真夏の夜空に大輪の花を。
サキュバスライムとの激闘を制したリリスは、目を覚ました渚ちゃんから、自分がオクに陵辱されている間に、船内で何が起こったかを聞いた。
「不思議な現象で、皆が船から降りられないようになっているのね?」
リリスはグラつく船の中を走りながら、渚ちゃんに確認した。
「ハアハア。そうだよぉ。ハッハッ。だから……、私達、にげられないの。」
渚ちゃんが、息を切らしつつ、返答した。飛ぶ様に走るリリスに、ついて行くだけで精一杯だ。
『オクが結界に何か細工をしたのね……。』
リリスはそう睨み、船底の結界装置に向かった。
「リリス、待ってよぉ。」
渚ちゃんは、その後を、青息吐息で追って行った。
「『ぐらびてぃぶれっと ばきゅーん』ですってぇぇぇ。」
オフィエルは、動かなくなった左腕を、何とか制御しようとしていたが、強い重力に押し潰されたみたいになっている、拳の部分は諦めてパージした。
「『ときめきなさい』が ぬけて ますわ。」
意味不明の突っ込みをしながら、正面コンソールにあるキーボードに、高速でプログラムを打ち込んだ。
すると、今迄に壊された蟹型ロボやプリキラーロボの右腕から、まだ使える部品達が集まって来て、左腕の拳だった箇所に、巨大なドリルが組み上がった。
「ど、どりる なの〜。」
「何喜んでるのよ、プリ。そんなので、船を突きまくられたら……。」
紅葉に言われて、プリ様もハッと気が付いた。
「くらえ〜、ですわ。」
ドリルがプリ様に迫る。と、先端がいきなり射出された。咄嗟に魔法障壁を張るが、力負けして、プリ様は弾き飛ばされた。そのまま先端は船体を抉った。船が再び、大きく傾いた。
「さいごの おくのて、どりるぱんち ですわ。」
ドリルパンチは補充が利くらしく、新しい先端が、左腕の奥の方から押し出されて来た。
「これぞ、ろけっとぺんしる ほうしき! ですわ。」
お前は昭和の子供か。と、突っ込みたくなる台詞を、オフィエルは叫んだ。
「まずいわ。プリちゃんの障壁では防ぎ切れないみたい。」
胡蝶蘭の言葉に清江はフンと鼻を鳴らした。
「全く、最近の若い者ときたら、だらしの無い……。」
清江は、高齢者とは思えない素早さで、プリ様の前に移動した。
「そこなロボット。ドリルパンチなど、いくらでも私が防いで差し上げます。」
いきなりシャシャリ出て来たお婆さんを見て、オフィエルはピンと来た。最初、子機達を封じ込めていたのはコイツだな、と。
「それならば、うけてみろ。ですわ〜。」
発射されるドリルパンチ。だが、清江の障壁は、それを受け止めた。
「やりますわね〜。」
オフィエルは舌を巻いた。ドリルパンチは障壁に阻まれ、それ以上先には行けないでいた。出しゃばって来るだけの事はある。
「でも、ざんねん ですわね。」
続けて、もう一発、更に一発。計三発のドリルパンチが障壁に食い込んだ。
「おお、伯母様!」
「きゃー、プリちゃん!!」
尊治と胡蝶蘭が悲鳴を上げた。障壁に亀裂が入ったからだ。
そして、和臣と紅葉もヤバイと思っていた。あの三発が同時に当たれば、今度こそ船は沈む。絶体絶命だった。
その時、尊治の腕から逃れた昴が、プリ様の元へと(五十メートル二十秒くらいの速度で)駆け出していった。
「天莉凜翠様!」
船底の結界装置の前で、途方に暮れていた結界師達は、駆け付けたリリスを見て、救われた気持ちになった。
御三家の中でもトップクラスの実力の持ち主だ。必ず何とかしてくれる、という安心感が漏れ溢れていた。
『リリスって、頼りにされているんだ……。』
渚ちゃんは、皆の様子を見て、感心していた。
『でも、そんなリリスを、私は助けたんだ。』
目覚めた時、リリスは開口一番「貴女のおかげで救われたわ、渚。」と、微笑みかけてくれたのだ。
思い出すと、自然に顔がにやけてくる渚ちゃんだった。
そのリリスは、結界装置の様子を一目見て、フムと頷いた。
『オクが私の賢者の石にかけた、魔法の性質を逆転させる魔法ね……。』
それは口付けによって、オクから、やり方を伝授されていた。
『陵辱されたのも、無駄ではなかったわね……。』
と思いかけて、猛然と怒りが蘇って来た。
『陵辱されて良い訳ないわ。殺す。あのガキ、絶対殺す。』
その怒りを力に変えて、リリスは結界に向き合った。差し出した右の掌が光り、結界に干渉した。
「おおっ。」
