真珠の涙
鬼供は協力して、自分達の気を注ぎ込み、ファレグの結界に、何とか一匹がすり抜ける事の出来る、隙間を作り出した。
「さあ、食ろうてやるぞ。童め。」
先陣を切って入り込んだ黒い鬼が、ファレグに手を伸ばした。だが、次の瞬間、その首は振り上げた手刀に刎ねられ、笑いながら、宙天高く飛び去って行った。
「いったはずだ。いのちの いらない やつだけ はいって こいと。」
ええい、邪魔だ。とばかりに、胴体だけの死体は投げ捨てられ、次の鬼が結界内に足を踏み入れるも、彼の首も胴体と分離する憂き目を見た。
『けっかいを もっと きょうこに せねば……。』
しかし、どうやって? と考えていると、賢者の石に思い至った。
『まりょくの かたまりの ような けんじゃのいし なら。』
試しに魔法陣の中央に置いてみたら、賢者の石から魔力の供給を受けた魔法陣は、一層強固になり、侵入しようとしていた三匹目の鬼を締め出した。
「よし、けんじゃのいし。むらちゃんを まもってね。」
ファレグはそう言うと、後顧の憂なしとばかりに、魔法陣の外に討って出た。
「馬鹿め。自ら食われに来たか。」
鬼は一斉に踊りかかったが、ファレグの手刀は的確に、しかも片っ端から、その首を刎ね回った。さしもの鬼供もたじろぎ、その動きが止まった。すると、今度は、ファレグの方から攻めかかった。地の底を揺るがす様な断末魔の声が上がり、五匹程の鬼の首が跳んだ。
☆☆☆☆☆☆☆
夜も更けて、符璃叢と昴は、いつも使っているダブルベッドに寝ていた。晶と操は床に敷いた布団に横になり、もう寝息を立てていた。
「プリ様ぁ、眠れないんですかぁ?」
「んっ……。なんていうか……、違和感みたいのが……。」
釈然としない口調だった。
「何か悩みがあるんですか? お可哀想……。プリ様ぁ。」
「こら、どさくさ紛れに抱き付いてくるな。」
「昴が慰めて上げるんですぅ。」
「良いから。胸を押し付けないで。太腿を擦り寄せてくるなー。」
符璃叢は、昴を引き剥がし、背中を向けた。その彼女の背中に、再び、昴がぴったりと抱き付いて来た。
『もう〜、昴は〜。』
と思っていると、昴がボソッと呟いた。
「プリ様、今、幸せでしょ?」
「…………。」
「気の合う仲間に囲まれて、毎日楽しくて。」
「…………。」
「将来も好きな道に進める……。何の不満も無いじゃないですか。」
縋り付く様な声に、符璃叢は絆されそうになり……、だが、首を振った。
符璃叢も……、プリ様も、本当は、もう、気付いていたのだ。此処が、現実の世界ではないと……。
「ごめんなの、すばゆ。ぷり、いかなくちゃ なの。」
「プリ様ぁ。どうしても、行ってしまわれるんですか?」
「にげゆ わけには いかないの。」
「逃げても良いじゃないですか。辛い思いをして、お寂しい気持ちを抱いて。それでも生きていかなくちゃならないなんて……。」
「れいが まってゆの。そして……。」
向こうの昴が待っているの。
そう言った時、夢の中の昴は、ちょっと哀しげな顔で微笑んだ。
「プリ様、キスを……。」
最後の、お別れのキスを……。
二人は唇を合わせた。昴の目から、真珠の涙が一雫零れ落ちた。
「さようなら、プリ様。大好き。」
泣きながら微笑む昴の顔が、眩い光に包まれていった。
☆☆☆☆☆☆☆
鬼の振り回した棍棒が、肩先を掠めて、ファレグは思わずよろめいた。彼女が、どれだけ技を極めた達人でも、ウェイトの差だけは、如何ともし難い。
チャンスとばかりに、飛びかかって来た数匹の鬼を、何とか踏ん張って斬り殺した。
踊り場は、既に、血の海になっていた。三分の一くらいは斬り伏せた筈だが、彼女の体力も限界だった。
息が上がったファレグを囲んで、鬼供は余裕の笑いを見せていた。
「我等相手に良く頑張ったが、終いだの。」
背中から棍棒で突かれて、ファレグはよろめいた。倒れそうになると、前にいる鬼に、また突かれ、倒れさせてもらえない。蹴られ、叩かれ、よろめき回った。
「おらおら、どうした童。さっきまでの威勢はどこにいった?」
挑発されて、反撃しようとしても、手が上がらない。
「まだ、やる気か? 何故、そこまで粘る? 未だに寝こけている仲間の為か? あいつは、もう、目覚めはせんぞ。」
「む、むらちゃんは かならず めざめる。」
この後に及んでも、ファレグはプリ様の目覚めを、信じて疑ってなかった。
「ぐっふふふ、まあ良い。遊びは終わりだ。手をもぎ、足をもぎ、クチャクチャと噛みちぎってやるわ。」
ここまでか……。ファレグは覚悟を決めた。
『むらちゃん、きみ だけでも かならず いきのびて……。』
ゴツゴツとした鬼の腕が、ファレグの身体に触れようとした、その時……。
突然、魔法陣の中から凄まじい稲妻が立ち上り、ファレグの周りに居た鬼を、焼き払い、吹き飛ばした。
