表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/303

クマさんのワンポイントが入ったショーツ

 凄まじい風が吹き込んで来る中、二柱の神の魂は、静かに上昇を始めた。


「まつの、かみさま。りゅう()って りりすの こと?」

『……そうだ……。』


 饒速日命の声が、プリ様の頭に聞こえた。


「どしたら いいの? どしたら、りりす、とめられゆの?」

『彼女の力は神の物。人の子の手には負えぬ……。』

「そんなの いやなの。とめたいの、りりすを。」

『…………。ならば、龍の頭に居る娘を撃つのじゃ。天羽々矢でな……。』


 リリスを射る? それ、どういう意味? 撃ったら、リリス死んじゃうんじゃ……。


こよす(殺す)の? りりすを、こよせって いうの?」

『それが、あの娘を救う事にもなる。』


 今はまだ山奥なので、人的被害は無いが、人口密集地で暴れられれば、どれだけの犠牲者が出るか分からない。そして、龍となったリリスにとって、此処から都市部までなど、ほんの一駆けの距離に過ぎなかった。


 人々を守る為に生きて来たリリスに、人殺しをさせるのは、彼女の魂に永遠に癒えぬ傷を与えるだろう。そうなる前に殺してやれ。それが、せめてもの情けだ。

 饒速日命は、そう言っているのだ。


「できないの……。そんなの できないのー。」

『プリよ、優しい心はお前の宝だ。だが、それだけでは、何も救えない時がある。お前達人間の生きる限られた時間の流れの中では、最適解など、待っていられない刹那があるのだ。』


 プリ様の叫びに、饒速日命は辛そうに答えた。幼子に強いるには、あまりに過酷な選択だ。しかし、今現在、暴龍と化したリリスを止められるのは、プリ様の天羽々矢しかないのだ。


『プリよ、我等は暫し、この上空に留まろう。あの娘の魂が昇天して来たら、我等は彼女を、エリシオンと呼ばれる死後の楽園に必ず届ける。お前が、此の世での生を終え、その楽園に来た時に、彼女に再び会えるのじゃ。それも、また、刹那の間ぞ……。』


 饒速日命は、プリ様を慰めようと、誠意を尽くして言葉を紡いだ。でも、それも、プリ様の心中を、暗澹たらしめるだけだった。たった三年しか生きていないプリ様にとって、自分が天寿を全うする、あと八十年以上続くかもしれない年月など、想像すら出来ない久遠の星霜と言えた。


