白地に青い花をあしらった着物
和臣は、咄嗟に張った障壁を拡張し、自分達に覆い被さっていた倒木を弾き飛ばした。
「おおい。生きてるか?」
「何とかね。」
呼び掛けに答えたのは紅葉だけだった。六連星は気絶していた。
「あれえ。あられもない格好で寝ているわねえ。」
着ていたティシャツが捲れて、下着まで丸見えだ。ブラのサイズの更新が、バストの成長速度に追い付いてないのか、カップから溢れんばかりに、乳房が膨れ上がっていた。
『やっぱり堪らない身体をしているわね……。邪魔者さえいなければ、ここで頂いてしまうのに……。』
紅葉は、正体を失っている六連星を、舌舐めずりして見ていた。
「お前……。何か邪な事を考えてないか?」
「ななな、何の事かしら? ほら、六連星起きなさい。リリスを探しに行くわよ。」
紅葉が六連星を助け起こしている間、和臣は周りを見回していた。
物騒な幼女は、何処かへ行ってしまったみたいだ。しかし、強風を起こした幼女神聖同盟のメンバーが、最低あと一人は居た筈だ。注意深く四方を眺める彼の視界に、とんでもない物が入って来た。
「…………。何だよ……あれ……。」
二キロほど遠くからでもハッキリ見える程、超絶に巨大な龍が、鎌首を持ち上げて辺りを睥睨していたのだ。
なまじ大きくなったがために、生い繁った木々の間をチョロチョロ走り回るオクの姿を、リリスは捉え切れずにいた。
『うまくいった? このまま、ふぇーどあうと すれば……。』
オクが安心しかけた時、大量の火の玉が、頭上から降って来た。
「じゅ……じゅうたんばくげき!? り、りりすちゃん。つみもない もりの いきものも、ぎせいに なるわよ。」
見上げると、完全に正気を失った、リリスの黒い目が見えた。
やっばー……。と、思った瞬間、真上から火球が落ちて来て「しまった。」と腕で頭を覆うと、オクの小さな身体は突風に吹き飛ばされた。
「なんなのです? あの ばけものは……。」
気が付くと、オクはフルにお姫様抱っこをされていた。
「あの りゅうの あたまに ついている おんな……。びちゅうあんの こむすめに にているけど……。」
「ふるちゃん! いいところに。じつは、りりすちゃんが、とつぜん かみの ちからに かくせいして、てこずって いたの。」
オクは、身振り手振りで、フルに状況を説明した。
「かみの ちから? あの まがまがしい こうげきが?」
「しょうきを うしなって いるのよ。おそらく、げきどして……。」
「げきど……。あなた、なにを したの? あのこに。」
「なにも してないわ。ちょっと、てあしを きりとって、おたのしみを しようと しただけよ。」
手足を切り取って、裸にして、お楽しみをしようとした……。
「それは、おこりますわ。おこらない わけないでしょ……。」
「でも、でもぉ。じゅうぶん、たのしんだら、てあしは つけて あげる つもりだったし、そしたら『おくさま、ありがと〜。だいすき。』って、なるでしょう?」
なるわけないだろ。フルは頭を抱えた。
何なの? この人。不器用さんなの? 雛菊時代のプレイガール振りは何だったの? 美貌と、ナイスバディと、権力で、女の子を釣っていただけだったの……?
フルは、深い深い溜息を、吐いた。
「まあ、そういう ことなら、せっとくは むりそう ですわね。」
「……、むぅぅぅ。いやだけど、さいごの しゅだんを つかうしか ないか……。」
オクは、空蝉山の方を、チラリと見た。
幼女となった饒速日命に「御前様、お召し物を……。」と、ナガちゃんが白地に青い花をあしらった着物を着せた。
『むちゃくちゃ かわいいな……。』
ファレグは彼女の顔に見惚れていた。小さくなると、さらに人間離れ(神様ですが)した顔立ちで、美しさが際立った。
「めずらしいか? にぎの かおが……。」
饒速日命は、自分を、ニギと呼んだ。
「なんというか……、ようせい みたいな ようぼう ですね……。」
そう、例えるなら、エルフみたいな……。
「神は、三次元に顕現する時、その為の依代となるべき人類を、あらかじめ創っておくのじゃ。」
ナガちゃんが、代わって、説明した。
依代となるべき人類? それは、我々、ホモ・サピエンスの事ではないのか?
