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昼食を終えた華穂様を連れて車に乗ること30分、目的地に着いた。
行き先を告げていなかったので、着いた場所に華穂様の目が丸くなる。
「ここってお父さんの・・・・・・!!」
豊福デパート。全国に15店舗運営する高良田財閥グループの筆頭企業だ。
「はい。本日勉強された分はしっかり身についていらっしゃるようですね。今からこちらでパーティーの衣装を選びます。」
特別顧客・・・・いわゆるVIP専用の入り口に入りそのまま最上階へ。
案内された部屋では3人の女性店員が待っていた。
年はそんなに上に見えないが佇まいや雰囲気がベテランだと感じさせる。
華穂様を大きな鏡の前に立たせ『採寸しますねー』と手際良く服を脱がしていく。
あまりにスムーズな流れと女性店員のニコニコ笑顔に押されて、びっくりしたままなすがままになっている華穂様が面白い。
・・・・・・もちろん決して顔には出さないが。
あっという間に採寸が終わり元通りに服を着せられ次は応接室に案内される。
応接室では豊福デパートの取締役でもあるこの店の店長が待っていた。
「よくお越しくださいました、華穂様。私はこの店で店長を勤めます田所と申します。
お父様にお聞きして、お会いできるのを楽しみにしておりました。」
「は、はじめまして。宮野華穂です。」
慌てたように華穂様がぺこりと頭を下げる。
んー、ここにもレッスンが必要・・・・・・・・・。
「君が平岡さんだね。君のことも社長から聞いているよ。」
本来なら主人である華穂様が紹介しなければならないのだが、不慣れな華穂様のために田所様から声をかけてくださる。
「華穂様の執事をしております平岡です。本日はどうぞよろしくお願いいたします。」
私が礼をすると、何故だか田所様は満面の笑顔で満足そうに頷いていた。
華穂様と田所様は美味しい和菓子に舌鼓を打ちつつ、賑やかに談笑されていた。
さすがデパート店長、話がうまい。
話し始めて20分ほどたった頃だろうか。先ほどの女性店員の一人が呼びに来た。
「店長、準備ができました。」
「わかった。華穂様、大変お待たせいたしました。それではご案内いたします。」
何を待っていたかさっぱりわからない華穂様はきょとんとした顔をしたまま田所様についていく。
案内されたのは先ほどの採寸された部屋だった。
大きな鏡以外特に目立つもののなかった室内が、今は色とりどりのドレスや洋服でにぎやかに彩られている。
「お父様より先に華穂様のお綺麗な姿を見てしまったら私が怒られますので、楽しみはパーティー当日にとっておくことにします。それでは華穂様、ごゆっくりどうぞ。」
田所様が去っていかれると、華穂様は待ちきれないようにドレスに駆け寄った。
「見て見て唯さん!!すっごく綺麗ー」
キャッキャとはしゃぐ様子を店員たちが微笑ましく見ている。
本当はご令嬢としては好ましくない態度だが、素直さは華穂様の美徳である。
華穂様の態度に顔を顰めたりしないよく出来た店員さんのようだし、ここはこのままにしておこう。
「ええ、とても綺麗ですね。どれでもお好きなものをお選びください。」
その言葉に華穂様は『あれもいいなぁ、でもこれも捨てがたい・・・・』とどんどん鏡の前でドレスを自分に当ててみている。
店員や私にもアドバイスを求めて最終的に6着まで絞り込んだのは2時間後だった。
(やっぱりこれか・・・・・)
つくづくここはゲームの世界らしい。
華穂様が絞り込んだ6着のドレスにはどれも見覚えがあった。
それぞれの攻略キャラが好きなドレスだ。そのドレスを着ていくと相手の好感度が上がる。
「うーん、この中からどれがいいかなぁ。」
ドレスを前にうんうん唸る華穂様。どのドレスも甲乙付け難い。
「華穂様、それではそれにあう小物を先に合わせてみませんか?」
選んだドレスを着て、靴やアクセサリーを合わせていく。
最初はまばゆい輝きを放つジュエリーに気圧された華穂様だったが、ドレスを実際に着てみてテンションがさらに上がったらしい。
楽しそうに小物を選んでいく。
「できたっ」
全てのドレスに小物をつけてご満悦な華穂様は、私の『全部お願いします』という店員への言葉に真っ青になった。
「無理!!そんなに必要ないからっ」
「・・・・・では、どちらになさいますか?」
『じゃあこれっ』っと、慌て一番手近にあったドレスをつかむ華穂様。それに了承の返事をしつつ店員に目配せをする。
店員がこくりと頷いたので意味は通じたようだ。明日には全てのドレスが屋敷に届くだろう。
買い物が終わったので、ドレスと一緒に選んだハイヒールだけを包んでもらい車に乗り込む。
気は進まないが先ほどの件をしっかり話しておく必要がある。
「華穂様、先ほどお選びいただいたドレスですが、6着全て購入させていただきました。」
「えっ、だっていらないって・・・・」
「華穂様、パーティーは一度ではありません。毎回同じものを着て行くわけにはまいりませんので、数は必要です。
ご自分のお金でないので遠慮をされているのかもしれませんが、必要経費です。趣味の贅沢ではありません。
制服や白衣と一緒だとお考えください。TPOに合わせた服装なのです。」
実は華穂様がドレスを選んでいる間に、私服の方もゲームで見たことがあるものを十数点勝手に購入していたりする。
おそらく今日の買い物で札束が数束飛んで行っているだろうが、必要なものだし、それを華穂様に教えてさらに怯えさせる必要はない。
「華穂様は裕一郎様の大切な一人娘です。裕一郎様もそう思っていらっしゃいます。
ただ、周りの方にとって華穂様は『裕一郎様の娘』の前に『高良田財閥令嬢』という物差しでみられます。
屋敷の外に出ている時は『高良田財閥令嬢』というお仕事をされていると思ってください。
華穂様が根本から変わる必要はございません。
ただちょっと仕事用のマナーと服装を整えるだけです。
私は華穂様の秘書として、お仕事のサポートをしっかりしていきますので安心なさってください。
今回の買い物も制服の支給です。・・・・・制服ですが、裕一郎様に御礼を言われたら大変喜ばれると思います。」
華穂様の顔はいつの間にかなんだかすっきりした顔になっていた。
「そっか。お仕事か。
お仕事の制服なら仕方ないですね。私も制服に負けないように頑張らないと。
お父さんには素敵な制服ありがとうって言います。」
「あ、制服やお仕事は裕一郎様に言っちゃダメですよ?
裕一郎様にとっては『大切な一人娘』が一番ですからね。」
そう言ってわざと慌てたような表情をすると、車内に華穂様の笑い声が響いた。




