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お兄ちゃんの好きな事、何でもして良いんだよ?

 夜遅く、胡蝶蘭が帰宅すると、女中頭のペネローペさんから、リリスの宿泊を告げられた。


『最近、よく泊まりに来るわね、リリスちゃん。』


 元々、神王院家はリリスの母、朝顔の実家だ。プリ様のお父様、照彦の代になって、プリ様とリリスの祖父母に当たる先代は、田舎に隠居してしまったが、リリスにとっては、母方の実家には違いない。


『美柱庵家には居づらいのかもね……。』


 出生の事情で、兄弟の中でも、孤立していると聞いた。せめて母親が味方をしてやれば良いのだろうが、不義の子と思われているリリスを特別扱いするのは、立場上出来ないのだろう。


 いや、それよりも、朝顔自身がリリスを憎んでいる可能性だって有るのだ。


「リリスちゃんが望むなら、いつでも自由に泊めて上げて。何なら、彼女用の部屋を一つ、設えても良いわ。」


 ペネローペさんに、そう伝えると「かしこまりました。」と頭を下げて、行ってしまった。


 胡蝶蘭はそのまま寝室に向かった。化粧を落としたりだとか、お風呂に入ったりだとか、やる事は色々あるのだが、まず、プリ様の可愛い寝顔を見たいのだ。


 寝室の灯りを点けると、プリ様はリリスの胸元に顔をくっ付けていて、そのプリ様を昴が背中から抱いていた。リリスは二人共を抱える様に腕を伸ばしていて、こうして見ると、仲の良い三姉妹に見えた。


『何で、お団子になっているのかしら……?』


 胡蝶蘭は「ふふっ。」と笑って、出て行った。




 翌日、和臣が阿多護神社に出掛けようと、支度をしていたら、短パンをはいた渚ちゃんが、チョコンと袖を引っ張って来た。


「ダメだ。」

「まだ、何にも言ってないよ。」

「一緒に連れて行けだろ? だ・め・だ。」

「そう言うと思った。」


 渚ちゃんは、和臣の部屋のフローリングの床に寝転がった。


「か、監獄固めでも、四の字固めでも、好きにすれば良いわ。」


 何なんだろうな〜。この、俺が悪者みたいな空気感……。

 和臣は、鼻息荒く天井を睨む妹を見て、溜息を吐いた。


 取り敢えず、面倒臭いので、放置して出掛けようとすると、今度は足にしがみついて来た。


「何で無視するの〜。お兄ちゃんの好きな事、何でもして良いんだよ?」

「人聞きの悪い言い方をするな。」


 その時、和臣のスマホが鳴った。


「リリスか? 何の用だ?」


 リリスと聞いて、渚ちゃんの目が輝いた。盛んにジャンプして、スマホを取ろうとしたが、和臣に頭をガッチリ押さえ付けられていた。


「えっ? 渚を連れて来ても良い? 良いのか?」

「来たがっているんでしょ? 阿多護神社の社務所を使わせてもらうから大丈夫よ。」


 渚ちゃんの動向を察知したリリスが、先手を打って来たのだ。


「リリスが来ても良いってさ。」


 スマホを切った後、和臣に告げられると、飛び上がらんばかりに喜んだ。


「待ってて、着替えて来る。」

「それは、ダメだ。今、すぐに行かないと間に合わない。」

「えっ〜。何で、もっと、時間に余裕をもって行動しないのよ。」


 生意気な事をほざく妹の首根っこを掴んで、引き摺る様にして、和臣は阿多護神社へと向かった。




 和臣兄妹が到着すると、もう、すでに紅葉も来ていて、全員が社務所の会議室でアイスティーを飲んでいた。


「今日は六連星はいないのか?」


 部屋を見回した和臣が口にすると、紅葉がニヤッと笑った。


「なあに、アンタ。今度は六連星に目を付けたの?」


 胡乱な発言をするな。大体、六連星の豊満ボディを狙っているのは、お前だろ。

 和臣は、喉まで出かかったセリフを、何とか我慢した。


「今日は、これの中身を検分したいのよ。何が書いてあるか分からないから、六連星は外したの。」


 日記帳を持ったリリスがソッと耳打ちした。


 部屋には、会議用のテーブルが二列に五台並んでいて、前方にホワイトボードが置かれていた。小さな教室みたいなレイアウトだ。

 そのホワイトボードの前に、プリ様がチョコンと立った。後ろには昴が控えていた。


「みんな、あついなか ごくろうなの。それでは ぷりぱーてぃの かいぎを はじめるの。」


 会議……なの?