その場に居た、渚ちゃん以外の全員が、結界が正常に機能し始めたのを感じた。
「昴プロテクト!」
昴の可愛らしい声が上がり、突き破られた清江の障壁の下に、新たな防護壁が現れた。
「あ、貴女が張っているの?」
清江が驚いた声を出した。それは、彼女のものより、余程強力な防護壁だったのである。
しかし、驚いているのは、昴とて、同じだった。
『わ、私に、こんな力が……。』
プリ様を護りたい。ただそれだけの、純粋な願いだったのだ。それが力になるなんて……。
だが、どういう訳か、それを見ていたオクは慌てた。
「だめよ、すばるちゃん! あなたは まほうしを ほうしゅつ させては だめ!!」
そんなオクの狼狽振りに、胡蝶蘭は不審を持った。
「貴女、昴ちゃんの事、何か知っているの?」
「へっ……。な、なんの こと かしら?」
「十年前の昴ちゃんの失踪について、何か知っているんでしょ?」
言われたオクの額には、滝の様な汗が流れていた。
「ししし、しらないわ。」
何か知っている、この子。
胡蝶蘭は確信した。
一方、プリ様は焦っていた。防護壁を張る昴が、とても苦しそうなのだ。
うって出たい。でも、船をこれ以上壊せない。
プリ様は煩悶していた。
その時、プリ様達の居る甲板より下の階層から、大勢の人の声が聞こえた。避難していた人達が、外に出ているみたいだ。
「プーリーちゃーん!」
渚ちゃんが、階段を昇って、甲板に顔を出した。
「リリスから伝言! 結界を元に戻して、乗客は逃した。もう、何も心配は無い……。」
渚ちゃんは、ここで、思っ切り溜めた。
「一気に敵をぶっ飛ばしちゃえ!!」
それを聞いたプリ様の瞳が輝いた。
「ぐらびてぃ ぶれっと。ばきゅーん! ばきゅーん!! ばきゅーん!!!」
三連射。ドリルパンチは先端から潰され、マンホールの蓋みたいになって、甲板上に落ちた。
「おかあたま、すばゆを おねがい しまちゅ。」
息も絶え絶えになって崩れ落ちた昴を、胡蝶蘭に託し、プリ様は飛び上がった。
「みょぉぉぉゆぅぅぅにぃゆぅぅぅ。」
振り上げたミョルニルが帯電した。そして、力任せに、ロボットの左腕目掛けて叩きつけた。左腕は粉砕し、船の右舷にも大穴が開いた。船の揺れは酷くなったが、もう、プリ様は気にしてなかった。
「あっははは。たのしいの〜。」
飛んで来るミサイルを、身体中から放出した雷で爆発させながら、プリ様はロボットの正面に回り込んで、滅多矢鱈とミョルニルで叩いた。
ロボットの胴体はボコボコとへこんだ。
「もう、だめ ですわ。」
オフィエルは、動かなくなった胴体をパージし、強化スーツだけの状態に戻った。
「くっ、れーざーで……。」
強化スーツは翼を羽ばたかせて飛んでいたが、人質と言える乗客達も、もはや無く、このままでは、グラビティウォールでトドメをさされるのは、時間の問題だった。
その前に仕留めねば……。
真っ赤なレーザーが夜空に光った。ちょうど、最後の花火が乱れ撃ちされている時刻であった。花火の瞬きを縫う様に走るレーザー光。狙いは過たず、プリ様に向かっていた。
銃口が光ったと思ったら、目標物を貫くのがレーザー光線である。離脱と同時に撃ったオフィエルのタイミングは絶妙であった。
普通ならば、次の瞬間には、プリ様は身体に大穴を開けられていた筈だ。
しかし、その攻撃はプリ様も予想していたのだ。彼女も、強化スーツが姿を現したのを見るや、自分の前面にグラビティウォールを出現させていた。
「れーざーが すいこまれる……。」
それに一瞬気を取られたオフィエルは、プリ様の姿を見失った。
一番最後の花火が、漆黒の空に大輪の花を咲かせた時、その光に包まれたプリ様が、ミョルニルを強化スーツに振り下ろした。
「もはや これまで。」
オフィエルは脱出し、強化スーツは最後の最後に、真夏の夜空を煌めかして、爆発四散した。
まとめサイトに、女性の描く漫画の特徴、みたいな記事がありました。
その特徴の一つに、入浴時に髪をまとめている、というのがありまして、なるほどなあ、と感心しました。
入浴シーンは好きで……、入浴シーンは好きで(大切な事なので、二回言いました)、このお話にも何回か出してますが、その時、女の子達が髪をどう処理しているかなんて、考えもしなかったです。
ネカマへの道は遠い。もっと研鑽せねば……。
そう決意するオジさんなのでした。