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睨まれて黙っている流ではなく、空太をしっかり睨み返す。
「・・・・・空太。どうかした?」
不穏な空気に首をかしげる華穂。
「華穂、この男はお前の知り合いか?」
流の『華穂』という呼び方に空太の眉がピクリと動く。
「あ、うん、幼馴染の空太。ここでコックさんをしてるの。」
華穂様が紹介してる間もふたりの間ではバチバチと火花が飛んでいる。
イケメンふたりが並んでるだけでも注目を集めるのに、それが一触即発の空気をまとっているので店中がこちらを気にしているのがわかる。
「ねえ、ちょっと空太。」
相変わらず流と睨み合って動かない空太に焦れて華穂様が空太の腕に触れる。
今度は流の眉間にシワが寄った。
「・・・・・失礼しました。」
華穂様に腕を揺さぶられると、空太はしぶしぶ給仕をして離れて行った。
いまだに背中から黒いオーラが見える気がする。
うーん、予想はしていたがやはり宗純の時のように穏便にはいかなかったか。
もうちょっと空太が大人であれば秀介のような対応になるのであろうが、今回はお互い真正面からやりあうタイプの人間だ。
今日の夜にでも華穂様はしっかり空太から事情聴取されるのだろう。南無。
「あいつとはいつからの付き合いだ。」
・・・・・ここでも事情聴取が発生していた。
「え?中学からだからもう10年くらいかな?」
「同級生か?」
「同級生・・・だけど、一緒に暮らしてたからどっちかっていうと家族かな。」
「なんだとっ!?」
ガタリと音を立てて勢いよく立ち上がった流に目を丸くする華穂様。
周りの客も今度はどうしたと注目している。
「槙嶋様、落ち着いてください。
華穂様、槙嶋様の中で誤解があるようですので華穂様の生い立ちについて槙嶋様にお話ししても?」
「え?う、うん。」
華穂様の許可が得られたので簡単に華穂様が中学から施設にいたことと、そこで空太や他の子供たち大勢と賑やかに育ったことを説明する。
とくに『一緒に暮らして』という部分を気にしすぎて『家族』という単語を聞き逃していたようなのでその部分を強調しておいた。
・・・・・・・・・・・・・まあ、家族だと思ってるのは華穂様だけなんだけど。
「なるほど。同棲していたわけではないのだな。」
「ど、どどどどどど同棲!?ないない!!」
華穂様、真っ赤になって否定すると逆に怪しいです。
「さあ、あまり話してばかりいるとせっかくの料理が冷めてしまいますので、いただきましょう。
先ほどのコンサートについても話したいことがあるのでしょう?」
「そ、そうだね!いただきますっ」
赤い顔をごまかすように勢い良く食べ始める華穂様に続いて、流もスープを口にする。
「美味いな。」
「ほんと、このスープ初めて飲んだけどすっごく美味しい。ディナーだけのメニューかなぁ。」
ニコニコ顏でスープを飲む華穂様。
とりあえずつぎに空太がくるまでは穏やかに食事ができそうだ。
流と睨み合った件で店長か先輩かに怒られたのかオムライスの給仕には空太ではなくウェイターが来た。
運ばれてきたオムライスを流が口にするのを華穂様が真剣な顔で見ている。
「あぁ、すごいな、これは。
卵が流れるようトロけてしっかり米とソースと絡み合っている。
華穂が勧めるのもよくわかる。」
「でしょう!さっきの空太が作ったんだよ!!」
空太の料理を褒められて自分のことのように喜ぶ華穂様。
「なるほど。あの男は腕はいいのだな。」
空太の名前を出されて不機嫌になるかと思ったが、意外なことに流は上機嫌なままだった。
「空太は昔から努力家だからね。」
そこから華穂様の空太自慢が始まったが、流は嫌な顔ひとつせず時折笑いながら話を聞いている。
・・・・・・・・ここまで穏やかだと逆に怖い。
結局、その後も空太は姿を見せず、若干華穂様がそれを気にするような素振りを見せたが、とりあえず穏やかな空気のまま店を出ることになった。
・・・・・・・・嵐は店内ではなく外で待っていただけだったが。




