六連星二十六の秘密!
避難勧告が出され、非常事態に気付いた和臣と紅葉が、プリ様の所に集まって来た。
六連星から事情を聞いた二人は、当然の様に共闘を申し出た。
「少し、退屈して来ていたのよね……。」
嬉しそうに笑う紅葉を、この戦闘狂め、と和臣は眺めていた。
白いカニロボ達は、尊治の伯母、清江が強力な結界で押さえ付けていた。
「光極天の人間だものね、これくらいは出来ないと。」
清江は昴を見ながら言った。嫌味なのだが、昴にはそれが分からず「すごーい。」と、ただただ感心していた。
「あっー、見付けた。お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
プリ様達の姿を見付けた渚ちゃん達が駆け寄って来た。
「ほらあ、早く避難しよ。お兄ちゃん。」
「そうだよ。和臣君、絵島さん、一緒に行こう。」
自分達の袖を引っ張る渚ちゃんと宮路さんから、二人はやんわりと距離を取った。
「俺達は此処に残る。渚、宮路さんを頼むぞ。」
「何言ってるの? あの蟹のお化けが襲って来たらどうするの?」
信じられない、という表情で、彼女は自分の兄を見詰めた。
「大丈夫よ、渚ちゃん。和臣は私が守るから。」
「はっ? 逆だろ?」
紅葉が微笑んで言い、和臣は不満そうに彼女を睨んだ。
そんな遣り取りを聞いていた舞姫は、あれがオク達の仕掛けたものなのだと察した。
「ぷりちゃんは にげるでしょ?」
「そうだ。はやく こい、ぷり。」
晶と操から手招きされたプリ様も、静かに首を振った。
「ぷりは いけないの。みんなを まもゆの。せきにん なの。」
この小ちゃな三歳の子が、人々を守る重荷を背負っているんだ。そう思うと、舞姫の胸は押し潰されそうになった。
「プリちゃんまで何言って……。さあ、逃げるよ。」
無理にでも連れて行こうとする渚ちゃんの肩を、舞姫が掴んだ。
「わかりました。私達は避難します。ご武運を……。」
「あんた、何言ってるのよ。」
食ってかかる渚ちゃんを引き摺る様にして、舞姫は歩き始めた。それにつられて、宮路さんや笠間親子、操も歩き始めた。
その彼等を、和臣達は微笑んで見送っていた。
「ところで、リリスはどうしたんだ?」
「さあ? もう戦っているのかしら。」
連れて行かれていた渚ちゃんの耳に、和臣達の会話が入って来た。
「どうして、こきちゃんたちは うごかないん ですの?」
強化スーツのコクピット内で、オフィエルは苛ついていた。本来、プリ様の所在を探索したり、プリ様の手下(リリス、和臣、紅葉)の相手をさせる為に忍ばせていた蟹型ロボを、逃げ回るオクを捕まえるのに投入しようとしているのに、思う様に動かないのだ。
「あの おばあさんが じゃましているのか。おろかものめ〜。」
子機と感覚をリンクさせているオフィエルは、幾つもの子機から入って来る情報を並列処理して、正確な状況判断をしていた。六花の一葉を有する、七大天使だからこそ、為せる技である。
出力アップ、最大馬力。
蟹型ロボ達は、清江の結界を破って動き出した。その力の逆流を受けて、清江は尻餅をついた。
「痛たぁー。こ、腰が……。」
「大丈夫ですか?」
心配して差し出す昴の手を、清江は乱暴に振り払った。
「ふん。貴女の手など借りません。」
「では、摩って上げます。」
引っ込み思案の昴だが、清江への心配が先に立って、いつもより積極的な行動に出ていた。
そんな二人を庇う様に、胡蝶蘭と六連星が前に出た。
「距離がある内に数を減らす。円周キックよ、六連星。」
「でも……。リチャードが居ないと、円周キックは……。」
六連星二十六の秘密能力の一つ、六連星円周キック。臍下丹田を中心に、身体をプロペラの様に回転させ、並み居る敵を片っ端から薙ぎ倒す、豪快な技である。
「でも、回転する私を敵にブーメランの如く投げ付ける人が必要なのよ。」
「私が乱橋君の代わりをするわ。急いで。」
「えっー、コチョちゃんがあ?」
「愚図愚図言わんと、早くやらんか!」
尊治に怒鳴られて、慌てて空中に飛び上がり、回転し始める六連星。
「行くわよ、六連星!」
「ててて、手加減してよね。」
胡蝶蘭は両手に気力を貯めると、掌底を放つ動きをもって、気の力で六連星を打ち出した。
「勢いつけ過ぎ〜。」
自身も光極天の血を引く胡蝶蘭の力は、乱橋の比ではなく、いつもより強く飛ばされた六連星は悲鳴を上げていた。
それでも六連星は、甲板上にいた全ての蟹型ロボを潰して、戻って来た。
