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【】内は英文だと思ってお読みください。
華穂は英会話が苦手なのでたどたどしい話し方です。
クッキー配布の外出から帰ってから華穂様が挙動不審だ。
また空太と何かあったらしい。
・・・・・・空太なら大丈夫だろうと、華穂様をひとりでいかせたのは間違いだっただろうか。
しばらく注意深く観察していたが頬を染めてぼーっとしているくらいで、泣いたり深刻そうな感じは受けなかったので放っておくことにした。
人間、ひとりで考える時間も大切だ。
その日、秀介はいつもの時間にやってきた。
相変わらず顔色がよろしくない。
【こんにちは、華穂さん】
【こんにちは、秀介さん。・・・・・・顔色が・・・・悪いですけど、やっぱり・・・・まだ眠る・・ませんか?】
【そうだね。解決までは遠そうだけど、華穂さんの顔を見たら、元気が出ますね。】
【唯さん、準備を。】
【かしこまりました。】
部屋の隅に準備してあったクッキーを詰めた紙袋を華穂様に手渡す。
【わたし・・・解決・・・できないけど・・・、元気出る。作りました。】
意を決したように華穂様が紙袋を差し出す。
なぜかバレンタインにチョコを渡すみたいな決死の表情だ。
【・・・・開けてみても?】
【もちろんどうぞ。】
秀介が優しい手つきで紙袋の中から可愛らしくラッピングされた袋をふたつと瓶を取り出す。
【甘いものは元気出ます。疲れた時は。】
【華穂さんの手作りですか?今ここでいただいてもいいですか?】
【はい。ちょっとでも・・・・元気を・・・・】
秀介がクッキーを口に運ぶ様子を真剣な眼差しで華穂様は見つめている。
・・・・・・・・・あんなに見つめられたら食べにくいだろう。後で注意しておかねば。
じっくり味わうように食べる秀介の顔にゆっくりと笑みが浮かぶ。
【美味しいです。華穂さんの味がします。】
「わたしの味??」
予想外の言葉に、つい日本語のまま首をかしげる。
「甘くて優しくて、サクッとしているのに柔らかくて。
・・・・・・・華穂さん、そのものを食べているような気がします。」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
こ、この発言はどう受け取ればいいのだろう。
華穂様は真っ赤になったまま固まっている。
「とっても美味しいです。
こんなに美味しいものを作ってもらえるなんて、僕は幸せですね。」
『ね?』と、ちょっと首を傾げながら微笑む秀介の姿は悩殺ものだ。
もともと白い肌は体調不良でより白くなっている。
頬だけ嬉しそうにバラ色に色づき、色素の薄い色の髪も相まって、日本人に見えない。
物語から出てきた白馬の王子そのものだ。
離れている私でも心臓を鷲掴みにされたような衝撃を受けたのに、直撃を受けた華穂様は無事だろうか。
ふらっ
・・・・・・・・無事じゃなかった。
「華穂さん!?」
倒れるようにソファーの背にもたれかかった華穂様のもとに秀介が駆け寄る。
「大丈夫ですか?」
「す、すみません。ちょっと目眩が・・・・・。」
「貧血でしょうか。ちょっと見せてくださいね。」
すぐに脈や目の色を診始める。
もちろん診察なので距離は至近距離なわけで・・・・・・・。
「貧血ではないようですが、脈も早いし体表温度高いですね・・・・・。」
恥ずかしさと緊張でどんどん華穂様の目が潤んでくる。
・・・・・・・・悪循環。
「・・・・・・・・・・・もしかして華穂さん、照れてます?」
もう華穂様は酸欠の金魚のように口をパクパクさせている。
「こんなに真っ赤になって目を潤ませて・・・・・。
僕のせいだとしたら、すごく嬉しいな・・・・。」
脈を診るために握っていた腕を秀介がそっとなぞる。
華穂様の肩がびくりと跳ねた。
もう見ているこっちが恥ずかしい。
秀介は私の存在を忘れているのだろうか。
「華穂さん、可愛い。」
耳元で囁く。
距離が近いからこちらにも聞こえるが。
「華穂さん?」
耳に直接吹き込まれる美声は華穂様にトドメを刺したらしい。
華穂様は秀介の腕にもたれるようにして気を失っていた。
華穂様を部屋に運び、秀介とふたりで廊下に出る。
「秀介様、やり過ぎです。」
「ごめん、華穂さんの反応があまりに可愛くって。」
そういって笑う秀介に反省の色はない。
でも、笑ってる今は悩んでいることも忘れているようだから華穂様も本望かもしれない。
「クッキー、大切に食べますと華穂さんに伝えてください。」
「はい。」
「それでは、僕はこれで失礼します。見送りは結構です。」
「秀介様!」
くるりと背を向けて去っていく秀介に思わず声をかける。
「どうしました。」
「・・・・・いえ、秀介様様の話し方ですが、敬語ではなくもっと砕けた話し方をしていただいて結構です。華穂様もわたしもその方が話しやすいですので。」
言うべき言葉を躊躇って、違う言葉が出てくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて。華穂さんによろしくね。」
今度こそ秀介は帰っていった。
本当は華穂様がいない時に言おうと思っていた。
『どんな決断をされても恨みません。秀介様の後悔のないようになさってください。』
ただ、笑顔の秀介にこの言葉で悩みを思い出させるのは酷だと思った。
それに華穂様の心配りも台無しにしてしまう。
そう思うと言えなかった。
・・・・・・・・どうか少しでも秀介の心の負担が軽くなりますように。
私はそう祈ることしかできなかった。
ブックマークありがとうございます。
やっと書きにくいところが終わった・・・・・と安堵しつつ、次の展開全く考えてなくて焦ってたり。
順番的には彼なんですが、どんな風にしようかなぁ。




