表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/303

私のリリスへの愛に恐れをなしたのね

 プリ様達の戦闘の余波なのか、船体が突然揺れて、船内をひた走る渚ちゃんは、足を取られて派手に転んだ。


「痛たぁぁ。でも、めげない。リリスが待っているんだから。」


 きっと、リリスは心細さに、私の名前を呼びながら、泣いているに決まっている。そして、到着した私の顔を見て、号泣して抱き付くの。「渚〜。待っていたわ。愛してる。」って。私はそんな彼女を優しく抱いて上げながら、初めてのキスをして……。きゃあああ、ロマンチック〜。そうしたら、もう二人は恋人同士。泥棒猫(舞姫ちゃんの事です)の入り込む余地なんてないのよ。待ってて、リリス。今、行くわ。そして、二人で、愛の地平線へと旅立つのよ。


 さすが兄妹である。渚ちゃんの妄想は、これ以上書くと、発禁処分を食らうくらい、気持ちの悪いものへと、エスカレートしていった。


『この階段を昇った所だ……。』


 そこが、一番始めに、爆発のあった場所である。

 手摺に掴まり、上がろうとした。その時、下の階から、蟹型ロボがやって来るのが見えた。


『うわっ、どうしよう。』


 階段の途中で固まる渚ちゃん。


 蟹型ロボの目が周囲を見回し、渚ちゃんを見て、紅く光った。明らかに、存在を認識されている。逃げようと思うのだが、怖くて足が竦んでいた。


 そうこうしている内に、蟹型ロボは彼女の足元にまで迫っていた。そして、金属製の爪が、冷ややかに光り、ゆっくり伸びて来た。


 だが、渚ちゃんの胴体を掴もうと広げられた爪は、寸前でピタリと止まった。そのまま、停止していたが、目だけは青く点滅し、何処かと通信している様であった。やがて、蟹型ロボは、興味を失ったみたいに、渚ちゃんに背を向けて、元来た方へと戻って行った。


「た、助かった〜。でも、どうして、居なくなったのかな?」


 オフィエルが合体指令を出したからなのだが、渚ちゃんには分かろう筈もなかった。


「愛ね……。私のリリスへの愛に恐れをなしたのね。」


 ……、幸せな子であった。




「がったいなの〜。がったいなの〜。」


 甲板では、プリ様が大興奮していた。


 オフィエルの乗る強化スーツは、論理無用の変形をして、人型ロボの頭部となった。

 集まって来た蟹型ロボは、これまた「考えたら負け」という変形をしながら、腕や足や胴体として組み上がっていった。


「よろこんで いる ばあい では ないわ、ぷりちゃん。」


 あの巨大な手に掴まれて、お尻ペンペンなんてされたら、痛いでは済まないわ。

 オクの頰を冷や汗が伝った。


「あんな おおきな ろぼっとが あばれたら、ふねが しずんじゃうわ。わたしと ぷりちゃんで、みんなを まもるのよ。」

「おくが でていけば いいの。」

「えっ?」

「おふぃえるが おっていゆのは おくなの。おくが ふねから でていけばいいの。みんな たすかゆの。」


 プリちゃんめ〜。本質的なとこを突くわね。

 オクの脳髄の悪知恵回路が高速回転し、言い訳を考えた。


「ええっと。そうそう。けっかい(結界)が はられてて でられないから……。」

「どうせ、じぶんで はった けっかい(結界)なの。はやく、かいじょ すゆの。」


 お見通しか。良く舌も回ってないくせに、頭だけは回るのね。

 オクは観念した。


「はい、そうでーす。じぶんで けっかい はりました。でも、かいじょ しませーん。わたしだけ いたい(痛い)のは いやなので、みんなを みちずれに しまーす。」


 観念したというより、開き直っていた。


「ふざけゆな なの。はやく、かいじょ すゆの。あの ろぼっとが あばれゆの。ふねが こわれゆの。」

「いやでーす。ちなみに、わたし いがいには ぜったいに かいじょ できませーん。」


 なんて嫌な奴。

 プリ様の怒りは沸点を突破した。


「いいの。おく なんかに たよらないの。りりすが なんとか してくれゆの。」

「はっ、りりすちゃん? わたしの おもちゃに ()とされた あのこに、なにが できると……。」


 言いながら、オクは青ざめていた。


『やっば。りりすちゃん なら かいじょ できるかも……。』


 結界が無くなったら、どうなるだろう。オクは考えた。

 プリ様も、リリスも、一片の情けも持たず、容赦無く、自分を放逐するだろう。場合によっては、捕まえて、オフィエルに差し出すかもしれない。その後は嫉妬に狂ったオフィエルから、世にも恐ろしい折檻を……。


