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パレードラストに合わせて色付きの煙が上がり、集まっていた人々が解散していく。
煙のせいで華穂様達の姿は見えなくなった。
「パレード終わったし行きますか。」
一弥がそう言いながらイスを片付けてくれる。
「今度はどこに?」
「こっち。」
またしても手を取って歩き出す。
先程きっちり誘惑は断ったはずなのだが、まったく関係ないらしい。
それともこれは一弥のとって女性と接する時のマナーなのだろうか。
私たちが来たのはグッズショップだった。
店内は混んでいるので一弥がひとりで買い物に入る。
しばらく入り口を背に待っていたら、突然ばさりとなにかかけられた。
「!???」
「暑いけどちょっと我慢して着ててねぇ。」
かけられたのは黄色いクマのポンチョ型バスタオルだった。フード部分にはしっかり耳もついている。
かけた張本人はオレンジの虎のポンチョバスタオルをかけている。
「すぐ見つかったら面白くないからねぇ。
あのふたりには見つからないようにしないと。」
「これ着て華穂様達の後を追いかけるのね。」
「ま、積極的に追いかける必要はないけどねぇ。
華穂ちゃんの居場所はわかってるんでしょ?」
・・・・・・・・・なぜ華穂様の携帯に追跡アプリが入っていることを知っている。
華穂様には知らされていないが、華穂様の携帯には祐一郎様の指示で誘拐などの場合に備えて追跡アプリが入っている。
それさえ見れば華穂様がどのあたりにいるかはすぐにわかる。
突然頬をつつかれた。
「なんで俺が知ってるんだって顔してる。
重要人物の居場所把握は危機管理の常識だからねぇ。
俺も事務所にGPSつけられてるし。」
売れっ子って大変だなぁ・・・。
「これでこれからの準備できたし、メシいこ。メシ!腹減ったぁ。」
キャラクターの形を模したハンバーガーにかぶりつきながら気になっていたことを聞く。
「いっくんは華穂様が隼人様と付き合うようになってもいいの?」
「なんで?」
「いや、冗談だとはわかってるけど華穂様に好きって言ってたし、いいのかなぁと思って。」
まさか『あなたが攻略対象者だからです』とは言えない。
「わざわざ友達の好きかもしれない相手取るほど女の子には困ってないし?
それにどっちかっていうと唯ちゃんの方が好みだしねぇ。」
「そりゃどーも。」
もう面倒くさいから聞き流しておこう。
そんな私に一弥は苦笑いをする。
「酷いねぇ。本当のことなのに。
隼人と華穂ちゃんがお互いどう思ってるのかはわかんないけど、隼人にとってはお話しできる貴重な女の子なのは間違いないからねぇ。
上がり症を治すのに最適でしょ。
あ、それとも唯ちゃんが隼人の相手したかった?」
隼人と普通に話せるという点では私も華穂様と同じ条件である。
「そうね・・・・・・。」
隼人とふたりで遊ぶ様子を想像してみる。
最初はちょっと緊張気味の隼人がだんだん打ち解けてきて、一緒にはしゃぎまわったりできたら楽しいに違いない。
こんな狐と回るよりも。
「隼人と遊んだら楽しいだろうなぁ。」
おっと心の声が漏れてしまった。
「・・・・・・・・それ、本気で言ってる?」
思いの外、強く静かな口調で問われてつい視線を逸らしてしまう。
「・・・・・冗談よ。私が隼人様とまわるって事はあなたと華穂様の組み合わせなんでしょ。
それこそ気が気じゃない。」
今のようにのんびりご飯をたべることなどできず、GPSを頼りにストーカー並みにつきまとう自信がある。
「だよねぇ。大事な華穂ちゃんを守りたかったら、しっかり俺を捕まえて、飽きさせないでね。
でないと、いつの間にか華穂ちゃん捕まえちゃうかもよ?」
うっそりと笑う一弥の目にいつもにふざけた色はなく、危ない光が宿っている気がする。
脅し・・・・ですか。
急に目の前の男が可哀想になった。
享楽的に振る舞うことで無意識に自分の闇に蓋をする。
その闇を祓ってあげられるのは華穂様だけだ。
選ぶのはもちろん華穂様だ。
ただ、このまま隼人のために身を引いて仄暗い道を歩かせるのはあんまりだと思った。
少しだけでもチャンスを・・・、気がつくきっかけを与えることができれば・・・・・・・。
「隼人様に対する見本じゃなくて、あんたが正面から華穂様を捕まえにかかるんだったら私は止めない。
ただし、華穂様はあんたが思ってるほど甘くない。
捕まえにいくんだったら本気でかかることね。
じゃないとあんたが痛い目に合うから。」
一弥の目をまっすぐ見つめて言い放つ。
真正面からぶつかって華穂様にその曲がった性根を叩き直してもらったらいい。
「ふぅん・・・それはそれで面白そうだねぇ・・・・。ま、唯ちゃんに飽きたら考えてみるよ。」
一弥の目からは危ない光は消えいつものふざけた一弥に戻っていた。




