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陽炎に揺れるアスファルトの道

 ゲームに参加するというファレグの顔を、オクは、穴の開くほど眺めていた。


「なんだい? ふまんかい?」

「いや……。『さんか する。』と いう とは おもわなくて……。」


 結局、ファレグは、やらないだろうと、踏んでいたのだ。


「よかったわ。やらないのなら、りっかのいちよう(六花の一葉)を かえして もらわなければ ならないし……。そうしたら、あなたの たましいの しょぐう(処遇)を どうしたら いいかしら とか、かんがえてた から……。」


 そう言われて、今度は、ファレグの方が、オクを見詰めた。


「……おどろいたな。『げーむを やらないのなら、きえて なくなれ。』とか、いわれるのだと おもっていた。」

「ふぁれぐちゃん。わたしを どういう ()で みているの?」


 泣きそうな声で、オクは言った。

 そんなオクを、まあまあと宥めつつ、ファレグは自分の東京異世界化計画と、その場所を告げた。


「あら、だいたんね。」

「めんせきは せまい けど……。」


 あくまで、一般市民を巻き込みたくないわけか……。オクは、その心中を慮った。

 確かに、この場所ならば、都心の一等地でありながら、上手くやれば、誰も巻き込まずに、異世界化が出来るかもしれない。


「でも、どういった しんきょうの へんか なの?」


 ファレグは己の生存に執着などなかった筈なのだ。


「わらう から いわないよ。」

「わらわ ないわ。」

「……。ともだちが できたんだ。」

「まあ、それで……。とても いいこと じゃない。」


 素敵ね。と、微笑むオクを、ファレグは再び、驚きの表情で見た。


「どうしたの?」

「いや……。『ともだち? くだらないわ。そんな もの、りよう するために いるのよ。』とか、あざわらわれる(嘲笑われる)と おもっていた……。」

「ふぁれぐちゃん。わたしを どんな にんげん だと、おもって いるの?」


 ウルウルと涙を零し始めたオクを、ゴメンゴメンと、あやし始めるファレグであった。




 プリ様の空蝉山単独行から数日が経ち、もう、八月も下旬に差し掛かっていた。

 日中は、相変わらず暑くて、阿多護神社の境内をお散歩するプリ様にも、お帽子は必須のアイテムだった。


「もう、おかあたま。わたちは どこにも いかないの。」


 最近、胡蝶蘭は、極力、家に居るようにして、プリ様に貼り付いていた。もっとも、それでも、普通の人よりは忙しい身なのだが……。


「ダメです。貴女は目を離すと、どこに飛んで行くか……。」

「わたちは ふうせん じゃないの。」

「うふふふ。プリ様、汗をかいてますよ。昴が拭いて上げますね。ああ、プリ様の芳しい汗の香。プリ様、プリ様ぁぁぁ。」


 心配するあまり束縛しようとする母親と、それに反発する娘という、ありがちな対立軸の渦中に居ながら、空気を全く読まずに、プリ様ラッシュを始めてしまう昴。


「すばゆ!」

「昴ちゃん!」

「ええっ?! 私、何か悪いんですかぁ。」


 二人から怒られて、昴はシュンとなった。それでも、しぶとく、頬擦りは続けていた。


「さあ、もう家の中に入りましょう。暑気あたりを起こすわよ。」


 胡蝶蘭に促されても、プリ様は、暫く、敷地の外の陽炎に揺れるアスファルトの道を、眺めていた。


「プリ様……。玲ちゃんを待っているのですか?」

「そうなの。きょう、くゆかも しれないの。」


 風一つ無い阿多護山の頂に、蝉の声が、煩いくらいに鳴り響いていた。

 プリ様は、流れる汗もそのままに、身動ぎもせずに、立っていた。


「プリ様、お家に入りましょう。お身体を壊したら、せっかく、玲ちゃんが遊びに来てくれても、一緒に遊べませんよ。」


 そう言われて、プリ様も小さく頷いた。やっと、プリ様が、小さな御御足を、家の方に向けてくれたので、胡蝶蘭もホッとしていた。


「玲ちゃんって、新しいお友達?」


 白い麦藁帽を、ちっちゃな御手手で押さえながら歩く、プリ様の後ろについて行きながら、胡蝶蘭が昴に訊ねた。


「ええ。空蝉山に行った時に、お友達になったみたいです。」


 玲ちゃんか……。光極天のスリーピングビューティーと同じ名前だわ。

 と、胡蝶蘭は思っていた。


 三人が家に戻ると、紅葉と和臣が遊びに来ていた。


「まあ、貴方達。珍しいわね。宿題が忙しいのじゃなかったの?」


 最近は、そう言って、あまり来てなかったのだ。


「リリスの様子が気になってね。全然、そちらから情報が来ないからさ。」

「そうよ。リリスが、あのクソ生意気な弟に、意地悪されているんじゃないか、と思うと……。」


 二人は、暗に、リリスの所に連れて行け、と言っていた。


「リリスちゃんねぇ……。」


 胡蝶蘭とて、詳しい状況を、知っているわけではなかった。御三家同士は、互いに不干渉が、原則なのだ。特に、リリスの母、朝顔は、胡蝶蘭にとって小姑になる。微妙な間柄なのだ。


