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一弥の週刊誌報道は思っていたよりも大きく報道された。
一弥の女性スキャンダルなんてよくあることなのだが、何度報道しても視聴率が取れるくらい一弥の人気は高いらしい。
『お相手の方なんですけど、週刊誌の通り某有名企業の社長令嬢でお父様もすっごくイケメンで有名なんですけど、その血筋だからかとっても美人で○○さん似の可愛らしい方なんです。』
テレビに映る芸能レポーターがいかにも情報つかんでますっという程で自慢げに話している。
芸能人の○○よりうちのお嬢様の方が可愛いと思うのは執事バカだろうか。
『更にこの方、◇月に行われたライブでアンコールでステージに上がられたそうなんです!
ライブを見に行ったファンの方によると、今人気のCMソングに合わせた演出で、彼女は離れ離れになった恋人役を演じられたとか。
彼女を見つめる一弥の目が真剣でファンの間では大騒ぎになったそうです。』
『いやー、それは見たい!映像残ってないんですか?ライブだったら撮ってるでしょ?』
『それが残ってないんですよ〜。
もともと皇さんのライブは映像管理が厳しいですしファンの方もみなさんマナーをしっかり守られるのでライブ映像が流出することはないんですけど、そのライブではさらに厳しくてマスコミはアンコールに関しての質問や記事作成はNGが出ていたんです。
映像機器に残ってないかボディチェックまであったそうで、ネット上では話題になっていたにもかかわらず、テレビでの報道はなかったんです。』
『へ〜、それは徹底してますねぇ。』
『そうなんですよ!それだけ守りたい大切な彼女なんでしょうね。』
そうなのだ。
すっかり忘れていたライブ演出の件と今回の週刊誌報道を絡めて報道するテレビ曲が多く、ライブに来ていたファンのネットへの書き込みも注目されて、今までのスキャンダルよりちょっと大きめに騒がれている。
『あの一弥に本命の女性がっ!?』みたいな。
まあ、あのデート以降会ってすらいないのでこの騒ぎもすぐに治るだろう。
一弥の事務所も週刊誌発売と同時にマスコミにFAXを送っている。
『この度は弊社所属歌手 皇一弥の交際報道で大変お騒がせしております。
本人に確認しましたところ、報道されている写真は本物で確かにその日は4人で遊びに行ったということで間違いありませんが、社長令嬢とは友人関係であり交際の事実はないと報告を受けております。
相手の方にご迷惑になりますので、過剰な取材はご遠慮いただくようお願いいたします。』
視聴者から見ればなんとも嘘くさい文章に見えるのだが、事実なのだからしょうがない。
あとは嵐が過ぎるのを待つだけだ。
「自分が芸能ニュースに取り上げられる日がくるなんて思ってもみなかった・・・・。」
交際報道を流すテレビを見ながら華穂様がつぶやく。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。」
全て私が短慮に一弥を投げ飛ばしてしまったせいです。
フードしっかりかぶせてバックチョークで絞めればよかった。
「あ、ううん、謝ってほしいわけじゃなくて、人生何が起きるかわからないなぁと思って。」
・・・・・養護施設職員から財閥令嬢への転職よりも芸能ニュースデビューの方が華穂様にとってはすごいことなのだろうか。
「芸能ニュースってこんな感じで出来てるんだねぇ。なんかライブの件とかテーマパーク行った事とかは本当なのにつなぎ合わせると嘘になるのが面白い。」
「最初から『おふたりは付き合ってるはず』という色眼鏡で見るから、事実をつなげて歪曲したくなるのでしょうね。」
「そうだねー。もしあそこに居たのが隼人くんだってバレてたら、唯さんも隼人くんの彼女として芸能ニュースで報道されてたのかな?」
「・・・・・それよりも華穂様と一弥と隼人様の三角関係報道で大騒ぎになる確率の方が高いと思われます。」
地位も財もない一般人など華やかな芸能ニュースには必要ないのだ。
「うわぁ、それはヤダ!」
「そうですねぇ。
一弥だけならともかく、まったく浮いた話のない隼人様を巻き込んだらワイドショーは軒並み埋め尽くされて全国の女性ファンが泣き叫ぶ事態になりかねません。
バレなくてよかったです。」
うすら寒い想像をして、華穂様と乾いた笑いを交わす。
この時点ではまだ笑って流す余裕があったのだ。この時点では。




