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プリ様の資質

 日曜日の朝、珍しく予定の無かった胡蝶蘭は、少し寝坊をして、リビングへと向かった。

 そこには、昴の膝の上に乗っかって、テレビの前に陣取っているプリ様がいた。


 ああ、魔女っ子プリプリキューティが始まるのか……。

 胡蝶蘭は欠伸を堪えながら思った。


「はじまったの〜。」

「始まりましたね〜。」


 プリ様が歓声を上げ、二人は揃って主題歌を口ずさみ出した。


『私が子供の頃の、この時間帯って、もっと平和な番組をやってたけどな……。』


 テレビ画面の中を、縦横無尽に暴れ回る、三人の魔女っ子プリプリキューティを見ながら、胡蝶蘭は思っていた。

 確か、果物の家来達を連れたお姫様が、諸国漫遊をするアニメだった。


 運ばれて来た朝食を食べながら、見るともなしに見ていたら、物語はいよいよ佳境の戦闘シーンに突入して来た。

 プリ様は興奮して、盛んに拳を振り回していた。


「やっつけちゃえ〜。とどめ なの〜。」


 いつもは熱中する様子を、子供らしいなあ、と思いながら見ていたが、雛菊の事が頭に居座ってから、どうにも聞いていて落ち着かなかった。


 光極天の家に生まれた雛菊は、勿論、退魔の業も請け負っていた。

 その能力は、他の追随を許さず、敵に対しても、一切の情けを掛けなかったそうだ。好戦的で、呵責無き殺戮者。それが、雛菊に対する皆の評価だった。


『いやいや。母親が我が子を信じて上げなくてどうするの? プリちゃんがそんな人間になる訳ないじゃない。』


 目を輝かせて、魔女っ子プリプリキューティ達の活躍を見守っているプリ様を、胡蝶蘭は見つめ直した。


「こんしゅうも おもしろかったのぉ。」

「はい、もう、感動ですぅ。」


 ドサクサに紛れて、昴はギュッとプリ様を抱き締めていた。

 プリ様の方は、抱き締められながらも、買って貰ったばかりのミラリンミラミラステッキを掲げていた。


「はやく、ようじょしんせいどうめい せめて こいなの。ぷりが やっつけて やゆの〜。」


 あっ、これは危険かもしれない。

 胡蝶蘭は頭を抱えた。


「プ、プリちゃん……。」

「おかあたま〜! おはようなの。」


 胡蝶蘭の存在に気付いたプリ様は立ち上がり、テトテトと、お母様の元へ駆け寄った。


「プリちゃん、魔女っ子面白かった?」

「うん、なの。」

「プリちゃんも魔女っ子みたいに戦いたいのかなあ?」


 さすがは母親である。話の導入部を魔女っ子プリプリキューティにする事によって、プリ様の警戒心を解き、本音を引き出そうとしているのだ。

 後ろで聞いていた昴は「あっ。」と思ったが、興奮冷めやらぬプリ様は「たたかい たいの〜。」と、ペロリと本音を漏らしていた。


「戦うの好き?」

「たたかって、かつの! すっきり すゆの!」


 胡蝶蘭の顔が徐々に険しくなっていくのが分かり、昴は「あああ……。」とオロオロしていた。当のプリ様はアニメを見て、高揚した気持ちのままに、一生懸命に自分の思いを伝えていた。


あらとよん(アラトロン)も、べとーゆ(ベトール)も、つよかったの。つよければ、つよいほど、おもしよいの。」


 危険度Aクラスである。胡蝶蘭は自分の中に流れる光極天の血を呪った。


「でもね、なかよく なれゆの。ちからいっぱい たたかうと。それが いちばん すきなの。」

「プ、プリちゃん……。」


 胡蝶蘭はプリ様を搔き抱いた。

 プリ様にとって、戦いとは、考え方の違う相手と仲良くなる為の、儀式の様なものなのだ。行為は同じでも、敵の殲滅しか考えなかった雛菊とは、真逆のベクトルで、プリ様は戦っていた。