「うええ、気持ち悪い。」
六連星円周キックは、一度使用すると暫く動けなくなる、諸刃の剣なのだ。
「なんだ、つまんない。もう終了じゃん。」
「いや、ちがうの。なにか おとが するの。」
紅葉の呟きに、プリ様が反論した時、再び蟹型ロボ達が船縁から昇って来た。しかも今度は、見渡す限りの船縁に居るので、恐らく船を囲む様に昇って来たのだろう。
「ちっ。二手に分かれるぞ、紅葉。」
「命令するな。」
「ぷりは さがしに いくの。こいつらを あやつっている やつを。」
「昴ちゃん、伯父さん、大伯母さん、六連星は私に任せて。」
話は決まり、全員が動き出した。
「私もプリ様と……。」と、トコトコ動き出そうとした昴を、尊治がガッチリ捕まえた。
「すばゆ、だいじょぶなの。すぐ、もどゆの。」
そう言われて、昴も、不安そうではあるけれど、コクリと一つ頷いた。
「プリ様、帰って来たら、パインサラダを一緒に食べましょうね。」
「? なんで、ぱいんさらだ なの?」
「何となく、そう思ったんです。」
その二人の会話を聞いていた紅葉は、顔を顰めた。
「やめなさい、昴。あんた、今、死亡フラグ立ててるわよ。一緒に食べるのはマカロニサラダにしときなさい。」
「…………。じゃあ、マカロニサラダで……。」
「わ、わかったの。」
何だか意味不明と思いながら、プリ様はメギンギョルズの羽を美しく発光させて、飛んで行った。
紅葉は死亡フラグ回避に、胸を撫で下ろしていた。
「もう、なんなんですの。なんで あいつら じゃまを するんですの。」
上空で、子機から送られる情報の取捨選択をしていたオフィエルは、その子機を次々と潰されて、オク探索が進まず、苛々もピークに達していた。
「おくさま ほかくように つくった めかが だいなし ですわ。」
対プリ様用だった筈なのに……。すでに当初の目的を忘れている様である。
「どこに にげても この さいきっくうぇーぶ けんしゅつ そうちで……。」
全く同じ波形を持つ、奇妙なサイキックウェーブの持主の、一方がオクである事は、間違いないみたいだ。
それも、オフィエルを苛立たせている一因だった。器械の性能問題に解決の糸口が見えなければ、技術者というものは、気が休まらないのである。
「どういつの はけい なんて。きっと、おくさまが たましいの うわきを している しょうこ ですわ。」
…………。恋する人間は、嫉妬に狂うと、合理的な判断力を失うようである。
「この おとなしく しているのは ちがう……、こっちの はげしく うごきまわって いるのが おくさまね……。」
オフィエルはコンソール右下のレバーを引いた。
「でんじねっと しゃしゅつ!」
解説しよう。電磁ネットとは、攻撃対象の周りに、灼熱の電磁界地獄を作り出す、悪魔の兵器なのだ。完全にオーバーテクノロジーなので、原理の解説はいたしません。
「みぎゃあああああ。しぬ、ほんとに しぬ。」
頭上からの唐突な強襲に、不意を食らったオクは、咄嗟に体表面を覆うバリアーしか張れなかった。これでも攻撃の大半は防げているのだが、ちょっとバチバチと来て、普通に痛い。
「ひあそびの だいしょうは たかく つくのですわ!」
叫びながら、今度は青いボタンを押した。すると、強化スーツ左の前腕部が動き、腕の下に付いているポッドから、ドリル状のミサイルを発射した。
ミサイルは狙い過たず、オクに向かって飛んで行き、彼女の張った障壁を突き破る勢いで回転すると、やがて大爆発を起こし、オクの小さな身体は吹き飛ばされた。
「だから! しぬでしょ。しんじゃう でしょ。」
「せっかん ですわ。うわきぐせは たたいて なおす のですわ。」
ダメだ。聞いてない。
オクの背中を冷たい汗が伝った。
パインサラダといえば、有名な死亡フラグと思っていたのですが、それはオジさんの常識でしたかね?
あのギャグは少しわかり辛かったかもしれません。反省です。
ところで、お友達の(心は)女子高生、アイちゃん(仮名)から「オフィエルの行動は違う。」と御指摘を受けました。
「この場合、オフィエルが攻撃するのはリリスなの。女心がわかってないわあ。だから、いつまで経っても彼女の一人も出来ない(最後の方は、私個人への人格攻撃になって来るので、省略させていただきます)」
そうなんですか? 普通、浮気をした方を責めませんか?
女心難し過ぎです。心は女子高生のつもりだったのに……。
とりあえず、自分はネカマにはなれないな、と落胆するオジさんなのでした。