青光りする賢者の石
悪魔オクトパスを、如何に倒すか?
プリ様は、小ちゃなプリ様ブレインを、最大速度で回転させていた。
触るのも気持ち悪いし、超重力で押し潰してしまおうか?
→中の神様ごと、潰してしまうかもしれない。不可。
電撃。
→一時的効果はあるが、すぐ再生してしまう。不可。
直接ぶん殴って、悪魔オクトパスの身体を構成する物質を、原子レベルで破壊する。
→物凄く嫌だけれど、今のところ、これしかなさそう……。一応、可。
「うにゃあああ。いやなのぉ。さわりたく ないのぉ。」
「むらちゃん、おちついて。だんだん、ぴっけちゃん みたいな しゃべりかたに なっているよ。」
空中から、悪魔オクトパスを俯瞰していたプリ様は、唯一の選択肢の、あまりの嫌さに、思わず声を張り上げた。
「こら、お前達。宙にプカプカ浮いておらんと、わしを助けんか。」
量産型悪魔オクトパスは、飛んでいるプリ様とファレグは、ひとまず置いておいて、地上にいるナガちゃんに狙いを付けて、迫っていた。
「じいさん、かみさま なんでしょ? それくらい、じぶんで やっつけなよ。」
何にもしてないんだから、とファレグは付け加えた。
「何もしてないとは何じゃ。わしは、さっきから、お前達の手助けで、手一杯じゃ。」
ファレグの悪態に、ナガちゃんが言い返した。
「ながちゃんは、なにを していゆの?」
「悪魔オクトパスの時間を遅らせているのじゃ。放っておけば、そいつは、光速に近い動きで、触手を繰り出すからの。」
光速の動き! ナガちゃんの返事に、ファレグは驚愕した。プリ様は、よく分かっていなかった。
「むらちゃん、たいへんだ。じいさんを やられたら、ぼくたちに かちめは ないよ。」
事態をいち早く察知したファレグは、慌てて、ナガちゃんと量産型悪魔オクトパスの間に降り立った。
「玲、お前は駄目じゃ。見たところ、お前は、斬撃系の技しか持っておらんじゃろ? 敵を増やすだけじゃ。」
「ぼくの ひきだしは それほど ひんじゃく じゃないよ。」
ナガちゃんの言葉に、ファレグはニヤリと笑って返した。
そして「ブリュリュ、ブリュリュ。」と、変な鳴き声をたてながら近寄って来る、量産型悪魔オクトパスの前に、立ち塞がった。
玲は、両方の掌を開いて、顔の高さまで持ち上げた。それから、掌を円状に激しく動かしながら叫んだ。
「のわけそうりゅう!」
叫ぶと同時に物凄い風が起こり、二つの台風に翻弄されながら、全ての量産型悪魔オクトパスが、虚空に巻き上げられた。「ブリュリュリュー!」悲鳴を上げる彼等。
「いまだ、むらちゃん。」
「おーけーなの、れい。」
プリプリキューティオール天然色サンダー! プリ様は叫んで、ミョルニルを振り下ろした。
さっきと技の名前が変わっている。と、玲は思った。
小さい量産型悪魔オクトパスは、本体ほどの耐久性はなかったみたいで、このプリ様の雷攻撃で、全て消し飛んでしまった。
しかし、攻撃で出来た隙をついて、触手を伸ばして来る悪魔オクトパス。プリ様は、間一髪、それを躱した。
「ゆだんも、すきも、ないの。」
玲の横に降り立ったプリ様は、思わず溜息を吐いた。
『さて……。いやだけど、やるしか ないの……。』
ミョルニルを握り締めるプリ様は、腹を括った。
オフィエルの身体を借りているフルは、自分(=オフィエル)に怯えるハギトに、ホットケーキを焼いて上げた。
「ふ、ふえええ〜ん。」
「ど、どうして なくの? はぎとちゃん。」
「おいしいよぉ。ほっとけーき おいしいよぉ。」
「そ、そう? よかった。」
喜怒哀楽の表現は、取り敢えず、泣いて表すのね。
ハギトのご機嫌を取り続けていたフルは、漸く胸襟を開いて来た様子に、胸を撫で下ろしていた。
「えへへへぇ。おふぃえるちゃんって、けっこう、やさしいんだね。」
食べ物をくれる人は、優しい人なのか。単純で良かったわ。
と、思いながら、フルは、満足そうにホットケーキを頬張る、ハギトの笑顔を見ていた。
その時、謁見の間にあるダイヤル式の黒電話が鳴った。
「はいはい。こちら ふる……、じゃなくて、おふぃえる じゃーん。」
