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沈黙が・・・・痛い。



ちらりと横を盗み見る。

車に乗り込んだ私にわざわざシートベルトを手ずから締めてくれた流は、今はまっすぐ前を向いて運転している。

何も言わないし、怖い顔をしているわけでもないが、車の中に満ちるプレッシャーで流が怒っていることがわかる。



「申し訳ありませんでした。」


・・・・・・・・。



重い空気の中、なんとか口を開いてみたが流からの返事はない。


・・・・口も聞きたくないほど怒っているのか。

非があるのは私なのだから、仕方ない。

落ち着いてからもう一度謝ろう。


そう私が諦めて、暫くしてからのことだった。



「・・・・お前は、何に対して謝っている?」



ぽつりとこぼされた言葉に、考えながら返事を返す。



「流様にお世話になっている身でありながら、何の連絡もせずに外出をし、流様に心配をかけました。」



私の返事に流の眉間にシワがよる。



「・・・・では、なぜ俺が怒っていると思う?」



流の質問の意味がわからず戸惑う。

先ほどの答えでは不十分だったのだろうか。



「??・・・・私が、無断で外出したからでは・・・・?」



先ほどとあまり変わらない答えに流は大きなため息をついた。



「お前は俺の婚約者だが」



“違います。”っとつっこめるような雰囲気ではもちろんない。



「お前はお前という一個人だ。

たとえ今世話になっていようとも、お前を束縛する権利は俺にはないし、するつもりもない。

お前は好きな時に好きな所に行けばいい。

俺の許可などいらん。」



???

じゃあ、何を怒って・・・・・・・・??



「俺が怒っているのはお前の自覚の無さだ。

今がどんな状況かわかっているのか?

桜井は誘拐されて行方不明だ。

お前も同じ目にあう可能性があるとは考えなかったのか?

一言、俺か花柳に連絡すれば車でも警護でも出してやれる。

出歩くなとは言わんが、出来る限りのことをしてから外出しろ。」


「そこまでしていただくわけには・・・・。

それに私など誘拐しても何の益もありません。」



ギロリと睨まれて竦みあがる。



「これだけ言ってもわからないのか。

いいか。よく聞け。


お前は有能だ。そして何よりも華穂に忠義を尽くしている。


お前が相手の立場になって考えたらわかるだろう。

そんな人間と対立することがどれだけ厄介か。

源一郎氏については知らんが、少なくとも三条はお前のことをよくわかっているはずだ。

俺があいつらなら、まずはお前の自由を奪う。」



・・・・確かに。

邸にいた時は、常に監視されているような状況だった。

そういえば源一郎様も“優秀な執事だと聞いている”と言っていたような・・・・。



「今、あちらが把握している人間で自由に動けるのはお前と、おそらく高良田社長だけだ。

最重要人物は高良田社長だが、俺だったら海外にいるはずの高良田社長よりもお前の方を警戒する。

今回の計画は華穂を奪還されれば全てご破算だからな。」



信号待ちになり、眉間にしわを寄せた流がこちらに顔を向ける。



「だから、お前はお前の身を守ることも考えろ。

華穂を助けることを止めはしない。

が、狙われている自覚を持て。

そもそも、今回の件がなくともお前は女だろう!!

女がこんな時間に出歩いていいと思っているのか!!??」


「申し訳ありません・・・・。」



そういえば一弥にも同じようなこと言われたな。

・・・・・・・・今となっては、それが本心からだったのか、ただ単に私を捕らえるための口実だったのかわからないけど。



「で、どこに行っていた?

こんな時間に出歩くのには、それなりの理由があるのだろう?」



・・・・やっぱり聞かれるか。



「皇様の所に行っていました。」



今更、誤魔化す気は無い。

流はいつもまっすぐにぶつかってきてくれるから。

それに・・・・流はどんなに誤魔化しても見抜かれてしまうだろう。


元に戻っていた眉間に再び深い皺が刻まれる。



「あの男は・・・・っ」



心底嫌そうな声にますます申し訳なくなる。



「申し訳ありません。

流様が皇様のことをよく思っていないのはわかっているのですが、どうしても皇様に聞かなければならないことがあったので会いに行きました。」


「違うっ!

俺が不快に思っているのは、お前があの男に会いにいったことではない。

あの男がこんな時間にお前を外に出したことだ!

こんな時間に女ひとり外に放り出すなど、男のすることでは無い!!」



そこっ!?

予想外の答えにぽかんとしてしまう。

流って・・・・流って、本当に・・・・。



「ふっ・・・くくっ・・くくくくっ・・・・・」



だ、だめだ。笑いが止まらない。



「何を笑っている。」



流が不機嫌そうな顔をしているが、やっぱり笑いが止まらない。



「もっ、申し訳ありませっ・・・・。

りゅっ、流様は本当にっ・・・・私に甘いですね・・・・っ」



尊大で俺様で破茶滅茶なのに、とても心が広い流。

いつも全力で心配して、全力で守って、そして信頼してくれる。

態度以上に全てがとても大きな人。



「何を当たり前のことを言っている。

好きな女に甘いのは当然だろう?」



心底不思議そうに言われて、こちらの方が赤くなる。

・・・・そういうところも大物ですね。


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