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甘えさせて、プリちゃん。

 リリスは、床に落ちていた日記帳を、拾い上げた。


『鍵が無いわね……。』


 さっき、静の服を脱がせた時にも、何処にも鍵は入ってなかった。


「何? それ。」

「んっ……。雛菊の日記帳……。」


 リリスと紅葉が話している間、プリ様は静の頬っぺたを突いていたが、突然、その目がパッチリと開かれた。もう、赤くはない。色素の薄い紫の瞳だ。


 静は寝惚けた様に周りを見回していたが、ふと、プリ様と目が合った。プリ様は精一杯愛想良く微笑んでみせたが、彼女の目には、みるみる涙が溜まっていき、やがて、大声で泣き始めた。


「ふぇぇぇ。まま、ぱぱ、どこぉ〜?」

「ああっ、ないちゃ だめなの。こわくないの。」


 プリ様が慌てて静の頭を撫でていると、泣き声に気付いたリリスと紅葉も近寄って来た。


「あらあら、泣かないで。すぐにお家に連れて帰って上げるから。」

「ほらほら。泣かない、泣かない。」


 紅葉が変な顔を見せると、一層声を上げて泣いた。


「もみじ、やめゆの。おびえて いゆの。」

「怖くないわよ。よしよし。」


 リリスが抱き上げて、頭を摩ると、ヒックヒックと泣き止んで来た。

 包容力の違いを見せ付けられた紅葉は、少し凹んでいた。




 静を保護した事もあって、今日は、それで解散となった。

 暫くプリ様と別々にいた昴は、帰りはピッタリしがみ付いて、全く離れなくなった。


「すばゆ。もう、おうちに ついたの。」

「今日はおネムまで、プリ様に貼り付いているんですぅ。そう、決めたんですぅ。」


 今は二人切りだ。昴にとっては絶好の甘える機会なのである。

 食事の時以外は、ずっーと、プリ様を抱いて、匂いを嗅いだり、頰をスリスリしたりしていた。


「プリ様、いよいよ、次はお風呂ですよ。昴が洗って上げますからね。ああっ、プリ様、プリ様。」


 感極まって、本日七回目のプリ様ラッシュを始める昴。幸せの頂点であった。


 その時、プリ様達の居たリビングのドアが、勢い良く開けられた。そして、ズカズカと入って来たリリスが、一息ついていた昴から、むんずとプリ様を奪い取った。


「あっー、プリちゃん。気持ち良い。最高の抱き心地ね。」

「どしたの? りりす。」

「お姉ちゃん、疲れちゃったのぉ。甘えさせて、プリちゃん。」


 光極天家を辞した後、静を家まで送り、念の為警護の手配をして、種々の手続きを済ませて来たのだ。クタクタであった。


「ダメです。ダメですぅ。プリ様は、これから、お風呂なんですぅ。昴が念入りに洗って上げるんですぅ。」

「あら、良いわね。私も一緒に入るわ。今日は泊まって良い?」


「ダメですぅ。」と、昴が声を出す前に「いいの。だいかんげい なの。」と、プリ様が返事をしてしまった。


「あ〜ん。優しい、プリちゃん。頭摩ってぇ。」

「もう、りりすは。あまえんぼさん なの。」

「プ、プリ様ぁ。昴も〜。」


 負けじと昴も、リリスに抱き抱えられているプリ様に、更に寄っ掛かっていった。


「プリちゃん。じゃあ、私はオデコにキスして。」

「あっ〜、ズルイですぅ。昴もキスですぅ。」

「はいはい。じゅんばん なの。」


 二人の大きな赤ちゃんのお世話で、大忙しのプリ様であった。




 AT THE BACK OF THE NORTH WINDでは、眠りこけるオフィエルの隣に腰掛けたオクが、未だに途方に暮れていた。どんな、性格を貼り付けようか、迷っているのだ。


