表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
134/303

黒い穴

 昴の意識が遮断された。

 それに気付いた時、オクに結構な動揺が走った。


「どどど、どうしよう、おふぃえるちゃん。」


 話し掛けられたオフィエルは、真っ赤な瞳を、チラリとオクに向けた。


「もう、おわすれ? わたしは ふる ですわ。」

「わすれてないわ。でも、ふぁれぐちゃんや はぎとちゃんに せつめい できないでしょ。いまは、おふぃえるちゃん として ふるまって。」


 やれやれ、とフルは溜息を吐いた。


「それで、なにを おこまり ですの? おくさまぁ。おふぃえる こまっちゃう♡」

「おふぃえるちゃんは そんな しゃべりかた しないわ。」


 オクはフルを軽く睨んで、相手をしていられない、とばかりに、外に飛び出して行ってしまった。

 彼女の消えた空間を暫く見詰めていたフルは、再び、深い溜息を吐いた。


「まったく……。あのひとも、いちおう、ははおや なのねえ……。」


 独り言を言っていると、部屋の外から、幼女の泣き声が聞こえてきた。此処は、オクの城にある謁見の間だ。この場所まで入って来られるのは、七大天使だけだ。


「ふええーん。だれも いないよお……。おくさまぁ、ふるちゃん、どこお……?」

「おやまあ。どうしたの? はぎとちゃん。」


 フルが話し掛けると、ハギトは硬直した。


「おおおおお、おふぃえるちゃん……。しか、いないの?」


 相変わらず、この子、オフィエルちゃんが苦手なのね……。本日、三回目の溜息を吐くフル。


「だ、だれも いないじゃーん。って、わたしだけ?」


 精一杯、オフィエルらしく答えたら、益々ハギトの顔が強張っていった。


「ふえええ、また、へんな しゃべりかたに なってるよお。さいきん、すこしは ましに なっていたのにぃぃぃ。」

「ああ、なかないで。もう、へんな しゃべりかた しないから。」


 頭を撫でて上げようとしたら、ビクッと身体を縮ませるハギト。

 困ったなあ……。と、フルは、またまた、溜息を吐いた。




 AT THE BACK OF THE NORTH WINDを飛び出したオクは、大胆にも、阿多護神社の境内に来ていた。


『さて、どうした ものかしら? さすがの わたしでも、じんのういんけ(神王院家)に しのびこむのは ちょっと ほねが おれるわ。』


 暫し考えた後、ポンと手を打った。


『そうだわ。ぴっけちゃんを よびだして、こがた(小型)とうちょうそうち(盗聴装置)を しこみましょう。』


 あの子、食い意地が張っているから、呼び出すのは簡単だわ。


 ニヤリと笑って、チョコ菓子「黒い稲妻」を取り出した。

 恐るべきピッケちゃんの食い意地。境内で「黒い稲妻」の封を切るだけで、例え、地下施設の一番奥に居ても、即座に飛んで来るのだ。


 前回のリリスへの嫌がらせレターも、こうやって呼び出されたピッケちゃんのお口に、咥えさせられたものだった。


「さあ、おいで。ぴっけちゃん。」


 しかし、待てど暮らせど、ピッケちゃんはやって来なかった。待ち兼ねたオクは、自分で「黒い稲妻」を食べてしまった。


 ピッケちゃんまで居ない……。本格的に何かが起こっているのを察知したオクの焦りは頂点に達していた。

 そこに……。


「オ、オクゥゥゥ!!!」


 ちょうど、神王院家を訪ねて来たリリスと、鉢合わせしたのだ。


「あんたが、適当な処置をするから、昴ちゃんがぁぁぁ。」


 斬りかかるリリスのゴールデンソードの切っ先を軽く躱して、掌から軽い衝撃波を打ち出すと、飛ばされたリリスは石燈籠に叩き付けられた。


「てきとうな しょち……? やっぱり、すばるちゃんに なにか あったのね?」

「ふん。いつもの軽口が無いわね。」


 リリスは素早く起き上がり、戦闘態勢をとった。


「こたえなさい。あのこに なにが あったの。」

「あらあら、分からないの? こっちの情報は筒抜けかと思っていたのに……。」


 そこまで言って、リリスはハッと気が付いた。


「そうか……。昴ちゃんね。昴ちゃんと貴女は繋がっているのね。昴ちゃんを通して、私達の動向を伺っていた……。」


 むだに あたまの まわるこ だわ。

 リリスの呟きを聞いて、オクは舌打ちをした。


「まあ、その とおりよ。だから しんぱいなの、あのこが。」

「だったら、御三家聴聞委員会に出て、聞きなさい。」


 リリスが叫ぶと、オクの足元の地面から、金色の蔦が何本も飛び出して、彼女の身体に絡みついた。慌てたオクは、何とか逃れようとしたが、時すでに遅し、二進も三進もいかない状況になっていた。


