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青光りする刀身

 二万五千年前ほど前に、最後のネアンデルタール人を看取った二人にとって、それは奇跡の邂逅だった。

 極東の、この地に、同じネアンデルタール人の娘が居たのだ。


「お、おぬし、仲間は居るのか?」


 饒速日命は、森の水辺で出会った少女に、震える声をかけた。絶滅したと思っていたネアンデルタール人の群があるなら、再興も可能だと思ったのだ。


 少女も、驚いた顔で、饒速日命と長髄彦を見ていたが、やがて、ニッコリと微笑んだ。人懐っこい、何とも魅力的な笑みだった。


「私はオク。集落に案内するわ。」


 長い旅が報われた。

 饒速日命達は、ホッと安堵の溜息を吐き、案内するというオクの後について、歩き始めた。




 ☆☆☆☆☆☆☆




「うっかり気を許したのが間違いじゃった。」


 ナガちゃんが歯軋りして悔しがった。


「まったくのう。まいばん、むつみあう(睦み合う) までの なかに なっておったのに。こいびと である にぎ(ニギ)を うらぎる なんて……。」


 神様まで、たらし込んでいたのか……。オク……。

 ファレグは頭を抱えた。


 だが、二千年前の戦いは、完全に痛み分けだった。饒速日命は空蝉山に封じ込められたが、オクの方も、神の依代であるネアンデルタール人の身体を、使い物にならなくなるくらい傷付けられたのだ。