「やっぱり、おふぃえるちゃんの ようし だと、あいがん(愛玩) できる せいかくが よいわ。」


 迷いに迷って、やっと決め、ケーリュケーオンを振り上げた時、いきなり、ムクッとオフィエルが上半身を起こした。


「おおお、おふぃえるちゃん?」


 神器であるケーリュケーオンで与えられた眠りだ。自然に目覚めるという事はあり得ない。さすがのオクも、何事が起こったのかと、目を剥いた。


「わたしよ、おくさま。」


 フルであった。滝昇静の身体から追い出された彼女は、手っ取り早く、昏睡状態になっていて侵入し易かった、オフィエルの身体に入ったのだ。


「しばらく、このこの からだを かりるわ。」


 目を開けると、瞳が真っ赤になっていた。


「もしかして、りりすちゃんに まけたの? かえりうちに あっちゃった?」


 面白そうに尋ねるオクを、フルは軽く睨んだ。


「しずかちゃんの からだ、きにいってたのに。とりもどさないの?」

「げーとを とじられて しまったのです。」


 フル(=オフィエル)の身体は、ワナワナと小刻みに震えていた。


「あの なまいきな びちゅうあんの こむすめが。こざかしい ことを……。」

「ふっふっふっ。あなたと したことが ぬかったわねえ。」


 尚も面白そうに言うオクに、当て付けがましく溜息を吐いた。


「にっきちょう、もって いかれましたわよ。」

「にっきちょうって?」

「ひなぎくさまの にっきちょう。」


 ななな、なんですってぇ!

 オクの脳髄を稲妻が走った。


「ひっしに ふせごうと したんです けどね……。」


 フルは白々しく肩を竦めてみせたが、動揺するオクは見てなかった。


「ままま、まずいわ。あれを りりすちゃんに よまれるのは ぜったいに まずい。」

「なにか あなたの じゃくてんでも かいて あったの?」


 それは、それで、読んでみたかったな。と、フルは思った。


「ちがうわ。」

「じゃあ、なんで?」

「だって、あの にっきちょうは……。」


 そこまで言って、オクは俯いて、目を逸らした。


「だって、あの にっきちょうは、じゅうはっさいみまん おことわり……だから。」


 十八歳未満お断り? はあ? アンタ、何言ってるの?

 と、フルはオクを凝視したが、オクは「やばい、やばい。」と、独り言を繰り返すのみだった。




「はーい。プリ様、綺麗になりましたよぉ。」


 身体の隅々まで、丁寧にプリ様を磨き上げた昴は、今度は自分の身体を洗い始めた。

 リリスは湯船に浸かって、二人の様子を眺めていて、そんな彼女とプリ様の目が合った。


「りりすぅ。からだ あらわないの?」

「んっ……。」


 プリ様に言われて、悪戯っぽい笑みを浮かべた。


「プリちゃんに洗って貰おうかな?」


 その言葉に、プリ様は俄然張り切った。


「おいで、りりす。あらって あげゆの。」

「うふふふ。ありがとう、プリちゃん。」


 何だかドンドン話が進行していくが、髪を洗っている最中の昴は、焦りながらも邪魔が出来ないでいた。


 プリ様は一生懸命、タオルを石鹸で泡立てて、椅子に腰掛けたリリスの背中を流し始めた。


「ああっ、気持ち良いな。前も洗ってよ、プリちゃん。」

「おまかせなの。」


 弾んだ声で言って、チョコマカと前に回った。


「りりすの おむね、やわらかなの。」

「あっー、こら。洗ってくれるんじゃなかったの?」


 タオルで洗っているうちに、あまりの手触りの良さに、泡塗れのツルツルの胸に、プリ様は顔を埋めた。そんなプリ様を、リリスはソッーと抱き締めた。


「ほーら、捕まえた。もう、逃がさないぞ。」

「やめゆの、りりす。」


 止めろ、と言いながら、プリ様は自分もリリスに抱き付いていった。


「プリちゃん。そんなに、お姉ちゃんの胸が好き?」

「なでなで なの〜。」

「あははは。くすぐったいよぉ。」

「そうやって、わらう りりすも すき。いつもと ちがうの。かわいいの。」

「プ、プリちゃん……。」


 プリ様とリリスは見つめ合った。目には見えないけれど、そこには確かな絆があった。


 良い感じに愛が触れ合った、その瞬間、髪を濯ぎ終わって、復活した昴が叫んだ。


「何、妖しげな雰囲気を醸し出しているんですかぁ。」

「あらあら、良いところだったのに……。」

「もう、すばゆは。りりすの おむね、さわっている だけなの。」


 触っちゃいけません。と、昴は真顔で説教した。


「良いのよ。プリちゃんだったら。ほら、ムギューって、して上げる。」

「うわーい。きもちいいの。」


 リリスの豊かな胸の谷間に顔をスリスリするプリ様。恍惚の表情であった。


「ダメです。ダメですぅ。」


 危機を感じた昴は、ダッシュでプリ様を取り上げた。


「プリ様は昴の胸にだけスリスリしていれば良いんですぅ。」


 大慌ての昴を見て『やり過ぎちゃったかな?』と、反省する、お茶目なリリスちゃんなのであった。





お仕事が上半期最大の山場の最中です。

安ホテルに泊まり、翌日そのまま出社。などという生活をしています。

小説を書いている暇も有りません。

書き溜めていて、良かったです。

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