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ぐらびてぃぶれっと! ばきゅーん!!

「いけ! ぷりきらーろぼ。」


 合体したロボに、オフィエルは変な名前を付けていた。強化スーツという建前は、もう捨てたみたいだ。


ぷりきらーよぼ(ぷりきらーろぼ)!?」


 格好良い、とプリ様は思っていた。だから、キラーされても良いのか? プリ様。


 プリキラーロボは右手を振り上げ、甲板上のプリ様に向かって、振り下ろした。プリ様はミョルニルで、ロボの拳を叩いた。その場に凄まじい衝撃波が走り、右手は粉々に砕け散ったが、甲板にも亀裂が入り、右舷の構造物が大破した。


『やばいの……。』


 船は大桟橋に停まっていたが、出口となる右側が壊れたのでは、結界が解かれても、脱出出来ない。


『これ いじょうは こわせないの。』


 プリ様は船縁からキャビン側に移動したが、それを追って、容赦無くミサイルが発射された。


「ぷりばりあー!」


 プリ様も対抗して、自分の魔法障壁に、妙な名前を付けていた。


「防戦一方だな。」


 蟹型ロボを追ってやって来た和臣が、プリ様の戦い方を見て呟いた。

 和臣だけではない、昴や紅葉、尊治をはじめとする光極天の面々も、やって来ていた。


「きっと、プリ様は、船を壊さないようにしているんですぅ。」


 メギンギョルズの羽を、美しく発光させながら、プリ様はロボの周りを飛び回っていた。攻撃すると、すぐにミサイルを撃って来るので、迂闊に手を出せない状況だ。


 プリ様とオフィエルが、互いに相手しか目に入っていないようなので、オクは、そうっと、その場から……。

 その時、シュルルっと、メギンギョルズの紐が伸びて、オクの小さな身体に巻き付いた。


「どこ いくの? おく。」

「ぷ、ぷりちゃん……。」

「ま・さ・か、ひとりで にげないよね? そんなの ゆゆさないの……。」


 プリ様の背後に、怒りのオーラが渦巻いていた。それを見て、愛想笑いをするオク。


「もううう、おくさまったら。わたしが こんなに いっしょうけんめい ぷりと たたかって いるのに。ゆるせない ですわー。」


 激昂したオフィエルが、多弾頭ミサイルを発射した。メギンギョルズの紐は、オクに巻き付いたまま、触手を思わせる動きで、彼女をミサイルの矢面に持って行った。


「ひどい〜。ぷりちゃん!」


 オクはバリアーでミサイルを防いだが、広範囲に広がっていたので、何発かは船に直接当たった。


『い、いま、ふねが ちょっと かたむいたの。』


 プリ様は焦りの表情を見せ、構ってられないとばかりに、オクを放り投げた。


「ひどい、ひどい〜。ぷりちゃん!」


 オクは受け身を取って、甲板上に転がった。


「船を守りながらだから、本来の力を出せないのか……。」

「そ、そうよ。みんな、ちからを かして ちょうだい。」


 紅葉の呟きに、その場に転がって来たオクが答えた。


「お、お前はオク!」

「オクって……、あの盟主の子?」


 和臣が叫び、胡蝶蘭が確認した。


「貴女がオクちゃんなら、あのロボットの攻撃をやめさせなさい。船がもたないわ。」

「ざ、ざんねんながら、わたしも あの ろぼっとに ねらわれて いるの。」


 オクは慙愧に耐えないといった顔で俯いた。皆は、何か、止むに止まれぬ事情があるのだろうかと、慮った。


「ちわげんか なの〜。そいつと おふぃえゆの。ぷりたちは まきこまれて いゆの〜。」


 ロボの攻撃を躱しながら、プリ様が、皆に向かって叫んだ。

 どえらい迷惑だな〜、と皆はオクをジッと見た。


「だ、だから、きょうりょく するから。」


 非難の視線に堪え兼ね、オクは冷や汗をとばしながら、手を振った。


「おくが、けっかいを とけば いいの。そしたら、みんな にげられゆの。」


 戦いながら、またプリ様が解説した。


「アンタが結界張っているの?」

「も、もみじちゃん。おかお こわーい。」

「結界解きなさいよ、早く。」


 全員にグルリを囲まれ、冷や汗塗れになるオク。


「さあ、早く解きなさいよ。さあ、さあ。」

「い、いやよ。」


 何ですと?


