純白の布に包まれた、二つの膨らみ
出立に際し、リリスは動けない一角鬼に、保護用の結界を施してやった。姉らしい、細やかな心遣いであった。
「ふん、媚を売っても無駄だ。帰ったら、家畜だからな。」
「りりすぅ。やっぱり、こいつ、ころしといた ほうが いいの。」
プリ様がニコヤカにミョルニルを振り上げた。
「あらあら。大丈夫よ、プリちゃん。」
幼女に怯える弟を庇いつつ、リリスは先に歩き始めた。
「あっちに あったの。おしよ みたいな たてものが。」
歩き始めて、暫く経ってから、プリ様はリリスに、先程、飛び上がった時に見た物を教えた。
「そう……。そのお城に、この異世界を作った、七大天使が居る可能性が高いわね……。」
じゃあ、そこに急ぎましょう。と言うと、プリ様は、ちょっと、首を振った。その仕草の愛らしさに、抱き付きたくなるのを、グッと堪えるリリス。
「すばゆが しんぱいなの。わたち、みたの。もみじと いっしょに にげゆのを。りりすは さきに いってて。」
なるほど。それは、色々な意味で心配よね。
リリスは、納得しながらも、頭を目まぐるしく回転させた。
『万一、昴ちゃんと紅葉ちゃんが、くっけば、プリちゃんは私のもの……。』
恋愛ボケで、考える事が、紅葉なみになっているリリス。
『紅葉ちゃんのテクなら、あるいは……。』
乱倫の園、アルテミス神殿で育ったアイラの、女性を知り尽くしたテクニックの凄まじさは、前世で何回も目撃していた。
夜、寝る前は「くっ。殺せ。人間如きの辱めは受けん。」と言っていた魔族の女が、朝起きてみると「ああん。アイラ様ぁ。もっと虐めて下さい。この哀れで、惨めな貴女の奴隷に、お情けを下さい。」と、懇願しているのなどは、しょっちゅうだった。
誇り高き貴族の女性も、一晩で、奴隷の女に塗り替えてしまう恐るべき調教師。それがアイラなのだ。そのテクが健在なら、昴も墜ちる可能性は大だ。
とにかく、プリちゃんを行かせてはならない。リリスは、そう、判断した。
「お、お姉ちゃん、一人だと怖いなぁ。」
そう、呟いたリリスの顔を、暫く眺めていたプリ様は、やがて、お腹を抱えて、笑い出した。
「あははは。おもしよいの。ないす じょーくなの、りりす。」
ジョークだと思われている。リリスは、自分の「鋼の女」というイメージを恨めしく思った。
ならば。
「一緒にいてくれたら、いくらでも、お胸、触らせたげるよ。」
そう言いながら、ブラウスの前をはだけ、ブラに包まれた乳房を放出した。
これには劇的な効果があった。大好物を、突然、目の前に出されたプリ様は、思考停止して、硬直した。
「ほぉら。触って良いよ。」
畳み掛けるなら今だ。屈み込む、リリス。プリ様の目の前で踊る、純白の布に包まれた、二つの膨らみ。
「や、やめゆの、りりす。こんなことを してゆ ばあい じゃないの。」
無意識のうちに、一分ほど、揉み揉みしてから、ハッと、プリ様は我に返った。そして、もの凄ーく、名残惜しげに、空に飛び上がって行った。
リリスは、残念そうに、指を鳴らした
『大きさが足りなかったかな……?』
もっと巨乳になろう。と、決心するリリス。その途端……。
ボンッと、乳房が大きくなり、ブラからハミ出した。
「ななな、何が起こったの?」
慌てて、ブラを元に戻そうとするも、やはり大きくなっているらしく、カップに収まり切らないのだ。
「なんて事なの? 胸が大きくなるなんて。こんな、こんな……。」
あり得ない状況に、リリスは沈思黙考したが……。
「この大きさなら、昴ちゃんにも勝てるわ。」
やがて、顔を輝かせて、そう言った。
他に、色々、考えなければならない事があるだろうに、すっかり、恋愛脳と化してしまっているリリスは、非常に残念な子になっていたのであった。
ところで、誰の頭からも抜け落ちて、忘れられている和臣は、密かに、風のウルスラグナに勝利していた。
