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清浄なる月の光

 紅葉がフルの天敵……?


「どういう事……?」


 リリスが皆の気持ちを代弁して言った。


「ずっこけるわね。貴女達、私の職種を忘れているんじゃないの?」


 紅葉の職種……?


「へんたい?」

「変態よね……?」

「職種が変態って、どういう人間よ。」


 紅葉は、プリ様とリリスに抗議した。


「思い出しなさい。我こそは、誇り高き純潔の乙女の園、アルテミス神殿に咲く数多の花の中で、最も神に近いと言われた一輪の薔薇。プリーステスのアイラ・アン・アンビーよ!」


 紅葉は胸を張って、言い切った。


「さきみだれる らんりん(乱倫)の はななの。」

「紅葉ちゃん、薔薇なの? 百合じゃなくて?」

「あんたら、一々茶化すな。」


 プリ様達の突っ込みに、紅葉が反発した。


「いつまで まんざいを やっている つもりかしら?」


 苛立ったフルは、紙吹雪を、今度は紅葉に向かって吹き付けた。だが、紅葉の周り、半径一メートルくらいの周囲で、それは全て凍結して床に落ちた。


「そんな、ヤバそうな物まともに喰らうのは、プリか、馬鹿くらいしか居ないわよ。」


 そう言われて、プリ様と、さっきマトモに喰らったリリスは、赤面して項垂れた。


「ああっ。でも、本当に便利ね、テナブレスレット。詠唱無しで、技が使えるもんね。」

「私が居て、良かったでしょ。」


 ブレスレットが返事をしたが、紅葉は無視した。


「ちょっとぉ! 何とか言いなさいよ。」

「うるさいわね。サッサッとロッドになりなさい。」


 テナブレスレットは渋々ロッドに変化した。


「これよ、これ。やっぱり、ロッドがないと今一だったのよね。ねえ、テナ。真っ白な法衣とかは出せないの?」

「そんな器用な事は出来ないわよ。私が変化して、アンタの身体に巻き付いてもいいなら別だけど……。」


 テナロッドの言葉に、紅葉は心底嫌そうな顔をした。


「自分で言い出したんでしょ。アンタ、どんだけ失礼なのよ。」

「はいはい、雑談はこれまで。ちゃっちゃと、あいつを片付けるわよ。」


 それを聞いたフルは目を剥いた。


「わたしを かたづけるだとぉぉぉ。こむすめぇぇぇ、なめるな!」


 叫びながら、両手に持った扇を開き、勢い良く風を起こした。


「シンク・メーゲン!」


 だが、風が吹き荒れたと見るや、紅葉はその辺りを真空化させた。さすがに空気の無い所では、風は起こせない。


『もみじ……。せいちょう したの。』


 プリ様はしみじみと頷いた。ちゃんと制御が効いているので、部屋全体が真空状態になったりはしなかったのだ。銀座線の時と比べると、長足の進歩であった。


 一方、フルは呆然としていた。彼女にとっては、いずれも必殺の技なのに、そのことごとくを封じられたのだ。

 しかも、御三家の手練れならいざ知らず、何処の馬の骨とも知れない小娘にだ。


『てんてき……。わたしの てんてき……。ほんとうに そうみたい……。』


 相性が悪いとしか、言い様が無かった。


「くっ、()が わるい ようね。おいとま するわ。」


 切り替えの早さは、優秀な戦士である証だ。

 フルは、日記帳を持ったまま飛び上がり、戦線を離脱しようとした。


「テナウィップ!」


 しかし、それより先に、テナロッドを鞭に変えた紅葉に、足を巻き付けられ、床に転がされた。


「逃げようなんて、ムシが良過ぎるわよ。」


 思っ切り、フルに鞭を叩き付けながら言った。


「あなた、わかって いるの? この からだは たきのぼり……。」

「はっ? 知るか。私は頭に来ているのよ。」


 打ち付ける手を休めずに、紅葉は叫んだ。


「仲間を、リリスを、目の前で痛め付けられて、許せる訳ないでしょ!」

「ああっ、い、いたい。やめてぇぇぇ。」


 フルは耐え切れず、悲鳴を上げた。


「ほらほら、もっと良い声で鳴きなさいよ。」

「ああん。ゆ、ゆるして……。」


 どっちが悪者か分からないの……。

 プリ様がポツリと呟いた。


「紅葉ちゃん、それ以上は……。滝昇静ちゃんの身体が……。」

「平気、平気。こいつ(フル)、やっつけたら、ヒーリングをするから。」


 ヒ、ヒーリング?!


