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その嵐はまたしても届け物と一緒にやってきた。
「華穂様、槙嶋様から届け物が参りました。」
「え?またバラ!?」
わかりやすく嫌な顔をする華穂様。
花瓶に活けていた分はさすがに枯れてしまったが、加工に回した分は未だに庭で干されている。
「今回はバラではないようです。」
そう言って華穂様の部屋に荷物を運び込む。
封書が1通と私が両手でギリギリ抱えられるくらいの大きな箱だ。
箱の包装には見覚えがある。豊福デパートのものだ。
「・・・なにこれ、招待状?」
中から封筒の中から出てきたのは今週末に行われるパーティーの招待状と便箋が1枚。
『当日、18時に迎えに行く。準備をしておけ。 ー 流 ー』
「「・・・・・・・・」」
華穂様は便箋を封筒に戻す。見なかったことにしたいようだ。
「・・・・どうなさいますか?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜あんの俺様非常識男!!!!!」
あ、キレた。華穂様がこんなの怒るのは初めて見た。
「絶対行かない!!荷物も招待状もそのまま返す!!!」
「かしこまりました。」
荷物はそのまま送り先の住所に返送し、この件はそれで終わ・・・・・・
らなかった。
「華穂様にお客様がいらしてます。」
お手伝いさんが呼びに来たのは華穂様が夕食を召し上がっている時だった。
「誰?」
華穂様の質問にお手伝いさんはちょっと困ったような顔をしている。
「それが・・・その・・・華穂様の婚約者だとおっしゃっておられます。」
「・・・・・・・・・・・・」
誰が来たかわかった。
お手伝いさんは聞いたこともない婚約者を名乗る不審者を屋敷に入れていいのか悩んでエントランスで待たせていた。
急いで華穂様と向かうと階段の下から声をかけられる。
「遅いぞ、華穂。」
エントランスの扉を背に流と今日送り返した荷物を持った男性が立っていた。
「お待たせして申し訳ありません。なにぶん大変 きゅ・う・な・お越しだったもので。」
華穂様の顔が思いっきり引きつっている。
「それで、本日はなんのご用でしょうか?」
「あぁ、送った荷物が届かなかったようだから、直々に持ってきてやった。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜それは届かなかったんじゃなくて、送り返したのよ!!!」
かろうじてつけていたお嬢様の仮面があっさりと剥がれてしまった。
修行が足りない。
「は?送り返した??何故だ。パーティーに行くなら必要だろう。」
流は心底不思議だという顔をしている。
「パーティーにはいきません!そもそも最初からわたし行くなんて言ってないし。だいたいなんでわたしがあなたとパーティーに行かないといけないんですか!」
「婚約者が同伴するのは当然だ。」
「婚約者になった覚えもありません!」
「なにが不満だ。我が社は高良田財閥と肩を並べる規模の会社だ。提携すればお互いもっと企業規模を拡大できる。」
「そういう考え方が不満です!前にも言ったけど、わたしは好きな人としか結婚するつもりはありません!お父さんもそれでいいって言ってます!!」
「そういうからバラを贈っただろう。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜あんなんで好きになるか〜〜〜〜〜!!!!」
「なんだ。バラは好みではなかったか?」
「そういう問題じゃない!!!」
「服や宝石がいいのか?それは今回持ってきた。
もっと欲しければ今度買ってやる。」
「・・・・・・ダメだ。話が通じない。」
数分の会話で華穂様は気力を使い果たしたようだ。
がっくり肩を落とされている。
そろそろ助けに入ったほうがよさそうだ。
「お話中失礼いたします。」
「ん?誰だお前は。」
ずっと華穂様の後ろにいたのだが、視界にすら入っていなかったらしい。
「私、華穂様の執事の平岡と申します。
大変申し訳ございませんが急なことで主人も戸惑っております。
パーティーの参加については後日お返事をさせていただきますので、本日はお引き取りください。」
「唯さん、わたし行くつもりなんて」
そう口にする華穂様視線で黙らせる。
「パーティー参加には高良田の許可も必要ですので、この場ではお返事できかねます。お引き取りを。」
「・・・・わかった。返事はいつくる。」
「明日中に会社の方にご連絡いたします。」
「明日は視察の予定が入っている。俺の携帯に直接連絡しろ。」
プライベート用だろうか。
名前と電話番号のみ入ったシンプルな名刺を受け取る。
「では、明日中に必ずご連絡いたします。
華穂様、私は槙嶋様のお見送りをしてきますので、華穂様は食事にお戻りください。」
「・・・わかった。」
流に不審そうな目を向けて、華穂様はしぶしぶ食堂に戻っていく。
私は扉を開けて槙嶋様たちの帰宅を促し、それに続いて外に出た。