炎の魔法で、辺り一面を火を放ち、上昇気流を起こして、吹き飛ばしたのだ。プリ様パーティという人間離れした集団の中でなければ、間違いなくエース級の強さを発揮して、勝っていた。
『まずいな。敵に結界ミサイルの存在を知られた可能性がある。早めに決着をつけないと……。』
しかし、どちらの方角に七大天使が居るのか、見当もつかない。
こういう時、プリみたいに、飛べれば便利なのだがな……。と、思っていたら、ちょうど上空を、ピヨピヨと飛ぶプリ様を見付けた。
「おおーい。プリー。」
大声で呼びかけると、プリ様は、上空で止まり、和臣を見下ろした。そして、一点を指差すと、そのまま行ってしまった。
『あっちの方角に、何かあるのか……。』
素っ気無さ過ぎるだろう。と、思いながらも、和臣は、プリ様が指差した方へ、歩き始めた。
紅葉に向かって突進していた白馬のウルスラグナは、紅葉に触れる直前に、ガチンッと何かに阻まれて、動きを止めた。
「氷の蜘蛛の巣を使って、アンタを足止めしたのはさ……。」
目の前に居る紅葉が、余裕の表情で語りかけて来た。
「この、透明度の高い、氷の壁を作る為だったのよ。」
いつの間にか、紅葉の前面には、氷の壁が形成されていたのだが、あまりに透き通っていて、見えなかったのだ。
白く濁った氷を作るのは、一瞬で出来るが、透明にするには、少し時間がかかる。
白馬のウルスラグナは、慌てて、身を引こうとしたが、ぶつかった氷の壁に、徐々に取り込まれていった。
「凍って砕け散れ! ウルスラグナ!!」
紅葉が叫ぶと、氷とともに、白馬のウルスラグナも砕けて消えた。
「あっー、気分が良い。自分が、強いと思っている奴を、完膚無きまでに叩きのめす時の、爽快感ったらないわ。」
紅葉は、爽やかな顔で、そう言い「さてっ。」と、昴の方を振り返った。裸同然の格好で、ペタリと女の子座りをする昴を、舐める様に凝視した。
「ななな、何ですか? 紅葉さん。」
「続きよ、続き。さっきの続き。」
「いいい、いやあー。紅葉さーん。食べないで下さーい。」
「うるさい。美味しく食べて上げるから観念しなさい。」
ジリジリと、昴に迫る紅葉。大ピンチ! その時……。
「すーばーゆー!」
上空から降って来たプリ様が、紅葉の眼前の地面に、ミョルニルを叩きつけた。それは、紅葉の前髪をかすめて、ボコッと派手に大穴を開けた。
「プププ、プリー! アンタ、私を殺す気?」
「ごめんなの。すばゆが てきに おそわれてゆ。そう、おもっちゃったの。」
温和な口調だが、目が笑っていない。真顔のプリ様の表情は「すばゆに てを だすな。こよすよ?」と、語っていた。
「わわわ、分かったわよ。昴、今日のところは見逃してやるわ。」
まるで悪役の捨て台詞を吐く紅葉。その全身は、細かく震えていた。
前世でも、天上天下唯我独尊だった紅葉が、唯一恐れていた存在、それが、親代わりに自分を育ててくれたトールだった。
幼い頃、悪さをして怒られた時の恐怖が、心底に焼き付いているのだ。
その感覚は、現世でも引きずっていて、何かの拍子にプリ様に睨まれただけで、ビクッと身体が硬直してしまうのである。
「あっちに、おしよが あゆの。かずおみも、りりすも、そこに むかって いゆの。」
「そ、そう。じゃあ、私達も行こうか。」
何気無い風を装いながらも、ビクビクとプリ様の顔色を伺っている紅葉。その彼女の様子に、つい、笑みを洩らして、紅葉から睨まれる昴であった。
一方、その頃、自分の作った異世界に侵入して来た物体を調べる為、ウルスラグナを使って、分身を飛ばしていたファレグは、驚愕に目を見開いていた。
「ぶんしんが、みっつとも やぶれた?」
分身は、出してしまうと、自立行動をするので、出先での細かい様子は、ファレグには把握出来ない。
だが、三つのウルスラグナが、消え去ってしまったのは、感知出来た。
「きたか。ぷり……。」
まだ見ぬ敵に、静かなる闘志を燃やし始める、ファレグであった。