらいの輪の中に、囲まれていた。


「プリパーティに告げる。主であり、七大天使の一人、ファレグ様は、貴女達に降伏を勧めている。有り難く、受けられよ。」


 駱駝のウルスラグナが、その台詞を言った時、ブチっと、プリ様のこめかみの血管が切れる音を、昴とリリスは、確かに聞いた。


「これが へんじ なのー!」


 ミョルニルを振りかぶって、駆け寄るプリ様を前にして、駱駝のウルスラグナは、慌てて、前足で地面を蹴った。すると、その辺りは、みるみる砂漠と化していったが、プリ様は、先程とは違って、地表を滑る様に進んで、流砂に巻き込まれる様子はなかった。


『プリ様すごーい。滑空しているんですぅ。』


 昴の推察通り、プリ様は、地表スレスレを飛んで、駱駝のウルスラグナに近付いていた。


「うらららぁぁぁ! なのぉ!!」


 ジャンプしたプリ様から、大上段にミョルニルを叩き付けられ、駱駝のウルスラグナは、アッサリと消滅した。


 自らの目論見が外れ、次の一手が遅れたのと、プリ様の進撃スピードのあまりの速さに、手も足も出なかったのである。


 駱駝のウルスラグナの敗北に、ウルスラグナ達は、包囲を狭めて来たが、そんな戦法が通じるのは、敵の全てが包囲の中に居る場合だけだ。


 プリ様は、輪の外側から敵を攻め、反対側の敵は、リリスが引き受けた。


「とらのお! げきりん! すばゆと もみじ、かずおみを まもゆの!」

「はわわわ。げきりん、とらのお。」


 プリ様が叫ぶと、ゲキリンとトラノオが、昴の両手から飛び出した。


「全く、人使いが荒いね。」

「プリ、守る事はしてやるが、戦力として、我らをアテにはするな。」


 釘を刺して来るゲキリンに、それで良い、とプリ様も頷いた。


「さあ くゆの。いのしし、やぎ。もみじと かずおみに したみたいに わたちにも やってみ() なの。」


 言われるまでもなく、猪と山羊のウルスラグナは、プリ様を挟んで、両方から突っ込んで来た。このままでは、押し潰される。危うし、プリ様。


「お・ま・え・ら、ばかなのー!!」


 プリ様の周囲の重力が、いきなり強力になった。それでも、さすがはウルスラグナ。100Gはある重力に耐えて、なおもプリ様に迫ろうとしていたが、動きは、どうしようもなく、スローリーになってしまい、ミョルニルの良い餌食であった。


「やぎぃぃぃ!」


 プリ様は、まず、前方に居た、山羊のウルスラグナを、ぶっ飛ばした。ほとんど、即死状態で、山羊のウルスラグナは消えた。


 返す刀で、猪を葬ろうとしたが、山羊がやられている間に、彼女は、全力で超重力地帯から、逃げ出していた。


「にげても むだなの。」


 そう言って、半重力(アンチグラビティ)ダッシュで、プリ様は追い掛けたが、死に物狂いの猪は素早く、なかなか、捕まらなかった。




 一方、美少女のウルスラグナは、再び、リリスと対峙していた。彼女は、今度は、オクの姿になっていた。


「これが、貴女の一番恐れる存在。やっと探り当てた。」


 さっき、自分と同じ姿になったのは、心の中を見透かそうとしていたからか……。

 リリスは、ギリリッと、奥歯を噛み締めた。


「あらあら。そんな、おチビちゃん。全然、怖くないわよ。」

「…………。貴女は、この者の、立ち居振る舞い、能力(ちから)、全てに憧憬を抱いている。そう、この者が怖いのではない。この者に、心惹かれてゆくのが、怖いのだ。」


 そう言われて、リリスの頰が紅潮した。


「ふざけないで。誰が、そんな変態に……。」


 怒りに任せて、天沼矛を振るリリス。まるで、隙だらけだ。だが、美少女のウルスラグナは、反撃するでもなく、緩やかに体を躱した。


「怖がらないで、リリスちゃん。」


 眼前のオクが、徐々に大きくなっていき、リリスよりも歳上に見える、絶世の美少女に変化した。それは、幼女のオクが成長すれば、正に、そうなるだろうという姿だった。


「あっ……。ああ……。」

「貴女はいつも欲しているの。頼れる誰かに、その身を委ねる事を。」


 リリスの手が弛み、天沼矛が、ゴロンと地面に転がった。美少女が彼女を抱き締め、キスをしたのだ。


「本当は、いつでも、気持ち良かったんでしょう? 私にキスされるの。」

「そんな事……ない……。」


 話しながら、美少女の手は、リリスを、きつく、抱き締めた。


「リリリ、リリス様ー。まずいですよ。しっかりして下さいぃ。」


 すぐ側に居る昴が、声を張り上げたが、彼女も、また、和臣と紅葉を庇いつつ、ゲキリンとトラノオを構えて、人型のウルスラグナと対峙しているので、動けないのだ。


 美少女は、再び、リリスにキスした。


「んっ……。」

「気持ち良い? もっと、気持ち良くさせて上げる……。」


 リリスの頰を摩る美少女。その時……。


 フワリと浮かび上がった天沼矛が、真横から、美少女を串刺しにした。


「何故……だ……?」

「確かに、オクの能力(ちから)、奔放な性格に、憧れもある。でも、それ以上に……。」


 リリスは柄を掴んで、天沼矛を引き抜き、今度は、正面から心臓を突いた。


「あいつのイヤラシイ手触りが、大っ嫌いなのよ。」


 頬に、掌を這わされた時、前に触られた時の、砂糖菓子で汚れて、ペタペタした手で、触られた感覚が甦ったのだ。


 リリス怒りの一撃を食らって、美少女のウルスラグナは消えた。




 その頃、お城の中央にあるクリスタルの部屋で、ベッドに横たわって、ウルスラグナ達を制御していたファレグは、駱駝、山羊、美少女のウルスラグナの三体が、ほぼ間髪入れずに撃破された事に驚き、身を起こした。


「まだ、たたかうき(戦う気) なのか?」


 とても、信じられなかった。どんなに鍛えられた軍隊でも、司令官を失えば、必ず動揺が出る。

 しかし、この戦いぶり。プリパーティからは、少しも怯んでいる様子が窺えない。


『あの おとこは ぷり では なかったのか?!』


 いずれにしても、態勢を整える必要がある。


 ファレグは、残ったウルスラグナ達に、撤退を命じた。




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