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ゆきんこ なの

 皆んなを乗せたストレッチリムジンは、霞ヶ関の方に進んでいた。

 官庁街だな、と和臣は外の光景を見て思っていたが、車は一直線に国会議事堂に向かい始めた。


「おい。このままだと国会議事堂に突っ込んでしまうぞ、六連星。」


 焦った和臣は、思わず、渚ちゃんとお喋りしていた六連星に声を掛けた。


「あらあら。大丈夫よ、和臣ちゃん。目的地は、正にその議事堂なんだから。」


 六連星に代わって、リリスがニッコリ笑って返事をした。その言葉に、和臣のみならず、紅葉と渚ちゃんも目を剥いた。


「議事堂……? に住んでいるの?」

「正確には、その地下よ。日本の行政府の中心を基点に、光極天地下都市が拡がっているの。」


 また、地下か。都内の地下は全部、此奴ら御三家の秘密基地になっているんじゃないのか?

 紅葉は非常に胡散臭いものを見る目で、渚ちゃんの質問に答えるリリスを見た。


「議事堂の地下に住んで居るって……。もしかして、六連星ちゃんって……。」


 渚ちゃんが呟く声を聞いて、和臣はハッとした。


 しまった。さすがに馬鹿でも、この異常さには気が付くか……。


 どう誤魔化すんだ、とリリスを見たが、リリスはニッコリと柔らかな笑みを浮かべるばかりであった。


「もしかして、六連星ちゃんって、凄いお金持ちなんだ?」


 お金持ちで済む話なのか?

 叫びたくなる衝動を、和臣はグッと堪えた。リリスは「ね? 大丈夫でしょ。」という顔で、微笑みかけていた。


 見切られている。馬鹿さ加減を見切られている。

「凄いねえ、リリス。」と話し掛けて、リリスに「そうねえ。」と当たり障りの無い返事をされている妹を見ながら、和臣は頭を抱えていた。


 その間にも、車は正面の門をくぐり、右手に折れて、脇の駐車場へと向かっていた。だが、一向にスピードが落ちる気配が無い。どころか、突っ込んで行く。


 壁にぶつかる、と思った瞬間、駐車場の地面の一部が下に折れ(野球盤の消える魔球を想像して頂くと、よろしゅうございます)、ストレッチリムジンは地下通路に入って行った。


 道は幾つにも分かれていて、この地下施設が大規模なものであるのを感じさせた。そして、かなり下まで降りて、漸く車が停止した。

 運転手の乱橋にドアを開けてもらい、皆んなは外に出た。


 そこは、トンネルを抜けた先の、かなり大きな空洞だった。天井までは二十メートルくらいはありそうだ。

 奥行きは深く、先は見えなかった。その空間を占拠するように、大きな和風のお屋敷が建っていて、視界を塞いでいたからだ。


「此処から先は歩きだそうよ。」


 六連星が手描きの地図を確認しながら言った。


「じぶんち なのに ちずが いゆの?」


 プリ様の素朴な疑問に、皆も頷いた。


「この先は通称『雛菊のエリア』と言って、雛菊叔母様存命中は、彼女に選ばれた人間しか入れなかったらしいの。」


 大きな門の前で、六連星が語った。


「これは、お父様が、何回か入った時の記憶を元に、描いてくれた地図よ。」


 光極天の当主ですら、出入りを制限されていたのか……。

 リリスは改めて、雛菊の力の大きさを感じていた。


「『この門を通る者、一切の希望を棄てよ。』か……。」


 紅葉は門の上に書かれている文字を読んだ。


「厨二病って感じじゃん。」

「違うわ。奴は『厨二病って感じの自分』を楽しんでいるのよ。」


 リリスが、紅葉の感想に、意見しながら門を開けると、不意に手を叩く音が聞こえてきた。


「びちゅうあんの こむすめ。よく、ひなぎくさまの ことを りかいして いますわね。ほめて あげますわ。」


 門と屋敷の玄関を繋ぐ石畳みの、ちょうど真ん中くらいに、プリ様くらいの女の子が立っていた。

 その子の異様な姿は、思わず凝視せずにはいられなかった。


 オカッパの髪は真っ白で、肌の色も、色素が無いかの様に、透き通った白さだ。着物の色も、帯まで白くして、全身白づくめだ。その中で一点、瞳だけが真っ赤な血の色をしていた。


ゆきんこ(雪ん子) なの〜。」


 プリ様は、珍しがって、近寄って行った。


 いや、迂闊に近寄るなよ、お前。


 全員がそう思った瞬間、何処からか吹き出した紙吹雪に、プリ様の姿が飲まれた。


「おっほほほ。おろかな ぷりちゃん。さいしょの ぎせいしゃに なりなさい。」

「きゃあああ。プリ様ぁぁぁ。」


 昴が悲鳴を上げた。プリ様はどうなってしまうのか?!