「いやなの。いやなのー。ぷりは、わたちは、ぜったいに すくうの。りりすを たすけゆのー。」

『…………、良く考えよ。決めるのは、お前じゃ……。』


 プリ様は饒速日命の方を見上げるのを止め、結界が破れて、姿を視認出来るようになった龍の方を、キッと睨んだ。


「むらちゃん、てつだうよ。さいごの ひとやま だね。」


 玲の柔らかい微笑みに、プリ様は、勇気が湧いて来るのを感じた。


『んっ? あの子、何なのです? やけに、プリ様と親しそうですぅ……。』


 ナガちゃんから貰った、クマさんのワンポイントが入ったショーツと、アイボリーのキャミソールを着ていた昴は、今更、ファレグの存在に着目していた。

 そもそも、昴的には、寝て起きたら、空蝉山に連れて来られていた、という感覚なので、全く状況を理解していなかった。


「れい。あの りゅうを、ひきつけて おいてくれゆ? わたちは すばゆを ひなん(避難) させゆの。ひとまず あんぜんな とこよ()へ。」

「おっけー。ぴっけちゃん、てつだってよ。」

「ぴっけー!」


 プリ様とファレグは、拳と拳を、パンッと合わせた。二人の拳の上にピッケちゃんが乗り「ウニャ、ウニャニャニャ〜!」と、雄叫びを上げた。


『なんか、滅茶滅茶息が合っているんですぅ。いつの間に。プリ様、いつの間に……。』


 彼女達の親密な様子に、焦る昴。


「ようし、いくよ。ぴっけちゃん くろす!」


 ピッケちゃんは、大きな羽を出し、ファレグの背中にくっ付いた。一人と一匹は、そのまま、龍に向かって飛んで行った。


「さあ、すばゆ。あんぜんな とこに いくの。」


 プリ様が昴を振り返ると、彼女は、唇をプルプルと震わせていた。


「もおおお。あの子、誰なんですか。なんで、キリヤマさんとクラタさんみたいな息の合い方なんですかぁ。」


 昴は抱き付いて、頰をスリスリしながら言った。


「やめゆの、すばゆ。れいは ともだち なの。こんなこと してゆ ばあい じゃないのー。」


 キリヤマとクラタって、誰だよ。と思いながら、プリ様は声を上げた。


『符璃叢……。』


 二人がもめていると、突然、ゲキリンの声が頭に響いた。


『我々も、昴の中に戻る。』

『だけど、今回のお前の働き、見事だったよ。』

『うむ。我等からも礼がしたい。』


 ゲキリンとトラノオの申し出に、プリ様は手を振った。


「あたりまえ なの。すばゆを たすけゆ のは。」

『そう言うな。』

『遠慮なく、受け取れよ。』


 二人は、リリスとの闘いで一度だけ手を貸そう、と約束してくれた。それだけ伝えると、フッと姿を消した。

 その後、プリ様は、小ちゃい手を精一杯伸ばして、まだ、ちょっとムクれている昴を、お姫様抱っこし、メギンギョルズの羽で飛び立った。


 ファレグが牽制してくれている間に、プリ様は一旦高く飛び上がった。上空から、比較的安全な場所を探そうと思ったのだ。すると、運良く、仲間達が居るのを見付けた。

 プリ様は、羽を七色に発光させながら、降下して行った。




 その少し前、プリ様が天羽々矢で結界の天井を破ろうとしていた頃、リリス龍の攻撃を避けて、和臣達は、上手い具合に身を隠せる窪地に滑り込み、姿勢を低くして座っていた。


「何なんだ、あの龍は……。オクが召喚したのか?」

「リリスの姿も見えないわね。心配だわ……。」


 一息ついて、紅葉と和臣が話している中、六連星は、一人沈黙を保っていた。


「何か言いなさいよ。何すましてんのよ。」


 いきなり、紅葉に頭を小突かれて、六連星は怒って立ち上がった。


「私は光極天よ。何で、こんな雑な扱いを受けなければならないの!」

「馬鹿。立つな、六連星。危ないぞ。」


 和臣に言われて、慌ててしゃがんだ六連星の頭の上を、間一髪で火球が通過して行った。見る見る青ざめる六連星の顔色。


「こここ、怖かったぁぁぁ。」

「ああっ。ごめんね、六連星。私が悪かったわ。」


 紅葉は、震える六連星の身体を、抱きかかえてやった。


「も、紅葉……。いつになく、優しいわね。」

「何言っているの。私は、いつだって、優しいわよ。」


 安心させる様に、頬擦りをしてやり、背中を撫でながら、どさくさ紛れに、胸も触っている紅葉を、和臣は冷ややかな視線で見ていた。

 彼は知っていた。こうやって、細かなスキンシップを繰り返す事によって、紅葉は獲物を、その道(百合)に引き摺り込むのだ。危うし、六連星。


「あの龍……。アマリちゃんかもしれない……。」


 ポツリと呟いた六連星の言葉に、和臣は思わず仰け反った。紅葉も驚いて、六連星から離れた。


「あれがリリス? 六連星、どういう事だ?」

「御三家の間では公然の秘密なの。アマリちゃんは、アマリちゃんのお母様が、龍神に犯されて、生まれた子供だって……。」


 えっ? すると、リリスは人間と龍神のハーフ?

 想像を絶する出自に、和臣と紅葉の目が丸くなった。その時……。


 不意に突風が吹いた。三人は飛ばされないよう、地面にしがみ付いた。


「何だ。何だ。今度は何なんだ。」


 風が治ると、次は六連星が目を丸くした。


「や、山が突然現れたわ。あの山は何?」


 二人は六連星の指差す方を見た。


「空蝉山だろ?」

「さっきから見えてたじゃん。あんたも、見えるって、言ってたわよね?」


 鋭く突っ込まれて、詰まった。


「うっ……。も、勿論よ。」


 本当かよ……? と、疑いの眼差しを送る紅葉と和臣。六連星は視線を逸らした。


「しかし、六連星にも見えるようになったのなら、結界が解けたんじゃないの?」

「恐らくそうだろうな。六連星にも見えるんだからな。」

「私も見えてましたって!」


 見えてなかった前提で話をする二人に、強弁する六連星が、再び、アッと声を上げた。


「何誤魔化そうとしているの。」

「違うって。あれ見て、あれ。」


 彼女の指差す方向に、ピヨピヨと飛ぶ発光体があった。


「あれは……。」

「プリ……。」


 あの野郎、心配させやがって……。

 無事なプリ様のお姿を見て、和臣と紅葉の目頭は熱くなった。


「かずおみ〜! もみじ〜! むつらぼし〜!」


 昴を抱えたプリ様が、今、三人の元に降り立った。



ある日、お友達のアイちゃんが、私のベッドに寝転がり、私のお菓子を食べながら、私のタブレットを使用していました。


その様子を『ああっ。ベッドにお菓子の粉が……。あああっ。タブレットが油塗れに……。』と、ハラハラしながら見ていたのですが、そんな心配など知らぬ気に、アイちゃんがポツリと呟きました。


「アンタ、何、女児用下着の事なんか調べているの? キモイ……。」


最低です。どうしても、今、必要だと言うから貸して上げたのに、私の検索履歴を見てやがったのです。


「それは、小説で描写しなくちゃいけなかったから……。」


本当です。


「大人の女の下着は、調べずに描写してるじゃん。女児用だけ調べるのは、女児に特殊な興味を持っているからでしょ。」


それこそ、大人は興味が有るから資料には事欠かないんだよ、とは言えませんでした。


「わかった。大人用は私の下着を漁って見たのね。なんて、悪い奴だあ。(棒)」


お前の下着なんて、頼まれても見るか。と、苦々しく思っていると、アイちゃんは、そのまま部屋を出て行き、やがて、冷蔵庫から私のコンビニ焼きプリンを持って来ました。


「罰として没収ね。」


満面の笑みです。

仮に私が下着を漁っていたとして、その代償がコンビニ焼きプリンで良いのか? と、涙が流れるのを禁じ得ませんでした。


そんな私の気持ちを他所に、アイちゃんはベッドの上でプリンを食べ始めました。

その様子を私は『ああっ。ベッドにカラメルソースが落ちるんじゃ……。』と、ハラハラしながら見ていたのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