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車に乗り込もうとする流に声をかける。
「槙嶋様、本当に華穂様と結婚したいですか?」
「当然だ。でなければこんな面倒な真似はしない。」
面倒ねぇ・・・・。
「華穂様ご本人もおっしゃっていましたが、華穂様は結婚に利があるかどうかではなく相手のことを好きかどうかで決められます。」
「非合理的で理解できんな。」
「槙嶋様の周りにはいらっしゃらないかもしれませんが、私たち庶民の間ではそれが一般的です。
そして華穂様も庶民としてお育ちですので、合理性だけで結婚相手を決めるということが理解できないでしょう。」
「・・・・・・・それで、何が言いたい。」
「もし槙嶋様が会社のためであれ華穂様と結婚したいのであれば、まずは華穂様考えを優先してください。
マーケティングにおいて、売り込みたい相手のニーズに合わせることは常識です。
華穂様の考えを理解しようと努力なされば、もう少しきちんとお話ができるかと。
もちろんそのような非合理的な考えは許せないとお思いでしたら、それはそれでいいでしょう。
華穂様が絶対に手に入らないだけですから。」
「・・・・・いいだろう。執事ならば誰より華穂のことはわかっているだろう。華穂の考えを俺が理解できるように協力しろ。」
はい・・・?
「・・・・・・守秘義務がございますので。」
「ふん、なにも華穂のことを直接教えろとは言っていない。
華穂が庶民だというなら庶民としての考えを教えろ。
報酬はたっぷり支払ってやる。」
「・・・・・そういう考えが華穂様と相入れないのかと。
確かに報酬で動く人間も大勢いますが、そうでない者もいます。
そうでない者にとって報酬で動くと思われているのは侮辱と同じです。」
「なるほど。参考になった。」
はぁっとため息をつく。
流の申し出を引き受けるべきか否か。
別に流が華穂様とうまくいかなくても問題ない。
別に大団円エンドは目指していないし、隼人や空太との仲はいい感じだ。
それに引き受けたからといって華穂様とうまく行くかどうかはわからない。
今よりまともに会話はできるようになるだろうが、結婚までは責任もてない。
引き受けなかった場合を考えてみる。
ある日突然、荷物を送りつけられて困る華穂様。
裕一郎様の同伴でいったパーティーでも我が物顔で華穂様の隣で振る舞う流。
他の人の目も気にせずにパーティー会場で烈火のごとく怒り狂う華穂様。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
「・・・・・・・・お引き受けします。」
「ふむ、賢明だな。」
「ただし、私がお教えするのは一般的な庶民の考えだけです。
華穂様と結婚できるようなアドバイスではありませんのでご了承ください。」
「わかっている。」
「あと、私が協力する上で必ず守っていただきたい事がございます。
華穂様に対して何か行動を起こす時は、必ず私に一度連絡をください。
先日や今回のように勝手に贈り物や招待状を送りつけてはいけません。
それをお約束していただけるのであれば、協力させていただきます。」
「わかった。必ずお前に連絡しよう。」
こうして必要最低限な防波堤を作ることに成功して流を見送った。
なんだかおかしな事になったが仕方ない。引き受けると言ったからには行動せねば。
とりあえずは華穂様に今度のパーティーへの参加承諾を得なければならない。
流には考え方を教えるだけだと言ったが、あまりに最初から対応が酷いと信用されずにせっかく築いた防波堤を無視して暴走される恐れがある。
「あ、唯さんお疲れ様。あいつになにか嫌なこと言われたりしなかった?」
「いえ、大丈夫です。・・・・・華穂様、気が進まないのはわかりますが、槙嶋様とパーティーに行かれてはいかがでしょうか。」
「・・・・・・・・なんで?」
「槙嶋様は華穂様の同意なしでも華穂様を婚約者だと思っていらっしゃいます。
槙嶋様おひとりでパーティーに参加され、そこで華穂様のことを婚約者だとお話しされたら誰もそれを否定する者がおりません。
ここは華穂様がしっかりご自身でまわりに否定なさる必要があるかと。」
「うー・・・でも、それって一緒に行った時点で婚約者っぽくならない?」
「まあ、多少親しくは見えるかもしれませんが、社交界に不慣れなので顔の広い槙嶋様に連れてきてもらったということにしては。」
「唯さんがそういうなら・・・・・・・。」
渋々承諾をしてくださった。が、
「ただし、唯さんも一緒に来てくれなかったら無理!」
・・・招待状、どうやって入手しよう。




