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大きな角状の突起

 美味しく焼き魚を食べ終えた、プリ様とファレグは……喧嘩になっていた。


「うつせみやまに いく だって? だめだめ。むらちゃん みたいな ちいさいこ(小さい子)が いくような ところじゃないよ。」

「れい だって ちいさいの。ぷ……むらと おなじなの。」

「ぼくは……。」


 ファレグは、本当は、十七歳まで生きた記憶があった。しかし、オクによって与えられた身体が三歳相当だったのだ。

 そういう意味では、前世の記憶を持つプリ様とは、似た者同士であるかもしれない。


「ぼくの ことは どうでも いいでしょ? むらちゃんを しんぱい しているのに……。」

「よけいな おせわ なの。むらは いかなければ ならないの。」


 そう言うと、プリ様は、ピッケちゃんを肩に乗せ、リュックを背負って、立ち上がった。


「ばいばい なの、れい。」


 そして、メギンギョルズの羽を発光させながら、浮かび上がった。


『さっきの ひこうぶったい、むらちゃん だったんだ。』


 それにしても……。ファレグは驚いていた。

 式神を使った飛行術や、念力で身体を浮かせられた術者の話は、聞いた覚えがあった。


 だが、目の前の「むらちゃん」は、そのどんなタイプでもない、飛行の仕方をするみたいだ。いや、それよりも、よほど術を極めなければ、空を飛ぶ事など出来ないだろう。


 彼女が不世出の能力者であると、ファレグも理解した。それでも、空蝉山の二千年様に挑むのが、無謀なのには変わりはなかった


 そんな事を考えている間にも、プリ様はドンドン上空に昇って行き、川沿いに飛んで行ってしまった。


『むらちゃん、いきいそいじゃ だめだ。きみなら、しゅぎょうを つめば、きっと、にせんねんさまに かてる。いまは こらえるんだよ。』


 さっきまでAT THE BACK OF THE NORTH WINDに戻ろうと考えていたのも忘れ、プリ様を追って、更に奥の山中、空蝉山に向かって走り始めた。




 一方、空蝉山を目指して飛行していたプリ様は、ピッケちゃんが、盛んに「ミャーミャー。」と鳴きながら、肉球で叩いて来るので、後ろを振り返った。振り返って、驚愕した。


 玲が、地上を凄まじいスピードで、疾走しているのだ。障害物となる岩石や巨木を軽く飛び越え、プリ様の跡を正確に追い掛けていた。


『なんか、すごい やつなの……。』


 滞空し、暫し感心して見ていると、玲の横合いの森の中から、何かが彼女に迫っているのが見えた。熊? と思ったが、熊にしては大き過ぎた。見た感じ、三メートルは下らない大きさだ。そんな奴等が、十体は居た。


 魔獣……? 玲が危ない!


 プリ様は、急ぎ、降下して行った。




 走っていた玲も、その気配は感じ取っていた。


『きいた ことが ある。うつせみやまの まわりには、なぜか、まものが うまれやすいのだと……。』


 この世界では、魔物は生まれにくい。なぜなら、魔物となるべく定められた魂があっても、宿るべき器となる肉体が、滅多に生まれて来ないからだ。

 魔物となる肉体。それは、途轍もない量の魔法子を保有出来る身体だ。


 そんな個体は、突然変異としてしか誕生しないので、必然的に魔物の個体数も限られて来る。

 だが、この空蝉山周辺では、封じ込められている二千年様の影響なのか、普通の動物の子が、魔物と化して生まれて来るケースが、多々あるのだ。


『くる……。』


 そう思った瞬間、森から飛び出して来た魔獣達が、グルリを囲むように、ファレグの周りに降り立った。やはり熊に似ているが、度外れて巨大なのと、両肘に大きな角状の突起があるのが、違っていた。