 オクも、また、二千年前の出来事を回想していた。


 饒速日命との、戦いが終わった後が、大変だった。

 傷付いた身体に鞭打って、光極天家を立ち上げ、再び顕現する為に、自分が宿る雛菊の肉体、その先の「昴」に続くまでの系譜を作り上げたのだ。


 幸い、現生人類は、過去にネアンデルタール人と交配していたので、その遺伝子を多くプールし、なんとか自分の魂を受け入れられる器を、創り出す事は可能だった。


『にせんねん かかっちゃった けどね……。』


 オクは、自嘲的な笑いを、口元に浮かべた。


「さて、ふるちゃん。りりすちゃんの ちゅういを ひいていて くれる?」

「ええっ。あんな ばけものの?」


 文句を言いながらも、リリス龍に向かって行った。


「ふつうに かんがえれば、みけん(眉間)の こむすめが じゃくてん よね。」


 龍の蛇体を駆け上り、頭の上に登ったフルは、リリスの上半身を視認した。


『てあしを きりとったって、いってたわね……。』


 私も同じ事しなくちゃ。と思ったフルは、リリスに駆け寄ると、正面から手刀で、両手を肩から切り離した。


「あら、あっけない。もしかして、こむすめぶぶん(小娘部分)ぜいじゃく(脆弱) なのかしら?」


 あああああっー。と叫ぶリリスの胸に、フルは手刀を突き付けた。


「かわいそう だけど、はやめに とどめを さしておくわ。」


 腕を振り上げ、リリスの上半身を一刀両断にしようとした時、やけに熱いな、と気が付いた。見ると、リリスの口から、火球が吐き出されようとしていた。


『まずい〜。』


 逃げようとしたが、先程切り離した両手に、ガッチリと足を掴まれていて、出来なかった。


「ひぃぃぃ。こわすぎ。ほらー だわ。」

「なに やって いるのよ、ふるちゃん。」


 間一髪、オクが得意技バーチカルカッターで、リリスの両手の指を切断した。フルは這々の体で逃げ出した。その背中を、火球が掠め飛んだ。


 オクとフルが足元の森に消えると、リリスは細切れにされた自分の腕を再生した。

 その後、猛り狂った龍は、四方八方に滅茶苦茶に火球を飛ばし始めた。


「うわあああ。何事だ。」


 その火球は、離れた場所に居た和臣達の所にも届いた。


 最早、誰もリリス龍を止められる者は居なかった。オクでさえ、逃げ回るのに必死で、空蝉山の結界を解くどころでは、なくなっていた。




 外界が賑やかな事になっておるの……。急がねば。

 饒速日命とナガちゃんは頷き合った。


「さて、ほうび(褒美)じゃが……。」

とくさのかんだから(十種の神宝) なの。」


 プリ様が、勢い込んで、言った。しかし、饒速日命は、難しい顔をして、腕を組んだ。


とくさのかんだから(十種の神宝)ししゃ(死者) をも そせい させる きょうりょくな しんき(神器)。ひとの てには あまる……。」


 それに……。と言いかけて、チラリとファレグの方を見た。


「の、のう、プリ。要するに、お前さんは、昴という者を助けられれば良いのじゃろ?」


 ガックリと肩を落としたプリ様を、慰める様に、ナガちゃんは言った。


「できゆの?」

「出来るともさ。わしらは神じゃぞ。」


 ナガちゃんの台詞を、相変わらず胡散臭いな、と思いながら、ファレグは聞いていた。


「よし。では、その すばるを よびよせるぞ。」


 饒速日命は集中した。昴を此処に連れてこようとしているのだ。しかし……。


「なんじゃ。その ような ものは、どこにも おらんでは ないか。ぷりよ、もしや、おまえの そうぞうじょうの いきもの では あるまいの?」


 非常に失礼な質問をされたプリ様は、少し頭を捻った。


「わかったの。げきりんと とらのおが かくして いゆから なの。」


 プリ様の発言に、饒速日命とナガちゃんの顔色が、明らかに青くなった。


「なんじゃとお? この せかいに げきりんと とらのおが いるのか?!」

「いや、御前様。二千年前は、その気配すら有りませんでしたぞ。」

「あやつらは、まおう(魔王)が じぶんの むすめの たましいに、ひもづけ(紐付け) して おったが……。」


 饒速日命の呟きに、プリ様が口を開いた。


「すばゆは まおうの むすめの うまれかわり なの。」

「なにぃぃぃ?!」


 なんか、話がややこしくなっていっているな。

 完全に傍観者となったファレグは、そう思っていた。


「とにかく、すばゆを よぶの。げきりん! とらのお!」


 プリ様が呼ぶと、それに呼応して、皆の頭上に横たわったエロイーズの身体が現れた。そして、昴を守るように、両脇にゲキリンとトラノオの姿が……。


「げきりん! とらのお!!」


 饒速日命が鋭く叫んだ。


『饒速日命、今は言い争いをしている場合ではないのではないか? 事態は切迫しているのだろう?』


 その場にいる皆の頭の中で、ゲキリンの声が響いた。


「おまえたち。なぜ、まおうの がわに ついて おるのじゃ。」


 しかし、饒速日命は、ゲキリンの言葉を無視して、彼女達を詰問した。


『神々に恨みがあるからさ。忘れたの? 自分達が何をしたか。』


 質問にはトラノオが答えた。それを言われた饒速日命とナガちゃんは、うぐぐっ、と詰まった。


 その時、饒速日命は、プリ様の方を見た。見て、何かに気付いて、絶句した。そして、暫く黙っていたが、やがて、また、口火を切った。


「おまえたち、ししくは どうするのじゃ。いもうとも、おのれらの さかうらみの ぎせいに するのか?」


 饒速日命が言うと、今度は、ゲキリンとトラノオが、言葉を失った。


『饒速日命。我等も色々考えている。今は、とりあえず、貴女は符璃叢との約束を果たすべきではないのか?』


 諭すようなゲキリンの口調に、饒速日命も矛を収めた。何故か、その時、プリ様には、ゲキリンの青光りする刀身が、苦渋に満ちた表情をしているみたいに見えた。


「わかった。すばるを ここに……。」


 招き寄せられて、昴の身体は、浮いたまま、饒速日命の正面に来た。


「これは……。」


 呟く饒速日命。


「かみさま。すばゆを もとに もどしたげて。」


 懇願するプリ様に、彼女は険しい顔を向けた。


「ふそく している まほうしは まんたんに してやろう。」

「ちがうの。そんなんじゃ ないの。もとに もどして あげて ほしいの。にんげんの じゅっさいの すばゆに……。」


 プリ様の頼みに、饒速日命は首を振った。


「このままの ほうが いいのじゃ。にんげんに もどすと、この()は しぬ。」


 えっ?


 衝撃の台詞に、プリ様の身体が震えた。




昴ちゃんを早く復帰させろ、という感想を頂きました。

本当は、空蝉山からプリ様が帰るまで、昴ちゃんは出さないつもりだったのですが……。


正直、私も、昴ちゃんが出ないと、書いててつまらないのです。

なので、予定を変更して、急遽復帰させる事にしました。


元々、この小説を書き始めたのは「自分が幼女になって、昴ちゃんの様な奴隷少女に、駄目になる程甘やかされたい。」という歪んだ欲求を満たす為だったので、昴ちゃんが出ないのは、本末転倒なわけです。


…………、冗談です。本気にしないで下さいね? 歪んだ欲求なんて、有りませんよ?


ともあれ、次回、昴ちゃん復活です。


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