「だめえ! ダメよ、紅葉ちゃん。そんな酷い事、幼女にしては……。」

「何言ってるの? このくらいの傷、一発で治るわよ。」


 治る前に激痛が走るけどな。


「せ、せめて、フルの間にヒーリングをかけて……。」

「傷治したら、逃げられちゃうじゃない。」

「だ、だいじょぶなの。にげられないの。」


 プリ様とリリスに説得され、紅葉は、不満気ではあったが、ヒーリングをする事にした。


「じゃあ、ヒーリングするから、動かないで。」

「は、はひぃ。」


 迫り来る紅葉を前に、フルは涙で顔をクシャクシャにしていた。

 しかし、心中では、プリ様達のお人好し加減を嘲笑っていたのだ。


『ば、ばかめ。ちゆ(治癒)が なったら、すぐに にげだしてやる……。おまえたちの その あまさが いのちとりだ。』


 そんな余裕は、ヒーリングをかけられるまでだった。


『なんじゃ、こりゃ!』


 ヒーリングが始まって、真っ先に彼女の頭に浮かんだのは、この言葉であった。


 フルは歴戦の強者である。常に雛菊の傍に寄り添い、彼女と共に魔物を退治して来たのだ。少々の痛みで、気を失ったりはしない。


 その彼女をして、意識を保っていられたのは、最初の数秒であった。経験したことの無い激痛が全身をうねり回り、すぐに目の前が真っ暗になると、気絶していた。


「もぉぉぉ。大袈裟ね、こいつ。せっかく、治してやったのに……。」

『ひーりんぐ だけは うまく ならないの。ふしぎなの。』

『一度、紅葉ちゃん自身に、あの痛みを味あわせたいわ……。』


 紅葉の独り言を聞きながら、プリ様とリリスは思っていた。


「まあ、良いわ。動けない今のうちに、浄化してしまいましょう。」


 紅葉はウィップを再びロッドに変えて、先端をフルに向けた。


清浄なる(クリーン)月の光(ムーンライト)。」


 その清き光を浴びて、フルは意識を呼び起こされた。


「うわあああ。からだが……。わたしの たましいが からだから きりはなされるぅぅぅ。」


 凄まじい断末魔の声を上げ、紅い瞳でリリスを睨んだ。


「わすれぬぞぉぉぉ。この うらみ……。」

「いや、ちょっと待って。なんで、私が恨まれるの?」


 百歩譲って、恨むなら紅葉ちゃんでしょ? と、リリスは心の中で思った。


「おまえが『いい気味だ。』という めで みていたのを わすれぬ……。」

「見てない。そんな目で見てないわ。」


 実際、リリスは、自身も経験したヒーリングの痛みを思い出し、少しはフルに同情していたのだ。ほんの少しだけど……。


「そして いま。わたしが いなくなれば ひなぎくさまは じぶんの ものと おもった……。」

「思ってない。絶っっっっっ対に、思わないから。そんな事。」


 顔を真っ赤にして、全力で否定した。


「ゆるさぬぅぅぅ……。」


 それなのに、フルは全く聞く様子が無く、最後まで恨み事を言っていたが、やがて、再び意識を失った。


「浄化完了ね。次に目を覚ましたら、この子は滝昇静ちゃんよ。」


 紅葉が一仕事やり終えた、爽やかな顔で告げた。


 紅葉のクセに格好良い……。

 プリ様とリリスは、不思議な物を見る表情で、彼女の笑顔を見ていた。


「あっ、そうだ。」


 リリスは何かを思い付いて、滝昇静の服を脱がせ始めた。


「な、何? あんた、幼女の身体に興味有るの? でも、寝込みを襲うのは、お姉さん感心しないわ。」

「馬鹿言わないで。この子の身体の何処かに、人格転移する為のゲートが描いてあるはずよ。」


 紅葉に答えながら、リリスは黙々とゲートを探した。


「りりすぅ。むねに なにか かいてあゆの。」


 プリ様の指摘に、リリスは胸元を確認した。果たして、ゲートは入れ墨で描かれていた。


「なんて酷い事を。これではゲートが消せないわ。フルが戻って来るかも……。」

「大丈夫よ。入れ墨も傷みたいなものじゃん。私のヒーリングで消せるって。」


 あっ、待って。と、言う間も無く、胸元に向かってヒーリングがかけられた。

 静の身体が、一瞬、ビクンと跳ね上がった後、ゲートは消えていた。


 気絶していても痛いんだ……。

 プリ様とリリスは、紅葉のヒーリングの恐ろしさに、改めて慄然としていた。





前回の後書きで、七日連続出勤が始まるので更新期間が空くかもしれない、と書きましたが、一生懸命書き溜めて、何とかボチボチ投稿出来そうです。


良かったら、読んで下さい。

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