そう言うと、ホットケーキを口に運んでいたハギトが、一瞬ギクリと固まり、たちまち両方の瞳に、溢れんばかりの涙を浮かべた。
「あああ。なかないで、はぎとちゃん。もう、いわないから。『じゃーん』とか、ごび つけないから。」
と、かかって来た電話そっちのけで、ハギトをあやすフル。
「ちょっと、ふるちゃーん! どうしたの。」
電話の向こう側では、オクが叫んでいて『もう。それどころ じゃないのよ。うるさいわね。』と、フルは乱暴に受話器を取った。
「はいはい、なんですか? いま、いそがしいんですけど……。」
「わたし からの たのみごと いじょうに、ゆうせん すること など あるの?」
「いくらでも ありますわ。うぬぼれ ないで くださいな。」
「…………。」
キッパリと突き放されて、オクは少し傷付いた。
「ま、まあ いいわ。こっちに きて。てつだって ほしいのよ。ふるちゃん。」
「だめよ。はぎとちゃんが ひとりに なっちゃう もの。」
相変わらず、ハギトちゃんに甘いわね。
オクは、軽く、溜息を吐いた。
「じゃあ、はぎとちゃんも つれてきて いいから。かずおみちゃんや もみじちゃんを、りりすちゃんから、ひきはなして ほしいのよ。」
紅葉、と聞いて、フルは顔を顰めた。
「わたくし、もみじは にがて だわ。どうも、あいしょうが わるいの。」
「なら、はぎとちゃんに あいてを させるわ。あのこは いるだけで、とらぶるめーかー だから。」
居るだけでトラブルメーカー……。えらい言われ方だわ。と、フルは思った。
「わかりました。では、はぎとちゃんが ほっとけーきを たべおわったらね。」
悠長にしてないで、早く来てよ。と、急かすオクを「はいはい。」と、いなして、電話を切ったフルは、ハギトの方を振り返った。
「はぎとちゃん。おくさまがね……。」
そのハギトは、満腹になり、テーブルに突っ伏して「むにゃ、むにゃ。」と、おネムの世界に入っていた。
「うにゃあああ〜!」
意を決して、悪魔オクトパスに突っ込んで行ったプリ様は、素早い触手攻撃に阻まれて、近付く事さえ、出来ないでいた。
「うにゃ、うにゃ、うにゃ!」
鳴き声を出しながら、ミョルニルで触手を弾くプリ様。そのプリ様の声に合わせて、ファレグの背中に貼り付いているピッケちゃんも「うにゃ、うにゃ、うにゃ〜。」と、鳴いていた。
「ブリュリュ。ブリュブリュ。」
悪魔オクトパスも、不気味な鳴き声を出して応戦していて、オールレンジで攻め立てられるプリ様は、どうにも分が悪い。
「ながちゃーん。あくまおくとぱすの じかん。もっと おそくして なの。」
「これ以上は、無理じゃ。奴も時の速度を戻そうと、必死に抵抗しておるからの。」
そんな会話をしている間にも、触手にお腹を突き破られそうになって、プリ様は後退し、またファレグの所まで、押し戻されてしまった。
「むうう。ちかづけ ないの……。」
「むらちゃん。『ほんたいに いっぱつ あてられれば、なんとか なるかも。』って、おもっている?」
「そうなの。そうすれば、ぶんかい できゆかも……。」
「そうか……。」
ファレグは、思慮深げに、頷いた。
「ぼくが しょくしゅを ひきうける。むらちゃんは、まっすぐ、やつに かけていって。」
そう言って、ファレグは、青光りする賢者の石を取り出した。
「いけ、つぶてたち。」
彼女は、鬼を倒した時の、無尽蔵の拳大の礫を、ウネウネと蠢く、悪魔オクトパスの触手に向かって放った。
「いまだ。いけ、むらちゃん!」
「おおう! なの。」
礫が開けた触手の隙間に、プリ様は一直線に駆け出した。途中、プリ様に迫る触手は、ことごとく、ファレグが礫で迎撃した。
『うううっ。いや だけど。いや だけどぉ。』
プリ様は、真上にミョルニルを投げて、左の方の素手の拳で、悪魔オクトパスを殴った。
『たいそしきを、ぶんかいして やる、なの。』
巨大な悪魔オクトパスの身体が、蒸発して、消し飛んだ。
『やったのかな?』
プリ様は、落ちて来たミョルニルを右手で受け止めて、靄となった悪魔オクトパスを見詰めていた。