 ……、どうもなりはしなかった。紙吹雪の中で「ぐらびてぃぼーる!」という声が上がり、暫くすると、辺りを埋め尽くしていた紙吹雪が、プリ様の持つサッカーボールくらいの黒い球体に、全て吸収されていた。


 解説しよう。グラビティボールとは、グラビティウォールやグラビティブレットよりも重力の強さを薄味にし、周りに損害を与えずに、敵の攻撃のみを吸収する、プリ様の新技である。


「プリ……。毎日、プリキューのディスクを見て、ゴッコ遊びをしているだけかと思っていたけど、ちゃんと色々考えているんだね……。」

「ぷりだって まじめに やってゆのー!」


 紅葉の言葉に、プリ様がムキになって反論した。


「じゅうりょくを あやつるの。ぷりは むてきなの。」


 プリ様は白い幼女に向かって、自慢気に胸を突き出した。彼女は呆れた様な目で、プリ様を見ていた。


「おっどろいた。ほんとうに じゅうりょくせいぎょ できるのね……。」


 幼女がそう言っている間にも、プリ様は、その白い髪を梳いてみたり、手を握ったりしていた。


「しろいの。ほんとに しろいの。ゆきんこ なの。」


 プリ様が、両方の頰を引っ張り出した時点で、我慢出来なくなったのか、頭をポカリと一発殴った。


「い、いたいのぉ。」

「いいかげんに しなさい。はなしが すすまない でしょ。」


 プリ様は叩かれた所を摩っていたが、やがて「えーん。すばゆ〜、たたかれたのぉ。」と言って、昴に泣きついた。昴は「おお、よしよし。痛くない。痛くない。」とプリ様を甘やかしまくった。


「で、貴女は誰で……、というか、幼女神聖同盟なんでしょ。何しに来たのかしら?」

「よくぞ みやぶった。びちゅうあんの こむすめ。われこそは ようじょしんせいどうめい ななだいてんしの ひとり。()ふる(フル)!」


 見破ったも、くそもなあ……。馬鹿でない限り、普通はわかるよなあ……。

 渚ちゃん以外の皆は、そう思っていた。


「何々? 何? 幼女神聖同盟って何? あの子、何者?」


 事情の分からない渚ちゃんは、一人パニック状態だった。


「あなたたちの さがしているものは これでしょ?」


 フルがパチンと指を鳴らすと、彼女の前面に、巨大な犬の首が三つ出た。


 地獄の番犬、ケルベロス!


 その三つの首の額に、日記帳らしき物が、それぞれ貼り付けてあった。


「ほしければ、けるべろすの けるちゃん(ケルちゃん)を たおして、てに いれるのね。」


 フルはそう言うと、紙吹雪に包まれて、姿を消した。


『ここまで、仰々しく見せるという事は、あの日記帳みたいな物は本命ではないわね……。』


 リリスは考えて、プリ様を見た。目が合ったプリ様は、大きく頷いた。


「むつらぼし、らんばし! ふたりで、すばゆと なぎさしゃんを まもゆの!」

「えっ……、はい。」

「かずおみと もみじ! ぷりと けるちゃんの あいて なの。」

「おっ……、おう。」

「りりすは ふるを おうの!」

「ありがとう、プリちゃん。」


 プリ様はテキパキと指示を出し、その迫力に、何となく六連星達も従った。


 リリスは、フワリと、ゴールデンクラフトで飛び上がった。そのまま、ケルベロスの頭上を通過しようとしたら、三つの頭が一斉に牙を剥き、リリスに向かって首を伸ばした。


「ぐらびてぃぶれっと ばきゅーん! ばきゅーん! ばきゅーん!」


 三連射! 狙いは過たず、ケルベロスの三つの首筋に当たり、凄まじい咆哮が響いた。その隙に、リリスは屋敷の玄関の前に降り立った。


「ああっ、リリスが行っちゃう。」


 渚ちゃんが、フラフラと前に出かかって、乱橋は慌てて止めた。


「嬢ちゃん、危ねえぞ。」

「止めないで。リリスを追わなきゃ。」


 その声に、リリスは振り返り、渚ちゃんにウィンクをした。


「そこで待ってて、渚。すぐに戻るわ。」


 そう言うと、フルを追って、屋敷の中に入って行った。


随分、更新期間が空いてしまいました。読んで下さっている皆さん、すみません。

風邪が治らなくて……。


小康状態の時にボチボチ書いてます。

せめて、二、三日、お仕事を休めれば治るのでしょうが、それが出来ないのが社畜の辛いところです。


ところで、地下通路に入る時の例えで、野球盤を出してしまいましたが、野球盤って、今もあるのでしょうか。

電子ゲーム(この言い方も何だか古臭い)全盛の昨今、最近の人は野球盤なぞ知らないのでは?

という疑念が、一瞬、頭をよぎったのですが、風邪菌に冒された脳髄では、他に適当な比喩も思い付かず、つい、使ってしまいました。


風邪を引いたら大威張りで休めた、子供の頃に帰りたいです。

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