「おこった おふぃえるちゃんと ふたりきりで たいじ(対峙)する なんて いや。」


 オクは頰を膨らませ、完全に開き直った態度で、言葉を続けた。


「あの ろぼを こうどうふのう(行動不能)に したら、けっかいを といて あげる。」


 この小悪魔めぇぇぇ。紅葉は食い付かんばかりの表情をしていた。


「ぎせいしゃを だしたく なければ、わたしに きょうりょくして、はやく ろぼを たおすことね。」


 胡蝶蘭は、正直、舌を巻いていた。大人顔負けの交渉ぶりだ。


「分かったわ。和臣ちゃん、紅葉ちゃん、プリちゃんをサポートして上げて。」


 そう言ってから、プリ様を見上げた。


「プリちゃん! ミサイルは、和臣ちゃんと紅葉ちゃんが、始末してくれるわ。貴女は攻撃に専念しなさい。」


 お母様の指示に、プリ様は目を輝かせた。


「わかったの! ぷりきらーろぼ、しょうぶ なの!!」


 吹っ切れたプリ様の行動は早い。飛びながら、ミョルニルを構えて、ロボの正面に回り込んだ。そのプリ様目掛けて、ロボは残った左手で、パンチを繰り出して来た。


『みょるにるで うけたら だめなの。また、ふねが こわれゆの。』


 プリ様はミョルニルを天高く突き出した。


「ぷりぷりきゅーてぃ ぜぶらさんだー!」


 ミョルニルに帯電させた雷を、一気にロボ目掛けて放出した。


「ばかめ。たいでん(耐電)かこうずみ ですわ。」


 雷はプリキラーロボの体表面を流れ落ちて、その足元の甲板を破壊した。


『ひえぇぇ、まずいの。つよすぎゆの。ぷりの こうげき。』


 有効な攻撃手段が、全て封じられている。手詰まりになるプリ様だった。




 その頃、広間に避難していた乗客達は、度重なる振動や揺れに、パニック状態になりかかっていた。


「どうなっているんだ。沈むんじゃないのか?」


 誰かが、言ってはいけない一言を言った途端、堰を切ったように、皆が騒ぎ始めた。


「皆さん、落ち着いて下さい。小さな子供も居るんですよ。」


 首相秘書官の仲村さんの言葉に、大人達は少し冷静さを取り戻した。


「そうですよ。死ぬなら一緒じゃないですか。」


 続けて、首相が笑いながら言った。冗談のつもりだったのだが「死」というキーワードに、皆は再びパニックになった。


「うぎゃー、死ぬんだ。皆、死ぬんだー。」


 仲村さんが首相を睨んだ。彼は自分の失言に項垂れていた。


「皆さん、落ち着いて下さい。」


 その時、舞姫が、凛として澄んだ声を上げた。


「大丈夫です。皆、助かります。」

「何で、そんな事が分かるんだよ。」


 舞姫の発言に、大人気無く、声を張り上げる大人達。


「私のお友達の皆が、命懸けで、守ってくれているんです。戦ってくれているんです。三歳のプリちゃんまで……。」


 言いながら、舞姫は一粒涙を落とした。過酷な宿命を背負った、プリ様やリリス達の事を思うと、胸が詰まって、声が震えた。


「信じましょう、彼等を。信じて待ちましょう。」


 舞姫の訴えに、大人達はバツが悪そうに顔を見合わせた。


「良し。では、歌いましょう。仲村君、カラオケ用意して。不肖、阿倍野伸次郎。トップを切らせて頂きますぞ。」


 首相が歌い出すと、皆もリラックスした表情になった。その後、広間は大カラオケ大会会場と化していった。


『プリちゃん、リリスさん。皆を助けて……。』


 舞姫は一人、胸の前で手を合わせ、祈っていた。




 攻撃出来ないプリ様に対して、ロボは嵩にかかって、パンチを打ち続けていた。

 プリ様はチョロチョロと飛びながら、それを躱し、反撃の機会を伺っていた。


『ぐらびてぃうぉーゆは おおきすぎゆの……。』


 プリ様は、小ちゃな脳味噌を、フル回転させていた。


『もっと、ちいさく……。あたったら、きえちゃう くらい……。』


 時折ミサイルが飛んで来るが、それは、和臣の炎と、紅葉の氷結が、確実に撃墜していた。プリ様は安心して、集中力を高めた。


『ちいさく、ちいさく。びーだま くらいに……。』


 ロボの左手が、何度目かのパンチを放った。だが、プリ様は、それを避けようとはしなかった。


「きゃあああ、プリ様ぁぁぁ。」


 血の気を失って、昴が叫ぶ。その時、プリ様は「できたの……。」と、小さく呟いた。

 そして、左手を銃の形にして、迫り来るロボの拳に、黒い何かを撃った。拳は、その小さな塊に、吸い込まれるが如く、不自然に捻じ曲がり、動かなくなった。


「ぐらびてぃぶれっと! ばきゅーん!!」


 プリ様は、得意げに、そう叫んだ。





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