「ゴールデンアイビー!」


 リリスが勝ち誇って言った。


「殺すのは勘弁して上げる。これからは惨めな囚人として、裁きの日を待ちなさい。」


 全く身動き出来ないのが分かると、オクの表情が絶望に染まった。


「わたしの まけね……。りりすちゃん、さいごの なさけよ。すばるちゃんの ことを おしえて。しんぱいで たまらないの。」


 勝ちを確信すると、リリスにも同情心が湧いて来た。


「今のところは無事よ。トラノオとゲキリンが、誰の手にも触れられない所に匿っているらしいの。プリちゃんが戻って来るまで……。」


 そこまで聞くと、オクには大体の事情が掴めた。


とくさのかんだから(十種の神宝)か……。」

「知っているの?」

「わたしを だれだと おもっているの?」


 さっきまでの、しおらしい態度が嘘の様に、不敵な笑いを浮かべた。それを見たリリスは警戒して身構えた。果たして、オクの縛は、次の瞬間に粉々に吹き飛んでいた。


「かわいいわ、りりすちゃん。こんな ぜいじゃくな いましめで、わたしを しばれると おもっている なんて……。」


 リリスが再び黄金の蔦を出したが、オクはその場でクルクルと回って、手刀で蔦を切り裂いた。


「うふふ。ひっしね、りりすちゃん。いとしすぎて たべちゃいたく なるわ。」


 ポンと飛んで、リリスの眼前に来たオクは、素早い動作で、彼女の足を払った。バランスを失ったリリスは、その場にへたり込んだが、その顔をオクは両手で固定して、キスをした。


「んんん〜。うっう〜んん。」


 息苦しくなったリリスは、両方の腕で、思いっ切りオクを突き飛ばした。オクはクルッと一回転して、離れた位置に降り立った。


「い、今、舌を入れたでしょ!」


 右手で唇をゴシゴシと擦りながら、リリスは叫んだ。


「いろいろ おしえて くれたから、さーびすよ。」


 ウィンクをして、オクが言った。


「殺す! 絶対に殺す!」


 黄金のランスを構え、突進して来るリリスを、ヒラリと躱して、オクは飛ぶ様に遠ざかって行った。


「こんどは、もっと いいこと しましょう。」


 そんな戯言を残して、オクは逃げ去った。残されたリリスは、顔を真っ赤にして、唇を噛み締めていた。




 その頃、奥多摩山中。

 迷い無く、獣道を進んで行くプリ様の背中を、ファレグは感心しながら見ていた。


『たしかに、ぼくも この ほうこうに、つよい はどう(波動)を かんじる。でも、はんぱな のうりょくしゃ(能力者)なら、ひめられて(秘められて)いる この はどうは かんじとれない だろう……。』


 ファレグの思考は、立ち止まったプリ様によって、中断された。


「あなが あゆの。」


 木が生い茂った、山の斜面に、黒い穴が不自然に存在していた。まるで、空間を穿つ穴だ。


 そもそも空蝉山とは、常人の(まなこ)に映るような山ではない。国土地理院の地形図を見ても、記されていたりはしないのだ。


 だから、入山しようという者は、まず己の力で、その場所を特定せねばならない。二千年の間、合格者が出なかったのは、ほとんどの挑戦者が、ここで振るい落とされるという難易度の高さにも起因していた。


『きみって やつは、かんたんに だいいちかんもん(第一関門)を、とっぱ しちゃうんだな……。』


 プリ様の頼もしさに、つい、口が緩むファレグ。


「たぶん、その あなの さきが、うつせみやま だよ。」


 ファレグに言われ、そうだろうな、とプリ様も頷いた。


「よおし、いくの。まってゆの、にせんねんさま!」


 プリ様は恐れる事無く、黒い穴の中に入って行った。


 怖いもの知らずにも、程があるでしょ。と思いながら、ファレグもその後に続いた。





ついに最後の七大天使ハギトの登場です。


最初は、人殺し大好きサイコパスちゃんにしようかと、思っていたんですが、今期のアニメに、なんか似た様な設定の幼女が出ていて……。

「真似じゃん。」と言われると悲しいので、キャンディ大好き甘えっ子ちゃんにしてみました。


そんな奴が、東京異世界化作戦などを、遂行出来るのかというと……。

出来ないかもしれないですね。どうしよう……。


いつも思い付きで設定を変えて、収拾がつかなくなるのです。

もう、大人なんだから、しっかりしなくちゃいけないのに……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