何事かと、鬼供が、そちらに顔を向けると、魔法陣の光の中に、スレッジハンマーを持った幼女が、燃える様な目で、睨み付けていた。その気迫に押され、動けないでいると、幼女は、地面に置いてあった賢者の石を拾い、ゆっくりとファレグに近付いて行った。
ファレグはボロボロだった。衣服のあちこちが裂け、その下の皮膚は傷だらけであった。それを見た幼女、プリ様は、ポロポロと、涙を落とした。
「ごめんなの。ごめんなのー、れい。ぷりが、わたちが、ぐずぐずと していたから……。いつまでも、ゆめのなかに いたから……。」
居心地の良い夢の中で、偽りの幸せにヌクヌクと包まれていた。その間にも、玲は自分を守ってくれていたのだ。こんな甘ったれを……。
慚愧の涙が、プリ様の頰を、濡らし続けた。ただ申し訳なく、ただ有り難かった。無償で与えてくれる玲の友情が、虚構の幸福など比べ物にならない、掛け替えのない大切なものだと、プリ様の幼い心に深く刻まれた。
「なかないで、むらちゃん。さあ、ふたりで、この かいだんを のぼろう。」
プリ様は石段の下を見た。一番底から、此処までの、結構な距離を、玲が自分を担いで登ってくれたのは、容易に想像出来た。
「れい、これを……。」
「おっ、ありがたい。」
プリ様の差し出した賢者の石を、ファレグはしっかりと握り締めた。
「まりょくきょうきゅう ひゃくにじゅっぱーせんと!」
ファレグは言って、ニヤリと笑った。
「れい、せなかは あずけゆの。」
「まかせて、むらちゃん。ぼくも あずける。」
僕も預ける。
そう言われて、プリ様はニヤニヤが止まらなかった。互いに背中を預け合える戦友なんて、そうは居るものではない。
玲に信頼されているのだ。
その一事が、プリ様の中から、無限の力を、湧き出させてくれる様だった。
「みょぉぉぉゆにぃぃぃゆぅぅ〜。」
プリ様は、右腕に構えたミョルニルに、力を籠めた。その右腕を覆うヤールングレイプルが、バチバチと、火花を散らした。
鬼供はジリジリと近付いて来たが、彼等をギラリと睨め付けた。
「ゆゆさないの。れいを あんなに きずだらけに して……。」
グッとミョルニルを突き出した。
「ぜったいに ゆゆさないのー!」
裂帛の気合で、プリ様が吼えた。それを聞いただけで、鬼が固まって動けなくなった。そこを、舐める様に稲妻が地を這い、彼等を黒焦げに変えていった。
一方、ファレグも、賢者の石によって、無尽蔵に生成された拳大の礫を、一斉に鬼達に向かって放った。こちらも、たちまち、穴だらけになった死体が、量産されていった。
プリ様の参戦によって、勝敗は一気に決した。後は、戦意を無くして、逃げ惑う鬼を薙ぎ倒していく、掃討戦となり、やがて、長い石段は、鬼の骸で埋め尽くされた。二人は、その骸の間を縫って登り、とうとう、一番上の大きな門のある所にまで、辿り着いた。
「ふう、のこりじかん ごふん。ぎりぎり だったよ。」
呟きながらファレグは、何か忘れている気がしていた。プリ様の肩に乗っかっている、黒くて小さな生き物……。
「ああっ! たいへんだよ。ぴっけちゃんが まだ おきてない。」
慌てて、ピッケちゃんの頭を叩くが、何か食べている夢でも見ているのか「うにゃ、うにゃ、うーにゃ。」と、口をパクパクさせていて、一向に起きる気配が無かった。
「どどど、どうしよう。どうしよう むらちゃん。」
「だいじょぶ。おちつくの、れい。」
そう言うと、プリ様は、リュックをまさぐり、何か取り出した。それこそは、世界で一番美味しいお菓子、黒い稲妻。
ピッと、封を切った途端、ピッケちゃんの目が、ギンと開いて「うにゃうにゃうにゃうにゃー!!」と、プリ様のお手手の中にある黒い稲妻に突進した。
「こ、これで、ぜんいん くりあー だね……。」
ピッケちゃんの恐るべき食い意地に、半ば呆れながら、ファレグは呟いた。
「最近、リリスが出ないからつまらない。」
と、お友達のアイちゃん(自称女子高生、時々幼児)が言うのです。
「リリス好きなんだ?」
と、私は少しニヤケながら聞きました。
自分の作ったキャラクターを好いてくれるというのは、やはり、嬉しいものです。
すると彼女は……。
「だって、リリス出てこないと、エッチな展開にならないもん。」
…………。どうやら彼女の中では、リリスの登場頻度=エッチ指数となっているらしいのです。
一体、どうして、そんな事に……。というか、エッチな展開を目当てに読むなよ。
「『あくしあ』編は、ほとんどリリス出ないよ。」と言うと「そんなのやだい。リリス、リリス、リリス。エッチ、エッチ、エッチ。」と駄々を捏ねるのです。
「そんなにエッチな方が良いなら、そういうサイトに行きなよ。あるみたいだよ。」と提案すると「セクハラ。」と反発するのです。
つくづく「面倒臭いな」と思う今日この頃です。