疑問を抱いたファレグが、饒速日命を見ると、その顔が少し曇った。
「いいにくい がの……。われわれ、かみが、このほしの しはいしゃと さだめたのは、おぬしら げんせいじんるい では ない。」
僕達は、神に認められた人類ではない?
その衝撃の事実は、ファレグのみならず、プリ様にも動揺を与えた。
「わ、わたちたち、ほろぼされ ちゃうの?」
プリ様の質問に、饒速日命は首を振った。
「本当は、唯一の人類として血脈を繋ぐのは、お前達がネアンデルタール人と呼ぶ人類の方だった筈なのじゃ。」
ナガちゃんの言葉に「ねあんでる?」と、プリ様は首を傾げた。
かつて、この星には、十種類以上もの人類が居た。それらは淘汰されていき、最後には、我々ホモ・サピエンスと、ホモ・ネアンデルターレンシス、すなわちネアンデルタール人だけが残った。
「わかったの。ねあんでるは わたちたちより おおいの。からだの なかの まほうしが。」
そう、神が顕現するには、神の魂を維持出来る程の、魔法子を含有する肉体でなければならない。のだが……。
「む、むらちゃん。あたま、だいじょうぶ? ちえねつ でてない?」
「プリよ……、見直したぞ。お前さんは食べ物の事しか考えてないと思っておった。」
「かしこいのお。」
普段、能天気なプリ様の、思いもよらぬ鋭い発言に、皆は度肝を抜かれていた。
「ばかに しないで なのー!」
プリ様が癇癪を起こしたので、ファレグは「まあまあ。」とご機嫌を取った。
地球の支配者となるべき、ネアンデルタール人を見守っていた神様達は、何故か予定通りに個体数が増えない彼等の様子に、疑念を抱いた。そして、五万年前。先遣隊として、饒速日命と長髄彦を、何とか神の魂を受け入れられるくらいに発達した、ネアンデルタール人の胎児に、命として宿したのだ。
「ごまんねんまえ?!」
「ながいきなのー。」
ファレグとプリ様が、驚きの声を上げた。
もちろん、ネアンデルタール人の寿命が五万年あるわけではなく、種としての彼等を見守る為、身体の時間を遅くして、二人は生き続けていたのだ。
「だが、にぎたちの どりょくも むなしく、ねあんでるたーるじんは めつぼうして しまった……。」
その後、饒速日命とナガちゃんは、この惑星のたった二人の神様として、神話や、農耕の教えを、世界中に広めたりしながら、極東のこの地、日本に来た。
「それが二千年前。そして、御前様とわしは、この地で出会ったのじゃ。」
「そう……、にぎと おなじ、ねあんでるたーるの しょうじょ。なは、おく。」
オク!?
オクが二千年前に饒速日命と出会っていた?
プリ様達の頭に、疑問符が乱立した。
はっくしゅん。と、オクが可愛らしいクシャミをした。
「だれかが、うわさ している みたいだわ。」
「まあ……ねえ……。」
彼方此方で恨まれているからでしょうねぇ……。という言葉を、フルは飲み込んだ。
「ねえ、ふるちゃん。じどうしゃって べんり だけど、みんなが うんてんすると みちが こみこみ よね?」
「ええ……。」
何を言い出すの。と、フルは思った。
『かみの たましいを やどせる にくたいは、ちきゅうじょうに たった ひとつで なければ ならなかった。』
本当は、饒速日命や長髄彦が来る前に、自分だけが、ネアンデルタール人の身体を使って、この世に生まれでたすぐ後に、神の依代を滅ぼしてしまうつもりだったのだ。
タッチの差で、この世界への、神々の侵入を許してしまった。
二千年遠回りしたのよ。今更、リリスちゃんだろうと、饒速日命だろうと、邪魔させはしないわ。
オクは、奥歯を、ギリリッと噛み締めた。
第146部分を読んだ、お友達のアイちゃんが悲鳴を上げました。
「手が〜、足が〜、切れてるー。」
その後、涙目で私を見て来ました。
「何考えているの? 十二歳の女の子が、手足を切り取られるシーンを書くなんて!」
字面だけ見ると、確かに逮捕されても仕方のないシーンだな……。
「このリョナ男!」
「リョ、リョナ男?」
「リョナじゃん。まごうかたなきリョナじゃん。」
「エッチな展開にしろって言ったのアイちゃんでしょ。」
「リョナまでは望んでませーん。あんたはリョナよ。このリョナ男、リョナ男、リョナ男。」
それから暫く、というか現在進行形で、あだ名が「リョナ男」になっています……。