 リリスを亡き者にするしかない。


 それで問題が解決する訳ではないが、折檻の恐怖に怯えるオクは、短絡思考になっていた。


 リリスは未だ動けない筈だ。実は後で、こっそり回収して、リリスで、もう一遊びしようと思っていた。その為に、使い魔を呼んでいたのだ。


ごうせいまもの(合成魔物)さきゅばすらいむ(サキュバスライム)。わたしの こころの こえが きこえる? きこえたら、いますぐ、りりすちゃんの ところに いきなさい。』


 オクはテレパシーで、サキュバスライムに呼び掛けた。


『いって、りりすちゃんを ころす……のは もったいない から、さいきふのう(再起不能)に して、つれさる のよ。』


 一石二鳥だわ。少し痛い目に合わせれば、リリスちゃんも従順になるでしょう。

 オクは、真っ黒な微笑みを口元に浮かべた。


 その時、オク目掛けて、ミョルニルが振り下ろされた。

 彼女は間一髪、それを躱した。


「ななな、なにを するの? ぷりちゃん。」

「いま、わゆい かお してた。なにか、わゆだくみを してたの。」

「ししし、してないから。ほんと だから。」


 ジトッと、疑いの(まなこ)を向けて来るプリ様に、オクは必死で愛想笑いを振り撒いていた。




 渚ちゃんは漸く爆発のあった部屋に辿り着いた。オクが咄嗟に張ったバリヤーのお陰で、建物の構造自体には問題無かったが、それでも壁は消し飛び、外風が直に吹き込んで来る、酷い有様になっていた。


「リリス〜!」


 渚ちゃんは大声で呼んだ。照明は壊れてしまっているので、明かりは、月の光と、時折打ち上げられる花火の輝きだけだった。


「リリスゥ〜!!」


 もう一度呼ぶと「渚?」と、訝しげな声がした。

 リリスだった。

 彼女は部屋の中、扉付近の壁に寄り掛かっていた。グッタリとしていて、動けないみたいだ。


「どうしたの? 怪我してるの? リリス。」

「そんな事より、どうして、こんな所に居るの?」


 船中の状況は分からないが、あれだけオフィエルが暴れ回っているのだ。乗客には避難の指示が出ている筈だ。


「リ、リリスが居ないから、捜しに来たの。」

「バカ! ダメじゃない。ちゃんと船員さん達の言う事を聞かなくちゃ……。」

「だ、だって……。私、リリスが心配で……。」


 大好きなリリスに、きつめに叱られた渚ちゃんは、ちょっと涙目になっていた。

 彼女の震える声を聞いたリリスは、深い溜息を一つ吐いた。


「ごめんなさい。大きな声を出して。来てくれて助かったわ、渚。」

「……リリス。」


 嬉しくて、抱き付きたくなるのを、グッと堪える渚ちゃん。


「立てないの? 手を貸そうか?」

「いや、それよりも、この水着を脱がせてくれないかしら。」


 会えた嬉しさと、暗いのが相まって、良く見てなかったが、改めて眺めると、リリスは布面積が極限まで削り取られた、ほとんど裸という大胆な水着を来ていた。プロポーション抜群のリリスが着ると、同じ女の子でも、赤面するほどの綺麗さだ。


 ここまでの美しさは、もはや芸術作品よ。

 そう思った渚ちゃんは、浴衣の袂に入れていたスマホを取り出した。


「ちょっ、ちょっと。何しているの? 渚。」

「記念に撮っておこうと思って。」

「撮らなくていいから。早く脱がせて。」


 これを脱がせるという事は、本当に裸にする? 此処は暗くて、人気も無い。そんな所で裸になる意味というと……。


「えっー、嘘、やだあ。恥ずかしい。」

「なんで、貴女が恥ずかしいの? 渚。」

「だって、それってつまり、あれでしょ?」


 渚ちゃんは顔を真っ赤にして、悶絶していた。


「なんでも良いから、早くして。」


 そんなに急かさないで、リリス。私にも心の準備が……。

 渚ちゃんは大きく深呼吸した。


「わかったわ。リリスがそこまで言うのなら。」

「私が何を何処まで言ったの?」


 その質問も耳には入らない様だ。渚ちゃんは浴衣の帯を解こうとした。


「待ちなさい。なんで帯を解こうとするの。」

「優しくしてね……。リリス。」


 私の話を聞いてー。

 暗闇にリリスの声が上がった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