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フルの天敵

 ケルベロスの三つの首が、突然、炎を吐き出したので、和臣は咄嗟に後退した。


「お兄ちゃん弱ーい。逃げてやんの。」


 自分を指差して笑う渚ちゃんの声に、イラッと来る和臣。


「炎の魔法使いに炎で攻撃するとは、身の程を教えてやるぜ。」


 彼が魔法の杖をクルリと回すと、その軌跡に火の玉が六個、等間隔の円状に並んだ。


「ぷぷぷっ。なんか偉そうに言ってたけど、ケルちゃんの炎より全然ちっこいじゃん。お兄ちゃん、弱ーい。弱い。弱い。」


 あいつ、覚えていろ。帰ったら、プロレス技のエンドレス攻撃だからな。

 囃し立てる渚ちゃんに、和臣は復讐を誓った。


 ケルベロスも、和臣は組し易しと見たのか、土から出て全身を表していた。元々、プリ様のグラビティブレットを警戒していただけなのだ。


「教えといてやるぜ。どんな戦場でも、油断する奴は生き延びれないってな。」

「何、格好つけてるの? 弱いくせに〜。」


 決め台詞を言って、トドメを刺すかという時に、またもや茶々を入れられて、和臣は内心イライラだった。


「行けえ! 『肝臓を啄む炎』よ。」


 ケルベロスの吐いた炎を突き破って、六つの炎は、その巨体に食い込んだ。

 渚ちゃんが「ぷぷっ。変な名前。」と言ったのも、しっかり耳に届いていたが、今は怒りを押し殺し、和臣は戦いに専念した。


 しかし、もう勝負は決していた。内部に灼熱の炎を撃ち込まれたケルベロスは、堪らずのたうち回っていたが、どうしようもなく、ついに炎に呑まれ、灰となって果てたのだ。


「凄ーい。お兄ちゃん、私は信じていたよ。お兄ちゃんの勝利を。」


 嘘付け、この野郎。


 駆け寄って来た妹に、ニッコリ微笑むと、渚ちゃんもニッコリ微笑みを返した。美しい兄妹の触れ合いであった。

 その後、和臣は、流れるような動作で、コブラツイストを掛けた。


 地下空洞に「いたたたたた。いだぁぁぁいぃぃ!!」という渚ちゃんの絶叫が響いたのであった。




「止めてって、言っているのよー!」


 突然、リリスの蹴りが鳩尾にヒットして、フルの軽い身体は、板張りの床をコロコロと転がった。


「どうして……? もう、ゆびいっぽん だって うごかせない はずだわ。」

「あらあら。指どころか、全身に力が漲っているわ。」


 ユラリと、リリスが立ち上がった。


「貴女の紙吹雪を使って、空間中から魔法子を吸収しているから……。」

「それって、ひなぎくさまの とくいな、じゅつしきを はんてん(反転) させる わざ……。」


 呟くフルに、リリスは微笑んだ。


「教えて貰ったのよ。貴女の大好きなオクちゃんに。口移しでね。」


 痛め付けられて頭に来ていたリリスは、わざとフルの神経を逆撫でする言い方をした。思った通り、フルは怒りにワナワナと身体を震わせていた。


「まほうの だいれくとでんたつ(ダイレクト伝達) なら、からだの いちぶが ふれていれば じゅうぶん できるでしょ。どうして、くちづけ する ひつようが あるのよ。」


 えっ、そうなの? でも、オクはキスしないとダメだって……。


 騙された!!!!!