「おかあたま。わたちも しんぱい でちゅ……。」


 プリ様にスカートの裾を引かれて、胡蝶蘭も決心した。


「じゃあ、これから皆んなで行ってみる?」


 リリスに会いたがっている、友達を連れて来て上げた。という感じにすれば、余計な軋轢も避けられるのではないか……。

 などと、考えていたのだが……。




 美柱庵家に行く旨が告げられると、途端にカルメンさんの瞳が輝き出した。


「奥様。陸路ですか? それとも……。」

「リリスちゃんは、おそらく、地上の建物には居ないと思うから……。」


 最悪、幼い時の様に、地下牢に監禁されているかもしれない。


「では、水路ですね。そうですね。」

「ええ。そうなるかしら……。」

「やっふぅー!」


 なんか、異常に喜んでいるな。

 和臣と紅葉は、カルメンさんの態度を訝しんだ。


「もしかして、かゆめんさん……。」


 カルメンさんの様子を見て、プリ様もピンと来た。


「そうですよ、お嬢様。前にお話しした『アジサイ号』です。」

「すごいの!」

「ああっ。噂の『神王院家の自家用潜水艦』の……。」


 自家用潜水艦? 待て、何か聞き捨てならない単語を、昴が口走ったぞ。

 紅葉と和臣は、聞き耳を立てた。


「待って、カルメンさん。水路と言っても、隅田川と、神田川を遡行するから、潜水艦なんか使えないわよ。」


 潜水艦じゃないのぉぉぉ。

 胡蝶蘭以外の皆んなが、露骨にガッカリした表情を見せた。


「わかった。わかりました。じゃあ、シークレットルート『東京地下水路』を使いましょう。」


 東京地下水路。それは、地下六十メートル、一番深い地下鉄の駅である、大江戸線六本木駅よりも深い場所にある、御三家専用水路なのである。

 五人は、エレベーターに乗って、その専用水路に繋がる、神王院家地下格納庫に向かった。


「本当に潜水艦だよ……。」


 疑っていたわけではないが、未来都市みたいな、金属製の壁面をした水路に浮かぶ、黒光りする船体を見た時、和臣は、思わず、呟いてしまった。


 中に入ってみると、通路には、サブマシンガンなどが収まっているガンケースが備え付けてあり、ギョッとする和臣。


「物騒過ぎるだろ。」

「なんで? 私、撃ってみたいな。」


 紅葉の言葉に『この戦闘狂め。』と、和臣は思っていた。


 通された部屋は、フカフカの絨毯が敷き詰めてあって、ソファーも柔らかだったが、いかんせん天井が低くて、圧迫感があった。


「まあ、潜水艦だから、仕方ないわね。」


 そう言って、微笑みながら、胡蝶蘭は、カルメンさんの淹れてくれた紅茶を啜った。

 ちっちゃなプリ様は、天井の低さなど気にしておらず、昴はプリ様に抱き付いていられれば、そこが地獄でも構わないといった風情だ。


「あんたは、男のくせに、細かい事にこだわり過ぎなのよ。」


 そう言いながら、紅葉は、船室の冷蔵庫を勝手に開けて、炭酸飲料を取り出していた。


『お前は、少し、遠慮しろよ……。』


 和臣が、ジトッと紅葉を睨んでいたら、操縦席に行ったカルメンさんの声が、スピーカーから聞こえて来た。


「じゃあ、出航しますんで。揺れに気を付けて下さい。」


 スピーカーからは「フォースゲートオープン」という、外からの音声も聞こえて来た。


「ふぉすげーと……?」

「フォースゲートですよ、プリ様。ここは、第四格納庫なんです。」


 話している間にも、軽い揺れと共に、潜水艦が動き始めた。


「あじさいごう、しゅつげき なの!」


 興奮したプリ様のお声が、船室に響き渡った。







前回の投稿をしてから、二十時間後くらいに、門馬時一郎さん(仮名)から、お電話がありました。


「無法さん(私です)、アンタ、俺の事を後書きに書いただろ。」

「えっ……、うーん、書いた……かなあ?」

「門馬時一郎って……、っていうか、何だ、この侍みたいな仮名は。これ、完全に俺の事だよな。」

「アイちゃんばかりだとマンネリかな、と思って、新キャラクターを……。」

「良いんだ。後書きに新キャラクターなんか、出さなくても。」

「そ、そう?」

「それに、この書き方だと、俺の方が歳下みたいだぞ。」

「そ、そうかな?」


そこ、こだわりポイントなんだ? トキちゃんは、私より年上です。


「あとな、ザッと読むと、俺がDV男みたいだ。世間体が悪い。」

「DVって……。男同士じゃありませんか。」

「嫁が、何でか、アンタをお気に入りなんだよ。いつも『無法ちゃん、相変わらずアホやわぁ。』とか言いながら、アンタの小説を読んでんだ。この間の後書き読んで『無法ちゃん、虐めたらアカンえ。』って、叱られたんだぞ。」


だって、いぢめたじゃん。


「聞いてるのか? 無法!」

「は、はい。ごめんなさい。」

「また、そうやって、取り敢えず謝って、やり過ごそうとする。大体、アンタは昔から……。」


訂正しようのない昔の話を持ち出すのは、卑怯だと思います。

クドクドとお説教をされながら、今度奥さんに色々チクってやろう、と復讐を誓う私なのでした。

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