 グルルッ、と唸りを上げて、迫る魔獣。後ろ足で立って、直立歩行をしているので、囲まれると、圧迫感で押し潰されそうだ。

 大人の男でも気絶しそうな状況なのに、ファレグは少しも怯まず、彼等を見渡した。


「れーいー!」


 そこに、プリ様が上空から降って来た。ファレグと背中合わせに降り立つと、彼女も、また、魔獣達をキッと睨み付けた。


「れい、まかせゆの。れいには ゆびいっぽん ふれさせないの。」

「ぼくを まもるために、この しち(死地)に とびこんで きたのかい?」


 ファレグは思わず、驚きの声を上げた。どんなに腕に覚えがあっても、こんなに凶暴そうな魔獣の群れの只中に、なんの躊躇いもなく、飛び込んで来るなんて……。


「ともだちなの。たすけゆのは あたりまえ なの。」

「ともだちって……。」


 さっき出会ったばかりなのだ。まだ、お互い、名前しか知らない。しかも、喧嘩別れした後ではないか。


「おさかな、わけあって たべたの。おいしいねって、わらいあったの。もう、ともだち なの。」


 魔獣に囲まれても、顔色一つ変えないファレグが、プリ様の台詞を聞いて、身体をゾクゾクと震わせた。

 何か違う。この子は、今まで出会って来た人間達と、どこか違う……。


「いくよ。かくご すゆの、ひじつめぐまたち(肘爪熊達)!」


 なんか、変な名前付けてるし……。


「まって、むらちゃん。わるいのは ぼくらの ほうだよ。きずつけちゃ だめだ。」

「ぷ……むらちゃんたちは、わゆく ないの。」

「ううん。ぼくたちが かれらの てりとりーを おかしたんだ。びっくり させたんだよ。」


 そんな事を言われても、肘爪熊は「グゥルルッ。」と唸りながら、徐々に囲みを狭めて来ていた。どう考えても、一戦交えずには、済みそうにない。


「ぼくが これから げどうしょうめい(外道照明)しんれいはもん(神霊波紋)を はなつ。かれらが ひるんだすきに にげよう。」


 外道照明神霊波紋は、前に胡蝶蘭が、ピッケちゃんを調べる為に、身体に流した技である。通常は、掌から直接対象物に流し込むのだが、力の強い者なら、離れた位置からでも、流し込めるのだ。


「じゃあ、はやく ながしこむの。」

「ごめん、むらちゃん。もうちょっと、ひきつけないと だめだ。」


 そうしている間にも、肘爪熊達が迫って来ていた。


『まだだ。もうちょい。さんけん(三間)……、にけんはん(二間半)……。』


 プリ様は、撃って出たい気持ちを、必死に堪えていた。任せたのだ。信じたのだ。ならば、玲のやる事の邪魔をしてはいけない。

 額に汗を流し、奥歯をギリリッと噛み締めていた。


いっけんはん(一間半)……、いっけん(一間)。ここだ! げどうしょうめい(外道照明)しんれいはもん(神霊波紋)!!」


 並の魔獣なら、気を失う程の威力で、外道照明神霊波紋を放った。だが、肘爪熊達には、全く何の効果も無かった。


 しまった、僕の読み違えだ。せめて、初手の攻撃から、ムラちゃんを守らなければ。


 一瞬の間に、そう考えたファレグは、咄嗟にプリ様の上に覆い被さった。彼女の行動に、プリ様も驚きを禁じ得なかった。守られるというのは、プリ様にとっては、あまり無い体験だった。


 その時、ピッケちゃんが「ぴっけ!」と声を上げた。ピッケちゃんの鳴き声を聞いた肘爪熊達は、振り上げた腕を下ろした。


 ピッケちゃんは翼を出し「ぴっけ、ぴっけ!」と鳴きながら、彼等の周りをパタパタと飛び回った。すると、一匹、二匹と背中を向けて、森に帰って行き、あとには、一際巨大な肘爪熊だけが残った。どうやら、群のリーダーらしかった。


あかひじつめくま(赤肘爪熊)……。」


 額の所に赤い毛が有るので、そう名付けたみたいだ。

 また、勝手に名前を付けて……。と、ファレグは少し微笑んだ。


 赤肘爪熊は、プリ様とファレグを、ジッと見詰めていた。真摯な視線を受けて、息が詰まる程の緊迫感を覚えた。


『人の子らよ……。』


 二人の頭の中に、赤肘爪熊の言葉が響いた。


『人の子らよ、空蝉山に挑むのか?』


 そう聞かれて、プリ様は力強く頷いた。ファレグは、そんなプリ様のお顔を、真面目な表情で見ていた。


『そうか……。』


 赤肘爪熊も頷いた様な仕草をした。


『我等は魔獣にあらず。空蝉山の御前に仕える神獣なり。』


 神獣だって? どおりで、外道照明神霊波紋が効かない筈だ。

 ファレグは、意外な言葉に、目を見張った。


『まず、お前達には、挑む資格がある。心して取り掛かれよ……。』


 赤肘爪熊は、そこまで言って、背を向けた。帰って行く彼の後ろ姿を見ながら、緊張感から解放されたプリ様とファレグは、その場にヘタリ込んだ。


 そして、互いに顔を合わせ、ニッと笑い合った。


連載を始めてから、一年経ちました。

書き始めた頃は、誰も読んでくれなかったらどうしよう。

と不安でしたが、思いの外に多くのブックマークを頂き、評価まで頂いて、望外の喜びです。


気が付けば、また、新たに評価とブックマークを頂いてました。ありがとうございます。

これからも、コツコツと息切れせぬよう書いていこうと思います。

最後まで読んで頂けると嬉しいです。

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