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ガチャッ??
聞こえて来た音に首をかしげる。
まだ鍵をかけていないのに、なんだか鍵のかかる音がしたような。
この部屋オートロックだった?
と一瞬思うが、いや、一弥が最初に入るときは鍵なんて使ってなかったし、前回来た時も出入り自由だった。
とりあえずドアノブを動かしてみる。
・・・・動かない。やはり鍵が掛かっている。
今度は内鍵を回して・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・。
クルクルと回るツマミにはなんの手応えもない。
壊れてる・・・・。
「一弥っ!一弥っ!!」
慌てて強めにドアを叩く。
この家は広い。
リビングまで行かれたら気づいてもらえないかもしれない。
「どうしたの?」
そんなに離れていなかったのか、すぐに聞こえてきた声にホッとする。
「鍵が壊れてるみたいでドアが開かないの。そっちからなんとかできる?」
「あぁ、それであってるから大丈夫。」
・・・・・・・・・・・。
「はぁっ!?」
扉の向こうから聞こえてきた信じられない言葉に思わず大声を出す。
「ちょっと!あってるってどういうことよ!?」
「鍵は俺が閉めたから大丈夫。言ったでしょ。寝室に鍵があるって。」
必要なのは外からの侵入者を防ぐ鍵であって、中の人間を閉じ込める鍵ではない。
楽しそうな一弥の声に苛立ちが募る。
「冗談言ってないでさっさと開けなさいっ!!」
ドンドン扉を叩くと返ってきたのは冷ややかな声だった。
「・・・・冗談?俺が冗談でこんなことしてると思ってんの?」
氷のような声に扉を叩く手が止まる。
心臓をひとつきされたように声が刺さって、うまく返事が出てこない。
「本気だよ。俺は唯ちゃんをそこから出すつもりないから。」
「なに言って・・・・っ」
「・・・・唯ちゃんが悪いんだよ?俺になにも言わずにいなくなったりするから。」
「だからそれはさっき説明して・・・・っ」
「理由なんてどうでもいいよ。
大事なのは結果とこれからなんだから。」
「『邪魔しない』『大目にみる』って言ったでしょうっ?
さっきだって協力してくれるって言ってたじゃないっ!!」
「唯ちゃんは俺が嘘つきだってよーく知ってるでしょう?」
駄目だ。一弥は本当に鍵を開ける気がない。
「お願いだから開けて!
今動けるのは私しかいない。
私じゃなきゃ華穂様を助けられない。
華穂様を助け終わった後なら苦情でもなんでも聞くからっ。」
「華穂ちゃんなんてどうだっていいっっ!!!」
扉が震えるほどの怒号に固まる。
一弥のこんな声、聞いたことない。
「華穂ちゃんを助けられても、唯ちゃんになんかあったら意味がないっ!
わかってんの!!??
相手はあの高良田社長でも苦戦する相手で、今も空太くんは行方不明なんだよ!?
そんな相手に唯ちゃん1人でかなうわけない!!」
取り繕う余裕すらない一弥の本音。
「俺は・・・・唯ちゃんさえいれば・・・・っ!
唯ちゃんしかいないのに・・・・。」
慟哭するような声にこちらまで泣きそうになる。
一弥にとって愛する人がどれほど大切なのかは、ゲームをしていた私はよく知っている。
ゲームの中のヒロインは一弥にとって、真っ暗な中で唯一見つけた光。
魂の拠り所。
「唯ちゃんの強い心も欲しいから今までは自由させてきたけど、もういらない。
全部なくなるくらいなら、身体だけでいい。
大丈夫だよ。ここで俺がずぅーっと危ないものから守ってあげる。
だから唯ちゃんは全部忘れてそこに居て。
俺と一緒に暮らそうね。」
・・・・病ませてしまった。
一弥が一番危ういのはわかっていたはずなのに。
「・・・・・・・・一弥、前に言ったけど華穂様に何かあれば私は気に病んで死ぬ。
・・・・・・・・それでもあなたは私をここに閉じ込めておく?」
「・・・・・・・・唯ちゃんは死なないよ。
華穂ちゃんは酷い目にあっても死ぬわけじゃない。
話を聞く限り高良田家にとっては大事な道具だからね。
華穂ちゃんが生きてるのに唯ちゃんが華穂ちゃんを置いて死ぬわけがない。肉体的には。
精神的にだったら死んでもいいよ。
大丈夫。
たとえ物言わぬ人形になったって俺は唯ちゃんを離したりしないから。」
・・・・狂ってる。
相手を壊してでも手に入れたい重く暗い執着。
きっと受け止めて癒してあげることが、一弥に私ができる一番のこと。
それでも私はーーーーーーーーー
このシーンはけっこう前から脳内で動画としてイメージしていたシーンなんですが、活字に起こすのが難しかった・・・・。
一弥の悲痛さがあまり伝わっていない気がする・・・。
要修行ですね。