 てっきり、昨日みたいに、皆で遊びに行くんだと思っていた渚ちゃんは、ちょっと拍子抜けした。


「これは りりすが かっぱらった ものなの。」


 プリ様は、雛菊の日記帳を手に持って、腕を上げた。プリ様は小ちゃいので、こうしないと皆に見えないのだ。


「プリちゃん……。かっぱらったっていう表現はちょっと……。」


 リリスは、言いながら、プリ様から日記帳を取り上げた。


「あの雛菊の日記帳だから、幼女神聖同盟についての、何か有用な手掛かりがあると思うのよ。」


 リリスの発言に、プリ様は腕を組んで、ウムと頷いた。


「お兄ちゃん、全く話が見えないよ。」


 テーブルに和臣と隣り合って座っていた渚ちゃんは、彼の腕を突いて、小声で言った。


 だ〜か〜ら〜、来るなって言っただろ。

 和臣は怒りに腕を震わせた。


「じゃあ、私とお話ししてましょうよ。渚ちゃん。」


 和臣の反対隣に座っていた紅葉が話し掛けた。


「えっー、紅葉ちゃん? リリスとが良い。」

「あら? リリスの別れた男の話とか聞きたくない?」


 十二歳のリリスに別れた男がいた?

 渚ちゃんは、思わず目を剥いて、紅葉を見た。


「どどど、どんな人? 紅葉ちゃん。」

「名前はトール。筋肉の塊で出来た、動く筋肉要塞みたいなゴッツイ奴で……。」


 バコン! 喋り出した紅葉の頭を、リリスが日記帳で殴打した。


「何するのよ。」

「紅葉ちゃん、前世の話はいいから。この日記帳の鍵が開かないって、話をしているのよ。」


 前世の話? ああ、つまり、ゲームの話かあ。なあんだ、ビックリしちゃったよ。

 渚ちゃんは、ホッと小さな胸を撫で下していた。


「こんなの簡単に開くでしょ? ほら、テナ。何とかしなさい。」


 紅葉は乱暴に右手のブレスレットを振った。


 結局は他力本願か……。

 プリ様達は、冷ややかに紅葉を見詰めた。


「和臣、あれは無理だ。多分、呪術を施した本人でなければ、開錠出来ないだろう。」


 和臣の左手のアシナブレスレットが、小さな声で、そう告げた。


「うむむ、悔しいわ。せっかく、苦労して手に入れたのに。」


 リリス、和臣、紅葉が頭を抱えている隙に、チョコチョコと近付いたプリ様が、テーブルに置いてあった日記帳を、再び持って行ってしまった。


「すばゆ〜、あかないん だって。」

「困りましたね、プリ様。」


 昴は、何気無く日記帳を受け取って、適当に弄り回してみた。


「とにかく、どんな犠牲を払っても、この日記帳を……。」

「開きましたよ、リリス様。」


 ポツンと言われて、全員が昴を振り返った。


「どう……やったの? 昴ちゃん。」

「弄っているうちに何となく……。」

「すごいの。すばゆ、すごいの。」


 プリ様の賞賛に、昴は誇らしげに胸を張った。


「ふっふっふ。もっと、褒めて下さい。プリ様。」

「えらいの〜。いいこ なの〜。」


 頭を撫でられた昴は、辛抱堪らなくなって、抱き付いた。

 そのまま、頬擦りをして、愛撫をして……。


「ま、まあ、開いたのなら、良いわ。」


 プリ様ラッシュを始めた昴は放っておいて、リリスは日記帳を手に取った。

 どんな秘密が隠されているのだろう。雛菊の日記だ。恐らく世界の深淵に迫る何かが……。


 リリスはゴクリと唾を飲んで、日記帳を開いた。




 三月二十五日。美柱庵家のお茶会で超絶美少女を見付けた。即、口説く。速攻で頂く。


 三月二十九日。新しい世話係の子を堕とす。最初は嫌がっていたクセに、そのうち、進んで、おねだりするようになった。自分のテクが恐ろしい。


 四月二日。フラっと入った喫茶店のウェイトレスさんが、あまりに可愛かったので、つい……。


 七月十三日。明日は楽しいムフフなパーティ。ハーレムの女の子を皆集めて……。


 七月十四日。楽しかった。楽し過ぎて、腰が抜けた。明日は一人で我慢しておくか……。月読、相手してくれるかな……。




「何よ、これ。エッチな事しか書いてないじゃない!!」


 リリスは、顔を真っ赤にして、日記帳を投げ捨てた。

 それを拾い上げて読んだ紅葉は、フムフム勉強になるわ、と夢中になって読んでいた。


「ただのエロ日記だね。」


 断定されて、リリスはワナワナと身体を震わせた。

 完全に、骨折り損の、くたびれ儲けであった。












この章は今回で終わりです。

次の章は、極力プリ様に焦点を当てていきます。


新しい章を始めるという事で、構想とかに時間を取られ、ちょっと更新期間が空くかもしれません。

空いてしまったら、ごめんなさい。

遅筆ですみません。

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