 それに気が付いたリリスは、羞恥と憤怒に血を沸騰させた。


 ああっ、もう。取り敢えず、こいつ倒す。

 ゴールデンソードを生成し、フルに迫るリリス。だが、彼女は平然として、避けようとしなかった。


「わすれたの? この からだは なんの つみもない、たきのぼりしずか(滝昇静)の からだなのよ。」


 そう言われて、リリスの動きが止まった。


「ころしても いいわよ? しぬのは しずかちゃん だけ。わたしは また じんかくてんい すればいいのだから。」


 フルは、ゆっくりと近付いた。


「じまんだった? ひなぎくさま から くちうつしで ちからを さずかったこと。」


 フルが扇を翳して一指し舞うと、リリスの身体に張り付いていた紙吹雪が消えていった。


「じゅつが きかないなら、ぶつりてきに いためつけて あげる。」


 両の扇であおがれると、物凄い風が吹いて、リリスの身体は吹き飛ばされ、床や壁に何度も叩き付けられた。


「ほらほら。どんなふうに ひなぎくさまから かわいがって もらったのか、もっと じまんして ごらんなさい。」


 グッタリと動けなくなったリリスを、今度は直接踏み付け始めた。


「げすな おんなめ。あのかたの あしもとに はいつくばる ねうちも ないくせに。なさけを いただいて、それを じまんする などと……。」


 白い髪を振り乱して、自分を踏み付けるフルに、リリスは手も足も出ないでいた。

 悪霊に取り憑かれている様なものなのだ。滝昇静の身体を奪い返す方法が無い以上、反撃は出来ない。


 リリスは歯を食いしばって耐えた。




 その頃、プリ様達は、廊下の一角にある壁の前で、思案をしていた。


「うにゃにゃにゃあああ。」

「ほら見なさい。やっぱり、猫には無理だったじゃない。こんな、何も無い所で止まって……。」


 ピッケちゃんは何の変哲も無い廊下を壁を、一生懸命、肉球で叩いていた。


「でも、こんなに ひっしなの。なにか、あゆと おもうの。」

「魔界野良猫だろうと、所詮は猫よ。愚かな生き物だわ。」


 嘲笑する紅葉に腹を立てたのか、ピッケちゃんは一声「ピッケ!」と鳴いた。その途端、叩いていた前足の爪が伸びて、深く抉るように、壁に傷を付けた。


「みて、もみじ。かべのなかに はぐるまが あゆの。」

「むっ。確かに何か仕掛けがあるわ。でかした、ピッケ。私が見込んだ通りの猫ね。」


 さっきまで、所詮猫とか、愚かな生き物とか、言っていたくせに……。

 プリ様とピッケちゃんは、ジトッと紅葉を睨んだ。


「よおし! とにかく ぶっこわすの!」


 ああっ、そういうとこトールのまんまだね……。

 紅葉は非常に懐かしい感覚にとらわれていた。彼も、行き詰まると、力技で状況を打破していた。


「みょぉぉゆぅぅにぃぃゆぅぅぅ。」


 ミョルニルの一閃で、壁には大穴が開いた。もうもうとした土煙が治ると、その後ろには、闘技場の様な空間が広がっていた。


 そこではリリスを足蹴にし続けるフルの姿があった。


「やめゆの!」

「ちょっとアンタ、止めなさい。」


 プリ様と紅葉が同時に叫んだ。


 エッチな責めをしているのならともかく、仲間に暴力を振るわれているのを、黙って見ている紅葉ではない。


 言葉よりも先に「月面を穿つ隕石メテオ・ストライク・ルナ・サーフェス」が放たれていた。


「ダメよ!」


 それを見たリリスは、フルを庇って攻撃の矢面に立った。紅葉は慌てて隕石の軌道を変え、辛うじてリリスへの直撃を避けた。


「りりす。どうして、そいつを かばうの?」

「そうよ、もしかしてアンタ……。」


 紅葉が一瞬、言葉を溜めた。


「マゾなの?」


 …………。暫し、その場を沈黙が支配した。


「まあ、それは それとして……。」

「何で、それとするのよ、プリ。」


 プリ様と紅葉の遣り取りに、フルが面白そうに笑い声を上げた。


「りりすちゃんは この からだが とても たいせつ なんだって。」


 フルは、自分で自分の身体を抱きながら、言った。


「それって、つまり……。」

「どゆこと? もみじ。」


 紅葉の呟きに、プリ様が質問した。


「プリ……、駆け付けるのが遅かったわ。もう、リリスはあいつに陵辱されて、調教されてしまったのよ。」

「何言ってるの? 違うわよ!」


 紅葉の解釈に、リリスは即座に突っ込んだ。


「調教済みの奴隷ちゃんに成っちゃったんじゃないの? あいつの身体無しでは生きていけない、みたいな?」

「そんな訳ないでしょ!」


 リリスは顔を真っ赤にして反論した。


「こいつは、この女の子の身体を乗っ取っているの。身体の持ち主、滝昇静ちゃんには、何の罪もないのよ。」


 リリスが辛そうな声で、どういう事態かを告げた。

 さすがのプリ様も、ミョルニルを握る手に力を籠めたまま、たじろいだ。


「おっほほほ。まあ、そういう ことよ。これから わたしは この おんなを つれてかえるけど、あなたたちは ゆびを くわえて ながめてなさい。」


 フルはリリスを指差し、勝ち誇って言った。


「りりすぅ。」

「仕方ないわ、プリちゃん……。」

「あっははは。かなしまなくても いいわよ。りりすちゃんは ひなぎくさまの ぺっと として、しあわせに くらすから。」


 悲痛な別れの瞬間であった。


「あのぅ〜?」


 場の空気を壊す様に、紅葉がのんびりと手を上げた。


「要するに、その子、悪霊に取り憑かれているみたいな状態なのね?」

「そうよ。人格転移なの。」


 ふぅーん。と、また、緊張感の無い声を出した。


「……、なんなの あなた? じょうきょうが りかい できてないの? ばかなの?」


 フルが不快そうに顔を顰めた。


「状況? 理解してるわよ。全然、問題なんかないの。何故なら……。」


 紅葉は自信たっぷりに、自分の胸を指差した。


「あんたの天敵が此処に居るからよ!」




今月の末から来月の頭にかけて、七日出勤中一日泊まり、というスケジュールになってます。

……、何でしょう? このオール怪獣総進撃みたいな日程は。


ブラックなんでしょうか? うちの会社、ブラックなんでしょうか?

なるべく考えないようにしていたのですが、もう、ブラックだとしか思えない……。


そういう訳で、とんでもなく更新期間が空いてしまう時があるかもしれません。

書き溜めて均等な間隔で更新を、などと考えてはいるのですが、いかんせん遅筆なもので、空いてしまったら、ごめんなさい。


二週間以上、更新が無かったら、社畜が一人過労死したのだと思って下さい。


そういえば、評価が付いてました。ありがとうございます。

いつも、読んで下さる皆様に感謝です。

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