「ごめんね、プリちゃん。一瞬でも貴女の資質を疑ってしまって……。」

「おかあたま……。」


 母の内心の想いなど知らず、プリ様は小さなお手手でピッタリと彼女に抱き付いて、その温もりを甘受していた。

 胡蝶蘭は、そんなプリ様を誇りと思っていた。人々を守るだけでなく、敵すらも友として絆を結べる広い心を持っているのだ。


『でも、いつか、プリちゃんも知る時が来る。戦いの果てにある、拭い切れない哀しみを……。』


 願わくば、その運命を乗り越える強さを、この子に与え給え。


 祈る事しか出来ないもどかしさに、娘を抱く腕に力が篭る胡蝶蘭であった。




 その頃、リリスは、六連星の案内で、光極天家の長老のオババ様の所に向かっていた。目を付けられているらしい彼女に、雛菊(オク)対策用の知恵を授けて貰う為であった。


「随分田舎に住んでらっしゃるのね。」


 光極天家のリムジンに揺られながら、隣の席に座っている六連星に、リリスは呟いた。


「…………。」

「あらあら、どうしたの? 押し黙っちゃって……。」

「ねえ、アマリちゃん……。」


 言い掛けて、また口籠もった。


「オクが……雛菊が昴ちゃんの母親だっていう件?」


 リリスに言われて、黙ったまま頷いた。


「私や、他の兄弟と、お姉様は母親が違っていた。それも、あの『雛菊叔母様』だったなんて……。」


 勿論、六連星も、一族中から恐れられていた叔母の話は聞いていたが、誰も名前を口にしたがらないので「雛菊」と聞いても、ピンと来なかったのだ。


「でも、問題はそこじゃないの。お父様と叔母様は兄妹だった。その二人の間に、お姉様は生まれたというの?」


 あり得ない話ではない。と、リリスは思っていた。

 光極天家は「昴」を生み出す為に、その始祖の昔から「昴」に至るまでの系図が、予め書かれていたらしい。

 つまり、子供が生まれて系図が書き足されるのではなく、系図通りに子供を作るのを義務付けられていたのだ。


『昔は兄妹婚は別にタブーではないものね……。』


 だが、現代では問題だ。だからこそ、表向き尊治は六連星達の母親と結婚し、昴も彼女との間の娘だと偽っていたのだろう。


「お母様に聞いても、何も答えてくれないの……。でも、私、何となく分かった。なんで、お姉様が、光極天家であんなに疎まれていたのかを……。」

「貴女も昴ちゃんが怖くなっちゃった?」


 リリスに言われて、六連星は目を剥いた。


「馬鹿な事を言わないで。お姉様は、お姉様よ。ただ……。」


 六連星は両手で顔を覆った。細かく身体が震えていた。


「……分からない。恐れているのかもしれない……。『光極天の悪魔』とまで言われた女性(ひと)が、お姉様の母親……。それも、お父様の妹……。何が、どうなっているの?」


 リリスは、リムジンの座席で身体を丸める六連星の背中を、優しく撫でてやった。


「誰だって混乱するわ。自分を責めないで、六連星。」

「……。今日はヤケに優しいのね、アマリちゃん。」

「あらあら、私はいつだって優しいわよ?」


 顔を隠した指の間から、自分を見て来る六連星に、リリスは柔らかく微笑んだ。




 それから暫くして、車は山中の一軒家の前で止まった。


「着いたぜ、お嬢。リリスちゃん。」


 運転席に居た乱橋が、後部座席のドアを開けてくれた。この男も、今日は何だか大人しかった。


「リ、リリスちゃん……。」


 車から降りると、目を潤ませて、リリスを見ていた。


「幼女に陵辱されたって、本当なんか? 俺の、俺のリリスちゃんの純潔が……。」

「誰が貴方の純潔ですか。」

「リリスちゃん、逃げよう。俺と一緒にアマゾンの奥地に……。」


 感極まった乱橋が抱き付きそうになったので、リリスは遠慮なくアッパーカットを食らわせた。


「純潔を穢されたりしてないので、ご安心下さい。幼女の遊びに付き合わされたようなものです。」


 雛菊の生まれ変わり(?)と言っても、所詮は幼女である。性的な行為を強要などされてはいない。


 まあ、裸にはされたけど……。

 その後、エッチな水着を着せられて、身体中を触られまくって、時々舐められて、サキュバスライムに調教されそうになって……。


 充分なセクハラだわ。

 しかも、良く考えたら、ファーストキスはオクに奪われてしまっていた。

 リリスの胸中に怒りの炎が渦を巻いた。


「六連星、行くわよ。」


 この家には雛菊をよく知る者が居るのだ。弱点の一つでも聞き出せれば、儲けものである。


 リリスは猛然と門扉を開けた。






プリ様の大好きなプリプリキューティの元ネタにしているアニメなのですが、最初は二人だった筈なんです。


なんか人数増えて来てない? と薄々気付いてはいたのですが……。

そのうち、ファイブとか言い出して、えっ、一気に五人に? と驚いたのを覚えてます。

だけど「まあ、中学生くらいの女の子のやる事だし。」と放置していたのが、いけなかったのです。


去年、スカパーの番組宣伝を見ていたら「四十余人のプ○キュアが……。」とか言っているではありませんか!


二十倍以上になっとるんやん……。


しかも、聞けば彼女達は、一人でも私の大好きな仮面ラ○ダー全員分に匹敵する攻撃力を有している、というではないですか。(お友達のアイちゃん情報)


恐ろし過ぎです。そんな奴らが集まってお花見までしているらしいのです。

いったい日本はどうなってしまうのでしょう。


二、三人のうちに、政府が何かしら手を打っておくべきだったのでは?

と悔やまれてなりません。


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